第31回東北建築賞 作品賞 受賞作品


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 連続し、よりそうハコ/ニワ 


外部に対し大きな開口をとりながら、内外の視線を意識して周到に計画・配慮された住宅である。エントランスホール・寝室・浴室には外部の視線から守られた小さなニワが準備され、外部空間との交感の場がそこかしこに設けられている。また、リビングダイニングから白く細長いニワを通して雑木林を切り取って見せ、周囲の家並みを視界に入れない設計には、設計者のこだわりを感じさせた。そこは理解できるが、もう少し周囲の雑木林の風景を取り込んでもよかったように思われる。しかし、白と黒の四角いハコの内側に、スキップしながら展開する空間が劇的な変化を示していて、平屋の小規模な住宅にもかかわらず、広がりと奥行きを感じさせてくれる優れた作品である。東北の住宅地環境の伸びやかさに呼応した新しい計画モデルの提案と、若いクライアント家族の成長と変化に応え、厳しいコストと闘いながらデザインやディテールを追及した点が評価される。

S博士の家


この住宅は、敷地のほぼ中央に2層(ロフトを除く)のボックスを配置し、そのボックスに直角にもう一つの細長いボックスを組み合わせ、7つのレベルの空間を創り出している。それらの空間に住宅としての機能を当てはめ、様々な幅と高さの階段で結ぶことにより、視覚的には一つの連続した空間ではあるが機能的にはある程度独立を保持する魅力的な空間を構成している。階段や廊下を住空間に取り込むことにより、より広く感じられる巧みな空間構成となっている。同様に、引き込みサッシと床仕上げの統一により外部空間ともつながっている。内外の入り組んだ空間は、迷路を彷徨うに似た楽しみが有り、近所の子供たちに人気が有ることも頷ける。構造的には、2×10部材を格子状に組み合わせた壁構造とし広い無柱空間を創出しているが、これは入り組んではいるがつながりのある空間構成に寄与している。又、格子状の外周部が全て棚として使用されているのも楽しい。この住宅は設計者の自邸で独善的なアメニティ空間とも言えるが、これからの住宅購買層にとっては共感の持たれるアメニティ空間であり一般化されるものと考えられる。とにかく楽しい住宅である。

白鷹の家/SNOW LIGHT HOUSE


この住宅は光と風を積極的に取り込みつつ、東北の長い冬を快適に過ごす方法を提案する意欲作です。雪に閉ざされがちな雪国の住まいを、ここで考案された採光断熱壁によって、明るく、開放的なものにしています。寒冷地において採光を確保するために開口を大きくすることは冬期の熱的損失をもたらす危険もありますが、ここではポリカーボネイト複層板というローコストな材料を使いながら、熱損失を最小限にとどめるよう考えられています。暖房は欧州で普及する木質ペレットを燃料に使うストーブを導入し、設備面でも環境に配慮されています。また、大きく明け放つことが可能な開口と、ワンルームのような室内に設けられた採光吹き抜けは、コンパクトな住宅ながら外部からつながる伸びやかな空間を生み出し、夏には温度差換気を生み出すように計画されています。全体的に木と紙をつかった空間は居心地の良い洗練されたデザインになっており、今後こうした環境性能をデザイン面からも追及する作品が東北にも多く現れることを期待したいと思います。

鶴岡市立藤沢周平記念館


本作品は、時代小説家として著名な藤沢周平氏の作品資料と作品世界を後世に伝えるために建てられた記念館です。かつて鶴ヶ岡城が存在した鶴岡公園内という、場として大変意義深く、また様々な制約が課せられる敷地に対して、建物の形態、仕上げなどにおいてきめ細かく対応し、調和が図られています。
展示室・収蔵庫を「蔵」とし、それを覆う「鞘堂」に全体の機能を収める構成は、雪国の伝統的な形式を、現代の環境性、防火性から再考し、取り入れられたとのことですが、地域・風土を真摯に読み解いた成果と言えます。内部に歩を進めるとそれぞれの廊下正面の開口から、大宝館や土塁といった歴史遺構が望めますが、距離が近すぎて必ずしも意図したシークエンスが実現できなかった点は残念に思います。内装等には、地域の生産者と協力し、地場のスギ材を積極的に活用しており、特に収蔵庫の内装全面に無垢のスギを活用して調湿機能を図っている点は、自然素材の活用として特徴的と言えます。建築として、斬新さ、独創性に欠けるようにも思われますが、場に調和を図り、藤沢氏及び親族の思いに誠実に応え、丁寧に造られた作品として評価に値すると思います。




                 第31回東北建築賞 特別賞 受賞作品


仙台ファーストタワー


仙台ファーストタワーは、仙台の玄関口であるJR仙台駅から西に伸びる青葉通りと南北軸を形成する国道4号の交差する角地に建つオフィスビルです。このように立地に恵まれた建物ですが、オフィスビルの設計においては建築における新しい方向性を提案することにおいて困難が伴うものです。本作品もその制約からは逃れきれなかったかも知れません。審査委員会では、この点がこの優れた作品をどのように取り扱うかという点において論点となりました。しかしながら、本作品は細部に至るまで設計者の工夫と情熱が惜しみなく込められており建築物としては非常に高い完成度を誇っています。更に、オフィスビルの設計における窮屈さをはね除ける力強さもあります。また、公共空地の提供など都市への貢献、高層棟およびアトリウムへの長周期免震構造の採用による事業継続性・アトリウムの災害拠点としての機能確保、CASBEE-Sランクの実現などの高い技術力を纏まり良く集約してパッケージとして提供している点などが高く評価されました。以上より、特別賞に選ばれることとなりました。

八峰町役場庁舎


主たる構造を在来の木造とし、地場材である杉を活用し、空間を構成していること。空間の構成も内蔵を模したセンターコアを中心に機能を分化し、それを吹き抜けでつなぐことで全体の一体感を演出し、限られた面積の中で必要な用途を過不足なく配置しているといった点などです。
 環境問題への取り組みでも、ヒートポンプによる地中熱の活用をはじめ、ハイサイドライトなどによる自然採光・換気など積極的に検討しおり、建築全体として環境に配慮していると評価されました。 
 ただ、空間の良さとしての評価がある反面、執務空間が吹き抜けにより一体化されていることによる音のこと。来訪者の待合の空間がやや不足気に感じること。また収納が廊下などに表出し不足しているような印象などが懸念され特別賞となりました。
 近年、公共建築において規模の制限はあるものの木造建築が推奨されています。本作品が今後の公共建築の木造あり方の一つの回答として期待される建築であると十分評価されるものです。