第33回東北建築賞 作品賞 受賞作品


 ※東北建築作品集Vol.23バージョンはこちらです。
HOUSE-M

本住宅は実用的なエコハウスを志向した木造住宅で、山形市の中央部に位置し、畑等の空き地が散見される閑静な環境に囲まれています。山形県産の杉の横板張りの外装は、築後1年余りということもあり表面の色合いのばらつきはあるものの、周囲に溶け込んだものでした。外壁、屋根および基礎部分の断熱や開口部の仕様は、よく工夫され、実用住宅として考えうる最高の仕様となっています。このような高断熱仕様による室内環境は、アクティブな手法では得られないマイルドな快適性を提供するもので、住まい手の立場に立った空間構成と共に、住んでみたいと思わせる住宅となっています。太陽熱利用温水器、太陽光発電、薪ストーブなど無理のない範囲で再生可能エネルギーが利用されていることも評価したいと思います。
 実用住宅ではありますが、今後、エネルギー消費量や室内環境などについて、計測、公表されることを期待したいと思います。



冬日の家(ふゆびのいえ) 

この住宅は、地方都市の伝建地区の位置する住宅です。寒冷地では積雪などの理由から一般的に閉鎖的な住宅になりやすい中で、東西方向に3つの層を設定し、木製の可動間仕切りとサッシにより季節的にフレキシビリティーの高い生活空間が提案されています。特に南側に面する「使う庭」に接するサンルームとリビングは一体的な空間として計画され、冬季においても高度の低い日照を取り込んだ開放的な生活を可能にしています。また、ウォークインクローゼットを介してつながるリビングとこども部屋の機能性と回遊性、通り土間を介した客間では、庭に対して開口部を絞り視覚的なつながりと連続性を実現しています。また、無落雪を前提とした陸屋根と水平に広がる軒裏のデザイン。東北地方では珍しい焼き杉による外壁を用い、近隣の伝建地区の街並みとも関係を構築し調和を生み出しています。
多雪地域における単なる質の高い住宅の提案を越えて、通常、制約条件になりやすい雪と冬季の日照を巧みに取り込み、冬の日常的に開放的な風景を新たに生み出す設計者の手腕は、審査会においても高く評価されるともに今後の活躍が大いに期待されます。


由利本荘市文化交流館 ガダーレ 

本計画は、地方都市に立地する劇場、図書館、プラネタリウムを中心とした複合型公共文化施設として、設計者の経験と意欲的な試みが随所に具現化されています。
 各施設の機能が高い水準にデザインされているだけではなく、敷地周辺に対して様々なアクティビティが展開可能な空間構成となっている。特に施設全体の空間の骨格であるわいわいストリートは、各階の活動がヴォイドを通じて伝わる構成となっており、日常的な賑わいが生み出されています。また、ホールゾーンは、地域のイベントなどでは、客席可変システムにより、長さ約135mに及びダイナミックに周辺街区とつながる非日常的な祝祭空間として機能します。また、設計プロセスにおいては、設計者がこれまで手掛けてきた参加型プロセスの設計手法を積極的に活用し、地域の文化活動団体の利用を促し開館後の高い利用率につなげていることも評価の対象となりました。これらを含め、衰退化が進展する地方都市の中心部に新たな息吹を持ち込む設計者の意図が高いレベルで成功しています。
 以上の理由から、地域における新たな公共文化施設の解として審査においても高く評価され、東北建築賞に推挙する水準に到達しています。


八戸ポータルミュージアム はっち

古くから城下町として栄えた八戸は他の地方都市同様、空き店舗が目立ち衰退しかかっています。その中心市街地に、市が八戸の観光や文化を見直し、その魅力を紹介する施設の提案を全国に求めました。完成した建築は祭りの極彩色な山車に見られるようにカラフルな色彩を好む地域性が商店街をも染めている中にあって、コンクリート打放しとガラスでつくられ、街の黒子に徹しているように見えます。しかし、外壁に組み込まれた自動給水システムを持った壁面緑化によって、春夏秋はこの建築が通りに自然の彩をまとうことも写真で確認できました。内部は中庭を中心に、エスカレータを使って全館を自由に体験できるシンプルな構成です。街に向かって開かれた1階のハッチ広場に市民が集い、八戸に残る横丁の雰囲気が内部にもにぎやかに展開しており、観光客と市民どうしの交流、創造の拠点をつくるという目的が、市側の積極的な場の作り込みによって高いレベルで成功している印象を持ちました。建築家が八戸市や市民とワークショップを重ねながら、必要とされる役割をきっちりと果たし街の活性化に大きく寄与しています。


東北大学 片平キャンパスAIMR本館

本建築は、東北大学片平キャンパスの事実上の表玄関といえる北門のゲート的機能を有するものです。その建替えにあたっては、街並みを構成する歴史的な外壁を残しつつ、内部は完全に新しくするという方式が採られました。
 建物本体は、オフィス棟とラボ棟から構成されていて、その二つの棟がガラス屋根の架けられたアトリウムによって接続されています。このアトリウム空間は、二棟の廊下を互いに向かい合わせにし、また二階以上を一部階段状にセットバックさせています。それにより、自然光がガラス屋根から全体に差し込む明るい空間になっており、また人の動きが水平方向にも垂直方向にも感じられる一体性活動性ある空間にもなっています。また、中庭に面している南側については壁面緑化がなされ、夏季は緑のカーテンによる日射遮蔽が意図されているなど、環境にも配慮したデザインとなっています。
 このように、本建築は歴史性と機能性がうまく調和したものに仕上がっており、東北建築賞にふさわしいものと認められます。


白河市立図書館

JR白河駅近く、東北本線と市内の主要道路に挟まれた平坦な敷地に建つ、100m近い幅の勾配屋根をもつ建物で、図書館としての機能のほか、多目的ホールや会議室などの市民活動・交流の場を有する施設です。建物内部は、特徴である大屋根を張弦梁とすることで、曲面天井を有する開放感のある空間となっており、多くの人々が快適に利用できる場となっています。人口6万人余りの白河市の中で、1日の利用者は平均1,000人を超え、開館して間もないにもかかわらず、すでに街の新しいランドマークになっています。また、建物の前庭は、誰もが気軽に散策できる並木道となっており、図書館を利用する人以外にも、多くの人々をこの場所に引き寄せることを意識した設計となっています。
 調査時も建物周辺の賑わいが感じられました。この建物を中心に新しい街並みが形成されつつあり、地域の活性化に貢献できているとして高く評価できます。







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