第U期研究活動の目的


目的

 建築物・住宅内における化学物質空気汚染に関する問題を解明し、健康で衛生的な居住環境を整備する。研究対象物質としてホルムアルデヒド、VOC、殺虫剤、可塑材とする。また検討対象としては、住宅、学校及びオフィスとする。
研究は、これら化学物質の室内空間への放出及びその活性化反応を含めた汚染のメカニズム、予測方法、最適設計・対策方法を解明すること及びその情報データベースの作成を目的とする。
 昨今の室内の化学物質による空気汚染の問題は、住宅に留まらず、幼児、学童が長期滞在する学校や、オフィスにおいても、住宅での問題と同様、深刻化している。年少者に対する揮発性化学物質の影響は、自律神経系、免疫系のみならず、精神・心理面としての情動系にも大きな影響を与えている。またオフィスにおいては、室内化学物質はシックハウス症候群こそ引き起こさないものの、知的生産性に大きな影響を及ぼし、健康面のみならず経済的にも大きな損害を及ぼすことも多い考えられる。本研究では、このような年少者の情動系に与える影響や、学校やオフィスにおける学習環境と知的生産に関して検討を行う。
 室内化学物質空気汚染に関する研究は、国民的関心が高いこともあり、国土交通省、厚生労働省、経済産業省、林野庁、環境省など様々な行政機関により対応・研究がなされている。これらの研究のなかで、最も学術的であり、学際的な検討が行われているのは、日本建築学会において科学技術振興調整費により平成10年度から平成12年度まで行われた「室内化学物質空気汚染の解明と健康/衛生居住環境の開発」研究である。
 この研究では、室内空気汚染の原因物質同定法、及びその濃度の標準的な測定法、建材からの発生量の測定・評価法などが検討、提案された。しかし昨今の建材からの発生に対する対策の進展から、汚染発生源の問題は複合建材や施工法、更には殺虫剤(農薬)、日用製品、家具、什器に移行してきている。本研究では、同研究と同様に学術的、学際的に、これら新たな発生源に検討の中心を移す。これまでの研究では、室内の汚染物質の発生・拡散の機構を解明しこれを予測する手法の開発が進められた。しかし開発された手法は、基礎的なものであり単純化されていることは否めない。住宅や学校、オフィスにおける各種の工法、個別要素、擾乱要素の影響を十分に考慮したものではなく、実用的な予測法としてすべての要素に関してリンクの取れたものではない。本研究では、室内の家具、OA機器、什器などからの汚染物質放散ならびに吸着・脱着効果も考慮し、より実践的な室内の濃度予測手法、人体吸入量予測手法を開発する。各種の予測法は、室内環境設計にフィードバックすることにより、室内環境の最適設計法につなげることが可能である。本研究では、室内化学物質汚染を最小化する室内環境設計法に踏み込んだ開発を行う。
 研究成果は、住まい手に対して速やかに普及させることが必要である。本研究では、重点的な検討対象を学校やオフィスに移すことに対応し、学校やオフィスにおける室内空気の化学物質汚染の診断システムを開発し、各種の危険因子の発見、診断、対策を行うための道筋を示すことに重点を置く。


問題背景と各省庁施策における本研究の位置づけ

 化学物質室内空気汚染は、建材、家具、什器(電化製品、OA機器)と深く関わるほか、室内での化学製品、防虫防蟻駆除剤などの薬剤使用さらには、建築物・住宅の気密性・換気にも大きく関連する問題である。化学物質を室内空気中に放散させる建材の使用規制は、こうした建材のコストに反映し、経済的、社会的状況にも大きな影響を与える。建築生産・住宅建設における熟練労働者の不足がもたらす建築生産工法の簡略化は、化学物質放散の危険性のある建材や施工材の使用を促進する側面がある。
 住宅・建物中の化学物質空気濃度増加は、このような化学物質使用を増大させる経済的社会的圧力と、暖冷房エネルギー削減のため、建物の気密性を向上させ換気熱負荷を低減させたことに起因している。今後、地球温暖化防止、炭酸ガス排出抑制との兼ね合いで、建物内換気量を最小化する傾向はますます高まるものと思われる。人体の健康と衛生を確保するためには、この室内化学物質の放出量を極小化させること、少ない換気で室内汚染質の除去を計り、生活者が吸引する化学物質量を増大させないこともしくは減少させることが絶対条件となる。
 今後、地球環境保全のため、建材や住まい手の生活材は、ますます天然自然のものから化学物質を何らかの形で内包するリサイクル材、人工材に移行し、このような問題がより拡大する傾向を持つ。問題の顕在化、深刻化から国土交通省、経済産業省、厚生労働省、環境省、林野庁は、個別或いは合同でこの問題に対する対策を行っているが、行政面からの対策として問題の基礎的解明よりは即応性を重視した対応となっている。室内化学物質汚染の発生構造や発生量、さらにはその室内拡散に関する基礎的研究情報、その予測手法の開発など学術的あるいは基礎的、学際的検討に関しては手薄であることを否めない。本研究は、まさにこのような各省庁の室内化学物質空気汚染対策の空隙を埋めるものと位置付けられる。


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