■第8回(平成23年度)中国建築文化賞について
社団法人日本建築学会中国支部では、中国地方の建築文化の発展に顕著な貢献が認められる活動に
対して表彰し、広く地域文化の発展と建築文化に対する意識の高揚を図ることを目的とした「中国
建築文化賞表彰制度」を平成16年度に創設した。第8回目となる昨年度は次の3作品について表彰す
ることに決定した。どちらも当該賞の創設主旨を十分満たす優れた作品であり、これらの作品を以
下に紹介する。
川﨑祐宣記念講堂(意匠部門 所在地:岡山県倉敷市)
受賞者:門谷和雄、田代真也((株)竹中工務店広島一級建築士事務所)
川崎学園創立30周年記念事業の一環として計画された本記念講堂は、倉敷駅の北西部の川崎医療福
祉大学キャンパス内の小高い位置に在る。延床面積7,871平米、地上3階、高さ約13mの規模で、鉄筋
コンクリートおよび鉄骨造の建物であり、外観は非常に落ち着いたイメージでありながら、かつ広
がりのある講堂である。一般に講堂は重厚であり、小高い位置にあるため威圧的イメージを受けや
すいが、円弧状形態とルーバー柱や庇の線材により圧迫感は無く、なだらかにステップアップする
メインの進入路は本講堂の入場者へいささかの高揚感さえ感じさせる。施設としては、最大1500名
収容できる講堂をメインとし、多目的ホール・同時通訳室・会議室・控え室ならびにメモリアルギ
ャラリー・ロビーが機能的に配置されており、一体感のある構成である。また、講堂の天井部のス
カイライトからの光と風は、自然光による優しい光と清涼感の導入に成功しており、講堂という密
閉された大空間に開放性を持たせている。さらに、内部に配置してある一般のものより高背板の座
椅子は、非常に座り心地も良く、「座って聞く」という当たり前ではあるが、このような部分にも
十分配慮がなされているものと感じられる。
今の家(住宅部門 所在地:岡山県岡山市北区)
受賞者:神家昭雄 (神家昭雄建築研究室)
岡山駅から南西の岡山市北区にある本建築作品は、市の中心部に近く戦後開発された地区に位置し
ている。多用な建物が建っている地域ではあるが、その中で住宅地としてまとまった中に存在して
いる。本作品は平成19年12月に竣工していて、地上2階、延べ面積184.73㎡、木造の建物である。
設計者の説明によると、計画にあたって気をつかった事として、敷地の西隣に、時を経て緑に囲ま
れ、落ち着いた佇まいの和風建築があり、それにつながる景観を重視して、2階建てではあるが、
屋根のかけ方等に工夫をこらし、外観上は平屋建ての雰囲気が出るようにした。また、瓦屋根の落
ち着いた雰囲気の中、周囲との調和を図ることに気を使ったとの事であり、外観は設計者の意図ど
おりに出来上がっているといえる。建物へのアプローチはコンクリート打ち放しの壁に沿って玄関
へと導かれ、中に入ると厚い土壁があり、コンクリートとの対比が訪れる人の感性に触れる。全体
計画としては、建物と周囲の庭との調和に気を使って平面計画がなされている。各部屋から大小の
窓越しに、各種の庭が見えるようになっていて、内と外との繋がりをどこにいても感じることが出
来る。居間、食堂からは南の広い庭に面して、大きな開口を設けていて、庭弄りが好きな建主が日
々楽しめると同時に訪れた人が季節を感じることが出来る、光溢れる造りになっている。北側には
若干和風の庭を造り、和室、居間、浴室から眺めることが出来る。窓は地窓になっていて、遠くの
雑然とした建物は目に入らず、落ち着いた、さまざまな角度から庭が楽しめる工夫が凝らしてある。
居間の天井は吹抜けがあり、地松の梁がかかっていて、構造的な力強さを感じることが出来る。ま
た2階は高窓から吹抜けを通してやわらかい光が振りそそぎ、1階との繋がりもあって開放的な空
間になっている。そして、この住いは、木造の持つ気持ちよさと、力強さと、庭との関係からくる
居心地よさに溢れている。
撮影:大竹静市郎
閉じて開く家(住宅部門 所在地:広島県広島市西区)
受賞者:古本竜一(㈱古本建築設計)
広島市西部の高台に位置するこの作品は新しく開発された団地の中にあり、メインのアプローチの
途上で見上げるとすぐにそれとわかる場所に建っていて、周囲の家屋の中でもひときわ際立ってい
る。また、南西方向に宮島を臨み、晴れた日は四国の山並みもみられる素晴らしい眺望をもつ敷地
に建っている。建物は台形の長辺が膨らんだ緩やかな曲線をもつ敷地形状を生かすよう配置されて
いる。すなわち、1:2:√3の直角三角形の2に当たる辺を隣地境界線と平行に北西側壁面、1に当た
る辺を南西に向いた正面壁面、√3に当たる辺を南東側壁面とし、隣地境界線との間を玄関へのアプ
ローチ空間としている。また、正面壁面と道路境界線の間には垣根はなく、2台分の駐車スペースを
除いて、3本の木が植えられた芝生の庭は、公共へと開放されている。空間的には二つの大小の直方
体を北西、南東壁面線に沿って配置し、2階中央部を渡り廊下で結び、正面壁面との間に絶妙な隙間
を与えながら、30度に開いた豊かな吹き抜け空間を生み出している。部屋の配置は北西部分1階がキッ
チンと水回り、2階が子供室、東南部分1階が音響を考慮した空間容積をもつ半地下の音楽室、2階が主
寝室と納戸である。吹き抜け空間部分1階がLDとなっている1階はコンクリートの壁で閉じられ、無機
的であるが、2階の全面ガラスから差し込む太陽の光によって自然の時間の流れが、庭に植えられた
樹木の葉の揺らぎとともに感じられる快適な空間である。2階は主寝室のロールブラインド、子供室
の折りたたみ式の木製建具を解放すると水平に広がるダイナミックな眺望を見渡すことができる。庭
の樹は敷地前面の電柱や鉄塔をうまく消すよう植栽されている。また適切に開けられた通風用の窓は
室内に心地よい空気の流れを生み出すよう工夫されている。ファサードは屋根と2階部分に深く軒を
出すことで建物に陰影を与えるだけでなく、1階部分のコンクリートの質量感と2階部分のガラスの
ヴォイド感を強調する役目を果たしている。また、外壁の劣化を防止する作用も果たしている。子供
室の建具を我々の到着したときには閉め、中に入ると開けてくれ、リビングの光の位置を指差し、今
何時かこの位置でわかるんだよというご子息、あるいは1階の窓がないことのメリットを説明される奥
さん、親子で2階の庇に上って、窓掃除をするというクライアント、これらは家族で愛情をもって、こ
の家を住みこなしていることの証であろう。
撮影:大竹静市郎
●23年度審査員(敬称略・50音順)
在永末徳・清田誠良・松島日出雄・松本静夫・山田 曉・山本春行
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