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Vol.52 - 2015/09/30
《from 新潟支所》 特集:2015年度 日本建築学会北陸支部総会・大会 
講演会報告 

澤田 雅浩/長岡造形大学造形学部建築・環境デザイン学科 准教授


 今年度の支部大会の講演会として、10年前に発生した新潟県中越地震の応急対応、復旧復興プロセスに行政の立場から取り組んでこられた渡辺斉氏(元新潟県職員、長岡市復興管理監も歴任、現新潟県建築士会常務理事)を講師に迎え、10年間の取り組み、そしてそこから得られた教訓や課題についてご紹介いただいた。 講演の概要は下記のとおりである(講師のレジメより抜粋)

■中越地震の概要と応急仮設住宅の供給について
 ・中越地震の概要と被害の状況
 ・応急仮設住宅設計の理念と教訓、反省点等
■中山間地域型復興住宅の開発について
 ・設計の基本理念(ローコスト、地域循環、風土適合、景観形成等)
 ・供給体制、普及啓発の工夫と課題
■壊滅的な被害を受けた山古志地域の集落再生について
 ・集落再生の基本方針
 ・事業手法(防災集団移転促進事業ではなく小規模住宅地区等改良事業で対応)
 ・住民参加のプロセスと課題
■持続可能な地域再生のための中間支援組織「(財)山の暮らし再生機構」の設立について
 ・組織設立の基本理念(モデルはドイツの(株)エムシャーパーク)(〜マスタープラン方式からガイドライン方式へ〜)
 ・事業展開の概要
■東北の再生へ向けて
■四川大震災へ支援状況について

 中越地震は阪神淡路大震災以降、初めて震度7を計測した地震であり、建物被害も相当数にのぼったものの、建物倒壊を原因とする犠牲者はさほどではなく、道路網の寸断等により中山間地域を中心に孤立状態が発生したことなどが紹介された。 住み慣れた地域を離れての避難生活を余儀なくされた中山間地域の住民に対して、計画担当者として仮設住宅の設置にどのような配慮を行ってきたのかも示された。仮設住宅そのものは一定の基準があるものの、集会所や集会室の設置に気を配ったり、入居計画の策定に際して、集落単位を基本としたりするなど、長期にわたる仮設住宅入居期間が入居者の負担になりにくい状況を作り出したことなどが示された。
 中越地震の被災地においては、被災者の住宅再建に際して経済的負担を少なくし、地域の景観にも配慮した中山間地モデル住宅が提案された。その提案実現にも尽力した氏からその内容についても画像などを用いて示された。地元の越後スギなどを用いるだけでなく、地域の工務店等による設計施工などを総合的に取り込んだ取り組みは、中越地震の被災地だけでなく、その後、能登半島地震の被災や紀伊半島大水害の被災地などへ展開していることも併せて紹介された。
 また、旧山古志村では14ある集落のうち、河道閉塞によって水没するなど被害規模が大きい集落に関して、集落再生計画を策定し、現地、もしくは現地近傍での移転再建を支援している。その際の計画策定プロセスや具体的な計画案についても紹介があった。それらを実現する手法として、東日本大震災被災地で取り組まれている防災集団移転促進事業ではなく、小規模住宅地区改良事業を用いることで、事業用地内に公営住宅を設置することもできたり、防災集団移転事業としての適地がほとんどない山古志においても住宅再建を進めることができたりしたことなどが紹介された。
 中越地震の復興においては、住民、行政の取り組みだけでなく、それらを連携させる中間支援組織が大きな役割を果たしたといわれているが、その代表的な組織の一つ、山の暮らし再生機構についても、設立経緯やその目的、復興への具体的アプローチなども紹介された。
 いずれも現場で陣頭指揮を執ってきた講師ならではの視点であり、圧倒的な情報量で10年の取り組みにおける要点が示されたといえる。 なお、氏がそれらの経験を踏まえて活動を展開している中国、視線地震被災地における復興支援や、東日本大震災の被災地の状況についてもコメントがあるなど、たいへん内容の濃い講演会となった。


写真 講演の様子



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