住宅系研究報告会開催にあたって
■第1回のあいさつより
住宅系研究(住まい、住居系まちづくりに関する研究)は、日本の 建築学の中で、以前から重要な位置を占め、日本建築学会大会においても多数の研究発表が行われてきた領域です。しかし、とりわけ近年では、研究の展開が多 岐にわたり、建築計画、都市計画、建築経済、農村計画など、それぞれの分野では専門的な研究と議論が行われている一方で、分野横断的な議論の機会が少なく なってきています。とりわけ、次世代を担う若手研究者にとっては、他分野の研究者との交流機会が減少し、建築学における住宅系研究の健全な発展を促す環境が損なわれてきているのが実情です。
こうした状況に対して、1980年代中頃より住宅系研究の分野間交流の必要性が強く求められるようになりました。また、研究課題がますます専門分化してい るととをふまえて、住宅と都市・地域の関係性など空間的な広がりの中で研究課題をとらえることの重要性、企画・計画段階の問題から管理・運営段階の問題ま でを含めた時間的な広がりの中で研究課題をとらえることの重要性が指摘されてきました。
日本建築学会においては、これまでの委員会を再編し、住宅委員会(仮称)をつくる構想も議論されましたが、既存の各委員会の構成にとっても住宅系研究が重 要であるという理由などから、解決すべき問題があまりに多く実現には歪りませんでした。一方、日本建築学会とは別に、住宅系の学会を創設する動きも何度か 起こりました。これについては、1992年、学際性、業際牲を鍛えた都市住宅学会が設立され、工学と社会科学の交流や研究者と実務家の交流の場が生まれる ととになりましたが、建築学の中での住宅系研究の分野間交流は、必ずしもこの学会設立の目的ではなく、日本建築学会内部の課題として積み残されることにな りました。
本報告会は、以上の経緯をふまえて、建築計画、都市計画、建築経済、農村計額の4分野で行われている住宅系研究(住宅系研究はこの4分野だけで行われてい るわけではないが)の相互関連性に着目し、住宅系研究をとりまく社会的背景の変化を共有しつつ、分野横断的議論を行うことを目的として企画されたもので す。既存の委員会組織を改組するのではなく、各分野の独自性を十分尊重しつつ必要な交流は大いに促進するという考え方に基づいているわけです。また、この 企画には、とりわけ、若手研究者の発表、討論の機会を創出し、この領域のさらなる発展を目指すという思いも込められています。すなわち、各分野の若手研究 者らが先端的な研究成果を報告しつつ相互に議論を交わすことにより、住宅系研究の新たな潮流を発見できればという期待があるわけです。
本報告会に先立つて、上記4分野では、本年9月、手始めに、建築学会大会(関東)において『住宅系研究の動向と新たな展開ーその横断的議論一』と題するパ ネルディスカッションを4委員会共催で実施し、一定の成果をあげました。こうした横断的な発表、討論の場を今後継続的に設定することにより、研究成果の共 有、研究内容や方法の交流、研究水準の向上などを目指したいと考えています。
なお、本報告会は、12月8日、9日の2日間にわたって実施され、別記の通り、厳正な審査の結果選ばれた38編の論文が報告されます。各報告に対しては、 討論時間を設けるとともに、コメンテーターからのコメントもいただきます。さらに、この領域のベテラン研究者による特別講演や懇親会なども予定されていま す。全体としては試行的ですが、活発な交流が行われ、当初の目的が達成できることを願っています。
末筆ながら、本報告会の実現に努力いただいた4委員会の委員長ならびに委員の皆様、報告会の企画、運営をお引き受けいただいた幹事の皆様、ご多用中査読をしていただいた査読員の皆様ほか、関係者一向に深く感謝を申し上げる次第です。
2006年12月
社団法人日本建築学会
建築計画委員会・都市計画委員会・建築経済委員会・農村計画委員会共催
第1回住宅系研究論文報告会幹事代表
高田光雄(建築計画委員会住宅小委員会主査〉
■第3回のあいさつより
住宅系研究は、日本の建築学の中で、古くから重要な位置を占め、日本建築学会大会においても多数の研究発表が行なわれてきた領域です。しかし、社会が複雑 化・高度化するとともに研究の展開が多岐にわたり、都市計画、農村計画、建築計画、建築経済など、それぞれの分野では専門的な研究や議論が行なわれている 一方で、分野横断的な議論の機会が少なくなってきています。こうした状況は、とりわけ次世代を担う若手研究者にとっては他分野の研究者との交流機会が減少 することを意味し、建築学における住宅系研究の持続的な発展を促す環境が構造的に損なわれていることを意味します。
以上の認識のもと、建築計画、建築経済、都市計画、農村計画の4つの分野が合同で運営幹事会を設置し、協 調・協力体制のもと、2006年12月に「第1回住宅系研究論文報告会」を開催するに至りました。最初の試みということもあり、論文はどれくらい投稿され るだろうか、運営経費は賄えるだろうか(収入のほとんどは投稿料のため、論文が集まらないと幹事の旅費も出せない)、境界領域の論文はどのように審査すべ きか等々、準備段階はまさに試行錯誤の連続だったと記憶しています。幸いにもこの年の報告会では38編の論文が報告され、コメンテーターからのコメント、 ベテラン研究者による特別講演、各分野から選出された研究者によるパネルディスカッション、懇親会と、報告会を意義あるものにしようと企画された各種のシ カケにより報告会は予想以上の成果をあげるとともに、研究分野をまたがるこうした試みを運営するためのノウハウや相互の信頼関係の構築など、目に見えない さまざまな効果もあげることができました。
2007年12月の「第2回住宅系研究報告会」でも35編の論文が報告され、分野を横断する活発な議論がなされました。
さて、本年は第3回をここに迎えることができました。33編の論文が報告される予定です。本報告会においても「住宅系研究の相互関係に着目し、住宅系研究 をとりまく社会的背景の変化を共有しつつ、分野横断的議論を行うこと(第1回論文集より)」を目的とします。またこの企画にはとりわけ「若手研究者の発 表、討論の機会を創出し、この領域のさらなる発展を目指すという思いも込められています(同)」。2日間にわたるこの貴重な機会を、こうした視点を共有し ながら参加者全員で充実したものにできればと願っています。
こうして序文を書いていて、「石の上にも3年」という言葉を思い出しました。多少内輪話になりますが、本年 の幹事代表は都市計画と農村計画からそれぞれ1名ずつ出すことになりました。それに対応して学会事務局も複数名で対応していただくことになりました。たい へん複雑です。「住宅系」のような分野横断的試みをしようとすると、どうしても縦割りの既存組織を超えなければなりません。そういう意味で、第3回となっ た本年も運営は決して「完成形」ではなく、試行錯誤の連続でした。それでもこうして報告会を迎えられたのは、「各分野の独自性を十分尊重しつつ必要な交流 は大いに促進する(第1回論文集より)」という共通の思いがあったからだと思います。