近年、長周期地震動による建物の揺れが問題となっている。今回の東北地方太平洋沖地震においても、高層建物における長周期の揺れが長時間にわたり観測されている。高層建物における長周期の揺れに関しては、構造安全の面からの検討が主に行われているが、危険回避,苦痛および恐怖感・不安感解消,避難行動等において、環境振動の観点からの研究活動が今後重要である。また、地震酔い(地震でもないのに揺れている感じがする,目まいがする,吐き気がするといった症状)への建築的事前対応も検討すべき課題である。すなわち、
・危険回避,苦痛および恐怖感・不安感解消,避難行動という面から評価基準を検討し、長周期地震動に対する設計の見直しに資する資料を作成する
・地震酔いを発症させないため、感覚評価の観点から長周期地震動に対する設計の見直しに資する資料を作成する
といった活動が重要となる。
また、近年では、免震,制震システムを導入している高層建物も多く見られるが、長周期の揺れに対する振動感覚に着目した制御については十分な検討が行われていない。いままでに記録されている応答波形を分析し、免震,制震システムによる高層建物の揺れの特性を検討し、振動制御に対する振動感覚に着目した知見を提示することも必要と考える。
幸い、当運営委員会では、これまで、環境振動に関する居住性能評価指針を作成してきた。この指針における評価基準には、風による水平振動の性能評価曲線も示されている。その周期帯は0.2秒〜10秒であり、いま問題となっている長周期地震動による高層建物の揺れの周期帯と重複する。また、揺れが比較的長時間続く点も、共通している。よって、これらの成果をもとに、長周期の揺れの評価に関して、検討をしてゆくことも可能である。 |