建物とその周辺における健全な水環境の形成 キーワード12

 
 

1. 給水・給湯の安全

建物やその周辺で使用される水や湯は、汚染のない安全なものでなければなりません。また、人の健康のために衛生的で良好な水質を維持する必要があります。そのため、上水、雨水、雑用水などの水供給において、水道法や建築物衛生法等、対応する法律で定められた水質基準を維持できるよう計画する必要があります。また、給湯や循環系統は、特に水質が悪化しやすいので計画から管理にわたって注意が必要です。

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前文

日本建築学会では、2008年12月に環境工学本委員会の承認を得て水環境運営委員会の責任において「建物とその周辺における水環境の形成に関する考え方」を表明しました。当パンフレットは、この考え方の中から12のキーワードを抽出して、図を用いてわかりやすく説明したものです。私たちは、建築に関わるすべての人々とともに、建物とその周辺における健全な水環境の形成に努めたいと考えます。

2011年3月


  1. 01. 給水・給湯の安全

  2. 02. 排水処理

  3. 03. 水の有効利用

  4. 04. 非常時対応

  5. 05. 雨水活用

  6. 06. 水の熱的資源性の活用

  7. 07. 生態系

  8. 08. 節水・節湯

  9. 09. 省エネルギー

  10. 10. 水を扱う装置の資機材

  11. 11. 装置の長寿命化

  12. 12. 景観の形成と保全


社団法人 日本建築学会

環境工学委員会 水環境運営委員会

健全な水環境の形成検討小委員会

2008年4月〜2011年3月)


主査:長尾良久(TOTO)

幹事:小瀬博之(東洋大学)

委員:

浅野良晴(信州大学)

大塚雅之(関東学院大学)

加藤 篤(日本トイレ研究所)

黒岩哲彦(アルキテクタ)

高地 進(ピーエーシー環境モード)

中久喜康秀(竹中工務店)

元委員:川人尚美(竹中工務店)


108-8414 東京都港区芝5-26-20 Tel. 03-3456-2051


日本建築学会ホームページ

http://www.aij.or.jp/aijhomej.htm

水環境運営委員会ホームページ

http://news-sv.aij.or.jp/kankyo/s21/


健全な水環境の形成検討小委員会

2. 排水処理

排水を処理するにあたって、漏水や騒音・振動、悪臭の発生等、人に害を与えない装置を計画し、維持する必要があります。また、排水中には、有害な物質が含まれている場合があるので、人に触れないように速やかに排出できるように計画する必要があります。さらに、処理を行った後には汚泥が出てきますが、この汚泥によって人や建物の構成部分に害を与えないように計画・運転をしなければなりません。

3. 水の有効利用

排水は、環境に負荷をかける面がありますが、一方では、処理を行うことにより再生水として有効に利用することができます。再生水を利用する際には、建築物衛生法等、関連する法律で定める水質基準に沿って水質を管理する必要があります。再生水は、トイレ洗浄水、散水、洗車用水、水景用水等に活用することができます。また、水需給の増大・ひっ迫している地域においては有効な水の供給源になります。

4. 非常時対応

災害などの非常時に必要な水は、水質・水量を考えて供給できるようにしておきましょう。また、避難拠点などの重要な建物では、必要十分な水質と水量が確保できる装置を備え、災害時に破壊されずに使えるよう堅牢なつくりにしておかなければなりません。また、水を扱う空間における安全性や快適性を確保するように配慮する必要があります。

5. 雨水活用

家庭や事業所における雨水活用は、平常時の地表水・地下水への依存が軽減され、水源の温存、利水安全度の向上に寄与することができます。また、災害などの非常時には、確保した水源を緊急用水として利用することができます。活用にあたっては、その用途に適する水質であるかの配慮と管理が必要です。また、地表への浸透や貯留を図り、内水氾濫等防止の心がけが必要です。

6. 水の熱的資源性の活用

水は蒸発するとき熱を吸収する性質があるため、夏期、水を天井板の上面(天井裏)に湿らすことで天井面を冷やし、室内温度を下げることができます。また、冬は屋根で温水化した水を床下の蓄熱水タンクに貯めれば、床下暖房になります。このように水の蒸発冷却や蓄熱性を生かし、天井冷放射や床面温放射による室温調整を図ることができます。雨水など自然の恵みを生かせば、さらに環境配慮を図ることができます。

7. 生態系

河川や湖沼、ため池、湿原等の水辺環境は、水生生物の大切な育成・生息場所です。その水辺が本来有している自然状態の保持に留意し、水生生物の保護や生育・生息環境の確保を図る必要があります。また、親しみある水辺空間の創出や活用と継承に注力することが重要です。

8. 節水・節湯

渇水の問題が毎年のように取り上げられ、環境配慮の点から節水・節湯が叫ばれています。節水・節湯は、使用水量の節約はもとより、上下水道への負荷低減につながります。また、関連する装置の機器容量・機材を減らし維持管理に伴うコスト・エネルギーを削減します。節水・節湯のための方策は、使用者の節水・節湯意識の普及による節水・節湯行為の向上と節水・節湯型機器の利用の定着を図ることが重要です。

9. 省エネルギー

エネルギーをむだなく効率的に使うことは、我が国では、省エネルギー法(エネルギー使用の合理化に関する法律1979年)により建築物に係る措置が定められました。法律に基づく主要な告示により、建築物に外壁・窓等を通しての熱損失の防止及び空気調和設備・機械換気設備・照明設備・昇降機とともに給湯設備に係るエネルギーの効率的利用のための建築主の判断基準が示されています。

10. 水を扱う装置の資機材

水を扱う装置に用いる資機材は、性能・品質の確保と生産性の向上に加えて、環境への配慮が求められていることから、エコマテリアルの採用を考慮したグリーン調達を推進していくことが重要です。さらに、廃棄物の発生を抑制するために、安全性・衛生性が確保されることを条件として、リユ—ス・リサイクルによる資機材の再資源化の拡大を図ることが必要になります。

11. 装置の長寿命化

水を扱う機器は、社会的な要求性能の維持と環境負荷の低減を図ることが重要です。このため、建物や装置の特性に応じて、耐久性の高いものを使用するか、補修を継続しながら性能を維持するか、交換と再資源化により性能の向上を図るかのいずれかを選択して、装置全体の長寿命化に努める必要があります。そのためには、建物躯体と分離した装置(インフィル)の採用が必要となります。

12. 景観の形成と保全

水景は、心理的なうるおいとやすらぎ、水遊びや生物とのふれあいといった親水活動、夏の暑さの緩和など、総合的な快適性の向上をもたらします。ランドマーク景観の形成や生物の生息場所としての役割、資源・エネルギーの有効利用などを考慮しながら、積極的な導入を図りましょう。ただし、水景を維持するためには、装置や水質の適切な管理が必要です。住民等の関心を高めて、協力体制を築くことも重要です。