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都市防災研究会 議事録 (2004年度)

第12回 都市防災研究会 議事録

日時:2004年4月5日(月)18:00~20:30
場所:(財)日本建築総合試験所 第1会議室
参加:13名
記録:水上

■インド・グジャラート地震後の都市部の復興過程と住宅再建
<報告:神戸大学 北後明彦>
○地震の概要:
2001年1月26日 M7.7 
震源地 Bachauの北方、深さ25km

○被害の概要:
死者 約13800人、負傷者 約167000人、倒壊家屋 120万戸以上
都市部は、城壁による土地の制限のため都市の成長とともに密集していった。そうした歴史の中で、もともと1階建ての基礎の上に2階、3階を増築した建物や、老朽化した組積造を都市の内部に多く蓄積していったことが、多くの崩壊をまねいた原因と考えられる。また、道路の幅も狭く、救助が大幅に遅れ被害の増大につながった。

○復興の指針①:都市としての防災力の向上
ハード→密集の解消、インフラの整備
 城壁内においては、公共施設の移転や区画整理・減歩を実施し、道路の拡幅・延長を行なう
 城壁外に移転住宅団地を計画する
ソフト→コミュニティを壊さないように配慮

○復興の指針②:建築自体の安全性の向上
RC補強の組積造の技術を教え、中間検査を経て保証を行なうといったハードとソフトが一体となった補償を行なう

○移転住宅団地の説明
4箇所、計160haに3500戸の住宅が計画され、約4割の住民が移転した。
4つの移転住宅団地のうち1つは、賃貸人やスコッターなどの弱者のために計画された。

<議論>
以下について、日本やイランの場合と比較して議論がなされた。
○瓦礫の処理の問題
○区画整理時における減歩の割合や違法建築の取り扱い
○補償の額やパッケージ
○NGOの役割
第13回 都市防災研究会 議事録

日時:2004年5月10日(月) 18:00~
場所:(財)日本建築総合試験所 大阪事務所
参加:11名
記録:幾代

■延焼シミュレーションによる高山市三町伝建築地区の防災性能評価
<報告:京都大学大学院 樋本圭祐>
○延焼モデルKU-PLUSについて
既住の延焼モデル:経験的知見に基づくモデルであり、予測制度の向上には限界がある。延焼モデルKU-PLUS:一層ゾーンモデルを拡張し、物理的知見に基づき定式化したもので、延焼危険性に対する定量的な評価が可能である。
○KU-PLUSの概要
 ①建物間の延焼性状…噴出火炎・熱気流
 ②建物内部の火災性状…
   (ⅰ)可燃物の燃焼速度
      区画の形状→区画に入ってくる酸素量
   (ⅱ)開口・扉・壁経由の熱伝達
      ⇒「燃え抜け時間」の定義
        様々な部材の燃え抜け時間が必要で、
        建築部材の耐火試験結果を利用し、
        耐火時間=燃え抜け開始時間とする。
○KU-PLUSの適用
-高山市三町伝建築地区
 市街地の特徴:
  狭隘道路、
  屋外に対して木部が露出、
  背割りに沿って土蔵を配置、
  道路わきの水路、
  隣接する建物が壁を共有
 防火対策の歴史:
  屋根の不燃化(板葺きから亜鉛鉄板)
  土蔵側の避難経路確保
   ⇒初期消火に失敗してしまうと、効果が低減
    水路を利用した消火活動
    ブロック単位の警報システム
 建築レベルの防火対策:
   延焼遮断帯の確保、防火性能の高い建物への建替えは困難
  ⇒防火性能の高い開口部材への取替えや、防火塗料の拭きつけ等の部分
   的な補修、補強の必要がある。このような防火的対策がとられた場合
   の効果を、新しい延焼モデルにより定量的に評価することができる。
 延焼シミュレーションの適用
  ①計算条件:
    何も対策をとらない条件①と開口の性能を向上させた条件②、③と壁の性能を向上
    させた条件④、⑤を設定する。
    壁は木造、木造モルタル、RC、土蔵に分類する。
  ②計算結果:
     ②~⑤いずれも、4時間内の消失面積が減少している。防火性能の向上により
     燃え抜けが抑制され、延焼経路が減少する。

  ③対策の効果に関する検討:
     (ⅰ) 土蔵の連なりによる延焼抑止機能
        ・主に通りの家屋の並びに沿って延焼がおこる
        ・区画の反対側への延焼の抑制
     (ⅱ) 隣接する建物が壁を共有するため
        壁の燃えぬけによる延焼が支配的で、
        壁の延焼性能の向上により効果的な
        延焼抑止がなされた。
       (⑤の消失面積が一番小さい)
○今後の課題
 ・飛び火による延焼、家屋の倒壊、火災延焼が抑制される効果(散水、植生等)等の物理的
  モデルの追加。
・ 実用化のために、GISと統合してユーザーインターフェースの簡便化をはかる。

<議論>
・まちづくり総プロの延焼モデルとの違いは?
  ⇒まちづくり総プロの延焼モデルでは道路の拡幅や
    建替え等の都市的な対策の評価を主と
    するのに対して、本モデルでは部材の変更等の
    よりミクロな対策の評価を目的とする
・高さ方向の延焼性状をはかることができるのか?
⇒高さ方向の解析は可能で、例えば2階の部材だけ
  を変更した際の効果を測ることができる。
・過去の実際に起こった市街地大火と比較することができるのか?
 ⇒データの収集上難しい。
・高山市三町伝建築地区の場合、どこからの風に弱いか分かるのか?
 ⇒風向き、出火点によって違う。
 ⇒最悪の条件を出して、消防対策等に役立てることができるのではないか。
 ⇒リスク論の問題。
・燃え抜け時間の設定で、計算条件の具体的なイメージは?
 ⇒具体的には設定していないが、条件⑤の木造壁は石膏ボード2枚くらいで可能
・RC、土蔵も燃え抜け時間を一応設ける必要があるのではないか。
・壁の防火性能は、外側と内側で設定を変えることはできるのか?
 ⇒今回のシミュレーションでは外側と内側を同じものとしているが、
  今後外側と内側の条件を変えてシミュレーションを行う必要がある。
 ⇒日本の伝統的手法として、内側の防火性能を向上させるという手法があったのに、
  現在の建築基準法の方針では、外側からの延焼に対する性能を向上させることに
  重点を置きすぎているのではないか?
・グリッド状の理想モデルで検討する必要があるのではないか。

<その他>
次回日程:2004年6月21日(月) 18:00~
       宮野研究室による発表
第14回 都市防災研究会 議事録

日時:2004年7月8日(木) 18:00~20:30
場所:日本建築総合試験所大阪事務所4F会議室
記録:東(大阪市立大学)
出席者(敬称略):田中 北後 宮野 土橋 小泉 入江 増田 横山 水上 木本 生田 東(記録者)
資料:地震時の建物破壊による人体被災度計測シミュレーションの基礎的検討(その2)

■「地震時の建物破壊による人体被災度計測シミュレーションの基礎的検討(その2)」
<報告:大阪市立大学院生生田さん>
前回(2002年度第6回)の報告での有限要素法を用いた大腿部骨折シミュレーションの結果を踏まえ、市販の人体形状データから胸郭モデルを開発し、阪神・淡路大震災において主な死亡原因である胸部圧迫による窒息死・圧死のシミュレーションを行なった。またCTスキャナを用いた胸部圧迫試験を行い、シミュレーション結果と比較した。
〇胸部バーチャルダミー有限要素モデル開発について
1)市販(米国:DIGIMATION)の人体胸郭データ(DXF形式)は頚椎、胸椎、腰椎、肋骨、肋軟骨、胸骨の合計27部位から成り立ち、表面は3D-Surfaceという3節点で構成される要素の集合である。骨のモデル化はシェル要素を用いて行なった。
2)演算時間短縮を図るため頚椎、腰椎を削除した後、各パーツを肋椎関節、肋横突関節、靭帯で連結し呼吸筋要素として斜角筋、胸鎖乳突筋、外肋間筋を追加した。
〇胸部圧迫シミュレーションについて
1)CTスキャナを用いた胸部圧迫試験
・健常成人の胸部に10kg、20kg、30kgの荷重を載せ、荷重無しも含め撮影し、画像処理を行なった後三次元構成し測定を行なう。
2)胸部有限要素モデルを用いたシミュレーション
・衝撃問題解析用ソフト(LS-DYNA)を使用し、胸部圧迫試験と同じ荷重でシミュレーションを行なった。
3)試験結果とシミュレーション解析結果との比較
・胸腔変形量(胸椎-胸骨間距離)を比較したところ概ね合致した。また30kgf載荷状態での圧迫時と、非圧迫時の胸郭の挙動を比較すると、肋軟骨の変形と肋骨の回転変位が生じていることが分かった。
〇まとめと今後の課題
・人体の挙動特性にかなり近い有限要素モデルの開発と一連のシミュレーション解析手法を確立した。
・筋肉、内臓等を含むより精密なモデル開発を目指し、死亡に至るメカニズムの検討を行なう。

<議論>
・シミュレーションでは寝ている(横臥)状態を想定しているため胸椎は動かないように設定した。
・肋骨の回転運動により胸腔内体積は変化するのか?
 →回転運動により体積は減少することに加え横隔膜が上がることによりさらに体積が減少する。
・窒息死には肋骨の回転運動により肺の動きが抑制され窒息死にいたる場合と、大静脈が圧迫され死に至る場合とがある。
・この研究は建築計画にどのように反映できるのか?
 →建物破壊シミュレーション、家具転倒シミュレーション等を用いる事によって一般に視覚的に理解してもらうことができる。また建物の安全性の評価、群衆事故等における死亡の発生メカニズムの解明、安全な壊れ方をする建物の造り方の研究に反映していきたい。
・最終的には全身モデルを開発し、年齢、性差など様々な人間特性におけるシミュレーションを可能にしたい。

<その他>
次回は9月13日(月)18:00から日本建築総合試験所大阪事務所4F会議室で開催する。発表者は未定である。
第15回 都市防災研究会 議事録

日時:2004年9月13日(木) 18:00~20:30
場所:日本建築総合試験所大阪事務所4F会議室
出席者(敬称略):田中 北後 宮野 土橋 中道 小泉 入江 増田 秋月 大浦
資料:「防災における動機づけに関する研究」(岡崎健二、建築学会論文集、2004年6月)

■住宅耐震改修の促進方策について
<報告:国連地域センター防災計画兵庫事務所長 岡崎健二>
1.予防防災の重要性及び困難性
   亡くなった命は戻らない
2.我が国の住宅の安全性・耐震改修の現況
   現在、約200万戸が危険住宅(我が国)
   地震保険に入ると耐震改修しなくなる
   耐震改修促進法(1995年12月~)
    しかし、住宅を中心にあまり進まない
     (お金がかかりすぎる)
    耐震改修への補助金の理屈
     建物倒壊現象→出火率の低下→公共性がある
    行政努力
     我が家の耐震チェック
     簡易耐震診断法
3.個人レベルのリスク認識と意志決定
   個人レベルでの対応の困難性
     住宅の安全性への投資をしない
      (耐震改修コストが高すぎる)
     津波に対する適切な避難を行わない
   個人レベルにおける住宅耐震改修の動機づけ
   期待値が同じであれば、現在の損失をいやがる
    (→耐震改修しない)
   地震リスクのあいまいさ
    人によって受け止め方が違う
     住宅 資産価値と効用
        住宅を効用としてとらえると
        耐震改修が進む
         (ただし、効用は、個人レベルでみる)
4.途上国での防災活動
   海外でうまくいった事例
    世界の9都市でケーススタディ RADIUS
    脆弱性を自分で調べて理解
    プロジェクト実施後の展開があった
   グジャラート地震 復興及び耐震補強
    モデル村での建設
    振動台によるデモンストレーション
   地震に負けない学校プロジェクト
    コミュニティの中心としての学校
    学校を強くすることによる直接的な効果
    防災教育、文化に貢献
    住宅などにも耐震改修が波及
   持続的なコミュニティベースの防災(CBDM)
    人々に根ざしたものとする
   国際防災世界会議(2005年1月、神戸)
    横浜戦略(1994年)の見直し
5.耐震改修の促進策
   住宅の安全性確保 - 誰が?
     住宅は個人資産か?
       政府による地震保険金の支払い
        → 個人資産ではなくなっている
     住宅の安全確保は誰の責務か
       建築基準法は、耐震改修の動機づけにはならない
       → 住宅の効用を理解してもらう
       → 情報提供 あなたの場合は、といった個別の理解を進める
                 ビジュアルなイメージで伝える
     住宅耐震改修コストの大幅な低減
       9割補助でも耐震改修は進まない
       進めるためには、「耐震改修をしなければ損」という状況にする。
        例えば、危ない住宅の場合、固定資産税を満額徴収する。
                       または、特別の税金を徴収する。
     防災共育
       効用を知らせる
       オーナーシップの涵養
<質疑>
 改修の補助、診断の補助 という面でも進まない。
・行政の取り組みの打開策は?
 → NGOの役割が大きいのではないか。
   行政で活動のコストをある程度負担して、理解を広めることがよいのではないか。
・現実の問題を考えたとき、高齢者の住宅などが問題となるのではないか。
・また、設計の問題よりも施工の問題もある。
 → 高齢者の問題は、社会的な福祉で解決。
    設計、施工、メンテナンスの問題がある。
・中間検査などが、重要となるのでは?
 → いくら制度をきびしくしてもいいかげんな業者は存在する。
・個人レベルの意識が大きな課題と思うが、災害判定危険度調査の公表で、あまり反応がなかった事例がある。アンケートでは、ライフラインの生活不便は認識があるが、命に関わる認識に至っていない。個人レベルの認識がもっと必要と思う。
・住宅のリフォーム、アメニティのための改修と耐震改修の関係。
・防災だけにお金を出すのはこたえるが、家を建てるときに含めて出すのは出しやすい。
 → 新築時の耐震コストは、数%。日本の場合はクリアされている。
・保険の場合、ドライバーの特性が反映される。地震の場合、だんだん古くなって、高くなるようにする。
・コストの問題に関連して、0.7→0.4にして(性能の目標の問題)についてのご意見は?
 → そのようなことは有効と考える。
・耐震改修の技術は確立しているか。
 → 静岡県でアイデアコンペをした。自分の部屋、ベッドを守るという発想もあった。アイデアはいろいろある。基準法の世界とは別にいろいろ試みると良い。
・防災教育として、どのようなことをするとよいか。
 → 日本の現在のコミュニティでは、大変難しい。今の時代に即した、同じ趣味を持った人々の集まりなどに依拠するほうがよいのではないか。
・建物に住む人の責任は?
 → 借家は難しい。市場原理では取り残される。
・保険業界ができることは?
 → 再保険会社の活動の中に、啓発活動がある。また、その結果として業界の益になる。
・耐震診断をしている業者の第3者機関は?
 → 品確法で定義されている業者は、第3者機関となる。
・身近な耐震改修の具体例を示すような働きかけはあるのか。
 → 補強方法とコストのパンフレットを作成している。情報を整備しても、本人がその気になるには、別の要素が必要。
・耐震補強の相場はあるのか?政策的に標準価格を設定してはどうか。
 → 大手住宅メーカーはプレハブ。問題は、在来工法。
    住宅の状態と、目標で価格は様々。
・途上国で、セメント、鉄筋は入手できるのか?
 → 使う量がすくなければ、可能。

次回は、10月13日(水)18:00~ ドーンセンターにて
第16回 都市防災研究会(公開研究会) 議事録

日時:2004年10月13日(水) 18:00~
場所:ドーンセンター 5Fセミナー室
参加者:計12名

題目:「阪神淡路大震災ヘリコプター運用の教訓と課題」
講師:山根氏

<講演内容>
■「災害時のヘリコプターの運用概要」と題して、ヘリコプターの種類や主装備についてご講演いただいた。

①災害時に活躍する主な装備
   ・ホイスト…吊り上げ救助
   ・FLIR(赤外線暗視装置)…温度分布の差を画像化する装置。震災時に夜間消火活動をする消防隊員の姿を撮影し、それを放送することで救援活動が成されていることを伝え、パニック防止に役立った。
   ・担架装置…中型ヘリで3, 4名、大型ヘリ(CH-47)で24名分の装着が可能
   ・簡易救命装置…酸素ボンベ、輸血装置、電気ショック機材などの簡易装置が装備可能。
   ・空中消化…大型用約8トン、中型用約700リットル(中型用には、通常消火剤が混入される:消火剤の成分は肥料が多く無害である)
   ・照明…サーチライト等
   ・無線中継等…数種類の無線を中継して、電話寸断などに対応することが可能。
   ・化学検知等…各国で危機管理のために研究中。
②戦闘ヘリは、戦闘だけに使用されるのではない。
 →観察能力が非常に高く、阪神淡路大震災時に状況確認のため使用された事例がある。
■「阪神淡路大震災ヘリコプター運用の教訓と課題」 
 1. 初動対処及び救援活動の概要
  ・被災後最初の2週間によくヘリを使用した。→車が使えないので空から物資を空輸。
  ・夜間偵察の重要性。
 →救助活動の状況を映像として伝え、皆に安心感を与える。パニック防止に役立つ。
  ・負傷者・患者の搬送には消防・病院との連携が不可欠である。
 →担架の大きさに規格がない。消防や自衛隊用等でまちまちであった(標準化が必要)。
  ・訓練を行った場所でないとヘリの着陸は困難(特に夜間では)。→日常訓練の必要性
  ・救援活動には地域の方々の理解と協力が不可避。
 →被災地のみならず、拠点空港周辺住民の協力(長時間の離発着に対する理解など)も必要。
  ・救助ポイントが避難所になっている場合が多い。
   その地域の人は別の避難所に行く必要があるので、
   事前に住民の理解と協力が必要。 
2. 主な訓練と改善への提言
  ・健常者の避難場所とけが人の避難場所とを区別する必要がある。
  →各自治体単位で避難所を決めているので総括的に決定する必要がある。
  ・空中消火の検討→空中消火による初期消火の研究が進み、今後は使用されると思われる。
  ・各機関(消防、警察、自衛隊等)の相互協力が必要
  →無線の周波数等を始め、情報交換手段として統一されたデジタルネットワークが必要
  ・ヘリが大型化しており、建物のヘリポートもそれに対応する必要がある。
  →災害時に拠点的に使用する建物(特に病院等)では、
    防災面から今後10tクラスのヘリが離着陸可能であるヘリポートが必要。
  ・米国カリフォルニア州のOESからの参考事項
  →先ずは自助努力から始まり、共助、公助へと必要に応じて対応を移行する(指令系統が明確)。
  →実際の大災害を想定した訓練が実施されている。

<質疑事項>
・救助ポイントとなる場所は、具体的に計画する場合どのくらいの数を考えておけばよいのか。
 →西宮の例では、長さ30km幅10km程の地域で20カ所くらいの救助ポイントがあった。
  救助ポイントは数も大切であるが、ゾーニングを行い、どの場所をどのように使うかを考えることが大切である。高校のグランド等の大きさでは指定することが可能である。東京では多摩川に逃げる人が多いと推測されるが、ヘリが河川敷のどこに降りるか事前に指定しておくことも大切。
  緊急の救助ポイントとして、ICの中央の空地や高速道路等の今あるインフラに少々手をくわえて有用な着陸ポイントにすることも検討する必要がある。

・日本では、非常事態宣言を発令しても権限が不明瞭とのことであるが、民意の問題か。
 →法的な問題と考える。法制度の整備が必要で、危機管理の根本は何かに着目し、法体系に反映すべきである。

・自衛隊は、元々組織的である。もっと主体的に活動できないか?
 →1つの例であるが、自衛隊の医者の派遣を検討したが、医師会との問題、隊員の治療のみに限る等の法律に抵触してしまうといったことがある。

・今、大きな災害が発生した場合、阪神淡路大震災と同様のジレンマが発生するのか。
 →是正する方向ではあるが、同じことが起こる可能性は大きい。

・八尾空港、大阪空港が防災拠点としていつの段階で設定されたのか。
 →当時、防災拠点を示した満足いく資料がなかった。王子陸上競技場などは、当初活動拠点として設定されてなかったが、探して防災拠点とした。

・実際的な計画となっていなかったのか。
 →防災計画は、共通的な形で作成されていることが殆どである。災害によって対応は違うはずで、ましてや大災害ともなるといろいろな種類の災害がまとめて発生する。周辺地域との連携を含めた総合的な防災計画を計画する必要がある。現在、原子力災害においては、総合的な計画を実施する試みがある。

・広域的に考えて、ヘリポートの配置はどれくらい必要なのか。
 →小口の物資輸送に対応するヘリポートは2平方キロくらいに1カ所くらい。
  先の震災で実際使用した箇所をグルーピングしてみる必要がある。

・大阪空港は通常運行していたのか。
 →経済的な面からも通常運行を維持する必要がある。本来は国際空港を防災拠点にしてはいけないが、当時の伊丹空港では、たまたま旧国際線のスペースが利用できた。救助は一部の施設をつかって全力でやることが大切。自衛隊の基地等が理想的である。

・固定翼も八尾空港に降りたのか。
 →伊丹に降りた。

・関東での状況はどうか。
 →関東では空港が多い。従って羽田や成田は通常運行を維持することが可能である。

・神戸空港は災害時に使う構想があるが有効的であるか。
 →コミュータ的な空港であれば有効だと考えられる。海から隣接可能であることも1つのメリット。

・大規模空港からの次の活動拠点として、自衛隊ならば空母を使えないか。
 →空母は保有していないが、それに似た船舶を使用することは十分可能で効果的であると考えられる。

第17回 都市防災研究会 議事録

日 時:2004年11月17日(水) 18:00~21:00
場 所:(財)日本建築総合試験所大阪事務所 4F会議室
参加者:計14名(記:土橋)
題 目:「住環境と住民意識から見た防災コミュニティの現状と課題」
発表者:崔 氏(神戸大学自然科学研究科)

<議事内容>
□「住環境と住民意識から見た防災コミュニティの現状と課題」と題して、神戸大学自然科学研究科 崔氏にご発表いただいた。
 1)地域レベルの自主防災能力について
   阪神・淡路大震災では、地域コミュニティの対応差が見られた。→何故差が生じたのか?
 2)コミュニティと防災との関係
  ・都市災害の基本的な対応:先ずは自宅で被害を最小限に食い止める。
・大震災における住民の対応:日頃の住民交流が左右する。通常を基盤とした住民同士の共同的
かつ組織的な対応が被害の軽減につながる。
  ・現代都市の問題点:都市サービス(消防や警察等)への依存が大きい。匿名性重視の傾向。
 3)イギリスの国際開発相(DFID:Dept.of.Int'l Development )が提案した、SLF(Sustainable Livelihood Framework)のフレームワークを使用し、資産五角形の概念を防災に適用。
 4)神戸市の防災福祉コミュニティ
・日頃は福祉、災害時には防災活動。
・規模は小学校区単位(地域内の全自治組織が参加)。
5)防災福祉コミュニティのメンバーに活動状況や意識調査についてアンケート調査を実施。
 ・特性を区分けし、コミュニティの内部評価を実施。
  ・意識調査は二元比較による。→人的資産、社会資産、財政資産、物的資産、自然資産について
  ・優先度の結果が各地区によって異なる。
 6)今後の検討 
  ・各地区の資産五角形から、特性と防災ニーズを把握。
  ・地域のコミュニティ活動が、住民の意識の中ではどのような位置づけか。
  ・評価方法の有用性(防災コミュニティとして)
  ・良いコミュニティを達成するために必要なものは何か。

<検討事項>
 ・コミュニティのメンバー定義について。→ 地域住民が自動的にメンバーとなる。
 ・神戸市では、昼間は地域外からの人々も多いと考えられるが、それらの人々はどのように勘案されているのか?
  → 今回の検証では、地域に住んでいる人のみを対象としている。

 ・アンケート調査から評価しているが、客観的な指標から評価できないかについても検討した方が良い。県の指標等を利用することができないか(人口に対して病院の数がどうか等)。
 ・防災福祉コミュニティの規模としては、田舎の集落を都市の中に持ち込んだイメージか?
  都市では、人は住んでいるが密着性が希薄なことが多いうえ、住んでいるところと仕事場が別なケースが多い。都市におけるコミュニティの形を検討すべきである。
 ・行政との関わり方で、地域差が生じているのか?
→ 防災訓練等では、消防署員が参加する。安全マップについては、行政よりサンプルマップが配布されているが、マップの作成内容については地域差があるようである。


<今後の予定と報告事項>
□報告事項
 ・「阪神・淡路大震災10周年事業(第2回)シンポジウム」が来年3月頃開催される予定
本研究会からもテーマを2題提出する。一般市民の方々も参加されるので、ビジュアル的な表現が望ましい。
□研究会のあり方
 ・研究会から社会へ向けて何か情報を発信することができないか。
  以下のような3種類のテーマを柱として考え、1つのテーマについて3回ほど連続して討論してみてはどうか(学識者、行政、民間それぞれの立場をそれぞれ利用)。
    ①住宅等の耐震補強の促進について
    ②地域コミュニティにおける防災力について
    ③防災を考慮したまちづくりの推進(行政上の問題にもスポットを当てる)
 
<次回日程>
□小林氏(京大防災研)に「災害時のヘリコプター運用(仮称)」についてご発表いただく予定。
□日時は未定


第18回 都市防災研究会 議事録


日時:2004年12月22日(水)18:00~21:00

場所:(財)日本建築総合試験大阪事務所 4F会議室

参加者:計13名(記:志垣)

題目:「新潟県中越地震におけるヘリコプター運用状況の調査報告」

発表者:小林啓二さん 京都大学大学院工学研究科(宇宙航空研究開発機構)


<議事内容>

1)新潟中越地震の特徴

・夜間(17:56)に災害発生、道路寸断による孤立集落の発生、阪神・淡路大震災との比較

2)災害発生初期の対応(10/23~10/24)、ヘリ運航支援体制について

・新潟中越地震の発生時刻はヘリを格納庫にしまう前であった。→暖気運転が不要だったために即応できた可能性がある。

・新潟県を管轄する第12旅団は大型ヘリを所有しているため、早期の救助人員輸送が可能であった。

3)ヘリによる救援活動紹介

・消防・防災ヘリ、海上保安庁ヘリ、報道ヘリ、自衛隊ヘリの活動内容紹介

・FLIR(赤外線監視装置)、NVG(光量増幅装置)の紹介

・FLIRはVHSテープ記録のため地上では機体帰投後しか情報を入手できず、夜間情報をリアルタイムで共有できなかった。⇒夜間情報を得るには課題あり

・ダム対応とその経路対応について

・新潟中越地震では中・大型ヘリが絶えず15機ほど活動。阪神・淡路大震災と比較して早い段階で自衛隊が活動開始。天候による活動制限の問題。

・各ヘリ任務内容

小型ヘリ・・・情報収集が5割

中型ヘリ・・・FLIR、人員輸送、政府要員の輸送

大型ヘリ・・・人員、物資輸送

4)阪神・淡路大震災からの改善点

・自衛隊、米軍という社会資源の認識が向上、自主派遣の法制度化、機内装備品の充実化、情報提供の実施


○議論

以下について、議論がなされた。

①小千谷市信濃川河川敷(ヘリポート)と新潟空港との役割分担は?

⇒空港で輸送機からヘリへ物資を仕分け、各施設(河川敷もその一部)へ運ぶ、

②援助物資はどこから調達し、どこに何をどれくらい運ぶのか

⇒自治体からの要請→自衛隊の出動

⇒毛布等(各自治体所有)を航空自衛隊の基地(小牧・入間など)に集める

⇒自治体の相互協定で物資を備蓄しているが、それらをいかに効率よく分配するかが問題

③ヘリの運用の違いや自衛隊の活躍等の結果被害の最小化が実現したのか?

⇒自衛隊の自主派遣が容易になったことが今回の被害軽減に影響している。

④情報の収集について

⇒情報の流れ=自衛隊→防衛庁→内閣府と思われる(未確認)

FLIRのVHS作業=宇都宮→新潟→相馬原(多大な時間の必要性)と思われる(未確認)

情報把握するのに必ずしも動画が必要ないのでは?

⑤航空管制

小千谷アドバイザリ(上空情報収集)→国交省より管制権限与えられず

⑥夜間偵察について

⇒FLIRはリアルタイムで情報を地上に送れない。情報のリアルタイム性の確保が必要

⑦ヘリの運航調整リストに関して

⇒管理体制の是非、システマティックな対応は現段階では厳しい


その他

<次回日程> 2005年2月2日(水)18:00~

       2005年3月3日(木)18:15~

第19回 都市防災研究会 議事録

日時:2005年2月2日(水)18:15~
場所:(財)日本建築総合試験大阪事務所 4F会議室
参加者:計17名
記録:幾代
題目:地域における防災まちづくりの取り組み
①都市再生モデル調査「自主防災から始める緊急対応型防災まちづくり」
    ②平野郷における防災の取り組み

■ 自主防災から始める緊急対応型防災まちづくりについての報告
発表者:入江健二さん、小泉真一郎さん(大阪府)
1) 自主防災から始める緊急対応型防災まちづくりの活動内容
・ 「全国都市再生モデル調査」として、国の都市再生本部により平成16年に決定。
・ 権利関係や行政の財政事情等によりハード面の対策は中長期的なものとなってしまうため、整備の緊急性の高い地区においては地域住民の自助・共助による取り組みが必要。ソフト事業を促すにあたっては、住民が地域の課題を把握することが前提となる。
⇒防災まちづくり支援システムの活用
(長所:現在の地区の防災上の課題の抽出や整備計画が実施された場合の効果の検証をビジュアルに分かりやすく行うことができる。)
⇒最終的には住民のハード整備に対する理解を高め、権利関係等の問題点を解消するツールとなることを期待。
・ 支援システムの概要:基礎データ(建物階数、構造、建築年次、道路幅員、消防水利)
            結果(延焼シミュレーション、アクティビティシミュレーション)
            条件:アクティビティ①震度6強(上町断層系)
                      ②震度5強(東南海、南海地震)
               延焼①観測データ②強風時(関東大震災程度)
2)調査モデル地区における活動
  ①堺市野田地区:狭い路地が多く、地震時の避難上の課題が大きい。
          シミュレーション結果からは、東西南北にわたる府道からの距離が遠いアンコ部分の到達困難性が高くなっている。
          消防水利が比較的多く存在するが、道路の閉塞により結局は消防活動困難区域が拡がっている。
  ②寝屋川市池田旭町地区:密集市街地整備が停滞気味で老朽木造住宅や袋小路が多い。
              シミュレーション結果からは、地区中央より南側の一時避難困難確率が高い。
              今後、寝屋川市では主要生活道路の整備と古川の消防水利としての活用を計画。
〈議論〉
① 大阪府がもっているGISデータをそのまま活用できるのか?
⇒GISとしてはジオコンセプトに限定され、また道路や建築年次等の再入力が必要。費用もかかる。また活用はライセンスを持っている自治体に限られる。
② 全国的な展開は?
⇒東京都においてシステムの開発段階でデモンストレーション的に用いたが、実際のまちづくりの面での活用としては全国で大阪府がはじめて。他の自治体では地域から行政への要望が強まる懸念から活用に消極的である。現段階では実施地区の住民はシミュレーション結果を自分たちのまちに対する評価として客観的に受けとめているように見える。
③ 不燃領域率、消防活動困難区域を示すと、リスクが高い場所の地価がさがるなどの問題が生じないか?
⇒パワーポイント上は情報を住民に掲示しているが、個人的問題点がわかるものについては配布資料の中には含めていない。街区全体としての問題という意識。
④ 防災まちづくり支援システムの活用は自主防災に限られるのか?
⇒ハード対策に繫げる予定。池田旭町では主要生活道路の整備が計画されていることから、その効果を示す方針。野田地区では具体的な整備計画が無いことから、建替え時のセットバックや耐震補強等、住民の自助、共助によるハード整備の効果を示す。密集市街地の整備事業と関連づけて活用することが望まれる。また費用対効果が分かる。
  ⇒寝屋川のケースでは東西、南北に貫通する道路が無いが、どこをどのように改善(接続)すればよいかという指標になるのでは?ただし、それが平時のまちづくりにおいてどれほど可能かという問題がある。
⑤ 防災まちづくり支援システムを消防システムの検討のために活用した事例はないのか?
⇒現状では無い。
⇒阪神淡路大震災時の燃えどまり事例を参考にして、延焼シミュレーションを消防作戦に活 
 用できるのではないか?
⇒道路だけでの対策では何十mへの拡幅が必要となり、密集市街地においては現実的では無
 い。(基本的な沿道拡幅は6.7mでこれは比較的進んでいる。沿道拡幅と同時に不燃化が必要。今回は対策案として、アクティビティシミュレーションを中心に効果を示す。
⑥ 今後この活動をどのようにして継続していくか?
⇒地元自治会を中心に自主防災活動がひろがることを期待。
⇒ワークショップに参加していない人などをどのようにして取り込んでいくかが課題。
⑦ 1つ1つの問題への個別的な事業対応では限界があるのではないか?景観や福祉などを含めた総合的な対応が必要ではないか。
⇒日常のまちづくりテーマとドッキングさせることが防災活動の継続につながる。平時のアメニティが充実していれば、災害時にも役立つ。
⇒野田地区では良好なアメニティが残っており、今後のワークショップでは緑を含めた整備計画を住民に示す予定である。

■ 平野郷における防災の取り組みについての報告
発表者:増田昌彦さん(大阪府)
1) 平野郷地区の特徴
・ 古くから環濠集落(約80ha、13ヶ所)として発展。堺に並ぶ自治都市であった。地区内には大阪で最大の木造建築物の大念仏寺がある。
・ 1980年代から平野まちづくりを考える会を中心に、歴史・文化という観点からのまちづくり活動が行われてきた。(平野町ぐるみ博物館etc)
・ 大阪市では、平野郷地区を対象にHOPEゾーン事業まちなみ修景補助事業を、平成12年6月から行なっている。「まちなみガイドライン」に沿った建物等の修景工事に対し費用の一部補助を受けることができる。
2)防災まちづくりの取り組み
  ・ 当該地区が大阪市の防災性向上重点地区に定められており、既存のまちづくり活動の中に防災を組み込む必要があるのではないか。(活動の発端)逆に、防災だけのまちづくりでは継続が難しい。現状のHOPEゾーン事業では対象を修景事業に限定している。防災を組み込むことで結局は歴史的な街並みが継承されていくのではないか。
・ 文化講座、町屋の補強、防火訓練
・ 平野万能防災マニュアルの作成(1枚に分かりやすくまとめる、行政が配布したマニュアルは結局見ないことが多い。)
・ 西脇口広場計画のためのワークショップの開催
3)活動を通して、今後の課題
  ・ 身近な防災訓練の定期的な実施、地域の資産の活用、小さなハードの整備
・ 防災まちづくりを進めるためには「考える会」のような民意の団体の存在が必要ではあるがそれだけでは不十分で、町会等の行政との接点のある組織を含めた協力体制が必要ではないか。
・ 市民による防災まちづくりを進めていく上では、支援・協力するコーディネーターが必要。多くの地域でこのような活動を広めていくためには、コーディネーターの育成、ネットワーク化が重要になる。
〈議論〉
① 活動メンバーはどのような方が多いのか?
⇒地区内の神社、寺の関係、商売関係、平日昼間の活動でも60名ほどが参加
② 周辺地区にはマンションが多く建設されているが、マンション住民ともとからの住民がどのような関係を維持していくか?
③ 観光地化を目的とした景観整備ではないのか?
⇒そのような感じではない。参加者自身が楽しんでいる様子。
④ 防災性向上重点地区に指定されているとのことだが実際にそれほど危険なのか?
⇒地区を抽出する上での問題点もあるのではないか。延焼火災の危険性は木造の建築物の割合が、避難の困難性は道路幅員が、建物倒壊の可能性は建築年代がそれぞれマイナス要素として評価されるので、伝統的な街はそれだけで危険な地区として認定されやすい。
⇒伝統的な街並みにみられる建物の配置や水利等を評価する指標が必要になってくる

その他
〈次回以降日程〉2005年3月3日(木)18:15~ 報告:京都大学大学院 樋本圭祐さん
        2005年4月15日(金)18:15~
第20回 都市防災研究会 議事録

日時:2005年3月3日(木)18:15~
場所:(財)日本建築総合試験所大阪事務所4F会議室
参加者:13名
記録:大浦
資料:都市火災の物理的延焼性状予測モデルの開発

 都市火災の物理的延焼性状予測モデルの開発
報告:京都大学院生 樋本圭佑さん

1. 火災安全対策と延焼性状予測の手法
 延焼対策の選択肢としては、
 消火による方法
 建物の難燃化による方法
 火災の区画化による方法
が挙げられるが、火災安全対策を講じるにはこれらの手法の効果を定量的に予測することが必要となる。
 既往の経験的知見に基づくモデル
 浜田式に代表される延焼速度式をその基盤としている。
 都市火災は低頻度の災害であり、信頼性を確保できるか。
 伝統的景観の保全地区に適用するのは難しい。
 物理的知見に基づくモデル
 建築火災安全工学の知見を活用している。
 経験的なパラメータへの依存度が低い。
 火災安全対策の効果を定量的に評価可能。
 本モデルは1)建物内部の火災性状予測モデル、2)建物間の火災拡大性状予測モデル、を統合したものである。
2. 建物内部の火災性状予測モデル
 従来のゾーンモデルに1)酸素流入速度に基づく可燃物の燃焼モデル、2)扉や壁などの区画境界部材の燃えぬけモデル、を組み込んだもの
 1)について、従来は、
 質量燃焼速度が入射熱流速に比例するモデル→煩雑である
 換気因子によるモデル化→限定的である
などの問題があったが、新しいモデルでは火災室の酸素流入速度でモデル化することで解決している
 2)について、限界累積受熱量を燃えぬけ時間、つまり性能担保時間に読みかえている。
3. 建物間の火災性状予測モデル
 1)火源からの輻射熱伝達、2)熱気流による温度上昇、3)火の粉の飛散による着火、をモデル化している。
4. 実大火災実験を用いての検証
 各室の火災開始時間については、開口部材の燃えぬけ時間を調整することで計算結果が概ね一致し、建物単体火災における妥当性が確認できる。
5. 酒田市大火(1976)の検証
 隣棟間隔から開口面積を推定。
 飛び火は観測結果から与える。
 その結果、酒田市大火に適用した場合、実際に比べ火災前線の移動が速く、延焼速度を大きく見積もっていることがわかる。
 これは、1)降雨や消防力を考慮していない、2)建物構造の類型化により燃焼特性を単純化、3)開口面積・検査体積の設定方法、4)飛び火による延焼発生の限定、などが原因と考えられる。
6. 高山市三町伝建地区の火災リスク評価
 都市計画的対策が困難な地区である。
 防災性能の高い建物への立替は困難。
 1)防火性能の高い開口部材への取替、2)土壁への塗り替え、など部分的な補修を行う手法が考えられる。
 効果の対策を定量的に比較したい。
 火災リスク評価の定義
 火災リスクを損失の発生確率と損失の積によって表す。
 損失の規模を左右する不確定要因(出火条件、気象条件、建物条件)は経験的に決定する。
 その結果、部材の補強を行った場合の火災リスクが軒並み低減されており、対策の効果が確認できる。

<質疑>
 建物間の延焼に三つのルートを挙げているが、他の二つに比べ飛び火の影響は小さいのではないか。
 函館大火では火の粉が原因で延焼速度が速くなっており、そんなに小さくないのではないかと考えている。
 現在、都市火災が起こるのは地震時ぐらいと考えられるが、部材の破損による燃えぬけ時間の変化をどう考えるか。
 今回のモデルでは地震時は想定していないが、燃えぬけ時間や開口率を変えることでモデル化できるのではないか。地震による建物の被害の程度はモデル化されているが、被害の程度の異なる建物が混在する場合の延焼のモデル化は難しいと考えられる。
 飛び火による着火を決定論的に与えられないか。
 高山の場合、飛び火による着火の確率にかかる係数は経験的な値としており、対象地域の建物構造や人的な要因に依存している。
 燃えぬけの形は木材だと燃え尽き、コンクリートだと亀裂が入る程度と材料に依存するのではないか。
 今は10%を最高にすべての材料について一定としている。将来的には材料を反映してデータを入力することが必要。
 コンクリートの場合、燃えぬけないが裏面温度が上がって着火することは考慮しているのか。
 区画内の温度が上がって着火することは考えているのか。
 今は延焼が始まる発生条件として、火元からの輻射熱伝達、熱気流による温度上昇、火の粉の飛び火による着火の三つのみを考えている。
 火災と人間の関係について、人間の消火力の大きさを含めて人的要因の効果を考えてはどうか。
 火災建物からの輻射熱伝達について火災気流を点熱源と考えているのならば、斜めに入射するときに単位面積あたりの熱伝達を過大に評価してしまい、それが酒田市大火の検証での延焼拡大性状の大きさの原因なのではないか。
 今は熱気流を点ではなく面で考えており相対する壁と壁の形態係数で考えるモデルとしている。
 熱源を面と考え、さらに傾きを考えた方が延焼を扱いやすいのではないか。
 延焼シミュレーションのときの境界条件はどのようになっているのか。
 計算の区画の端では最大の大きさの開口を考えている。
 開口があいて飛び火が起こることもあるので、飛び火の計算で窓ガラスが割れた情報を入れてはどうか。
 伝建地区の再生可能な被害の最大はどの程度なのだろうか。
 延焼の拡大はどのように終わるのか。
 同時間に燃えている建物数が少なくなって、燃えていない地区への加熱量が少なくなる。
 伝建地区の防火対策としてファサードの保存は重要であるので、建物間に小境を造りそこで燃え止まるという手法を考えてはどうか。
 木造都市の中の中層建物は延焼にかかる二階分ほどを延焼計算の対象とすれば計算の容量が増えるのではないか。
 個々の建物について、熱気流の流れや温度を表示できるようにしてはどうか。
 木造都市だけでなく高層ビルなども含めて危険性や耐火性の評価をしてはどうか。また、開口が大きいと噴出火炎にについて不利だが最近の建物では開口の大きい建物が多い。開口の大きさについても指針を示してみてはどうか。
 噴出気流の付着するとき、しないときで気流軸の温度は違うのか。
 実験結果を比較すると概ね変わらないため、今は同じにしている。付着するかしないかは最大離隔点の距離による。
 高山での火災安全対策の評価については全体の防火性能を上げているが、さまざまなバリエーションを考えてはどうか。
 前回の大阪府のシミュレーションとはどのような点で異なるのか。
 前回の大阪府のシミュレーションは燃え方を類型化している経験的なモデルである。本モデルは物理的なモデルであり、部分的な改修の評価も可能である。
 地面の高低差は考慮しているのか。
 今回計算した範囲では土地の高低差は考えていないが、それぞれの点について三次元で座標を与えており高低差のある土地でも計算はできる。

<その他>
次回日程:2005年4月15日(金)18:15~ 日本建築総合試験所大阪事務所4F会議室