古 澤 良 彰  (ふるさわ よしあき)  さん
古澤良彰さん
1935年 長野県南木曽町生まれ/新潟大学教育学部卒業/上越教育大学非常勤講師/「建築と子供たちネットワーク上越」代表/NPO 法人「エコトピア上越」理事長/ NPO法人「エコネット上越」/環境庁環境カウンセラー/市環境基本条例検討委員



−古澤さんが初めにこの「建築と子供たち」の活動に関わるようになったきっかけをお聞かせください。

  • 1992年春、米国・シアトル(Washington州、Seattle市)のワシントン大学を中心にして開かれた「建築と子供たち」日米セミナーへの参加がきっかけです。日本からは稲葉武司さんを団長に小・中・高・大学の教師、学生、建築士、行政関係者の33名参加。ワシントン市の「建築と子供たち」協会(ACI)Anne Taylor博士はじめスタッフの友好的で適切な企画と「A&C」プログラムの総合性及び体験的学習は、教科毎に分断されがちな日本の閉鎖的な教育を見直すきっかけとなり、当時公立小学校勤務の私にとっては衝撃的な研修となりました。

−これまでの上越での活動のあらましをお教えください。

  • 1992年度より上越市立大和小学校4年生対象に週1時間の課外総合学習として「A&C」プログラムを企画実施。
  • 1992年7月:ACIスタッフを招き、東京、仙台、新潟「A&C」セミナー開催。
  • 1993年:「A&C」国際サミット(ニューメキシコ州アルバカーキ−、サンタフェ)に建築士・高校教師とともに参加。
  • 1994年8月:ワシントン大学を中心にして開かれた「建築と子供たち」日米セミナー研修会参加。(上越市から小・中・高・大学教師、大学院生、建築士等参加)
  • 1994年:上越市立大和小学校にて授業研究会を実施。「建築と子供たちネットワーク上越」設立。 研修会(講師 稲葉先生による講演会と大和小学校研究発表会)実施。「建築と子供たち」日米セミナーの報告書及び「建築と子供たち」プログラムの教育的意義について冊子にまとめる。
  • 1995年 ニューメキシコ州での「建築と子供たち」日米セミナー参加。1995年より「親と子の建築教室」実施(主にタウンウォッチング、木工教室等)
  • 1996年:日本産業教育学会において、技術教育の基礎としての「建築と子供たち」プログラムの有効性について研究実践報告。中学校技術・家庭科教育関東甲信越大会(上越市中心会場)の研究過程において、特に住居領域における総合的な問題解決能力の育成方法として「建築と子供たち」プログラムの手法をとりいれた。
  • 1997年:日本環境学会において自然環境保全の学習とともに人工環境の学習の必要性と上越における実践報告。(古澤)上越市立大和小学校のクラブ活動の学習に、建築士の外部講師による「建築と子供たち」のプログラム(大和小プラン)を実施した。

−ネットワークのメンバーにはどのような方がいらっしゃるのですか。

  • 建築士・小学校教員・高校教員・大学の研究者・市民団体役員等です。今後、学校の総合科学習にあわせ教員の理解と参加を伸ばしたいです。

−上越市大和小学校校長でいらっしゃる時、「いま、学校からの環境教育」をおまとめになられたと聞きます。学校教育において、環境教育としての「建築と子供たち」の活動を取り入れるポイントは何でしょうか。

  • 新潟県の学校教育における環境教育の実践としては先駆的実施でありましたが、その必要性と取り入れるポイントを挙げます。
  • 一つは日本の環境教育が自然環境に偏っていたりゴミ問題に終始していたりする現状を改善し、子供の生活基盤である身近な環境(殆どが人工環境)の学習から始めました。このことは、環境教育上有効でした。具体的な事例として、学校周辺の保全したい建物や環境、改善したい環境などをインスタントカメラやデジタルカメラに収めながら、学習課題や問題点を自主的に探らせました。また、ビニールハウスの建設などに「建築と子供たち」プログラムによる表現の基礎構造の学習などが大きく生かされました。(マスクメロンなどの栽培)
  • 二つ目は自分の考えを共通の表現として図示できるように最低の訓練が必要であるということです。(想像力を働かせながら製図の力を付けさせるのは、視覚による言語リテラシーの力を養い、立体的な理解力を養う事ができる。)
  • 三つ目は、教師集団の理解の必要性と地域の保護者の理解や協力体制を整えることが大切であるということです。(休日に親子・教師自由参加の観察会を実施した。)

−環境教育としての可能性に加え、2002年度実施の新学習指導要領による「総合的な学習の時間」において、「建築と子供たち」の活動を取り入れていくことへの期待も高まっております。理科と技術・家庭科の教員として長年教職についておられたそうですが、学校教育に携わっておられた立場から、その可能性についてお考えをお聞かせください。

  • 総合的な学習の時間」の学習の対象や教材、その支援活動に、地域の教育的資源(自然・街・施設・人材など)を生かすことは、子供の生活に密着していたり、身体を通した実践的学習が企画できたりして、教育効果を高めることができます。一人一人がデザイナーであり、学習の主人公なのです。また、未来の街づくりなどは個の学習にプラスして供働・協力してプロジェクト活動の基礎を学ぶことができます。建築学は科学と技術と芸術とさらに人間の身体や生活、社会の現状や文化なども含むまさに総合的な学習そのものです。子供の生活や実態に即して具体的に総合的な問題解決能力を養う上で、「建築と子供たち」プログラムはまさにうってつけの学習活動ともいえます。教師が「建築と子供たち」プログラムを研究する場が必要です。

−今後の「建築と子供たちネットワーク上越」の活動の展望をお聞かせください。

  • 会員確保と拡充が必要です。特に若い教師、建築士、女性建築士の参加を勧めていきたいと思います。さらに教師の「建築と子供たち」プログラム研究・研修が必要であることから、教師のための「建築と子供たち」プログラム学習会をもちたいと思っております。

−最後にこのホームページを見ている方にメッセージをお願いいたします。

  • 「建築と子供」の活動は、身近な素材を用いながらも、豊かな子供の創造性や個性を導き出す学習プログラムを持っています。子供の秘めた能力を新たな指導法により引き出すことが可能です。外国の子供から、「自分がいて人が喜んでくれる。そんな自分を育てるために私は学習する。人は社会のためになってはじめて自分の存在が実感できるから。」「今日の学習課題は、市民として私が何ができるかプログラムする事です。」と伺ったとき、今の日本の教育の個性尊重、「自分のために勉強する」は基本的に改めていかなければと思いました。
  • 21世紀に生きる子供たちに私達は何を贈ることができるでしょうか。 環境問題という大きな負債はどうすればいいのでしょう。きれいな空気、安全でおいしい水や食料、豊かな緑、たしかなエコシティの中に人も小鳥も生きていてくれるのでしょうか。自然環境と人工環境がうまくマッチし、アメニティな空間が生まれているのではないでしょうか。そして人々の心の環境は豊かに育っているのでしょうか。社会は持続可能な状態で循環しているのでしょうか。大人が子供と学び、実践に移すところから解決の糸口を見つけようではありませんか。

−ありがとうございました。



インタビュアーより

古澤さんのお手紙をまとめていると、いかに古澤さんが行動的な方であるか改めて実感いたしました。環境教育の先駆的な立場で、日々お忙しい中、原稿をまとめてくださり本当にありがとうございました。一番「学校教育」に近い古澤さんの活動は、学校現場で、「総合的な学習」の実践に意欲的な教師への大きなヒントとなりそうです。
(インタビュアー:本多和恵、2000年10月、お手紙によるインタビューより)



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