小 澤 紀 美 子  (こざわ きみこ)  さん
小澤紀美子さん
1943年 北海道生まれ/北海道大学卒業・東京大学大学院修了/(株)日立製作所システム開発研究所研究員、東京学芸大学助教授を経て1993年より東京学芸大学教授/東京学芸大学附属教育実践総合センター長/著書に「豊かな住生活を考える−住居学」「まちは子どものワンダーらんど(共著)」ほか多数/日本建築学会「子どもと高齢者に向けた学会行動計画推進特別委員会」委員、元文部省中央教育審議会委員(第15.16期)、環境庁中央環境審議会環境教育小委員会委員長、日本建築学会理事



−小澤さんが早くから「環境教育」に取り組まれたきっかけは何でしょうか?

  • 大学で家庭科教育学科に所属し、住居や住環境について講義を担当することになりました。住環境の調査の一環でイギリスに行った時、都市・建築などの人工的な環境についてストリートワークという手法で環境教育が行われていることを知りました。
  • このストリートワークというのは、最近は日本でもいろいろなところで行われるようになった「まちウォッチング」です。イギリスでは1980年代に既に子どもが主体的に学習活動に参加するという参加型学習のプロジェクトが教育界と建築や都市計画の専門を持ったNGOとで進められておりました。日本では建築界でも教育界でも、そういうことに関心を持っている人はごく限られていましたから、都市計画学会などに研究成果を発表していました。

−これまでに小澤さんが行われてきた「環境学習」のあらましを教えてください。

  • 私が教えている学芸大学の学生は将来学校の先生になる人が多いですから、まず将来の先生である学生を対象に、総合学習としての「環境教育」を教えました。初めのうちは正式なカリキュラムとして認められなかったので、10年程大学に科目実施を申請し、認めてもらいながらボランティアで教えていました。今ではこの科目は専攻に関係なく必修科目になっています。少し時代を先取りしすぎたのでしょう。
  • 最近では大学での講義の他に、現職教員を対象にした「環境教育」の講習ですとか、子どもや一般の大人たちまで巻き込んだワークショップなども行っています。また環境教育は「まちづくり学習」と言い換えてもいいのですが、総合的な参加型学習でもあるので、2002年から始まる(現在は移行期間として実際には進められている)「総合的な学習の時間」の一つとして学校に環境教育を取り入れるように働きかけています。

−総合学習として「環境教育」を行うことの良い点はどのようなところでしょうか?

  • 「環境学習」の実践には様々な要素が含まれています。学校の教科に例えていうと理科・社会・家庭科・国語・地理・美術などでしょうか。
  • また、身近な自分たちの環境とかかわりあう(活動)ことで、子どもたち自身にいろいろな「気づき」を与えることが可能です。「気づき」によって学習に対する関心を持たせ、子どもたちが自ら調べ、考え、そして教師の学習支援によってそれらを深めていけば、子どもたちに意欲や考える力、理解力さらに分析・批判力が育っていきます。そしてこのような学習を繰り返していくことによって子どもたちも教師も変わっていくことが教育実践なのです。

−学校教育の中で「環境教育」を取り入れていくことは可能ですか?

  • もちろん可能です。ただ、それぞれの学校にはいろいろな違いがありますから、地域やその学校の子どもたちの特色を見ながら行う必要があると思います。全国一律ではあまり意味がありません。
  • また、指導する先生の方にも、環境学習に対するこだわりが必要だと思います。自分たちの学校では何を取り上げるのか、まずはそこから子どもたちと一緒に作り上げていって欲しいと思います。教師と子どもたちが一緒になって学習を組み立てていくのが参加型学習ですが、私はこれを「共創(きょうそう)」と呼んでいます。
  • 教師がこだわりを持って一生懸命やっていると、それは必ず子どもたちにも伝わって、目がきらきらしてきます。これは小学生でも大学生でも同じですね。子どもが変わることは地域の大人たちにも影響を与えますから、その地域も変わっていきます。そしてそのことがまた学校での子どもの学びに反映されるのです。

−これから総合学習として学校教育に「環境教育」を取り入れていくためのポイントは何でしょうか?

  • 地域と学校、教師と専門家、などの間を繋ぐものが必要だと思います。それは人材かもしれませんし、新しく総合的なカリキュラムをデザインすることかもしれません。
  • それから具体的な教材をもっともっと増やしていく必要もあります。現在のところ、実践している学校が少ないですから、教材も豊富とは言えません。それぞれの学校で、先生方が工夫に工夫を凝らして、手作りで進めている部分もあります。

−これから「環境教育」を広めていくにあたっての展望をお聞かせください。

  • 子どもたちは「教科書」で学んでいる訳ではありませんし、教師も「教科書」を教えている訳でもありません。そこには子どもたちと教師との活き活きとした教育実践があるのです。本物・実物を見ることはとても良い学習になります。「環境教育」のハードの部分では建築家の皆さんに「いいもの」「子どもたちにとって意味のある空間」を作っていって欲しいですね。
  • また、ソフトの部分では、いろいろな人が参加することによってより良いものが生み出されるという参加型学習のメリットを大事に育てていって欲しいと思います。
  • 身の回りの「環境」の中には、いろいろなところにいろいろなヒントが隠されています。それらを見つけ出せるようになることが「生きる力」を育むということだと思います。

−最後にこのホームページを見ている方にメッセージをお願いいたします。

  • 学校で「環境教育」の実践をされている先生方にとっての、良い情報交換の場になることを望んでいます。

−ありがとうございました。



インタビュアーより

小澤さんは環境教育のカリスマ的存在であるにも関わらず、笑顔の優しいとても親しみやすい方で、それが学校の先生方の中に多くのファンがいるという理由の一つでもあるような気がしました。しかしそれよりももっとすごいのが、時代を読み取る鋭さです。日本の学校教育は20年かかってやっと小澤さんに追いついてきたというところでしょうか。総合学習カリキュラムのデザインについてもたくさん研究されているとのことですので、そちらについてもまたこのホームページの中でご紹介していきたいと思います。
(インタビュアー:田代久美、2000年7月14日、東京学芸大学小澤研究室にて)



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