及 部 克 人  (およべ かつひと)  さん
及部克人さん
1938年 東京都生まれ/東京芸術大学卒業/武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授/人と人との関係づくりから始めるデザインワークショップを大学や生涯学習施設や自主的な地域活動に展開中/主な活動に「遊べ子どもたち−冒険遊び場づくり1978〜1985」、「ATFアジア民衆演劇会議:松延・及部地図づくりワークショップ1983」、「震災サバイバル・キャンプ・イン1999」、「小さな夏休み+環境デザインA:大学から地域へ1990〜2002」ほか多数。



−及部さんのコミュニケーションワークショップ手法のなかでとりわけユニークな「擬似家族」とはどのような方法ですか。

  • ワークショップに参加した家族を再編成する方法です。つまり「ほんとの家族」を解体して、ワークショップのあいだの「擬似家族」という新たな関係をつくりだすのです。

−「擬似家族」をつくると、何が起こるのでしょうか。

  • まず、子どもが主体的な立場になります。「ほんとの家族」だと親が口や手を出してしまって子どもが受身になりやすいからね。最初は、自分の子が他人の親と真剣に対話をしていると親が"おいっ、和夫ーっ"などと呼びかけたりしています。自分の子どもとは思えない真剣な様子に不思議さを感じるのだろうと思います。だんだん慣れてきて親も子ものびのび動くようになりますよ。
  • "ぼく、ポチになるよ"と愛犬になりきる子どもが出てきたり、二人の子どもが隊長と副隊長になったり、ほんとうにいろんなハプニングがあっておもしろいですよ。
  • 「擬似家族」を演じることは、人を知ることだと思います。

−「擬似家族」は、いつごろからはじめられたのですか?

  • 1979年の世田谷ボランティア連絡協議会による『雑居まつり』との出会いがきっかけです。また、1983年のアジア民衆演劇会議での演劇ワークショップとの出会いも重要な契機となっています。
  • その後、体感する美術98「まちとアートのコミュニケーション」(1998)、親と子の都市と建築講座「段ボールランド"だるまさんがころんだ"」(1999)、茅ヶ崎造形ワークショップ「子どものまち・茅ヶ崎探検地図づくり」(2001)などでも「擬似家族」の方法を用いています。

−そのほかのワークショップのプログラムや基本的な考え方を教えてください。

  • すぐれたまちづくりは、個性的な建築や土木の積み重ねではなく、人と人との関係のあり方にこそ鍵があると言えますよね。
  • 誰かが始めるのではなく、私やあなたが小さなてがかりを見つけ出して仲間を誘いだすことから始めるのがよいのだと。
  • プログラムはいろいろあります。例えば、造形ワークショップ「風とあそぶ子どもたち」−県立茅ヶ崎里山公園まつり・関連企画では、大きな布に箒などで風を描いて、七枚の布をつなぎ、皆が大きな布で風となって吹きめぐるということをやりました。
  • 親と子の都市と建築講座「シティ・サファリ」では、新宿パークタワーを探検したあと、着ることのできる段ボールによる超高層ビルをつくり、最後にファッションショーをおこなって楽しみました。

−今後の活動の展望をお聞かせください。

  • 建築とのふれあいという点からいえば、世田谷の大村虔一夫妻と関わったということは、かなり重要な契機でした。かたちをつくるというより、子どもがまちをつくるとはどういうことかということかを考えるきっかけとなりましたね。
  • 世田谷の冒険遊び場に武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン、建築、幼児教育、福祉などを学ぶ人たちが協働したという経験は、人と人との関係づくりがデザインの最も重要なものだときづく契機になっているようです。
  • その後の展開としては、教え子たちがまちづくりセンターとか、岡山のプレイパークとか、集合住宅の建替えとか、横浜の女性フォーラムとか、さまざまな分野に出て行って活躍しています。いまの学生たちはインターンシップとして先輩たちのところへ行ってたくさんのことを学んでいます。ぼくがいちいち連れて回らなくても自主的にさまざまな経験を積んでいるようですよ。
  • そのほかにも、多摩川の河川敷でプレイパーク的な活動を行っている人もいるし、世田谷ボランティア協会でプレイパークの運営に携わっている人もいます。この人は、ボランティア界の有名人ですよ。

−最後にこのホームページを見ている方にメッセージをお願いいたします。

  • ものをつくるというよりも人との関係をつくるということが大切だと思いますよ。
  • 「誰でもできそうで、できないこと」、これを突き抜けていくには深い生活体験が求められるし、それから圧倒的な信頼関係を築いていくことが必要だよね。

−ありがとうございました。



及部さんのレクチャーを聞いた学生たちの感想

○佐藤将之
一言で表現すると、・・・自分に足りなかったこと・・・「楽しむ」ことが大切だと感じた。 参加する人々をいかに楽しませようかと模索していたが、自分たちでも楽しめることができかつ多様な可能性を秘めたプログラムを構成し、それを参加者と共感しながら様々なかたちを創造することを念頭におきながら今回の企画を楽しみたいです。

○中川匠
僕は今回のお話を伺う以前からオヨベ先生のワークショップ(以下WS)や講演会に何度か参加した事があります。 初めて参加したワークショップで子どもたちを楽しませればいいものだと思っていましたが、いざワークショップが始まると子ども以上に自分が子どもになっていないと、子どもも自分も楽しめない事がわかりました。子どものように振舞うのではなく、心身共に子どもになることが一番WSを楽しむことができます。今回のワークショップでも大人としての常識や遠慮などを取っ払って、誰よりも子どもになり、楽しみたいと思います。

○垣野義典
ワークショップは、事前に色々と考えていても、実際にやってみると、その通りには行かないことも多いと思います。講演会では、むしろワークショップ中におこる、偶然の出来事自体までも楽しんでしまう柔軟さが大切なのだ、ということを教えていただきました。基本は、ワークショップ企画側も一緒になって楽しむ、ということなんですね。


インタビュアーより

及部さんのレクチャーとインタビューは、あちらこちらに寄り道しながらエピソード満載のお話でした。そのエピソードひとつひとつが、とても生き生きとおもしろく、時間を忘れて引き込まれてしまいました。おそらく、ワークショップというものも、ある目的に向かって一直線に進むのではなく、あちらこちらに寄り道しながら発見することに醍醐味があるのかもしれません。これは、ワークショップだけでなく、研究や仕事、そして日常生活にもあてはまることかもしれないと感じました。 そして、もうひとつ。ワークショップの記録をきちんと残しておくこと、できればそのワークショップの様子をすぐに思い浮かべられるようにデザインされたグラフィックやビデオなどを製作することが大切だということを学びました。
(インタビュアー:仲綾子、2002年7月3日の建築会館でのレクチャーおよび2002年10月30日の都内でのインタビューを再構成しました。)



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