■2004大会 農村計画部門学術講演会「一押し」講演■

【各セッション講評】


<環境資産・地域資源>

○環境管理・環境学習6010-6014)齋藤雪彦
 環境管理・環境学習の活動内容、主体の関わり方、活動に関わる方法論が発表され、活発な議論がなされた。欲を言えば、個別の発表に関する質疑だけでなく、これら「活動内容、主体の関わり方、活動に関わる方法論」という枠組みを共通理解とした上で、それぞれ議論が進められると良かった。

○エコミュージアム6006-6009)岡田知子
 4編ともエコミュージアムの創出をテーマとしている。6006は持続可能なエコミュージアムをどのように構築、運営していくかをフローチャートにまとめているが、残念ながら欠席であった。6007は韓国清州市において地域遺産に関する意識と評価をアンケート調査し、類型化し分析したものである。6008、6009は美術館の建設を契機に地域の伝統文化をいかした村づくりに取り組んでおりその活動報告で、今後、エコミュージアムがどのように実現化するのかを見守りたい。

○地域施設6070-6076)月舘敏栄
 7件の研究内容は高齢者施設関係3件、教育施設の運営関係2件、施設立地関係1件、施設機能関係1件であった。研究内容は基礎的段階にあり、今後の発展を期待できるレベルであった。事例研究の紹介と研究成果の関係が判りにくかった。


  <農村地域における施策>

○市町村合併6018-6023)金俊豪
 近年、全国的に行われている市町村合併を主題としたセッションであり、市町村合併による「公共施設の運営・利用方法の変化を分析したもの」と「新市の市民憲章の策定過程に視点をおいて分析したもの」が2編で、圏域の変遷・設定について通勤・通学の流動から見たもの(2編:連番)と環境認知にもとづいて分析を行ったもの(2編:連番)、が発表された。
 主に、合併の定義や合併による地域への影響や変化について質疑応答が行われ、特に、公共施設の運営・利用方法の変化を分析した梗概に多く興味が寄せられた。

○定住施策6064-6069)川嶋雅章
 中園・山本(6064・6065)は、ふるさと島根定住財団による行政による空き家の「借り上げ+助成金制度型」システムを紹介したもので、他地域でもUIタ−ン促進への活用が期待される。岡崎(6066)は、Uタ−ン者の転入要因に着目し、土地にもともと存在する交流・活動・文化の見直しを指摘している。石渡(6067)は、中山間集落の住環境評価が異なることから、不公平感のない施策が求められるとしている。北島(6068)は、地域づくりのアクションなしでも社会変化適応能力のある安定型地域があることに着目し、地域構造を明らかにしようとしているものである。田原(6069)は、制作者による農村モデルの情報発信を、地域住民の意識の関係と波及効果に着目したものである。


 <地域づくり手法と効果>

○まちづくり・地域づくり6042-6045)斎尾直子
 農村におけるまちづくり・地域づくりに近年採用されている調査方法・手法(住民意識アンケート調査,オーラルヒストリー調査,環境 評価ツール,ワークショップ等)に関する課題や効果に関し、比較しつつ意見交換することができた。6046は地域づくりにおける空間分析、6047は地域づくりを支える住民の労力負担分析である。各々、発表者と聴衆が近いポスターセッションという方法を生かした有意義なディスカッションが行われた。

○都市農村交流・グリーンツーリズム6031-6036)伊藤庸一
 このセッションは、農山漁村にある環境資源を環境資産として活用し、都市農村交流を活発化させ、地域活性化を図る観点からの発表である。
 6031-32は、かつての列島リゾートブームで曲解された観のある農村型リゾートを本来の意味でとらえなおし、地域活性化を推進するための現状と課題に関する調査報告である。6033は大分県安心院町におけるグリーンツーリズムの推進体制、6034は福島県金山町における自然教育村事業をとりあげ、グリーンツーリズム展開の可能性と課題を指摘している。6035は栃木県宇都宮市大谷における住民参加による資源活用の計画策定が観光町づくりに有効であることの検討、6036は神奈川県藤野町における廃校を拠点とした流域環境保全の活動を通して都市農村交流、新旧住民の交流が活溌になった事例報告である。
 地域活性化の目標も地域資源も活性化手法も多様であり、さらに事例研究の展開が必要であるが、一方、効果や手法についての体系的な整理もすすめる必要がある。その意味で6032の今後の発展が期待される。


  <農村空間評価>

○集落景観6037-6041)山口忠志
 冊子や物語からみた景観、土地利用から見た景観、民家建築から見た景観、風土条件から見た景観と、多様な視点から集落景観に対する考察がされた。各々の研究について、興味深い結論が導かれたが、伊藤の報告にあったように、景観は本来さまざまな背景や条件を踏まえて、考察が行われるべきものであるが、景観構成要素の分析や、景観特性の要因分析を深める中で、全体像や方向性が見えなくなる傾向にあり、研究手法として、調査結果を集落景観全体へフィードバックしながら、細部を考察することを、再確認する必要があると感じた。

○生活空間6048-6052)黒野弘靖
 5題のテーマは、和風住宅の室内についてのイメージを扱ったもの(6048)、沖縄の集落における敷地内空間の構成を扱ったもの(6049)、住まいの経年価値の分析手法を扱ったもの(6050)、藁を素材とした壁の吸湿性能を扱ったもの(6051)、滋賀県北部の集落における風環境と住宅の向きを扱ったもの(6052)であり、それぞれ異なっている。住まいを、そこに暮らす居住者の視点から捉えた研究として、6049と6050の2題が注目された。

○住空間と集落空間6053-6059)栗原伸治
 多くの発表が、これまでの長年の緻密な現地調査にもとづいた研究成果であり、安心して聞けるものであった。また、住空間、集落空間の分析に際しては、空間構成要素のなかで地域に特徴的なものを中心にとりあげており、興味深いものが多かった。


  <海外の農村計画>

○海外(1)6077-6083)三橋伸夫
 台風の影響で講演番号6080、6081の2題が発表なしとなった。講演はいずれも中国を対象とするもので、雲南省の少数民族の伝統住居(3編)、遼寧省瀋陽市の都市型住居(1編)、および伝統住居の原型文責(1編)浙江省常熟地方の地域空間構成(1編)、中国映画にみる家族関係(1編)となっている。住居を中心とした生活空間の分析という従来の手法を用いたものが多い中、家族関係に着目した研究の視点が斬新であるが、事例的な展開であって今後の展開が待たれる。

○海外(2)6084-6090)伴丈正志
 研究対象地域の広がりとテーマの多様さ、さらには発表者の年齢層・研究歴の幅を読み取ることができるセッションであった。セッションとしてのまとまりにはやや欠けるきらいはあるが、これらの中から新しい研究の萌芽が生まれる可能性を期待したい。


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