■2004大会 農村計画部門学術講演会「一押し」講演■

 2004年度日本建築学会大会(北海道)農村計画部門学術講演会(8/29-31)においては、15テーマ 計 16セッション (オーガナイズドセッション,ポスターセッション含む)、90題の発表が行われ、活発な討論がなされました(セッションごとの講評参照)。


<環境資産・地域資源>
○環境資産の保全継承(オーガナイズドセッション)
○環境管理・環境学習
○エコミュージアム
○地域施設

<農村地域における施策>
○市町村合併
○土地利用
○定住施策

<地域づくり手法と効果>
○まちづくり・地域づくり(ポスターセッション)
○住民参加手法・ワークショップ
○都市農村交流・グリーンツーリズム

<農村空間評価>
○集落景観
○生活空間
○住空間と集落空間
○民家・伝統建築の活用

<海外の農村計画>
○海外(2セッション)


農村計画部門の活性化と若手育成のため、本年度より、大会「一押し」講演を決定し、その筆頭講演者を表彰することといたしました。今年度の「一押し」講演は、各セッション司会者の推薦及び、本委員会(農村企画WG)における厳正な審査の結果、以下の講演に決定しました。表彰の基準は、「先進的なテーマ設定」「研究への意欲や情熱」「すぐれたプレゼンテーション」「研究の完成度」等とし、総合的に評価しております。セッション司会者による推薦の評、及び、梗概pdfファイルを添えて、公表いたします。


☆講演番号:6013  発表者: 藤本友博  6013.pdf
「市街地残存農的環境を巡る新たな局面とその背景 
  その2
市街化に伴う地域組織構造と住民意識の変化」

 市街地に残存する農的環境の再生・継承に関わる発表である。市街地における農的環境の再生と継承は都市計画分野で見過ごしにされがちな課題であり、農村計画サイドから都市計画サイドに提言すべき重要課題であると考える。
  6012と続き物であるが、課題設定という観点からは当該セッションで最もオリジナリティがあると思われる。また6012ではいくつかの地域を取り上げ、概略を比較しているが、本研究において一地域において主体の関わり方を地域住民の組織と意識から分析を行っており、定性的なアプローチとしては緻密な分析を行っている。研究課題設定の独自性とデータ提示の適切さという点で本研究を推薦したい。


☆講演番号:6018 発表者:大家賢介
  6018.pdf
公共施設の運営・利用方法からみた市町村合併の評価
  −対等合併を行った熊本県A町のケーススタディ− 」

 対等合併の定義や類型化での特徴の整理などに不十分な部分もあるが、現在進行中である市町村合併が地域に及ぼす影響を公共施設を通して分析しようとする試みは評価される。
 指摘された部分を踏まえて、合併に伴う公共施設間の調整や協働のあり方が具体的に提示できれば、市町村合併を行っていく自治体に対しての重要な判断材料になると考えられる。


☆講演番号:6032 発表者:宮里明日香
  6032.pdf
「全国自治体における「農村型リゾート」事業の現状に関する調査研究
  その2 2003年調査結果の概要」


 今年の発表は調査結果の報告にとどまっているが、農村型リゾートの将来的な展開にかかわる指針とそのための課題や事業主体、事業手法、地域に固有な資源の読み取りと活用手法、地域住民の主体的な関わり方など、今後の発展を期待し得る。


☆講演番号:6044 発表者:八幡桃子  6044.pdf
「徳島県由岐町木岐地区における「漁村オーラルヒストリー調査」の取り組み

   まちづくり・オーラル・ヒストリー調査報告」

 まちづくりオーラルヒストリー調査の地域への持ちかけ方から効果までを、わかりやすく説明され、魅力的なポスターを作成されていた。


☆講演番号:6050  発表者: 大沼正寛 6050.pdf
住まいの『経年価値』について 地域住環境の経年評価に関する研究(その1)」

 住まいが経年的に獲得する価値を明らかにすることは、農村住居を再評価するうえで、きわめて重要であり、その意義は大きい。また、質疑に対する回答からは、現在の研究の位置づけについても的確に捉えられていることが明らかであり、今後の研究の進展が期待される。


☆講演番号 6057,58(59) 平田隆行・水野美由紀(本多友常)(3編連続)6057.pdf 6058.pdf 6059.pdf
「紀伊大島3集落のライフサイクル変容と集落の持続性
  傾斜環境における住空間変容の研究 その1-3」

 この3編は長年にわたった緻密な現地調査にもとづいたものだと思う。精密なデータにもとづき、ライフスタイル、家族変遷に伴う室転用パターンを明らかにし、そこから増改築・住機能変容モデルを提示するというストーリー性があり、また最終的には空間的な次元に落とすなど、大変興味深く、かつ参考になったため(多くの方にとっても)推薦する。


☆講演番号 6077,78,79 中島寿,徳永悠二,佐藤一之(3編連続)6077.pdf  6078.pdf  6079.pdf
「哈尼族草頂土掌房における住様式の持続と変容
  中国雲南省・伝統的土掌房住居の空間概念に関する研究」

 本編は雲南省少数民族ハニ族の伝統住居(草頂土掌房と呼ばれる)をとりあげている。自然条件(地形)の相違に対応すると見られる二類型を設定し、それぞれの住居形態をダイヤグラム化して、いわゆる近代化の過程でどのような変容を辿ったかを分析、考察している。 分析方法は荒削りで検討すべき余地は多いが、今後さらに研究を発展させる可能性があることを評価し、3編(しいて言えば6079の佐藤氏・彼が中心メンバーと目される)を一押し講演としたい。


☆講演番号:6089 発表者:小草牧子  6089.pdf
「紅海南西部における遊牧民の定住化に関する研究(4)
 ジブチのスラム型住居に見られる遊牧民の空間概念に関する分析」

 遊牧民の定住化に関する一連の研究の第4報である。本報は東アフリカのジブチの遊牧民が定住化する際の住居の空間構成・機能と遊牧型の住居のそれらとを比較し、定住の住居空間の概念を見いだそうとする意欲的な研究である。研究全体の枠組みでは、遊牧民の定住化によって発生する新たなスラムの再発防止という社会的かつ現代的な問題に積極的に取り組んでいる。ただし、本報ではスラム住居の記述は見かけられず、ややサブタイトルと遊離した感はある。が、今後の発展が期待できる骨太の研究である。


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