■2005大会 農村計画部門学術講演会「一押し」講演■
【各セッション講評】
( ):司会者,下線:講評者
<環境保全>
6001-6006 (鎌田元弘・中村誠)
環境保全のセッションの発表題数は6題(内1題は発表欠席)。
発表の無かった1題を除く各発表内容は、@里山保全,A流域データベース,B環境意識,C野生動物被害,D散村の熱環境評価であった。@Aについては広域での環境管理計画に関するものでありいずれもパートナーシップが論点となった。BCは丹沢大山地域を対象としたものであり、登山者等による外部要因と野生動物による内部要因の環境変化の実態および計測方法が論点となった。Dは環境教育のための環境教材に関する一連の研究で、研究成果の教育教材への利用が主要な論点となった。
<景観と構成要素>
6007-6011 (蟹江好弘・關正貴)
沿岸集落・茅葺きという二つのキーワードをもとに質疑を行った。質問時間を集めて意見質疑を行うが、1人の意見が長く、回答を合わせると議論が深まったとは言えない。質問は端的に、回答も明確にする必要がある。質問や意見が集中する事例は、そのテーマをピックアップして、後に議論してはどうか。(6011欠席)
<民家・地域資源>
6012-6017 (斎尾直子・仲村健)
農村の古民家を題材とした研究を集めた6編ではあるが、住空間構成・住まい方の研究、古民家の修繕や増築の状況と環境資産としての現在価値、空屋となってしまった古民家のまちづくりにつながるような活用方策、と、大きく3テーマで議論されたセッションであった。調査対象でセッションを構成する方法もあるが、質疑の時間を充実させるためには、目的・結論から推測される議論内容でセッション構成を行うことも今後考えられるのではないか。
<災害被害と課題>
6018-6021 (岡田知子・柴田加奈子)
自然災害に対する住民の対応をテーマとしている。6018、2019は新潟県中越地震の被災孤立集落での避難生活を調査したもので、その1は農山村の災害対応能力の強さ、弱さについて、その2は高齢女性の避難生活にみられる地域の支え合いについてまとめている。6020はネパールの地下水砒素汚染を調査したもので、住民にとって砒素汚染は自然環境の一部としてとらえており、カーストやジェンダーによるリスク認識の差異について報告したものである。6021は新潟県中越地震被災地の住宅再建の実態と今後予想されるの問題点についてまとめている。
<ワークショップ(オーガナイズドセッション)>
6022-6025 (根來宏典・仲崇志)
ワークショップに関する研究の難しさは、研究対象の主体を明確化することにあると思われます。本セッションにおいても、参加者(住民)主体による地域づくり(計画)手法であるはずのワークショップが、行政や専門・計画者を対象としており、その点が視聴者に対する研究理解への混乱を招いているのではと感じました。
セッション当日は、関東支部農村建築専門研究委員会からワークショップOS参考資料が配布されるとともに、オーガナイズドセッションという時間にゆとりある(実際は時間足らず)中で活発な討論を交わすことができ、本関連分野における今後の研究課題が見出せたのではないでしょうか。
<住民参加によるまちづくり>
6026-6031 (山口忠志・川口友子)
景観保全(6026)、生活環境評価(6027・6028)、WSの活かし方(6029)、広報誌分析(6030)、市民憲章(6031)と、様々な場面における住民参加の成果が報告された。本会における先達の実績と、現在活躍している農村計画委員会メンバーの取り組みが、各地域において活かされていることを感じるセッションであった。今後は、住民参加のあり方や手法を現場の視点から深めることや、さらに参加した結果を具体的な成果として地域に示すことの重要性がましていることから、来年度も今年度に引き続き、「参加手法とそれを実現する計画手法の関係」に対する研究が、数多く発表されることを期待する結果であった。
<祭祀空間>
6032-6035 (三輪真之・神田大輔)
<むらのかたち(ポスターセッション)>
6036-6041 (松尾有平)
<定住・圏域>
6042-6046 (中島煕八郎・六鑓嘉人)
定住に関するものはI.Uターン者の地域における役割の評価、空き家確保制度、合併後の「地域組織」に関する3報である。前二者については端緒的段階のものであるが、I.Uターン者の増加による農山村地域の「価値付け」の変化の方向につながるものであり、今後の一般化・理論家に向けた進展が期待される。後一者については、市町村合併が地域社会に与える基本的影響と今後の進展に関する考察が欠落しており現象面の把握に止まっている。生活圏に関する2報については従来の「行動圏の空間化」の枠を乗り越えようとする意図は読み取れるが、「自然」や「歴史・文化」という抽象的概念と生活圏という空間・地理学的概念とをより的確に関係付ける努力が必要であろう。
<都市農村交流・グリーンツーリズム>
6047-6053 (沼野夏生・本間大資)
7編の内容は多彩だが、都市農村交流をめぐる取り組みについて全国的状況、住民の意向や評価、利用の実態や利用者の意識というそれぞれ異なる3つの視角から切り込んだ研究が2編ずつあった。残る1編は地場産業(窯業)と作陶家志望学生の交流に対象を絞り込んだ事例研究であった。それぞれが都市農村交流やグリーンツーリズムの巨視的な動向とその背景や類型、住民の事業受容意識や主体的参画の可能性、利用者側都市住民の要求や行動スタイルの多様性とその背景などの点で新たな知見を提示している。一方で、変換ミスが目立ったり梗概が未完であったりする初歩的な瑕疵が散見されたのは残念である。
<都市農村交流・グリーンツーリズム(海外)>
6054-6058 (山下仁・澤田章)
英国と韓国におけるグリーンツーリズム施策や、それによる地域振興の実態について、日本との比較を通じて明らかにした研究が中心となっていた。日本との相違点をもう少しクリアにしながら今後の日本のグルーンツーリズムに関する課題に言及するとより議論が発展すると感じた。
<ネットワーク,エコミュージアム>
6059-6063 (金俊豪・若松聡美)
このセッションは、農村地域での発展型のコミュニティデザイン、災害対応型セキュリティネットワーク構築デザインに関してスモールワールド・ネットワーク理論による分析を行った研究(6059)、歴史的ネットワーク(十津川ネットワーク)を通して、地域文化の継承からまちづくりへの展開を明らかにした研究(6060)、そして、エコミュージアム構想の実践に向けた住民参加のまちづくり活動を地域別の動向、歴史的な商店、民家の保存活動の動向から述べた事例研究(6061.6062.6063)が発表された。
<集落空間構成>
6064-6071 (村上暁信・藤澤知美)
国内の集落を対象とした研究が7報、海外の集落を対象としたものが1報の計8報が報告された。分析の手法が多岐にわたっており、セッションを通じて聴くと多様な研究の可能性があることが感じられて興味深かった。しかし、どの発表も現況の空間構成の特徴を分析することに特化しすぎていて、何故そのような空間構成になったのかという要因に対する問題意識が低かった。今回報告した結論を踏まえて、さらに研究を深めていくことが期待される。
<集落空間変容>
6072-6078 (村上佳代・杉崎康太)
<集落営農>
6079-6082 (齋藤雪彦・杉浦高志)
時間的に、総合研究協議会と重なったため、傍聴者は少なく(10名程度)、若干低調であった。 討論では、村づくりへの参加を促進する方向性の是非、法人という経営形態の是非についての質疑があった。これらを通じて、村づくり・集落営農のような共同性の再構築に関して、「参加」のあり方、相互扶助性の担保が課題であると言えた。
<空間認知・解析>
6083-6085 (水原渉・植野翔)
1題については欠席で、2題と少なく、開始前には退場者が多くて、数名の聴講者で行われた。質問も全くなく、司会者が無理やり行った感じになった。対象が6083、6084は対象が沿岸漁村であったが、手法的には都市計画分野(例えば景観)でも充分ではなかったのか(セッションの発表者と聴講者が少なすぎたから結果的に考えることだが)。欠席の6085は農村計画の分類には入らないものだったと思う。少なくとも本年度はこの様な状況であった。セッション発表者があまりにも少ない場合、発表分野の移動を御願いすることも検討してみてはどうか?
<高齢化・福祉>
■6086-6093 (山崎寿一・山崎義人)
高齢者施設計画、高齢者に対する地域ケア・共助、高齢社会における地域コミュニティの再編、コミュニティ機能とその担い手世代の変化について、8編の発表があった。
全体について研究の位置づけ、特に計画論的課題との関連が不十分で実態報告にとどまる印象があた。報告内容については、地域通貨を活用した共助の可能性(6090・6091)、中山間地域の集落機能の変化、世代・集落間の新たな連携(6092・6093)など貴重な報告があった。
<住居・居住地>
6094-6100 (黒野弘靖・本庄宏行)
伝統的住居の現在の様相を、平面構成から明らかにしようとす る研究に注目すべきものがある。たんなる形態的な分類ではなく、暮らす人の生活か
ら分析している点で、それらは共通する。農村計画部門の住居研究の特徴的な方法と
捉えられよう。今後も発展が望まれる。
<海外住居空間>
6101-6106 (神吉紀世子・平田隆行)
アジアの諸集落における住居空間の調査報告であった。
司会の不手際で6102は欠席(事前連絡あり)を会場にアナウンスせずに、6101の次に進んでしまい、聴衆は6102の発表と思っている間に、連続発表の6103が発表をはじめてしまう(6102に関するコメント一切なし)トラブルがあった。司会も猛省するものの、6102のような欠席のある場合、かつ、連続発表者がある場合、連続発表者は、何かの形で、フォローするという礼儀も必要なのではないか。全般には、綿密な実地調査報告で、新しい知見を共有するよい機会となったと思う。
<海外施設・集落空間>
6107-6112 海外施設、集落空間 (本多友常・河原真紀子)
ボロブドゥール寺院周辺集落の観光化による活性化と、住環境の持続性について、一連の緻密なサーベイが行われており、課題が明快に浮き彫りにされている。
以上