■2005大会 農村計画部門学術講演会「一押し」講演■
2005年度日本建築学会大会(大阪)農村計画部門学術講演会(9/1-3)においては、20セッション、112題の発表が行われ、活発な討論がなされました(セッションごとの講評参照)。
<環境保全>
<景観と構成要素>
<民家・地域資源>
<災害被害と課題>
<ワークショップ(オーガナイズドセッション)>
<住民参加によるまちづくり>
<祭祀空間>
<むらのかたち>
<定住・圏域>
<都市農村交流・グリーンツーリズム>
<都市農村交流・グリーンツーリズム(海外)>
<ネットワーク,エコミュージアム>
<集落空間構成>
<集落空間変容>
<集落営農>
<空間認知・解析>
<高齢化・福祉>
<住居・居住地>
<海外住居空間>
<海外施設・集落空間>
農村計画部門の活性化と若手育成のため、昨年度より、大会「一押し」講演を決定し、その筆頭講演者を表彰することといたしました。今年度の「一押し」講演は、各セッション司会者の推薦及び、本委員会(農村企画WG)における厳正な審査の結果、以下の講演に決定しました。表彰の基準は、「先進的なテーマ設定」「研究への意欲や情熱」「すぐれたプレゼンテーション」「研究の完成度」等とし、総合的に評価しております。セッション司会者による推薦の講評を添えて、公表いたします。
☆講演番号:6006 発表者:小高典子
「砺波散村における熱環境評価その5」
環境工学を専門とする研究チームによる発表課題であり、「農村の熱環境評価」の成果を環境学習の教材として生かす上での課題整理を行ったものである。熱環境研究の専門性を生かして農村研究の新たな切口を示したものとして高く評価できる。
☆講演番号:6007 発表者:小浦博子
「石川県輪島市上大沢町を事例とした間垣の特性」
能登半島の沿岸集落における、間垣と住宅の重層的配置によって強風への防御を紹介した研究である。このような集住の知恵が過疎化により保全しにくくなってきているが、現代的にどう保全していくべきかを問うよい研究といえる。
☆講演番号:6015 発表者:大沼正寛
「環境資産の地域的活用と文化的価値評価書」
古民家の専門家のみによる歴史・文化財的価値評価だけでなく、住民参加も含めた環境資産価値評価を行っている報告であった。今後の活動展開も含めていねいにまとめられて、技術報告とするとよいのではないか。
☆講演番号:6018 発表者:浦上健司
「新潟県中越地震の被災孤立集落での避難生活と自治災害対応能力」
震災直後、いち早く被災孤立集落で調査を実施し、避難行動および避難生活の状況からみた農山村の災害対応能力について良くまとめられている。避難行動と被災生活にみる集落内の結束力の重要性、ボランティアの受け入れにみる都市農村交流の有効性、被災生活を物理的に支えた農山村の自給能力や備蓄の習慣、また、井戸水、沢水、薪、プロパンガスなど農山村型の多様なインフラの有効性、逆に集落排水、都市ガス等の都市型インフラの脆弱さと復旧の困難さを明らかにし、今後の地域計画に示唆をあたえている。
☆講演番号:6023 発表者:黒岩麗子
「住民参加型地域振興におけるワークショップの位置づけ」
本セッションの研究発表を大別すると、「WSの位置づけ」「主体と仕組み」「WSによる成果」であります。その中で本研究は、既往関連論文のレビューとして「WSの位置づけ」を整理・明確化したものであり、今後のワークショップに関する研究を進める上で、有効な資料と成り得ることを評価し、推薦します。
☆講演番号:6029 神田大輔
「参加型集落計画におけるソフトシステムの考察」
計画の進捗過程と組織の変化を「WSの活かされ方」という視点から捉えた、大変興味深い研究であった。今回の報告では計画策定の側面から、そこに関わった組織を分析しており、各段階において効果的なWSを行うための組織の役割が示された。報告を聞く中で、農村における各組織の個性や要求の側面から見た、計画策定のあり方に興味が湧いた。今後の研究発表や、関東支部の活動の中でご示唆を頂きたいと思う。
☆講演番号:6030 発表者:東奈樹沙
「北海道地方都市のまちづくりに関する基礎的研究」
広報誌から住民活動の分析を行う研究である。地域情報化をキーワードに、情報基盤の整備が注目される中で、地域に親しまれる情報源と、そこでの住民活動に着目した興味深い研究であった。分析にある「広報誌は活動やイベント紹介だけに終わらず、積極的な参加を促す媒体となることが必要である」との示唆は、研究対象となった北海道だけではなく、著者が冒頭で示しているように、農村や地方都市に共通する課題である。地域情報化により、デジタルな情報交換だけが主流になることのないように、人を介して人と人のつながりを深める情報化社会となるために今後の展開に期待したい。
☆講演番号:6043 発表者:山本幸子
「農村地域における人口定住のための住宅施策に関する研究その3」
全国的な意味でも先進的な取り組みを行っている島根県の事例を的確に取上げ、限られた紙数の中で完結に報告がまとめられている。また、県を一本に概括せず、多様な取り組みを地域の実情に即して述べることで、様々な可能性の存在を示唆している。この成果をより広く普及するとともに、他の「非先進地」においても適用可能な制度展開に向けた理論化、一般化が期待される。
☆講演番号:6054 発表者:若松聡美
「農家民宿とそれをめぐる地域振興の日英比較」
農家民宿形態とグリーンツーリズム施策について、日英比較を行ったもので、方法・結論ともに、理解しやすかった。
☆講演番号:6060 発表者:林梢子
「新十津川町における「十津川ネットワーク」の実態とまちづくりへの展開」
北海道新十津川町の歴史的ネットワークである「十津川ネットワーク」を事例に、その実態の解明と「十津川ネットワーク」が現在のまちづくりの展開へ与える影響に関して、宗教ネットワーク、血縁ネットワーク、地縁ネットワークに分けて、相互関係を十津川衆(移住者)の動きから考察をした論文である。地域のコミュニティを歴史的ネットワークという側面で再評価することは、地域アイデンティティを確立し、まちづくりを展開していく上で重要であり、今後の研究の進展が期待される。
☆講演番号:6091 発表者:鈴木健二
「地域通過を活用した住民による地域貢献」
地域通貨による「共助」の実態を明らかにし、今後の農村コミュニティにおける高齢者扶助のあり方への知見を導きだしている。
☆講演番号:6093 発表者:篠原麻衣
「くらしの機能を維持する地域社会の単位構成」
世代・集落の性格によって、今後のコミュニティのあり方に対する展望が異なることを具体的に導き出している。
☆講演番号:6096、6097 発表者:天満類子、進真由子
「民家の地域資源化のための基礎的研究」
棚田と茅葺き民家で有名な浮羽の農村住居を分析した連編の論文。 6096は、平面形態の多様性と変転のなかで、一貫する生活の型の存在を見いだしてい
る。6097は、供給システムの変化から、住居形態の相違を説明している。従来の建築
史研究や民家研究にはない、新たな着眼点である。しかも農村住居の本質を捉えている。
☆講演番号:6106 発表者:平田智隆
「アカ族の集落にみる住居空間の構成」
内容、質疑応答とも印象に残るものであった。
☆講演番号:6108、6109 発表者:高見美由貴、金子美音
「ボロブドゥール寺院周辺集落」
住環境を公共水空間と住宅のゲストハウス化の両視点で捉えることにより、住居と集落が直面する生活向上と環境変容の有様を巧みに引き出している。