■2006年度大会 農村計画部門学術講演会「一押し」講演■
【各セッション講評】
( ):司会者,下線:講評者
<自然災害・復旧復興>
6001-6004 (藤沢直樹・小林智也)
本セッションは4編の報告で構成されていたが,実際に報告がなされたのは2編であった。
そのため,質疑応答の時間を長めにとることとなり,結果,2編の発表内容について深い考察を得ることが可能となった。
しかしながら,他のセッションとの公平性を保つためにも,発表者の参加を促していくことが重要であると指摘する。
<自然災害と農山漁村計画>
6005-6008 (金俊豪・北澤大佑)
全4編の論文が発表され、自然災害に対する住民や地域の対応に関する内容が主であった。
6005は自然環境保護と自然災害対策との関係をコウノトリ野生復帰活動を事例に住民活動の実態とその意識
をまとめている。6006は災害期から復興期における自治的組織の役割の変化と住民の各自治組織への依存意識を
まとめている。6007は地震災害における行政、自治組織、避難所、集落の対応実態を明らかにし、
町と集落レベルでの防災計画を検討する際の課題をまとめている。
6008は農漁村における災害対応と課題を農村地区、漁村地区、非営農地区に分けてまとめている。
<教育・福祉の地域施設>
6009-6014 (岡田知子・浅野正裕)
<街並みのデザインコード> ポスターセッション
6015-6018 (神吉紀世子・木村秀男)
<地域づくり:情報・環境・生活・歴史文化> ポスターセッション
6019-6024 (伴丈正志・長聡子)
農村民泊、中国青島街区、韓国農村集落、地図の活用、野生動物被害と研究内容が多岐にわたった
6本のポスターセッションであり、若手研究者とベテラン研究者による発表となった。
質疑応答は活発であり、研究の本質に迫るものも見受けられた。
また、やや強引な結論に導いているきらいの論文も散見された。
とはいえ、4本の発表が若手研究者によるものであり、今後の研究成果が大いに期待でき心強い。
<集落の空間構成>
6025-6028 (山下仁・石井榮一)
本セッションは、農山漁村における集落の空間構成に関する発表をテーマとしており、
今回の発表では、漁村集落に関するもの3題、山村集落に関するもの1題であった。
その中で、6025は和歌山県の漁村集落における路地形態をコミュニティ単位との関係性から論じたものであり、
6026は三重県の漁村集落の空間構成について地形や道、中心性から論じ、6027は同じ漁村集落について、
収納レベル等の3つの指標により空間的特徴を明らかにしている。
さらに6028は福岡県の山村集落について主屋や勝手の向きや水系等について屋敷配置の特徴を論じている。
質疑では研究の目的、結果の活かし方等について質問があった。
<むらの生活:福祉・コミュニティ・交通>
6029-6032 (齋藤雪彦・金城正紀)
4題中2題が欠席であったこともあり、議論としては物足りない印象であった。
まず障害者の農業経営への参画に関わる事例に関する分析があった。
これは農村地域における新たな担い手の可能性とともに農による医療効果といった新しい視点を持つ研究であった。
次に疎住地域におけるコミュニティバスに関する研究では、運行上、経営上の課題を分析した研究であった。
<農村建築の内部空間>
6033-6037 (清水肇・重山翔)
<農村集落の景観構成>
6038-6041 (黒野弘靖・渡邉美代)
多くの質問者からつぎつぎと発言があり、たいへん活発な質疑討論となった。
とくに、6038不破正仁・藤川昌樹:つくば市の農家における伝統的屋敷林の樹木構成パターン
-現状調査と銅版画の分析- については、会場からの質問が集中し、かつ、注目すべき論文として
評価するコメントが多く出された。なお、その他の発表のいずれについても、
景観的に興味深い研究対象を扱っているものばかりであり、今後の調査研究の進展が期待される。
<祭祀と空間>
6042-6045 (栗原伸治・菊地迪恵)
4編中3編が発表されました。いずれも祭祀の内容、およびそれと空間との対応に焦点をあてたものです。
祭祀の内容については、民俗学や人類学などの諸分野で詳細な調査研究がなされてきたと思いますが、
それと空間との対応を詳細に分析できるのは、農村計画(建築系)の特権かもしれない、とも思いました。
しかしながら、今回の発表では、いずれもその対応について、あまり深く掘り下げられているとは
言いづらいもののように感じました。今後、より広くかつより深く研究をすすめていただきたいと思います。
<古民家再生>
6046-6050 (宮川智子・本塚智貴)
古民家を地域資源として捉えた一連のテーマにおける発表が行われた。
いずれも、保全の難しさに直面する古民家について取り上げているが、現場において維持管理
による再生をめざすものと移築や解体を視野に入れた広域における転用を扱うものに2分されていた。
<農家住宅の変容>
6051-6056 (三橋伸夫・高岡友美)
本セッションでは、中越地震で全壊し取り壊されるようになった長岡市松尾の旧上層農家の
間取りと生活に関する報告(1編)、1950年以来継続的に行っている北海道農村住宅の変容に関する一連の調査に
もとづいて、近年の変化を間取り、生活、建物配置、外観などの諸側面から取り上げた報告(4編)、および、
福島県安積開墾地における史料にもとづく宅地割推定に関する報告(1編)、の計6編である。
なお、4編の連続報告で登録の手違いから報告その1が欠けたのが惜しまれる。
<グリーンツーリズム:地域振興>
6057-6062 (斎尾直子・若松聡美)
グリーンツーリズムにかかわる国内の事例研究5編(うち2編は連続編、事例としては4件)、
全国の余暇活動に関する報告が1編、計6編の報告であった。グリーンツーリズムという地域振興策が
定着してきた近年、同事例や類似事例を別の研究チームが調査研究するパターンも多く出てきており、
今後もこのようなセッションの場での刺激的な意見交換が期待される。
<グリーンツーリズム:海外>
6063-6069 (蟹江好弘・六槍嘉人)
<海外居住研究>
6070-6075 (深沢大輔・齊藤利佳)
6070は、英語による口頭発表で、図とか写真によるビジュアルな説明が欲しかった。
6071は欠席であった。
6072は、テンペ湖の雨期と乾期の水位の変化に応じて家を移動する事例の報告で、
そのような居住形態に関心が持たれた。
6073は、中国の水郷地域の住居における温熱特性に関する報告であった。
6074は、モンゴル民族の居住形態の変化について述べたものである。
6075は、日本植民地期に日本人が移住した韓国の漁村に関する事例報告であった。
これら5編は何れも東南アジアにおける発表であったが、調査の視点や内容はそれぞれ異なるものであった。
<集落再生・持続性>
6076-6082 (村上暁信・杉浦高志)
国内4箇所の集落を対象として集落の再生や持続性を考察した研究が5報(そのうち2報は連報)、
山間集落を結ぶ山の道に着目した研究が2報(連報)の計7報が報告された。いずれの研究も、
詳細なフィールド調査に基づいて分析を行なっており、考察の内容も大変興味深いものであった。
また各研究では特にデータ収集の方法にそれぞれの工夫がみられ、研究アプローチの多様さを改めて感じた。
対象地は異なるものの、扱っていた事象に共通性があったために、後半の議論では踏み込んだ質疑応答がなされた。
今後、他の研究報告からもヒントを得ることで、相互により一層の展開が図られることが期待される。
<農村の景観と自然環境>
■6083-6089 (山崎義人・遊佐敏彦)
セッション全体としては、テーマが多岐にわたったために、議論が関連していくようなことはなかった。
しかし、その分、刺激に富んだセッションであったように思う。
特に景観の議論では、主体の衰退・喪失に伴って農村景観が荒廃していくことが想定される。
その中で、一つは景観管理、環境管理、空間管理の話と絡めて議論していくようなセッション構成が望まれる
と同時に、もう一方では、景観の価値共有といった内容の議論と仕分けしてセッションを構成していく
必要があるように思われる。
<農的環境資産の発掘・管理・評価>
6090-6093 (川嶋雅章・川口友子)
6090と6091は沖縄県本部町備瀬集落を事例とした農村集落における空間管理能力に関する一連の研究で、
個別の雑草刈りと掃き掃除の管理作業頻度調査による各戸の管理レベルと空家・空地や福木の現況分布図等を
重ね合わせ、集落空間衰退の進行過程の状況と今後の予測を行った研究で、今後の計画づくりへの基本資料であるが、
何故そのような状況になっているのか、また共同管理といった視点での研究がなかったのが残念である。
6092は岩手県金ヶ崎町城内とスイス・リフェルツヴィルを事例に住環境資産の経年と美的価値観に関する
日欧比較考察したものであるが、まだ十分な比較研究に至っていない面が見られた。
6093は灰屋つくりを通しての参加型の伝統建築物復元に関する報告であった。
<景観・土地利用・法制度>
6094-6097 (大沼正寛・多田徹)
6095 景観法による景観形成手法に関する研究:それぞれの要点がまとめられ、非常にわかりやすくなっている。
6096 高松市を事例とした線引き廃止に伴う問題と課題:これまでの土地利用研究に続く長編の一つで、
実例の追従が詳細である。
6097 市町村合併における市民憲章の制定意義に関する研究:市民憲章に着目した異色の論文。
様相の異なる市町村同士の合併とそうでない場合の、それぞれの行政広報媒体のメッセージ内容の引用があってもよいか。
以上