■2007大会 農村計画部門学術講演会「一押し」講演■

 2007年度日本建築学会大会(九州)農村計画部門学術講演会(8/29-31)においては、103題の発表が行われ、各セッションでは活発な意見交換が行われました。各セッション司会者による講評と一押し講演として推薦された14件を以下に掲載いたします。


『一押し』講演 14件


講演番号:6019 本塚智貴(和歌山大)
「高野・吉野境界地域における伝統的民家の特色」


  高野の仏教文化と吉野の山岳信仰の境界地域を対象に、文化圏という視点から、
 文化のダイナミズムについて実証的に考察しようとする意欲的な研究で、とても興味深かった。
 会場からの質問にもあったが、研究の位置づけ・意義、今後の展開について、いろいろな
 可能性が考えられるだけに、司会者自身も気になるところであった。


講演番号:6027 橋本剛(筑波大)
「空中写真を用いた屋敷林面積の変還」

 
  
航空写真による屋敷林の面積・変遷の分析をもとに開発による影響と景観の変化が
 論じられている点が明快であり、今後の研究の展開が期待される。


講演番号:6030 中村美奈子(熊本県立大)
「葬送儀礼の違いによる相互扶助の特徴」


  野辺送りの有無に着目して、葬送儀礼と地域社会の相互扶助の関連性を検討した研究である。
 儀礼における人・遺体(遺骨)等の動きと民家の間取りとの対応関係、葬式・火葬の前後関係に
 まで踏み込んだ検討により、野辺送りが行われなくなりつつある現状の説明に成功している。


講演番号:6037 石川慎治(滋賀県立大)
「滋賀県高島市海津の集落構造」
 
  
滋賀県高島市海津の併走する二本の道に沿った集落に対して、それぞれの違いを生業や家屋から
 論じている。それぞれの景観に関する分析は欠落しており、景観コントロールの必要性に関して
 説得力はないが、その指摘自体は重要であり、今後の展開に期待する。


☆講演番号:6042 足立圭(京都大)
「地域の特色を活かした集落保全」

  研究の位置づけが非常に興味深く,今後の展開に期待する。


☆講演番号6045 米澤和泉(筑波大)
「地元学生の主体的活動による地域活性化の可能性」

  ポスターについては実働した諸活動を時系列に紹介するシンプルなものであったが、
 質疑において、そうした実働が可能となった背景の具体的紹介があり、事例として
 興味深いことが明らかになった。活動自体の紹介以上に、諸主体の連携の進展や工夫などに
 重点をおかれた考察が、研究の意義につながると思われる。


☆講演番号6050 山下仁(農村工学研究所)
地域連携による障害のある人農業経営への受入支援モデル

  本報は、障害のある人の農業分野での就労促進を目指して、そのための地域連携支援に
 必要な機能を示したうえで、事例をもとに3モデルが提示され考察が加えられた。
 施設整備や組織連携などの違いによって示されたモデルはわかりやすく、今後の研究の展開が期待された。


☆講演番号:6053 鈴木克彦(足利工大)
「土地区画整理事業による地方都市郊外農業地帯の変容」

  土地区画整理事業による地方都市郊外の農業地帯の変容に関して、土地利用の変化、
 道路網と生活導線の変化、商業環境の変化から追ったものであり、若手の発表として将来性が感じられた。
 今後の土地区画整理事業のあり方への言及があれば、さらによいものになったと思う。


☆講演番号:6061-6064 大槻政洋(北大),殿井直(いるか設計集団),渡辺正人(三井住友建設),山田徹(八戸工業大)
「北海道農村住宅の変容課程」

  半世紀以上にもわたる農村住宅の屋敷構成の変容を、豊富な資料から分析している
 報告は貴重である。営農形態や家族形態の変化が急な近年にあっては、特に2005年の調査結果をもとに、
 継続農業のための提案や今後の追跡調査を期待したい。


☆講演番号:6067-6068 中野将人,横田麻琴(新潟大)
「新潟中越地震で被災した高齢者の居住環境」

  地震被害で否応なしに居住環境の変化を強いられた人々にとって、何を拠りどころに
 生活を再建しているのか。生活と環境の連続性がキーワードであり、それは「仮設住宅や復興住宅が
 集落近くに建設されたこと」によって保持されていること、集落環境のもつ意味の大きいことを実証的、
 具体的にあきらかにしたことを高く評価するものである。新潟県中越地震による被災は、
 地震国・日本では今後どこででも起こりうるものであり、この点でも有益な研究成果である。
 会場からの質問にもあったが、高齢者だけでなく、若者はどう対応したのか、研究を展開してほしい。


☆講演番号:6075 多賀麻衣子(和歌山大)
「高密度漁村集落における台所空間」

  和歌山市街地に近い漁村集落の居住空間を台所に着目して分析した点がユニークである。
 下水道などインフラ整備に伴って台所の住居内の位置が路地側から奥に移動し閉鎖化する傾向があり、
 近隣関係にも影響を与えているという知見を得ていることが評価される。また、アイヤ・カベヒトエと
 いうローカルな居住慣習の報告としても価値がある。


☆講演番号:6077 佐藤睦美(九州大)
「岐阜県白川村萩町地区における文化遺産マネジメントとツーリズム」

  世界文化遺産に登録されている岐阜県白川村において、観光地化が進む中で、文化遺産を
 どのようにマネージしていくべきかを論じている。特に「文化遺産」ではあっても「観光資源」とは
 認識されていないものの存在、「支える文化遺産」に着目している点がユニークである。
 問題提起だけではなく、「支える文化遺産」を的確に認識する対策としてマネジメント組織の必要性を
 訴えるなど、現実課題に有効な点も評価できる。


☆講演番号:6090 杉田昌也(東工大)
「農村地域の市町村合併に伴う地域構成要素の変動構造」

  日本の農業の将来を考えるにあたり重要な着眼点であると考え、推薦した。
 農家が一定の労働力を確保しつつ世代循環をなしうる条件を明確に定義した点が、特に興味深かった。


☆講演番号:6095 鈴木孝男(宮城大学)
地域自治のためのコミュニティ再生

  対象事例のサンプリングや調査・分析方法に疑問が残るものの、自治体組織の再編と自立を
 目指すコミュニティの組織変容の関係性を捉えた興味深い研究内容である。設定した各類型が、
 どのような地域特性とリンクするとコミュニティ再生のために有効に機能するか等、
 今後の継続的な評価分析の期待を込めて推薦する。


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