以下に、個別の項目ごとに建築物の置かれている状況について検討する。
(1)環境配慮建築物
建築物そのものがどれだけ環境を配慮した建築物であるかについての基準は、CASBEE(Comprehensive Assessment System for Building Environment Efficiency:建築物総合環境性能評価システム)の評価基準がある。CASBEEは、建築物の環境性能で評価し、格付けする手法である。2001 年に国土交通省の主導の下に、財団法人建築環境・省エネルギー内に設置された委員会で開発が進められている。このシステムの評価基準では、建築物を、ライフサイクルを通じて評価し、環境品質と性能及び環境負荷の両方の側面から評価し、環境効率の考え方を用いて評価するもので、S(すばらしい)、A(大変良い)、B+(良い)、B−(やや劣る)、C(劣る)の五段階の格付けをしている。したがって、この評価基準が人々の賛同を得られ、普及すれば、環境配慮基準として確立されたものとなるであろう。また、既に述べた、住宅の品質確保の促進等に関する法律も、劣化対策、維持管理対策等の長期耐用に関する項目を含んでおり、限定的ながら、環境配慮基準を含んでいる。
なお、建築物がその置かれている周囲の環境に配慮しなければならないという点については、建築物の場合は、法律および条例で膨大な規制が存在している。一般的な環境配慮を超えて、立地に応じた土地利用については「公共性」に配慮するという一般的な条件を超えた規制は無い。
(2)建築事業所環境
工業製品との対比で言えば、プレハブ住宅メーカー等の工場(さらには建築部材等の製造工場)が周囲の環境に配慮しているかどうかが問題となる。この点については、上記(1)の後段と同一であり、既に膨大な法規制がある。
(3)環境マネジメントシステム
建築物の環境配慮が適正に行われているかどうかを点検して管理するシステムとしては、CASBEEの既存ツールが利用できる。これは、既存建築ストックを対象とする評価ツールで、竣工後1年以上の運用実績に基づき評価される。ただ、ISO14001のような恒常的に環境配慮の点から検討を加えるマネジメントシステムは、建築物の完成後の利用を含めたものについては存在しない。
(4)拡大建築者責任
拡大生産者責任とは、製品に対する生産者の責任を製品のライフサイクルの消費後にも拡大したものであり、環境負荷についての生産者の責任として理解されるべきものである。しかし、この問題を建築物について考えた場合、建築物についてはライフサイクルの期間ですらその品質につき建築設計者や施工者に責任があるとは考えられていないという点に注意がまず必要である。すなわち、工業製品については、その瑕疵につき消費者が直接契約関係にたたない生産者に製造物責任を問えるが、建築物については直接契約関係にたたない建築設計者や施工者には瑕疵につき責任を問えないのが原則とされている。これは、建築物のライフサイクルが工業製品に比べて極めて長いことが原因である。したがって、建築物のライフサイクルの消費後の環境負荷について建築設計者や施工者の責任はほとんど議論もされていない。ライフサイクルが極めて長期であることから工業製品と同様の議論は必ずしも適切ではないかもしれないが、ライフサイクル中の建築設計者や施工者の責任ならびにライフサイクル後の建築設計者や施工者の責任につき工業製品と同様の処理を可能な限り行うべきでないかという観点からの検討が必要である