補論:ひとつの具体的な制度提言
スケルトン・インフィルの分離に対応した法制度の確立
現在の日本の建築関係法令は、スケルトンとインフィル(内装、設備)を分離する思想に依拠していない。しかし、長期耐用性が期待されるスケルトン部分と、改造が頻繁に行われるインフィル部分とは、新築以降の建築ストックの安全性を担保する意味においても、別の体系で審査、検査されることが望ましい。
「スケルトン・インフィル(S・I)分離による建築の段階的な整備・利用のための仕組みづくり(国土交通省国土技術政策総合研究所)」の提言※では、スケルトンとインフィルとを分離することにより、次のような期待される効果があることが示されている。
・検査をインフィル完成部分ごとに行い、建物の使用を開始できることで、テナント決定の時間差への対応が容易となる。また、標準内装で仕上げる必要がなくなり、未使用廃棄の発生を抑制できる。
・確認・検査のS・I分離により、建物の改装時などのチェックを行いやすくし、建物の長期使用に寄与する。
スケルトンとインフィルとを分離するにあたっての具体的な方法は、米国ニューヨーク市の段階的な建築チェック・使用開始の仕組みが参考になる。日本においては同様の制度として「仮使用承認制度」が存在するが、特定行政庁しか対応できないことなどから同制度の積極的な利用にはつながっていない。仮に、民間の検査機関による仮使用検査を代行する仕組みができたとしても、頻繁に行われるインフィル改造のチェックを現行の確認・検査体制下でその都度行うことは現実的ではない。そこで上記提言では、インフィルの建築確認やその検査を一定の有資格者(判定者)に委ね、その検査図書を特定行政庁に届け出る方法を提言している。かかる方法は、新築完成以後においても、改造される度にインフィルの確認・検査体制を継続させていくことを可能とし、ストック時代にふさわしい。
当小委員会も上記提言に全面的に賛成であり、このような制度提言をひとつずつ実現することが建築物の長寿命化をもたらし、建築物を社会的共通資本としてゆたかなものにすると確信するしだいである。