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竹村由紀 Yuki TAKEMURA

目次

➊ 所属

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文環境学専攻 博士課程 (清家剛研究室)

➋ フィールド

フィリピン・メトロマニラのインフォーマル居住家族のための再定住地セントマーサエステート

➌ キーワード

郊外型再定住地/コアハウス/増改築実態/建築生産システム/実践型研究

➍ 研究概要

  1. コアハウスに対する増改築状況およびその生産システムに関する研究
  2. コミュニティキッチン整備プロジェクトという実践的介入を通した研究

フィリピン・メトロマニラの災害危険区域に住むインフォーマル居住家族(Informal Settler Families)のためのオフサイト・郊外型再定住地 「セントマーサエステート」を対象に以下の二つの研究を行なっている。

コアハウスに対する増改築状況およびその生産システムの把握 ※1

【写真1 セントマーサエステート:竹村】

セントマーサエステートは、National Housing Authority(NHA)の委託を受けた開発事業者によってインフラ整備と長屋形式のコアハウスの供給が行われたのち、 NHAが開発地一帯を買い上げる方式で整備されている。そこにメトロマニラのインフォーマル居住世帯が、事業の「受益者」としてコアハウスに2013年から入居した。 コアハウスは入居者によって増改築がなされたものが多く、その実態調査を2016年より継続して行なっている。

2016年の調査では、968件のコアハウス接道面の外観写真を利用して地域全体の増改築実態を把握する調査・分析を行い、 そこからさらに選定した60件を対象に住戸の内観調査および住人へのヒアリング調査を行い、 より詳しい増改築実態とその生産システム(設計者・施工者・資材調達方法・工事費など)および住民属性(世帯人数構成・月収・職業・もともとの受益者であるかなど)を把握し、 これらの関係性を分析した。また、2020年1月に再度コアハウス接道面の調査を行い、約3年半が経過した時点での増改築状況の調査分析も進めている。

2016年調査で対象とした 60件について、市の建設許可を得て増築したものはなく、12件については元々の受益者ではなく、「転売」によって入居した者が暮らしていた。 「転売」は受益者がローンを完済していればフォーマルに行うことができるが、実態は受益者によるローン未払いなインフォーマルな「転売」が大半を占める。 こうした「転売」による入居者は元々の受益者と比較して世帯月収も多く、コンクリートブロック造にモルタル塗装仕上げもしくはタイル仕上げを施すといった 比較的高価な仕様の増築を施す傾向があった。2020年調査により、こうした仕様の増築をもつコアハウスは件数・割合ともに増加していることが分かり、 対象地での「転売」による居住者の入れ替わりが進んでいることが伺える。

この研究は増改築実態とその生産システムの調査から、その課題および改善点と探ることを大きな目的としているが、 フォーマルに整備された再定住地がインフォーマル化していく実態を把握する行為だとも考えている。

コミュニティキッチン整備プロジェクトを通した実践的介入 ※2

【写真2 コミニティキッチン整備プロジェクト:竹村】

上記の研究と並行して、筆者を含むプロジェクトチームで再定住地にコミュニティキッチンを整備するプロジェクトを実施し、2020年1月に整備完了した。 対象地でコミュニティ開発を支援するNPOに協力する形で2016 年に開始し、開始当初は東京大学建築学専攻大学院夏学期スタジオの課題としてコンセプトデザインをまとめた。 そこからプロジェクトチームを構成し、基本設計、クラウドファンディングによる資金調達、実施設計と進め2018年春に整備完了予定であった。 現地での土地取得等の課題により一時プロジェクトが停止し、購入した土地に新築で立てる計画から、 コアハウス1戸を借りあげ増改築して整備する計画に変更し、2019年7-9月に設計、2019年10-12月で施工を行い、2020年1月に施設オープンを迎えた。 この実践については大きく以下の2つの観点から研究としてまとめる予定である。

  1. 対象地での建築生産システム把握のための1事例として
    コミュニティキッチン整備における建築施工は現地のForeman(日本でいう棟梁)に依頼した。 設計時にはNPO Build Changeによるフィリピンでの建設ガイドラインを参照し実施設計図面を作成しているが、 施工時には完全に図面通りに施工するのではなく、現地のForemanによる判断や慣習的な方法を取り入れて建設が行われた。 設計者側の意図とは反するもしくは想定にない構造形式・構法が取れることも多々あり、 施工監理時に修正交渉が可能であったところ・不可能であったところの両方があるが、そうした齟齬から現地での建物の作り方の詳細を整理する。
  2. 建築系専門家による実践的介入の方法論研究の1事例として
    セントマーサエステートのような貧困もしくは被災コミュニティに対しどのように建築系専門家が介入し、その専門性を活かした支援を行えるか、 その際の課題と解決策は何か、を博士研究の問いとしており、その方法論研究の1事例として本プロジェクトを取り扱う。 関連研究としては東日本大震災の被災地支援として小規模集会施設をつくる活動を対象とした研究※3と、 2016 年エクアドル地震被災地チャマンガに文化センターをつくるデザインビルド教育プログラムを対象とした研究※4がある。

脚注

  1. ^主に以下に示す論文および発表で成果をまとめている。

    Tsuyoshi Seike, Yumi Shoji, Yuki Takemura, Yusuke Kunie, Rizalito M. Mercado and Yongsun Kim: Construction System for Extension and Renovations in a Resettlement Site in the Philippines, JAABE vol.17 no.3, pp441-448, September 2018

    國江悠介, 小司優海, 竹村由紀, 清家剛, 金容善:フィリピンの再定住地における住戸増改築の実態に関する研究 その1: 住戸接道面外観調査を通した増改築実態の分析, 日本建築学会大会学術講演梗概集, pp.975-976, 2017.09

    竹村由紀, 小司優海, 國江悠介, 清家剛, 金容善:フィリピンの再定住地における住戸増改築の実態に関する研究 その2: 住戸内観調査・住民ヒアリングを通した増改築実態の分析, 日本建築学会大会学術講演梗概集, pp.977-978, 2017.09

    小司優海, 國江悠介, 竹村由紀, 清家剛, 金容善:フィリピンの再定住地における住戸増改築の実態に関する研究 その3: 住民ヒアリングを通した住民属性と増改築生産システムの分析」日本建築学会大会学術講演梗概集, pp.979-980, 2017.09

  2. ^Yuki Takemura and Ko Nakamura, The Snack Kitchen Project, A Collaborative Design-Build Project through University and Nonprofit Organizations, Structure for Inclusion 2017, 2017.04
  3. ^竹村由紀「東日本大震災の被災地につくられた小規模集会施設に関する研究 −建築家の活動に着目して−」 東京大学新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻2015年度修士論文, 2016.03
  4. ^川崎光克, 竹村由紀, 清家剛, 両川厚輝, 岡部明子: 国際的なデザインビルド教育の実態 – エクアドル・チャマンガのCentro Culturalプロジェクトを例に, 日本建築学会技術報告集, 26(62), pp.359-364, 2020.02