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日本建築学会 中国支部

AIJ, Chugoku Branch

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●第4回(平成19年度)中国建築文化賞の発表   中国支部
 中国支部では、中国地方の建築文化の発展に顕著な貢献が認められる活動に対して表彰し、広く地域文化の発展と建築文化に対する意識の高揚を図ることを目的とした「中国建築文化賞表彰制度」を平成16年度に創設した。第4回目となる今年度は9点の応募があり、選考委員会で厳正に審査選考を行った結果、次の2作品について表彰することに決定した。どちらも当該賞の創設主旨を十分満たす優れた作品であり、これらの作品を以下に紹介する。

●19年度中国建築文化賞の表彰式・受賞者による講演(中国支部総会附帯事業)

  日時:平成20年5月23日(金) 15:10~
  会場:広島県情報プラザ地下多目的ホール

廿日市市立平良小学校(デザイン部門 所在地:広島県廿日市市陽光台)

受賞者:㈱久米設計

本建築作品は、瀬戸内海が眼下に拡がる廿日市市域の緩やかな南斜面地に立地する木造の公立小学校である。設計理念としては、自然との調和・共存に配慮した学校計画を行うことを基本に、多様化する学習形態にフレキシブルに対応し、時代のニーズに即した教育環境の創造を、緩やかな南斜面地に順応させつつ目指した点が特徴である。竣工は平成14年8月であり、地上2階建、延べ床面積約6,835㎡、木造(木質2方向ラーメン構造)、一部RC造・鉄骨造の建物である。
意匠性・独創性については、「多様な出会いを生む空間構成」を意図し、北の校門から中央を貫通し、南のグラウンドへ抜ける「平良っ子通り」を、大断面集成材とガラスの屋根を集成材の列柱で支えてつくり、これにより、南北の軸性を強め、木質空間の温かさを演出し、人々の出会い・交流の場としており、またその周囲に配置した大きさの異なる外部広場により、空間の多様性と連続性が形成され、これらは児童の成長過程に柔らかに対応した「ふれあい空間」となり、小さな交流から大きな交流へ、世代を超えた地域との交流空間へと拡がることが図られている。更に、「独自の≪オープン普通教室ユニット≫と様々な 活動に対応可能な教室構成」を意図し、多様な学習形態に対応可能で、児童の感受性に訴えかけ、行動を誘発させる教室空間を目指しており、また、教室と連続した「学年ワークスペース」により、多様な学習形態に対応できる「学年のまとまり」を形成している。更に、外部空間も重要な学習スペースとし、種々利用可能な「外の教室」の形成を可能にしている。
建築文化性に関連する事項については、「木のまち、廿日市」を意図し、「木のまち」廿日市市に相応しく、どこにいても木を感じられる「木の香る学び舎」を設計コンセプトとしている。木材の使用量は約1,150㎥であり、主要構造部である柱・梁には大断面集成材(LVL材)を採用し、外壁は杉板張りとし、内装材には木板を多用し、ちりざくら・すぎ・からまつ等々と樹種を変えた板壁が、各学年に独自の空間を作り出している。内装の木質空間で全体の統一感を演出し、木質空間と、変化に富んだ空間構成によって、空気と光が通り抜ける、開放的で気持ちのよい環境の創造を図り、更に、地域を含めた交流を自然に促すフィールドを形成しており、総じて≪地域文化のコア≫となることを、緩やかな南斜面の地に織り込んでいる。
よって、本作品は、周囲の景観に調和し、意匠性、独創性に優れている建築作品であると考え、ここに中国建築文化賞の「デザイン部門」の作品として相応しいものと判断する。

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山口田辺製薬㈱厚生棟(デザイン部門 所在地:山口県小野田市) 

受賞者:柿本忠則(㈱竹中工務店広島支店)

本建築作品は、JR小野田駅から東南へ車で10分程度の田園に民家が点在する牧歌的風景の中に位置し、工場構内という条件のなか、地域に開放された厚生棟として計画された。一枚の大きな壁が印象的な、地上2階建、延べ床面積1,398㎡の、鉄骨造を主とし、一部鉄筋コンクリート造の建物で、竣工は平成15年8月である。1階は大きなホールを抱えたエントランス、ラウンジ、食堂スペース、厨房、2階は集会スペースと諸室による構成となっている。
計画において、とりわけ目を惹く、敷地を東西に貫き、建物空間を南北に切り分ける「壁」は、空間構成上で重要な構造でありながら、敷地環境と周辺との調和、施設のプログラムを整理するための壁であり、なおかつ、地域の象徴として、シャープさと明快さを建物に与えている。この壁は、エントランスや階段を大きく開放性の高いものとする一方、閉ざされた厨房や設備スペースのボリュームを対比的に付随させることで、この壁の機能と意味はさらに拡張され、細部に至る各部マテリアルの選択にまで及び、更に、そうした一枚の壁と、自然・眺望への配慮からのガラスのファサードによる≪シンプルで開放的≫な建物の構成、等々により、製薬会社のクリーンなイメージが徹底して表現されている。その壁の北側は、1階に食堂スペース、2階に集会スペースが配され、北側の牧歌的風景への眺望に対して十分に配慮している。
こうした主要居室の北側配置による熱負荷の低減や、フラットフロア、バリアフリーへの考慮など、熱負荷、環境負荷の低減を掲げる田辺製薬の企業方針や、人を問わず多くの利用者に配慮した計画も、注目すべき点である。
総じて、単純な空間構成と簡素な素材で、自然・周辺環境と生産施設群との呼応を表現し、施設内・外の利用者に対して、心地よさと、新たな活力を提供する建物であることが追求されているとみられる。
更に、敷地環境においては、壁の南側をアプローチとし、北側では川沿いの桜並木など、周囲のコンテクストに配慮しつつ、丁寧な環境計画がなされ、壁によって南北に二分された施設の地域開放とあわせて、新たな街並みの形成に一役買っている。ここでも、壁の存在が大きな意味をもっていることに気づき、優れたデザインであることを認識するのである。
よって、本作品は、周囲の景観に調和し、意匠性、独創性に優れている建築作品であると考え、ここに中国建築文化賞の「デザイン部門」の作品として相応しいものと判断する。


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●19年度審査員(敬称略・50音順)
折見保則・中村安弘・松尾 彰・村重保則・森保洋之

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