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日本建築学会 中国支部

AIJ, Chugoku Branch

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●第3回受賞作品(平成18年度)
<デザイン部門>

帝釈峡まほろばの里整備事業博物施設(時悠館)(所在地:庄原市東城町)

受賞者:谷口和郎(フジ総合企画設計)
 本建築作品は、比婆道後帝釈国定公園の活性化と上帝釈に多く存在する遺跡や古墳の文化施設を活用し、東城町資料館の再建を核とした体験・宿泊型レクリエーション施設『古代人の里』の中心施設として、平成15年3月に整備された博物施設『時悠館』であり、地上1階、地下2階、延べ床面積約1、567㎡、鉄筋コンクリート造の建物である。計画にあたり、自然に恵まれた魅力ある環境を極力壊さないように配慮し、周囲の樹木の伐採も最小限に留めるように心がけ、また、現地で生産または産出する木材(杉材)や石灰岩を積極的に建物の覆いとして使用(杉材の場合、防腐剤を注入して使用)することで、地域へのなじみを強めるように心がけている点が注目される。また、地区の特性でもあるカルスト地形の一つの擂鉢(すりばち)状の窪地『ドリーネ』に模して建物をシンクさせることで、威圧的になることを避け、また、地下部分からのトンネルにて人々を導くことで、敷地形状を活かした計画とすることを意図し、相当程度、効果あるものとなっている。つまり、石室の入口のような地下からのアプローチが古代へと誘い、そのトンネルを抜けると、「岩陰遺跡の証言」のスペース、そしてそれを抜けると中庭が開けて竪穴住居があり、古代の帝釈峡の世界が広がるという構成で、竪穴住居のイメージを施設の中心に配置することで、回廊または展示室から常に古代を意識することを可能にしている。そして、古代から現代の接点である“その回廊の周り”には、「遺跡の窓」、「古代生活の広場」、「自然の窓」「民俗の窓」等々の各展示スペースが連続し、それらを通して、人類の魅力あふれる未来の“光”の空間、つまり『時空』スパイラルと、円盤形のドリーネを重ねたイメージから、建物全体の空間形式を表現することを意図しており、この点も相当程度、成功しているものといえる。
 以上のことから、本作品は、周囲の景観に調和し、意匠性、独創性に優れている建築作品であると考え、ここに中国建築文化賞の「デザイン部門」の作品として相応しいものと判断した。

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廿日市市総合健康福祉センターあいプラザ(所在地:廿日市市新宮)

受賞者:㈱塩見
 本建築作品は、廿日市域のほぼ中央部の交通利便な所に位置し、廿日市庁舎・文化ホールから国道を挟んで近接しており、隣地に公園がある敷地特性を利用し、公園と一体的に機能させるため、公園の機能を建物内部まで取り入れたロビー空間とし、さらに、文化ホールの外観については、柔らかい曲線を用い、この地域の核としてのシンボル性を演出しながら周囲環境への調和に考慮するなど、地域性・周囲環境への調和性、そのものをデザインのテーマとしている点が特徴である。平成14年1月に整備され、用途は、総合健康福祉センター、休日・夜間急患診療所であり、地上3階、地下1階、屋上1階、延べ床面積約8、353㎡、鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造の建物である。
 意匠性・独創性については、複合医療福祉施設という建物の特性を活かすため、『建物自体をサイン化し、スマートな形で分かり易く誘導ができるデザイン』をテーマとしている。隣地の公園に対しては、高さ約13m、長さ約60mの立体カーテンウォールを採用し、公園側の雰囲気を内部に誘導させ、地域に対して開かれた施設としている。さらに、前面道路に対しては、形態を円塔状にて特徴づけ、1階部分を完全開放できる円形カーテンウォール、最上部にはガルバリウム鋼板を使用した円形屋根を採用し、シンボル性に配慮していること、国道2号線に対しては、高さ約11m、延べ長さ約100mのコンクリート打放し面を表わし、避難バルコニーと避難スロープをスマートに表現していること、また、空調・換気用のガラリをバルコニーの天井に配置させて建築と一体化させていること、建物内部は高齢者や視覚障害者を分かり易く誘導するため、受付カウンター上・エレベーター・2階天井などポイントになる部分にカラフルな色彩を施していること、各種のバリアフリーへの考慮や、地域防災拠点性も有している建物であること、等々が特徴といえる。
 建築文化性に関連する事項については、複合医療福祉施設でありながら、商業施設的要素を取り入れたことにより、外部に対して開放的でありながら、一方、内部には豊かな空間を表現しようとしていること、周辺に調和しながら永く愛される施設を目指し、普遍的な形状を採用しながら現代的な表現を目指したこと、用途・構造は共に多様で、各種の材料や建築設備、また消防設備が複雑に絡み合う中で、スマートでかつ豊かな表現の可能性を追求したこと、外部に対しては一切設備機器の存在を感じさせない建物を実現していること、等々が特徴といえる。
 よって、本作品は周囲の景観に調和し、意匠性、独創性に優れている建築作品であると考え、ここに中国建築文化賞の「デザイン部門」の作品として相応しいものと判断した。

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<環境部門>

鳥取県衛生環境研究所(所在地:鳥取県東伯郡羽合町) 

受賞者:久米・桑本設計共同体
 本建築作品は、平成14年7月にその前身である鳥取県衛生研究所が鳥取県衛生環境研究所と名称変更を行うと共に、鳥取市松並町から東伯郡湯梨浜町南谷へ新築・移転をしたものである。当該研究所は、環境と県民の健康を守るために設置され、鳥取県の衛生・環境分野での科学的・技術的中核機関としての諸業務を行うと共に県民に開かれた研究所をめざしている。このような研究所の性格から、建築にあたっては多くの環境負荷低減のための手法や工夫が行われている。採用されている環境負荷低減の手法は大別して、長寿命、自然共生、省資源・循環、継承、省エネルギーに分けられている。これらを異なる切り口から見ると次のようである。建築材料の観点からは、耐久性の高い材料の使用、更新の容易な地域材の使用、環境負荷の小さいエコマテリアルの使用、環境影響の懸念される材料使用の回避、地域生産品・廃材の建築への使用および再利用・再生利用が部位に応じて採用されている。建築構法および工法の観点からは、維持保全がしやすい構法、変化に対応する柔軟な構法、伝統技術の使用、太陽光発電による庇、建設時のエネルギーの削減および残土の場内処理などが行われている。建築環境の観点からは、複層ガラス入り木製サッシ、自然通風ベンチレータ、屋上緑化および自然採光が採用され、建築設備の観点からはアンモニア冷凍機、アースチューブダクト、風車付き揚水ポンプ、地中熱を熱源としたヒートポンプ空調システム、明るさセンサー・人感センサー付き照明器具および太陽熱利用の温水供給システム等が採用されている。屋外空間に対しては、地元の植物による植裁、ビオトープ、リサイクル材による植裁ブロック、多様な生物のための多孔質空間および透水性のある土舗装等が採用されている。
 以上のように本建築作品は環境負荷低減の多くの手法を採用し、かつ独自の手法をも工夫しており、更にはこれらの手法を場内展示して県民を含む訪問者を啓蒙する努力をもしている。よって、中国建築文化賞に値すると認める。

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●18年度審査員(敬称略・50音順)
折見保則・篠原道正・僊石友秋・三浦賢治・森保洋之

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