制度概要
危険な空き家への対応/特定空家とは
- 特定空家1)とは(特定空家の定義)
以下のどれかの状態に該当する空家等のことを言います(写真1)。
①そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
②そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態 - 空き家が周囲に与える影響
家屋はその敷地を含めて所有者の財産であり、所有者の責任において使用・管理されるべきものですが、使用者(居住者)が不在で適切に管理されていない場合、風化等により隣接地や通行人に被害を与える恐れがあります。また、地震や台風等の災害時には倒壊等により被害が拡大する恐れがあります。さらに、敷地内に雑草や樹木が繁茂したり、小動物が繁殖したりして衛生環境が悪化する場合も周辺の居住者に影響を及ぼす恐れがあります。 - 特定空家と判断するのはどこ?
特定空家は国が判断基準としてガイドラインを示していますが、具体的には各自治体が独自に判定します。また、「特定空家等に対する措置」の判断の参考となる基準としては、①周辺の建築物や通行人等に対し悪影響をもたらすおそれがあるか否か、②悪影響の程度と危険等の切迫性が検討されます。 - 特定空家に対する措置の概要と手順2)
市町村長は、特定空家等の所有者等に対し、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう助言または指導、勧告及び命令することができます。その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないときまたは履行しても期限までに完了する見込みがないときは、法律に基づき「行政代執行」を実施できます。また、市町村長は所有者が確知できないときは、略式代執行を実施します。 - 行政代執行について
行政代執行は上述のように、助言または指導、勧告及び命令に従わない場合、所有者に代わって行政が建物の除却等を行うものです。建物の除却等に要した費用は、所有者が負担することになります。全国に事例はありますが、新潟県十日町市では、1968年(昭和43年)に建築された木造2階建ての住宅が積雪により屋根の一部が崩落し、積雪による建物の倒壊のおそれがあり、「著しく保安上危険」と判断され2017年(平成29年)1月に行政代執行が実施されています(国土交通省HP3)に掲載)。一方で、行政代執行に要した費用は所有者に請求されますが、費用が未回収となる問題も懸念されています。そのほか、管理不全空き家対策の課題と対策スキームについては学会論文として井出華樹・菊地吉信(2021)4)に全国調査の結果が紹介されています。
- 特定空家除却後の税負担の上昇について
写真2 空き家除却後の跡地イメージ
(樋口秀撮影)
空き家の除却が進まない原因として、所有者が建物を除却した場合、税金が上昇することが理由として指摘されています。一般に、土地、建物に課税されている固定資産税(全域)と都市計画税(主として市街化区域内または用途地域内のみ)のうち、固定資産税の土地分については、住宅用途に使われている土地は地方税法の規定により「住宅用地の特例」が適用されて課税標準額が1/6に減額されています。そのため、住宅を除却した場合、この特例の適用がなくなるため負担する税金の額が上昇します(写真2)。いくつかの自治体では建物の除却を促進するため、一定期間この税負担の上昇を抑える工夫(制度)を用意しています。他都市に空き家がある場合、そちらの自治体でも支援策が用意されている場合もありますので調べてみてください。
例:佐賀県有田町 有田町老朽空き家の除却後の土地に係る固定資産税の減免措置要綱(2022.6.30閲覧)
新潟県見附市 見附市特定空家等の所在地に係る固定資産税等の減免に関する要綱(2022.6.30閲覧)
写真1 特定空家イメージ
(樋口秀撮影)
樋口 秀
参考文献
1)空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年11月27日法律第127号)(第2条)
2)国土交通省「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)
4)井出華樹・菊地吉信(2021),自治体による管理不全空家対策の課題と対策スキームの提案,日本建築学会技術報告集,第27巻,第66号,pp.1015-1020