研究・好事例
特定空家 略式代執行のケース
- 室蘭市における略式代執行
2018年9月6日に胆振東部地震が起き、4階建てのビルの外壁が道路側に崩落しました。確認調査により、そのビルはアスベストが含有していることも発覚しました。このビルが確認の取れない法人所有であることを市は昔から認識していたため、地震発生から13日後の9月19日には、庁内の会議で略式代執行の方針が決定されています。
- 所有者の特殊な状況
本件に関し市が参考とした先行自治体のケースは、法人の解散・閉鎖登記されている事例のみでした。このビルの所有者は登記上現存していますが、税部門では活動実態のない法人という特殊な事例でした。アスベスト除去のため迅速性が求められる中、このような状況は国や道の担当者を混乱させたようです。
- 高額な執行費と具体的な執行
最終的にアスベスト除去を含む解体費の合計は1億3800万円となりました。解体費補助費が2000万円、アスベスト除去費の補助が2500万円で、約2/3は室蘭市の持ち出しとなっています。土地や建物には抵当権も設定されていることもあり、議会承認の下に解体後の土地処分を市へ一任すること、抵当権者へは解体後に抵当権の放棄を求めることで、執行を進めました。
- 執行に対する議会などの対応
執行に関する予算承認に関し、議会からの反対などは無かったようです。皮肉にも「地震とアスベスト」という組み合わせが、スムーズな除去につながったと市の担当者は述べています。マスコミの他、他の自治体からも「高額な解体費用の内訳や回収見込み」などの問い合わせがあったようです。また、一部老朽化ビルの被害者からは、「公平性に欠ける」との声もあったようです。
- 略式代執行が生じないために
市の担当者に今後略式代執行を出さないための取り組みを聞きました。「略式代執行を出さないことは難しいと考えます。普段から空家特措法に従い、助言・指導・勧告などの行政指導を積み重ねるしかないです。正直、所有者の温度差も様々です。所有者不在になる前に対応を求めることが重要となるでしょう。」とのことでした。
市では、2019年までの通報空家の調査結果を示しています(表1)。残念ながら、926棟のうち4.3%となる40棟が「所有者・相続人不存」の略式代執行予備軍となっています。市では町内会らを主体に、助成率9/10の「老朽空家等活用支援助成事業」を用いて空き家を撤去するなどの方策も考えているようです。市民協働での取り組みが求められています。
以下で紹介するのは、室蘭市における略式代執行の事例です。やや特殊なケースではありますが、略式代執行が執行された経緯やその背景などを紹介します。
写真1 アスベスト含有の特定空家ビル
(室蘭市提供資料)
表1 通報空家の調査(室蘭市提供資料)
真境名 達哉