研究・好事例
特定空家 空き家が多く出現する自治体の取り組み
- 自治体における空き家の意味が異なる
空き家が問題と言われていますが、自治体毎でその問題の質が異なります。空き家が少ない自治体では、除去というよりは、予防への関心あるいは利活用への関心が高いことなどが考えられます。特措法制定後、国交省では「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」などの事業募集を行っていますが、申請内容を見ると、特定空家の認定や除去よりは利活用などに重点を置いた事業申請が増えているようです。 - 空き家が多く出現する自治体
一方、空き家を多く有する自治体では空き家の除去が主要な関心事になってきます。ここでは「空き家が多く出現する自治体」として室蘭市を事例に、行政の業務を見ます。2018年(平成30年)の住宅・土地統計調査では、市の空き家率は18.2%で、道内35市の中では元産炭地の市を除くと最も高い空き家率となっています。 - 空き家の実態調査
全国では平成26年の空家特措法以前に空家対策条例が制定されていますが、室蘭市は2013年に、北海道内の市では滝川市(2012年)に続いて2番目の早さで制定しており、空き家に対する危機感は早くからありました。空き家の実態調査は2015年に開始していますが、市内の全戸を現地調査するという方法を用いています。狙いは、空き家発生に関連する周辺環境などの要因把握もあったようです。このような現地に赴く調査方法は、空き家問題に関心が高い函館市でも重点地区を設けて行っています。 - 空き家除去と予防
これまでに室蘭市は行政代執行1回(2016年)、略式代執行1回(2020年)の実施経験を有しています。例えば、行政代執行後では費用の回収のため、納付命令や財産調査などの調査が必要となります。事務的な負担は極めて大きくなるため、所有者と連絡が取れる場合は迅速な除去依頼を行っています。切迫性が高いと認識される特定空家の除去に関しては、「老朽空家等活用支援助成事業」(図1)という事業を設け、その解体費の9/10(木造150万円上限など)を負担するなどの助成のメニューを用いて行っています。また予防に関しても、「空き家バンクの解体助成事業」の他に、2014年から市内の宅建協会等と協力し空き家活用を図ってきました。令和4年度からは空き家所有者へ売却の意向を確認後に、宅建協会等に紹介するなど、より積極的な事業の運用も行なっています。 - 課題解決への理想的な方策
空き家に関しては多難な経験を有する室蘭市に課題解決に向けた理想的な方策を尋ねてみました。以下の6点が指摘されました。
1.相続登記の義務化の徹底
2.相続放棄させない仕組みの構築
3.相続放棄の場合の解体費用予納などの仕組み構築
4.借地の場合の土地所有者による管理の義務化
5.代執行に先立つ「財産調査権」または「仮差押え」を可能とする法改正
6.大型空き建築物への国費率拡充
以上の方策には、一自治体の範疇を超えているも内容が含まれます。より良い事業の構築には国などとの協働が必要になると思われます。
図1 老朽空家等活用支援助成事業
(室蘭市提供資料)
真境名 達哉