研究・好事例
空き家活用 中山間地域の空き家活用 —岐阜県飛騨市種蔵集落の事例—
- 種蔵集落
種蔵(たねくら)集落は、岐阜県飛騨市の北部に位置する宮川町の中心を流れる宮川の支流に形成された段丘上に位置する山間集落です(図1,写真1)。1945年前後に住民によってつくられた棚田は2001(平成13)年に環境省のかおり風景100選に選定されています。
この地域は養蚕に加え、1877(明治10)年頃から戦後頃までは作馬(富山に馬を貸し出して秋に1頭につき米5俵を得るもの)が盛んに行われ、民家の屋根裏空間が作業場や敷草、飼料置き場として使用されたため、2層だけでなく3層の伝統的な民家が現存しています。また主屋を壊しても倉は壊すなという言い伝えもあり、かつて種籾の保存によって村民の命をつないだ板倉が大切に継承されています。現在では地域住民の高齢化もあり、伝統的民家の中にも空き家が見受けられるようになってきました。 - 空き家を活用した「板倉の宿 種蔵」
高齢化が進む中、伝統的な民家の保存活用、棚田の保全と地域の活性化に向けて、飛騨市は、国土交通省の住宅地区改良事業による空き家住宅活用事業(2005-2007(平成17-19)年)により「空家・空倉となった地域遺産を保全活用するとともに、集落内の景観を保全整備することにより、地域文化の結晶としての住環境の持続と対外的イメージアップが図られる1)」ことを目的に、近隣集落巣納谷の空き家及び3棟の板倉を買い取り移築しました。空き家はかつて養蚕や作馬で利用された三階部分の空間を残しながら二階建ての宿泊施設に、3棟の板倉は宿泊コテージとして改築され、2008(平成20)年に「板倉の宿種蔵」が開設されました(写真2,3,4)。
2007-2010(平成19-22)年には岐阜県まちづくり支援チーム・派遣制度2)を利用して料理メニューの研究や大学との協働により集落内に集落案内看板の設置が行われました(写真5)。
開設当初は集落住民と近隣住民が中心となり宿を運営していましたが、高齢化の影響もあり、現在は種蔵集落に魅せられた若い世代が宿を引き継いで運営しています。日本各地からの観光客だけでなく、日本の原風景が残っている集落としての魅力もあり、多くの外国人旅行者を受け入れています。種蔵集落では伝統的民家の空き家を活用した宿を起点として、行政と住民の協同により文化的景観の保全が進められています。
図1 種蔵集落の位置
写真1 種蔵集落
写真2 板倉の宿種蔵
写真3 板倉の宿種蔵 内部
写真4 板倉の宿種蔵 板倉の宿泊棟
写真5 集落案内看板
青柳 由佳
参考文献
2)岐阜県まちづくり支援チーム 飛騨市宮川町種蔵地区活動報告書,岐阜県,2010年3月
3)山中知彦,岡本祐輝:種蔵集落再生計画,日本建築学会建築雑誌作品選集,1602,pp.126-127,2010年3月