研究・好事例
空き家活用 長崎における離島の空き家 ―五島列島の例を基にー
- 長崎の島々
空き家対策の必要性が全国的に高まっています。中でも離島は過疎化やそれに伴う空き家が深刻となっています。長崎県は全国の6,852島の内14.2%に当たる971島(有人島:68)があり全国第1位です。大小あわせて152の島々から構成される五島列島は全島が長崎県に属し、大部分が西海国立公園に指定され、美しい海と豊かな自然に恵まれています。五島市は五島列島の南西部に位置し、最大の島(福江島)を有し、11の有人島と52の無人島から構成されており、中通島・若松島を主に有人島7島、無人島60島からなる新上五島町は五島列島の北東部にあります。離島であることから空き家問題が深刻化している一方で、ユニークな空き家活用も報告されていて、注目を集めている地域でもあります。
土地や文化の特徴や歴史的背景の特性を理解し、空き家対策をまちづくりに展開させていくために、2021年に五島列島において活動する民間団体と行政の施策の両面から、空き家の現状調査と分析、そして課題の把握を行いましたので、その内容を報告します。五島列島の中心的な存在の五島市、五島列島の別の行政区である新上五島町、特性を比較分析するために長崎県を代表する都市で県庁所在地でもある長崎市を対象としました。図1に長崎市、新上五島町、五島市を示します。
図1 五島市、新上五島町、長崎市
(南南西約70kmにある島嶼群(男女群島など)
も五島市に含まれる)表1 条例と空き家等対策、計画
- 法整備:条例と空き家対策計画
国の「空家等対策の推進に関する特別措置法」2014(平成26)年の前年に、五島市・新上五島町・長崎市は条例を制定しており、早期から取り組んできたことがわかります(表1)。また、「空家等対策の推進に関する特別措置法」第6条の規定による「空家等対策計画」は、五島市と長崎市は2016年策定と早期であり、新上五島町も2022年作成予定です。このように空き家に対する意識の高い3地方自治体は、空き家の活用や除却について独自の支援や助成を行い工夫しています。 - 独自の空き家除却方法
民間所有の空き家の土地や住宅を除却することは大変難しい課題であり、慎重な検討を要し、全国でも大きな問題となっています。空き家の管理は所有者の責任ですが、所有者が分からない空き家も多く存在します。「空家等対策の推進に関する特別措置法」により「行政代執行」が可能となりましたが、それが執り行われるのは、火事・倒壊・犯罪に利用される等の危険性が高く、緊急性を要すると判断された場合のみで、所有している空き家の管理者に、助言、指導、勧告、命令等、多くの手順や話し合いの結果行われる最終手段であり、ハードルが高いといえます。
長崎市では従来の補助金による空き家に対しての行政指導に加えて、2006 年より長崎市老朽危険空き家対策事業として、空き家の所有者は土地と建物を長崎市へ寄付し解体後の土地の維持管理は地域で行うことを条件に、公費による除去を行っています。跡地は、公共の空地・駐輪場・ゴミ置き場などに活用していて、所有者の費用の捻出が課題であることが多い除却に対して有効な手段になっています。新上五島町は「老朽危険空き家除却費補助事業」の他に、空き家関連法・条例によるものではない「地域整備事業地域活動支援事業補助金」を運用して除却を行っていることが特徴です。遠くに居住している所有者の除却費用の捻出が困難な場合、所有者の同意は必要ですが、地域住民の要望により費用の一部の補助をする制度であり、地域づくりの推進に視点を置いた支援になっています。五島市は除却に対して補助金制度は特に設けていません。五島市の行政ヒアリング調査では、「空き家等は個人の財産であり、管理・解体等について所有者の責任で実施しています。また、行政指導による解体実績など一定の効果が現れており、今後も行政指導の徹底による取り組みを進める考えであります。地域のコミュニティが健在で、所有者が地域に不在になっても地域住民が空き家のゴミ拾いや草むしりを行い、地域で空き家を管理している場所もあります。」ということで、地域コミュニティは空き家対策にも有効であることが、調査からも明らかとなり、その重要性を改めて認識することになりました。 - 空き家「民間による活用」の事例
五島市に移り住み、空き家を活用している4名はすべて県外出身者でした。こうした活動家のバックグランドも五島市の特徴の一つといえます(写真1)。インクルーシブな風土は、島外者を受け入れ共存してきた歴史的な背景に培われたものであり、県外の活動家を受け入れやすい土壌があります。新上五島町内では、空き家活用は全て居住用の住宅として使用されていて、質の高い建築物の事例が多く見受けられました(写真2)。 - 空き家の課題は地域特性の把握が重要
島々の数の多さに加え、毎年のように台風被害があり、常に行政区域内の空き家の数や状況などを把握することが困難となっています。「先祖の土地である」「仏壇がある」など、先祖を大切にする風土が、空き家バンクの登録、家を貸すことや売却、除却がすすまない大きな理由となっています。空き家の課題は、土地の特徴や歴史的背景があり多様です。地域によってどのような空き家が存在し、その対策はどのように行われているのか把握し、詳細に見ることが、今後、さらに求められてくるといえるでしょう。
写真1 五島市 古民家カフェT
写真2 新上五島町 古民家うどん店O
橋本 彼路子