研究・好事例
空き家活用 郊外に立地する市町村の空き家対策・活用を支援するNPOの取り組み
−NPOつくばハウジング研究会の事例−
- NPOによる取り組みの背景と目的
つくばハウジング研究会は、1993年より茨城県を中心に住まい・まちづくり活動を行い、市・大学・研究機関等と連携して、つくば方式マンションの実現、マンション建替え調査、土浦市・水戸市の中心市街地活性化、エクスプレス沿線戸建住宅地開発等を支援してきたNPOです。つくば市の空き家対策・活用を支援する取り組みは、2018年につくば市空き家活用シンポジウムにNPOメンバーが協力したことをきっかけに、スタートしました。
NPOメンバーは、これまで空き家活用を自ら実践または支援、さらにつくば市郊外の団地において住宅地の再生活動を支援してきた実績も持っています。これらの経験を活かし、自治体の取り組みを補完する目的で自治体と連携してNPOが空き家対策・活用に関する調査・研究・政策提案を行っています。 - 所有者に対する調査:相談会参加者へのアンケート調査及び相談内容の分析
多くの自治体で無料の空き家相談会が開催されているものの、単発開催に終わっており、その後のフォローはできていません。また相談内容の記録が残されているものの、空き家対策・活用には活かしきれていません。そこでNPOでは2014年(平成26年)〜2020年(令和2年)度の相談会記録資料215件の提供を得て、相談内容の傾向と特徴を分析しました。また2019年(令和元年)度には、これまでの相談会参加者に対して、その後の行動を把握するためのアンケート調査を実施しました(有効回答数51)。以上の調査・分析から、空き家相談の内容は以下の4つに分類されました。
① 現在居住中だが、将来的に空き家になる可能性があるので、対応について知りたい
② 所有者が老人ホーム等、施設入所中の空き家を売却・賃貸するにはどのような手続きが必要か知りたい
③ 未相続で相続人が複数いるが、手続き・相続手続き完了後の対応を知りたい
④ 空き家期間が長く、管理不全空き家であり、必要な手続き・費用を知りたい
① 〜④の順に緊急性が高く、特に③・④は市街化調整区域に立地する集落の空き家が多く含まれています。
また、アンケート結果より、相談会参加後の行動として以下の特徴が見られました。
・ 市街化調整区域の中でも旧宅団地(1973年(昭和48年)末の線引き前に申請)の空き家は6割以上が相談会により解決しており、相談会参加後に解体または売却の行動に移っている。
・ 市街化調整区域に立地する集落の空き家は、解決は2割に留まっており、参加後の行動は解体と売却が4割を占めるものの、約半数が具体的な行動に移行できていない。
この結果から、特に市街化調整区域に立地する集落の空き家について相談会後のフォローアップが求められます。 - 活用者・需要者に対する調査:郊外での空き家の活用モデル(解決策)の提示
市町村の空き家対策担当部署は、環境・防災系や建築等さまざまですが、空き家活用を専門とした部署はないため、活用に向けた取り組みが進んでいないと考えられます。そこでNPOでは活用モデルを提示するなど、活用に向けたサポートを行なっています。
2020年(令和2年)度はつくば市とその近隣市町村にて空き家活用団体の調査を行い、特に市街化調整区域での活用における課題を捉えました。加えて、つくば市内の市民団体へのアンケート調査(55/115団体が回答)により、福祉や市民活動拠点として空き家を活用することへのニーズが一定数あることを把握し、これらを踏まえてつくば市へ活用策を提案しています。 - 社会実験:郊外戸建住宅地における活用支援策の社会実験
多くの市町村で空き家バンクが取り組まれていますが、特に不動産業が活発な地域でバンクへの空き家登録が進んでいないという課題があります。また前述した通り市街化調整区域での空き家活用が進まないという課題もあります。NPOでは、2020年(令和2年)度国交省「空き家対策の担い手強化・連携モデル事業」にて、以下の2つの社会実験を実施しました。
①2敷地合体・敷地拡大に向けた支援策とその試行実験(1事例実現)
②つくば市空き家バンク登録の推進策として「空き家バンク登録者にホームインスペクション補助」(3事例実現) - 今後は市街化調整区域の規制緩和や需要者側とのマッチングを検討
市町村の空き家対策・活用においては、相談会の開催や空き家バンクの開設等が行われており、市街化区域においては一定の成果が得られていると考えられます。一方で、市街化調整区域においては空き家活用を阻害する要因が様々あり、現状の施策だけでは十分とは言えず、属人性や所有を原則とする規制の緩和を含む政策を検討する必要があると考えます。
今後は、自治体のみならず、地域の不動産事業者とも連携を図り、所有者のみならず市民団体など需要者側への情報発信、マッチングも進めたいと考えています。
写真1 活用事例
市街化調整区域の空き家を活用し、
障がい者就労の場として野菜販売や
地域住民の居場所運営を進める
写真2 社会実験事例
2敷地合体・敷地拡大に向けた
支援策を適用した空き家
写真3 社会実験事例
ホームインスペクション補助により
バンク登録された空き家
山本 幸子
参考文献
2) 郊外地域での空き家活用の推進方法(暫定版),つくばハウジング研究会
3) 梅本舞子・褚秋霞・小林秀樹:茨城県と近郊市町村での空き家活用の実態 地方郊外部での空き家の活用促進に関する研究 その1,日本建築学会大会学術講演梗概集pp.203-204,2021.7
4) 褚秋霞・梅本舞子・小林秀樹:市民活動における空き家の活用可能性の検証 地方郊外部での空き家の活用促進に関する研究その2,日本建築学会大会学術講演梗概集pp.205-206,2021.7
5) 山本幸子・藤本秀一・小林秀樹:自治体による空き家相談会の効果と課題 −つくば市を対象として−,日本建築学会大会学術講演梗概集pp.207-208,2021.7
6) 温井達也・王尾和寿・花里俊廣・褚秋霞・藤本秀一:郊外地域における社会実験による空き家活用支援方策の評価,日本建築学会大会学術講演梗概集pp.209-210,2021.7