研究・好事例
空き家活用 大学が取り組む空き家利活用 —地域の資源に—
- 空き家利活用の課題
空き家の予防には、利活用を進めるということも必要です。しかし、難しさもあります。その理由を不動産制度から見ると、第一に、空き家を利用したくても空き家の所有者が判明できない場合があります。登記簿には不動産の所有者等が記載されることになりますが、それを見ても真の所有者が判断できないことがあります。これは、不動産の登記は、建物の物理的な状態を示す表示登記は義務ですが、所有者が変わった際の所有権の移転登記は義務ではなかったためです。第二に、空き家に関する建物の履歴情報がないことがあります。つまり、どのようにつくられ、どのように維持管理されているのかなどの性能を判断できるものがないため、利活用しにくいということです。第三に、空き家を取り引きすることに不動産業者のモチベーションが低いことがあります。空き家は、所有者の特定等に手間・暇がかかります。また、所有者がなかなか意思決定をしてくれず、また取引価格も低くなります。日本では不動産業者の仲介手数料は、取引価格に応じて上限があるため、積極的に関与したくない状況にあります。第四に、空き家の利活用には、建物の状態を把握し、利活用のプランの提案をはじめ、総合的なコーディネート能力が求められますが、そうした人材は多くはいません。第五に、借家・借地の権利関係の清算が難しいことなどもあります。 - 大学が取り組む空き家利活用
こうした状況の中で、大学が地域に根付き、地域と、産官学で空き家を利活用する事例がみられます。COC事業 で地域貢献への期待が高まった2013年ごろから、大学学生らによる空き家利活用の取り組みが見られます。空き家の実態調査、利用プランの提案、運営など、取り組み内容やかかわり方、主体の構成の仕方は様々です。空き家を利活用している大学の取り組みが約40事例把握でき(2021年現在)、うち約7割で、空き家の改修・運営を学生が行っています。学生用シェアハウス、地域拠点などにする例が多く、課題として人材不足、費用の確保、専門知識の不足、持続の継続性などがあります。また、学生発意から地域主体の運営へと発展している事例もあり、地域活性化に寄与しています。 - 横浜市立大学の取り組み事例Ⅰ(授業での取り組み)
横浜市立大学では、学生が授業(まちづくり実習Ⅱ、国際総合科学部国際都市学系まちづくりコース3年生の前期の後半(約50日間)期間で行う授業)として取り組んできました(図1)。学生の提案したプランに基づいて、実際に、民間不動産業者が空き家をリノベーション(大規模改修)し、国際交流型シェアハウスが生まれました。本事例では、日本人と外国人8名が共に暮らす場となっています。授業には、区役所・市役所、民間不動産会社、地域住民が一緒に参加し、空き家探しから空き家を取り巻く制度、実態などを学びます。対象地区の見学、空き家探し、空き家を改修した例の見学や空き家を取り巻く環境などについての講義(ブルースタジオの大島氏、東京R不動産の吉里氏、リクルートの池本氏等)、空き家の実測や所有者の意向調査、近隣住民への聞き取り調査などを行いました(写真1)。中間発表や最終発表会には、上記の産官学+地域のメンバーが参加し、多様な質問を学生に行います。産官学が連携することで、大学だけではない取り組みが可能となりました。民間企業は専門的な対応、費用負担を、行政は地域とのパイプ役にとなり、学生は生の現場で多くを学び、学生のアイデアが実現しています。
- 対象地区の地域分析
- 空き家探し(設定されたエリアで空き家探し、マップづくり)
- 暮らし、家族像、ライフスタイル、ライフステージ、趣味を想定した、空き家を使っての新たな暮らし、まちの再生のプランづくり
- すまいのプラン リノベーションプランの作成
- 空き家の運営の仕組み(所有と管理・経営方法)の設定
賃貸の場合:スケルトン賃貸 DIY型賃貸借も可能に、修繕やリフォームの所有者・居住者の責任範囲、トラブル予防のための契約の内容等。家賃の設定:インフィル整備費のコスト計算と費用負担者 需要予測・市場調査等 - コスト・プライス計算:賃貸でリノベーションして貸出す際のコスト回収は6年をめどに
販売の場合:例えば、買い取り再販の場合は、価格の妥当性を示す。 - 事業のスキーム:事業主体。その時の地域、大学、区、市、民間企業等の役割
- 事業性の成立(ビジネスとして成立すること)
- マーケットリサーチ、募集方法:だれをターゲットにしたプランか。利用希望者がどれだけいるのかをアンケート調査などで証明する。また、具体的な広報方法とプランの提示。
- 使う住宅、空き家の状態
- まわりの施設調査、魅力調査、地域活動調査、人口増減・構成等データー分析と現地調査
- 地域の法規制 用途地域、条例、地区計画・建築協定等
- 地域とその空き家のSW0T分析
- 市場調査:家賃の相場、中古売買価格の相場調調査結果(価格設定の妥当性)
- 参考とした事例:国内、海外事例
- リノベーションプランの計算:プライスとコストの計算等
- マーケット分析 本当にそんな需要があるのか 市場調査
- その他(募集のパンフレットやHPなどの提示)
図-1 ヨコイチ空き家利活用プロジェクト(実習課題の内容)
写真2 空き家の改修風景(1)
撮影:齊藤ゼミ - 横浜市立大学の取り組み事例Ⅱ
空き家利活用の取組みは大学のゼミやサークル活動として全国多々でみられます。横浜市立大学齊藤広子(不動産マネジメント)ゼミでは、空き家を地域から無料で借り、学生がDIYで改修し、地域の人が利用する拠点を創ってきました(写真2、写真3)。活動は大学内にとどまらず、地域の専門家による指導、他大学の学生の参加、地域の学校からの見学など、空き家を通じて、地域と学生だけでなく、多様な交流の場と機会があります。地域への貸し出しや多様なイベントを行ってきました。 - 空き家は地域資源
空き家は地域にとって迷惑にも、魅力にもなれます。利活用には、地域の多様なメンバーが連携し、課題を乗り越えることです。そうすれば、空き家は地域の資源となっていきます。
写真1 空き家を使った実習(実測)
撮影:齊藤ゼミ
写真3 空き家の改修風景(2)
撮影:齊藤ゼミ
齊藤 広子