研究・好事例
空き家活用 団地再生と空き家対策
- 団地の空き家
日本の団地はその多くが築後50年程度を越えてきています。今後、建替えが選択されない団地では、団地全体で粛々と計画修繕が進められながら、住戸内では所有者が自身の責任でリフォームや補修を行い住み続けることになります。あるいは、通勤通学、日常生活の利便性、最新マンションのハイグレードな設備機器のスペックを求めて自分の団地を出て、都心の超高層マンションや駅近の新築マンションに移り住んでいきます。
最新マンションの設備機器に対し、築後年数が経過した団地のそれは相当に劣っており、若い世代にとっては魅力が乏しく写ります。そのため、団地の住戸はなかなか売れませんし、貸すことが難しくなっています。駅から遠い団地、エレベータがない団地では空き家が多くなっています。団地の空き家は、一つの団地での絶対数が大きくなるので、管理上の障害になるだけでなく、団地の活性の低下、防犯上の問題につながってしまいます。
団地には、分譲団地と賃貸団地の2種類があって、それぞれ空き家の問題が異なります。分譲団地は、当時日本住宅公団等が分譲した団地で、賃貸団地は、UR(都市再生機構)、公社、公共団体が管理している団地です。賃貸団地は、管理者がいますので、空き家にならないように入居促進が図られていますが、分譲団地では空き家対策がなかなか進みません(図1)。その理由は、空き家は、個々の区分所有者の責任問題や個人資産であることから、管理問題ではないと判断する管理組合が多いことです。 - 団地での入居促進の取り組み
ここでは、いくつかの団地の入居促進の取り組みをみていきます。まず、UR(都市再生機構)の取り組みです。URは昭和40年代に供給された団地の住戸を約30万戸も管理しています。そのURは、比較的に需要が見込める団地において、暮らしに関するさまざまな商品を展開しているMUJI、IKEA、東急ハンズなどとの連携によってオシャレなインテリアを提供しています。それらが人気で、すぐに入居者がみつかっています。
公営団地でも面白い取り組みがあります。市営基町団地(広島)、県営明舞団地(兵庫)などでの「学生に住んでもらう」取り組みです。団地で学生居住を進めることには、高齢化した団地の若返り、団地での学生の関わりへの期待があります。たとえば、基町団地での学生の入居条件としては、家賃を据え置く替わりに、基町住宅地区の活性化等を題材とする卒業論文や修士論文を執筆すること、自治会に加入しその活動等に参加したり、団地の課題を解決するような実践したりすること、などがあります。
最後に分譲団地での取り組みです。先に分譲団地では空き家対策が進まないと書きましたが、一部の先進的な管理組合のある団地では、取り組みが進んでいるところもあります。千葉市の稲毛海岸三丁目住宅団地では、民間企業、地元のNPOと三者で協定を結び、空き家住宅の流通に取り組んでいます(写真1)。
- さらにエリア全体での取り組みへ
ここまでみてきた取り組みは、団地の住戸に住んでもらうためのものでした。さらに、住団地全体、そして団地の周辺を含めたスケールで考えていくことも大切です。住戸をオシャレにしただけでは、団地に長く住み続けようと思う気持ちも途中で途切れてしまうかもしれません。
それは、団地には、空き家に限らず、さまざまな課題があるためです。日々の生活や暮らしの快適性や利便性という視点からみると、団地住民のそれらは、自らの住戸や団地内で完結するものではなくて、周辺地域一体のエリアに広がっています。そのため、団地の課題解決は住戸、団地、その周辺の都市、福祉、経済、教育など多くの分野の取り組みとの連携と包括性が必要になります。そのため、団地の空き家を解消し住宅地として再生するだけでなく、魅力があり誰もが住みたいと思う街づくりをしようとする発想が求められています。
図1 管理組合としての空き家対策(鈴木雅之作成)
写真1 分譲団地のDIY可能エコリノベ
(ちば地域再生リサーチプロデュース)
写真提供 NPO法人法ちば地域再生リサーチ
鈴木 雅之