研究・好事例
空き地 復興で生まれる新しい空き地
- 復興事業後の空き地の状況
東日本大震災から10年以上経過し、宮城県と岩手県では主な復興事業はほぼ完了しています。居住地整備として移転先になる住宅団地の造成や土地区画整理事業が多くの自治体で実施されましたが、新聞等で報道されているように未利用の空き地も多く点在しています。特に土地区画整理事業区域では未利用のまま売地となっている土地も多いです。 - なぜ空き地が生まれるのか
復興事業の場合、住宅再建の意向調査を行いながら計画内容を精査していきます。それにも関わらず、多くの空き地が発生するのは様々な理由があります。
一つ目は長期化の影響です。計画を策定してから敷地が整備されるまでに3〜5年が経過します。また、被災地では同じ時期に住宅の再建が始まるため、工務店や住宅メーカーを契約してから1年以上の月日を必要とすることもあります。さらに資材不足や大工さんの不足から費用が高騰し、住宅再建に予想以上の費用が必要になります。年月の経過と費用の高騰から再建を諦める人が多くいます。
二つ目は制度の影響です。災害危険区域に指定されると建物の用途と構造が限定されます。被災を機に商業を辞めても、住宅以外の土地は買い取り対象にならないため、土地は残ったまま、別の場所に住宅を再建する場合があります。また、漁村の場合には漁業用地として移転元地を買い取ることがありますが、漁業関連以外の利用はできません。
その他にも要因は様々ですが、それらを考慮して計画しても新しい空き地が生まれてしまうことがあります。 - 空き地利用に向けた取り組み
自治体も空き地をそのままにしているわけではありません。移転先として新しく造成した宅地は被災者の住宅再建が基本ですが、一定期間経過後には被災者以外で住宅建設を希望する人の募集も行っています。
また、防災集団移転促進事業の買収により公有地と民有地が混在している移転元地では、土地区画整理事業を利用して企業誘致をしやすいように公有地の集約化を図ることもしています。さらに、土地区画整理事業により嵩上げ整備した区域では、商業施設の誘致、集積を図りつつ、新しく移住してきた人が土地購入、住宅建設を支援する補助も行っています。 土地の利活用に向けた取り組みとして、情報を収集・発信し、希望者に紹介する試みが行われています。 復興庁のHPには被災市街地の土地活用の様々なモデルが紹介されています1)。 - 災害危険区域の建築制限
災害危険区域に指定されると、住宅が全く建てられなくなるということではありません。東日本大震災からの復興でも災害危険区域を指定した自治体は多いですが、多くは災害危険区域を想定される浸水深などで種別し、構造や高さを指定することで居住可能とする区域を設けています。
例えば、岩手県山田町では3種類の区域指定をし、第2種区域と第3種区域では、構造方法などの基準を満たすことで、住まいとして利用する住宅の建設を可能としています2)。また、宮城県東松島市も同じように第2種、第3種区域では構造や階数など要件を満たした場合には住居の用とする建物の建設を可能としています3)。
しかし、一般住宅で要件を満たすことは建設費も高くなることから、なかなか再建が進まないのが実際です。 - 復興による空き地発生を防ぐには?
災害復興ではスピードが求められます。その一方で、土木事業は長期にわたることから、計画の変更も想定されています。しかし、被災者一人一人がいつ、どこで再建するかは自由で、予想以上の意向変化が生じることもあります。造成工事に着工した後の計画変更には限度があるので、空き地の発生を無くすことは難しいのです。
しかしながら、復興後のまちの姿を住民主体で合意形成した地区や地域住民が主体的に活用を図った地区では移転元地の活用が見られます4)。やはり、普段からのまちづくりが重要になります。
また、土地利用を限定してしまうと利活用が難しくなります。緩やかに利活用に取り組みながら、将来の利活用を検討していくことも大事かもしれません。
写真1 土地区画整理事業後の土地利用状況
(上:陸前高田市、下:大槌町)
三宅 諭