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特定優良賃貸住宅の現状と課題 |
本稿は(社)日本住宅協会発行「住宅」1996年8月号に掲載された、1996年2月21日建築会館にて開催の、建築学会関東支部住宅問題専門研究委員会主催による標記シンポジウムの記録である。
パネリスト | : | 笹井俊克(建設省住宅局住宅整備課建設専門官) |
鈴木勝(目黒区住宅課) | ||
矢野文雄(内野建設営業部) | ||
報告者 | : | 松本暢子(大妻女子大学社会情報学部・学会住宅問題部会委員) |
海老塚良吉(住宅都市整備公団・学会住宅問題部会委員) | ||
発言者・質間者 | : | 平和稔史(杉並区都市整備部) |
A(東京都23区職員) | ||
B(東京都23区職員) | ||
司 会 | : | 前田昭彦(都留文科大学社会学科・学会住宅問題部会委員) |
※発言を収録した方のみ 所属・肩書きは当時のもの。 住宅問題部会は、現在住宅問題専門研究委員会と改称。 |
特定優良賃貸住宅(特優賃)というのは、平成5年度からスタートした制度ですが、優良な民間賃貸住宅ストックをたくさん蓄積していくという目的の下にスタートした非常に注目すべき制度だと考えます。
創設してから3年ぐらいたち、実績が出てきており、どんなところに問題があるのかを考える時期に来ていると思います。住宅問題部会でもこういうシンポジウムを企画しようということになりました。
今回、パネリストとしてお話しいただく方を3人お呼びしております。最初に、建設省住宅整備課専門官の笹井俊克さんから、今後の住宅政策における特優賃の位置づけということで、国の立場からのお話をしていただきます。
ご紹介いただきました笹井でございます。住宅整備課というところにおりますが、これは公営住宅、特優賃の供給などについて担当しています。そのなかで私は実施関係を担当しています。
特優賃について、全国的な状況と国から見た特優賃の位置づけについてご説明させていただきます。
概ねの制度をご存じだという前提で今日のシンポジウムは運営されるということですので、これについての説明は省略させていただきます。もし疑問点がありましたら、その時点でご説明することにさせていただきます。
最初に供給動向ですが、7年度は全国で約4万戸の供給予定となっています。私どもがこの供給予定を把握するときには、基本的には特優賃法(特定優良賃貸住宅供給促進法)の「供給計画の認定」で「供給」といっていますので、場合によっては着工は翌年度にずれるものもあります。
7年度は4万戸ですが、若干注意が必要です。兵庫県の供給戸数は、1万3700戸と非常に多くなっていますが、阪神・淡路大震災の被災者向けとして計画している戸数です。したがって、震災がなければこのように増えない。だいたい兵庫県は平年だと2000戸程度です。大阪にもこれと同様に500戸分が大阪府内の被災者のための供給予定として入っています。こうした点が7年度で注意を要するところです。
この4万戸ですが、特優賃についてはもともと前身の制度があります。すなわち予算制度で「地域特賃」(地域特別賃貸住宅制度)というのが昭和61年度に作られました、概ねそれと似たような制度ですが、一層的確な推進を図るために平成5年に「特優賃法」ができました。最近、公共団体の方々の認知も深まったということで、急速に戸数が伸びてきています。5年度は約1万9000戸、6年度が2万6000戸、7年度は先ほど言った阪神・淡路の問題があって複雑ですが、いちおう4万戸ということになります。
住宅建設5カ年計画との関係でいくと、今年度に最終年度を迎える6期5カ年計画では、公営住宅等のうち5万戸が地域特賃、いまでいう特優賃の計画戸数でした。これに対して、7期の5カ年計画のなかでは20万5000戸としていまづ。公営住宅は20万4000戸ですので、ほぼ同戸数に位置づけており、重視しています。今後とも各公共団体において積極的な取り組みが行われると期待しているところです。
7年度の供給戸数の内訳を見ますと思いますが、建設主体別に公共団体主体(建設・購入)が3500戸、公社主体が3500戸、それから民間主体3万2400戸となっています。
公共団体や公社が建設・購入するタイプは、重点プロジェクトとして行われる場合がほとんどです。都心居住とか、過疎地の地方定住とか、大規模な公営住宅団地のソーシャルミックスとかですね。
さてこれらを戸数でみると民間建設が大部分です。本日のテーマも民間建設ということですので、以降はこちらのほうに焦点を当てます。
公共団体が借り上げるものが2300戸です。公社が借り上げまたは管理受託するものが1万5000戸、それから農協が2900戸、民間が約1万2000戸となっていて、7年度も公社管理型が最大となっています。ただし、6年度と同様に見ると、公社は約1万1000戸、民間が5900戸ということで、民間管理型のほうが伸びが大きいというのが特徴です。
一方、オーナーとの関係で借り上げと管理受託があります。3万2400戸のうち一括借り上げが約1万2800戸、管理受託が約1万9500戸となっています。6年度との比較でいうと、先ほど言った震災分があるために全国的には傾向がうまく言えませんが、大雑把にいうと、管理受託のほうが伸びているという状況です。
この理由を推測すると、民間法人、農協管理の戸数が伸びているためではないかと思います。これらでは受託方式が多いのですね。また公社自身も、最初は借り上げが多かったんですが、管理戸数が累増すると、空家リスクを回避するために受託方式に比重を移しつつあります。こうして管理受託が増えてきている傾向にあります。
供給計画の認定基準については、公共団体によって敷地面積、戸数、構造等のほかに、たとえば駐車台数の率とか、バリアフリーとかといった要件を加えている場合があります。補助についても、国のほうで建設費補助、家賃対策補助、利子補給という3点がありますが、それらの一部のメニューだけを使うとか、上乗せ補助をしたり、逆に一定の制限をしたりと様々になっています。
さらに地域の住宅事情を踏まえて認定基準を変えながら運用を行っているようです、特に住戸面積についてはばらつきがでています。国の対象が50平方メートル以上125平方メートル以下ですが、地域の事情に応じて、最低の方をもう少し高く定めている例が多くなっています。東京だと55平方メートル以上ですが、60とか、65とか、地域によっては70平方メートル以上というかたちになっているものもあります。
こうして6年度の実績は、全国平均で66平方メートルとなっていますが、面積分布としては60〜80平方メートル程度の住戸がほとんどです。東京都は、やはり大都市地域ということで、平均が63平方メートルとやや小さい水準です。
次に、国としてこの特優賃制度をどういう位置づけで動かしているのかということについてご説明します。特優賃の法律の第1条の目的には「中堅所得者等の居住の用に供する居住環境が良好な賃貸住宅の供給を促進するための措置を講ずることにより、優良な賃貸住宅の供給の拡大を図り、以て国民生活の安定と福祉の増進に寄与することを目的とする」とあります。
これを敷衍すると、法律を作った背景ということになりますが、ご承知のとおり、わが国の賃貸住宅ストックの状況はいまだに立ち遅れています。最低居住水準未満の世帯は全住宅平均でいうと1割を割っていますが、借家世帯で見るとまだ17%あります。
公営住宅については、大都市地域を中心として需要が根強いとか、最低居住水準未満の世帯率が21%とさらに高いことから、公営住宅の供給も引き続き重要ですが、一方、最低居住水準という話を見ても、最低居住水準未満のボリュームそのものでは民間賃貸住宅での戸数がいちばん多くなっています。
いままでどちらかというと政策の空白であった中堅所得層のファミリー向け住宅の不足が、そういう方々の居住水準の向上の障害となっているということを認識しています。
そうした場合に、これまでの公営住宅の経験でもあるように、公共による供給能力というのは限界があります。やはり効率的に、しかも迅速に供給していくためには、市場を活用して供給することが必要です。しかしながら、広くて良質な住宅を供給すれば、当然のことながら建設費が増加します。
一方、賃貸住宅市場の実体では、広くてコストが高くなったといっても、家賃に直接反映されない。したがって、オーナーのほうもむしろ小さめのものを造るという傾向があって、広くて良質な住宅を造るためには、供給促進のためのインセンティブが必要である。そのための施策を進めていこうというのが特優賃だということになります。
手段としては、建築主に対し建設費の一部を補助する。さらに管理のときも、入居者の確保が円滑に行われるように、家賃の減額補助を行う。そうしたなかで、ずっと低廉な家賃を維持するような家賃対策補助ができればいいわけですが、限りある税収の下では、公営住宅のように、いつまでも家賃助成を続けるわけにはいかない。したがって、家賃助成の幅を徐々に低減し、最終的には市場家賃になるようにする。本来マーケットの市場家賃で適正な住宅が供給されるはずですから、そちらのほうへ移行していってもらう。
究極的にはこういう良質ストックが市場に行き渡れば、その市場のなかで良質な住宅が市場をリードし、家賃にも反映される。そういう状況になることを期待する。そのために供給を進めていく。こういった位置づけです。したがって、特優賃は中堅所得層の家賃負担の軽減を主目的とした施策ではないというのが、一つの特徴です。
もう一つの特徴は、先ほども各地方公共団体の施策を見ていただいたように、地方公共団体が地域の住宅事情を踏まえて、独自の判断を加えながら事業を推進できるようになっています。行政全般として地方分権がいわれていますが、そういうものをいわば先取りしてできるだけシステムのなかに組み込んでいこうということを最初から考えた制度です。しかし一方では、必ずしも各地域の公共団体は住宅政策に熱心ではありません。いわば住宅政策をこれまで軽んじてきた居眠り公共団体の自覚をいかに覚ますか。これが運営の上で重要事項となっています。
特優賃の位置づけはこういうことですが、さらにトピック的に公営住宅との関係について触れさせていただきます。公営住宅については、昭和26年に法律ができて、現在ストックとしても全国200万戸を超えていますが、ただいま開かれている国会に抜本的な見直しのための法案の提出をしています。
改正内容はたくさんあって、ここで説明するとそれだけで時間がかかりますので省略しますが、特優賃との絡みでいうと、家賃について、従来はコストをべ一スにした限度額家賃から一定の政策的な減額をして、その家賃で提供してきましたが、今後は家賃をいったん市場なみというか、近隣相場の家賃で設定しつつ、入居者が支払う額はその範囲内で収入に応じてきめ細かく設定した、いわば応能家賃的な性格があります。それから面積や経過年数などを反映させますので、応益的要素も入ります。したがって、応能的、応益的な家賃体系に変えるという改正内容になっています。
また、入居階層については、特優賃制度の入居階層の下限が25%ですので、それと整合性を図る観点から、原則25%以下となっています。従来は33%以下が公営住宅階層といっています。しかし、現在のところ実態上はすでに名目値上ほぼ25%ぐ らいになっていますが、考え方としても25%のところで公営と特優賃階層を分けるといった考え方になっています。
これについては、公営住宅は従来低所得者対策という福祉施策と、地域によっては民間賃貸住宅の供給が足りないということで、供給の補完という二面性が混在していました。したがって、性格が暖味となっている面がありました。
その結果、高額所得者等が多数存在したり、また地域によっては収入オーバーの人をどうしても住宅がないからということで入れてしまう。これは違反ですが、そういう事件もたまにあったりということで、非効率的な面もありました。今後は、特優賃制度の存在を前提としながら、公営住宅の制度の効率化というか、必要なところに集中的に活用していこうと考えているところです。
この場合、公営住宅は、入居者の収入に応じて年々の補助が入りますが、特優賃についてはだんだんと家賃減額の幅が少なくなるということで、助成方式は非連続です。公営住宅の家賃体系の本格的な適用は平成10年度以降ですので、そういった実態を踏まえながら、公営住宅と特優賃についてどのような政策的な関係を作るかということは、さらに将来考えられていくのではないかと思います。
引き続いて自治体の立場から、目黒区の鈴木さんよろしくお願いいたします。
目黒区の鈴木です。私どもは、法律が平成5年に施行されて、平成5年11月からこの特優賃制度を活用しています。
法律の趣旨である良質な賃貸住宅の供給ということに加えて、定住化というものを加味した取り組みを進めています。
目黒区はいわゆる都内の山の手ゾーンというか、従来から住宅地として発展したところです。比較的都心に近くて便利で、幹線道路沿いでも一歩入って行けば静かな住宅地という比較的良好な住宅地のイメージがあります。用途地域でいうと住宅系が8割です。そういった地域特性があります。
しかしながら細かく見てみると、先ごろの恵比寿の再開発のような再開発地域、それから自由が丘という集客力のある町並み、また良好な一戸建てが建ち並ぶ地域、それから西部地域では特に木造賃貸住宅の密集地域があります。そういったいくつかの顔を持っているということになります。
区民の定住意向は高く、世論調査によるとだいたい常に90%以上となっていますが、人口は減少してきました。平成7年度10月では住民基本台帳で人口が23万6138人、世帯数で11万8098世帯です。1世帯当たり人数が2人で、こちらもだんだん減ってきました。人口のピークは昭和38年に30万人弱で、だんだん低減してきました。ここにきて、やや上向き傾向は出ています。
人口構成として30代、40代が最も多く、40代以前で全体の5割を占めていますが、この10年間の人口推移を見てみると、いま言った30代から40代前半の階層の人口の減少が特に著しい。また、14歳以下の子供さんの人口減少が多い。いわゆるファミリー層の減少が著しい。一方、増加傾向を見ると、65歳以上の高齢化が進んでいる。とくに世帯構成では、18歳未満の子供のいる世帯がこの10年間でも転出超過をしています。中堅層の危機的状況があるわけです。
住宅ストックとしては、だいたい6割が借家で、4割が持ち家です。これも、住宅統計調査で見ればそうなんですが、平成5年とその5年前、63年から比べるとやはり借家が増えている。同じように共同住宅も、この5年間で3%から4%増えているという状況です。
一方、居住水準を見ても、これは単なる平均ですが、一住宅当たりの延べ床面積では、持ち家の98.95平方メートルに比べて、借家がなんと37.41平方メートルとなっています。これも23区レベルでは平均以上ですが、やはり借家の居住水準というのはかなり低いという実態です。また、公団、都営、都民、区民、区営などの公的住宅は、目黒区は非常に少なくて、23区でも下から4番目です。
こうした住宅事情のなかで、区民に身近な自治体として何ができるかということで、住宅政策に取り組んでいます。平成4年には住宅の基本条例、5年には住宅マスタープランを策定して、そのなかで中堅ファミリー層の定住化を重点施策としていますが、中堅のファミリー層には住宅供給として直接建設型をやってきました。ところが、直接建設型でも現在まで2棟で10戸しかありません。やはり土地の確保がむずかしい。
土地代を加味すると非常に単価がアップしてしまう。一世帯当たりのコストを考えると、他の住民との均衡という意味から、直接建設型を推進していくのは困難であると考えていた。そこに特優賃制度が出てきましたので、活用を始めたという経緯です。
現在は直接建設型から借り上げ型住宅に主流が移行していますが、計算してみると、20年間のスパンで考えた場合、.直接建設型2棟の平均をとってみても、土地の購入費と建設費で、一世帯当たり・月当たりだいたい22万円ぐらいになります。棟によって若干違いますが。
もう少し詳しく言うと直接建設の場合、土地購入費、建設費は借金していますので、償還率を設定し20年間で返済したことを想定します。それによる歳出分から家賃収入と補助金収入を引いた残りが区の負担分となり、これが月・戸あたり22万円くらいなんですね。
ところが、借り上げ型の特徴賃制度を使うと、20年間の借り上げの場合、一世帯当たり約2万4000円ぐらいですむ。家賃対策補助のうち国と都の補助金を引いた区の平均負担額です。物件によってかなり違いそうですが、二つ、三つやってみた結果からの推測では極端には変わらないと考えています。
こうして借り上げ型は20年間という使用期間は限定されるけれども、直接建設型の11%のコストで供給ができる。ですから、住宅の確保という点では非常に大きなメリットがあります。
区では入居対象階層を収入分位25%一60%とし、6年度から実際に毎年30戸ずつ、10年までに150戸を供給していこうというかたちで進めています。
借り上げ型の事例を2例ご紹介したいと思います。
下目黒に3階建て10戸というのが昨年4月に完成しています。これは不動産屋さんが従来から住んでいて、昔は6畳一間の木造賃貸住宅のアパートだったものを、建て替えるにあたって特優賃制度を使ったものです。私どもの入居対象層は、25%から60%を対象としています。
オーナーさんなどに聞いてみると、礼金などは取れないけれども、20年間安定的に経営ができるということが、いちばんメリットが大きいようです。また、入居者に対する調査の手続きがなくていいとか、目先のことよりも土地の有効活用を図りたいというようなことを言っておられます。ただこのケースは法人ですが、個人の場合には相続の問題が発生したときにどうなるのかということも、問題点として若干お話をされていました。
次に上目黒の事例をご紹介します。9階建て16戸のものが現在建設中で、6月ごろには入居できるかと思っていますが、これはちょっとめずらしいケースです。3世帯の方々が共同で建て替えを行って特優賃を使ったというかたちです。昔から3世帯の方々が住んでいて、もともと商店街で木造住宅が老朽化して、これを何とか建て替えたいと考えていたところ、特優賃という制度にめぐりあった。
最初は共同化するつもりはなかったんですが、土地そのものが狭くて、結局は3世帯で共同化をした。この地域は木造賃貸住宅の総合整備地区であり、建設費補助そのものは木賃の事業で行って、家賃補助は特優賃の制度というかたちで、複合的な制度を活用したものです。
金融公庫を使っていて、もともとが自分の土地ではなくて借地でした。そんな意味から、金融公庫を借りるときの担保とかいろいろな問題で、実施までにはかなり時間がかかっています。
この方々に聞いても、家賃そのものは市場より低くなるけれども、20年間の家賃保証があるということは大きなメリットである、それから、入居者が自分で選べないという問題は、どちらにしても不動産屋に頼むのだからあまり影響はない、とおっしゃっています。
こうして共同建て替えをして、9階建ての7階から9階の部分は自分の住宅として住み、2階から6階までは特優賃の賃貸住宅、1階が店舗ということです。
しかしながら、このように特優賃の制度をやっていくなかで、課題として考えられることがいくっかあります。細かい課題はのちほどご質疑のなかでお答えするとしても、いちばん大きな問題は、将来の空家のリスクですね。当初入居者は家賃額から毎年5%ずつ上がっていくという制度です。例えば当初負担額が9万円の場合、20年目には23万円くらいになる。
たしかに当初は安くて入居者も入ります。右肩上がりの経済動向とか家賃動向であれば、入居者は必ず引き続き住み続けられる。しかし、現在のような状況が続いて右下がりになったときに、はたして20年後にいまの方々が住んでいるか。また、空家が出たときに入居者がいるのかどうか。やはりこのような不安を非常に抱えています。
空家が出ると、当然、私どもも補助金をそのままお支払いしていますので、区の負担、都の負担、国の負担としても、そのまま入居者がいないなかでお支払いしなければならないというリスクを背負っています。そういうことが一つの問題としてはあるのではないかと思います。
それを裏付けるような問題として、現在私どもは住宅の白書を作成しており、いままで借り上げ住宅に応募した方々にアンケートを取っています。区民住宅への居住意向がどれぐらいあるかというと、平均で12年しかない。20年以上住み続けたいという人が約18%です。15年未満の方々で約6割を占める。
最も驚いたことは、区民住宅に入居したばかりの方々に、5年未満しか居住意向がないという方が2%いる。ということは、空家をかなり想定しないといけないということです。
もう一つは、空家リスクを考えた場合、特優賃で入居していけば、何年か先は中古住宅になって、たとえば10年たったときにはかなり家賃が高くなる。一方、特優賃の制度は、新築のものは入居者負担額がかなり安い。このまま推移すると、中古のほうが5%すっ上がっていくので高くなって、新築の借り上げ住宅のほうが安くなっていく。そういった逆転現象が生じる可能性もあるのではないか。
さらに、マンションの分譲価格なども下がってきた場合、同じような負担であれば賃貸よりも分譲を選択する住民が非常に多いのではないか。同じ区のなかでも、分譲を選択していった場合に、やはり賃貸人気はなくなっていくとか、いろいろな懸念をしています。現に応募数が減少していくという自治体もあります。
そんなことから、このように5%ずつ家賃が上がっていくということが、はたしてこのままでいいかどうか。これが一つの大きな課題ではないかと考えています。
ありがとうございました。では続いて、内野建設の矢野さんからお話をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
私ども内野建設でも練馬区・板橋区を中心に約20棟・500戸の特優賃制度を利用した賃貸住宅の供給実績があります。
はじめにお断りしておきたいのは、特優賃は国レベルの制度ですが、当社の営業エリアは東京都に集中しております。従いまして、今日の私の話としては、特優賃制度を利用した東京都の都民住宅、その中でも民間の土地所有者が建設主体となる都民住宅(公社借上型都民住宅、法人管理型都民住宅)に的を絞った説明にさせていただきます。
最初に都民住宅のメリットについて説明いたします。
まず、賃貸住宅に係る建設費の約1割が補助されます。この約1割の根拠を申し上げますと、制度上は「廊下や階段などの共用部分の建設費の3分の2」「設計管理費(基本設計は除く)の2分の1」等が補助されることとなっています。従いまして、共用部分の建設費を総建築費の約10%、設計管理費を約5%といたしますと、合計で約1割の補助金を享受できることになるのです。
この建設費の補助というのは大変なメリットがあります。すなわち、家賃に影響を与える要素を考えますと、「建設費、金利、地代、利益を含めたリスク率等」があると思われますが、このうち建設費の占めるウェートが非常に大きく、これが1割軽減されるということは建築主にとって非常に大きいメリットとして利いています。
2番目として、建築主が収受する家賃(契約家賃)の5%相当額が賃貸住宅の管理料として補助されます。一般的に、都民住宅を管理できる指定法人の管理手数料は、借り上げ型の場合15%、管理受託型の場合10%くらいあると思いますが、補助金をカウントすれば、それぞれ10%、5%に管理手数料が軽減されることになります。
3番目に、賃貸住宅の入居者に対しての補助があります。これは入居者の年収に応じて契約家賃の額と実際に入居者が支払う家賃の額(入居者負担額)の差額を東京都が補助するものです。
4番目としては、税法上の優遇措置があります。減価償却については、当初5年間7割増の償却が可能となっています。税務上の利益をさほど計上していない方は、割増償却のメリットはあまりないと思われますが、その他の事業を含め税務上の利益を計上している方にとっては、この割増償却は非常に大きなメリットがあると思います。それから、固定資産税については、建物に関する固定資産税が通常の2分の1から3分の1に軽減されます。
5番目としては、極めて低利な融資が受けられます。都民住宅制度を金融面からとらえますと、まず、住宅金融公庫融資がべ一スにあり、それに優良民間賃貸住宅制度(利子補給制度)が乗り、その上に都民住宅制度が乗るという形態となっています。債務10億円に対する月々の返済額を比較してみますと、単純な公庫融資の場合約260万円であるのに対し、農地を転用した都民住宅の場合は約80万円、一般の都民住宅の場合は約100万円となっており、非常に低利なファイナンスが可能となっております。家賃に影響を与える「建設費、金利、地代、利益を含めたリスク率等」の要素のうち、建設費の次に金利が重要な要素となっており、この低利融資も建築主にとっては非常にメリットがあります。
さて、次に都民住宅のデメリットについて説明いたします。
まず第1番目として、建築主が受け取ることができる契約家賃には限度があり、市場家賃の80%から90%しか家賃を収受できません。これについては、「補助金をカウントすれば実質的には市場家賃並の収益性があるのではないか」ともいわれますが、唯一建築主の収入となる地代が1.75%に決められている点が問題となっています。
例えば、容積率が800%の土地と100%の土地を比較した場合、地価が8倍違うかといえば、必ずしもそうではないはずです。駅から近くかつ大通りに面した利便性の高い高容積率の商業地域の土地に都民住宅を建設しようとすると、地代の部分が非常に薄まり限度家賃が低く抑えられてしまいます。他方、駅から徒歩10〜15分の低容積率の一種住専の土地に都民住宅を建設すると比較的限度額家賃が高く計算され、利便性の悪い立地の方が収益性が良いというケースが実際にでてきていると聞いています。
2番目としては、入居者選定が「まちづくりセンター」に一任されているということが、今後デメリットになる可能性があると思われます。先ほど申し上げたように、当初は非常に安い家賃ですので、入居の応募がどんどんあって、1倍を切るような物件はほとんどないと思います。しかしながら、中古になった場合どうなるか。
まちづくりセンターで入居者を決められない場合、指定法人が入居者募集の協力をすることになりますが、必ず、まちづくりセンターを経由して入居者を決定しなければならず、手続上かなり時間を要すると予想されます。その手続きが1ヶ月かかるとすれば、1ヶ月分の家賃が収受できないのです。
3番目としては、先ほども鈴木さんからでましたが、入居者負担額が毎年5%上昇するという傾斜家賃が採用されているため、先々の入居者確保に不安があります。若年層の方は所得が上昇する可能性があると思いますが、中高年の方はそうではなく、将来の空室が懸念されるのです。借り上げ型の場合は指定法人が、管理受託型の場合は建築主が、将来の空室リスクを負うということになります。それで、区の借り上げ型都民住宅、あるいは公社の借り上げ型都民住宅がいいのではないかということで営業していますが、公社の場合、事務手数料が5%かかるとか、BL(ベターリビング)製品の使用などで、坪単価でいうと3万円から5万円のコストアップになってしまうこともあります。
住宅問題部会委員の松本暢子さんに特優賃の現状についてぺーパーを準備していただきましたので引き続いて報告していただきます。
大妻女子大学の松本です。この冬、東京都と埼玉県の担当課にお願いして、特優賃で建設された住宅というのはどのようなものなのか、どれぐらい、どこに造られているのかという資料を出していただきました。それを、学生が一生懸命にまとめましたので、それをご紹介して議論の素材にしようと思います。
四つほどお話しします。
まず一つ目は、実際にこういう特優賃を利用したものがどれだけ建っていて、効果が上がっているのかどうかという問題です。東京都で平成4年に2,289戸、5年36,113戸、6年5,982戸と建っています。このうち借り上げ型といわれているものは平成4年度1,009戸、5年度2,151戸、6年度4,225戸でした。
この3年間の伸びを見ていただくと、平成4年、5年、6年で、とくに法人借り上げ型がグッと増えているということがわかります(0戸→987戸→2,962戸)。
東京都では以前から優良民間賃貸住宅制度というのがありますが、この制度の中の「認定型」の戸数は4年、5年とかなりありましたが6年には非常に減っています(8,732戸→6,732戸→2,866戸)。認定型というのは、民間の大家さんがお金を借りて東京都に認定していただいて住宅を供給するというタイフですが、特優賃が平成5年度から始まったことによって、認定型で建てていた人たちがこちら側に移行したと考えたほうがいいのではないかと思います。
そうすると、特優賃の制度ができたから非常に増えたのかというと数の上からは、この部分がこちらに移動しただけで、たくさんの供給がされてきたと断言はできないと思います。助成の内容がよくなったということと、東京都の募集の枠が広がったということで、たしかに供給戸数は増えていますが、それをすなわち制度の効果があったと言っていいかどうかというのは、いろいろ考えなければいけない問題があるのではないかという感じがします。
2点目としては、東京都に限りますが、東京都の民営借家の着工動向を見ると、だいたい年間10万戸弱くらいですが、それに対して特優賃は多く見積もって毎年1万戸程度です。10分の1になるかならないかです。
東京都の着工統計で見ると、一戸当たりの専用床面積が民借全体だと45.4平方メートルです。それに比べると、借り上げ型だと64.9平方メートル、認定型だと59.9平方メートル1埼玉県分では61.7平方メートルと、たしかに制度を利用して建てられた住宅は広めです。一畳当たりの負担額を計算していますが、東京都だと4,729円が平均です。ですから、それに比べると、やはりこういう制度を利用すると、一畳当たりの負担額は安くなっています。借り手が実際にどれぐらいを負担しているかというと、床面積が広がっていますので、掛け算をすると必ずしも安くなってはいないのではないでしようか。
また、実際に絶対量が少ないので、市場に与える影響ははたしてどうなのか。たしかにいろいろ議論はあるところだと思いますが、10分の1とか、あるいはファミリー向けに限定されているような部分がありますので、完全にはそのように言い切れないのではないかと思います。
3点目。都市計画的な視点があまりないということです。建設されている都民住宅を地図の上に落としてみるとどうなるか。ざっくりというと、やはり23区の外周部で多い。ですから、足立区、練馬区、江戸川区あたりで多い。それから、その周辺の市で多い。負担額なども、都心からの距離とか路線別に見てみると、だいたい路線に沿って高い。遠くに行<ほど、駅から下りて徒歩何分になるとやはり安くなる。そういう市場の原理とほとんど同じようなかたちになってきているようです。
出てくるものに対応して造っているというところがなきしもあらずです。だから、地図に落としてみると、脈絡がない。これでいいのかどうか。そういうこともちょっと考えておかなければいけないのではないかと思います。4点目。もう一つ私が気になっているのは、民借の全体の水準を上げるために、1割ぐらいの供給でいいのかどうか。また特優賃の住宅に入れた人と入れない人の差がまた新たに出てくるのではないかという住宅政策上の問題も視野に入れておく必要があると思います。
いろいろ厳しいご意見もあったようですが、どうもありがとうございました。
みなさんから質問用紙が出ていますので、ざっと私のほうから質問を紹介して、パネリストの皆さんに意見をお聞きしたいと思います。まず質問ですが、大きく二つか三つぐらいに分かれると思います。
1点目。ユーザーサイドの問題ですが、やはりいちばん多かったのは、入居者負担額を今後どうするか。その展望が一つの大きな問題で、これは最初のお3人のパネリストの議論のなかでも出てきましたので、あとで大きな問題として取り上げたいと思います。
関連して私から提起させていただくと、いま分譲マンションの価格が非常に下がってきていて、現実には平方メートル単価60万円ぐらいのものも出ています。そうした事態のなかで、特優賃を選ぶというメリットがユーザーにとってなくなっているという問題があると思います。先ほど鈴木さんもおっしゃっていたように、分譲マンションの住宅市場のなかでの位置づけと特優賃の位置づけというのが大きな問題となってくるのではないか。そのへんの問題を一つ考えていただきたいと思います。
2点目。また、契約家賃の限度額の問題についていただいています。家賃の地代分の限度額が地価の1.75%というのは高すぎるのではないかという質問。
3点目。松本さんの提起の通り、いまの特優賃の建設には都市計画の視点がないのではないかという点。良好なストックを造っていくという意味でも重要なところですので、そのへんのとろもパネリストの方にコメントしていただけたらと思います。
質問者の方、補足していただけますか。
杉並区の平和(ひらわ)と言います。矢野さんにうかがいます。借りる方の立場から言うと、先ほどの1.75%はむしろ高すぎると思います。現状の市場家賃、とくに住宅系のところの家賃は地代分1%を割っているのではないかと思います。ですから、むしろ1.75%の限度額は高すぎると言う感じがします。特に金融公庫などの6%というのはとんでもない数値だと考えています。
高容積のところは確かに1.75%は低いと言うことがあるかと思いますが、低容積一種住専とか二種住専で容積率100〜150%くらいのところだと1.75%だと負担が多すぎる。それだけで10万円くらいになってしまいます。
まず、地代の問題について私なりの考え方をコメントさせていただきたいと思います。次に「賃貸か」「分譲か」ということにコメントしたいと思います。
東京都に陳情した際、次のような「地代の基本的な考え方」を展開させていただきました。それは「地代はファイナンスコストに帰結する」というものです。たとえば「土地を買っでなんらかの利用をする」、そうした場合のファイナンス・コストが地代の上限になり、また、「いま保有している土地を売って運用する」、その場合の運用利回りが地代の下限となると考えられます。
具体的に申し上げます。最初に地代の上限ですが、土地を買って30年後に売却することを想定します。30年後の地価が上がるか下がるかによって、キャピタルゲイン、ロスの問題が発生しますが、これは一定と考えます。現在の金融市場で考えますと、10年物のスワップの金利が3.5%ぐらいですから、30年の調達コストは約4%と想定されます。すなわち4%というのが、地代の上限なのだろうと思います。
地代の下限については、土地を売却して国債で運用することを想定します。優良住宅を使うと20%の譲渡税ですから、売却代金を100としますとそのうち80が手元に残ります。これを10年物の国債で運用すると、表面金利3%として、2.4%の金利収入があげられます。この2.4%を地代の下限と考えます。
以上から現在の地代の理論値は2.4〜4%と想定されるわけですが、実際に定期借地権取引における「保証金の運用利回りと地代の合計」が、この下限をめどに設定されているという事実もあります。
あくまで地代というのは建築主に残る唯一の収益ですから、それが1%というのは絶対にありえないというのが私なりの見解です。
次に賃貸なのか分譲なのかという議論について考えます。地価はバブルが崩壊するまで右肩上がりで推移してきました。従来、「まず分譲マンションを購入して、その後、戸建住宅に買い替える」というのが、一般的な住宅選定パターンでしたが、右肩上がりの価格形成下ではこの投資行動はうまく機能してきたわけです。しかし、土地が下落傾向にある中、こうしたパターンは成り立ちません。あるデベロッパーから聞いた話ですが、最近、分譲マンションの解約の要望が絶えないそうです。その理由は同じような間取り、同じような仕様のマンションがすぐ間近で、自分が購入したマンションよりも安く販売されているからだそうです。つまり買った瞬間に分譲マンションは含み損を抱えている格好になっているのです。また、分譲マンションの場合、修繕費の積み立ても十分かどうか不安があります。
他方、賃貸マンションの建設者は、土地をもともと所有しており、相続対策などでマンションを建設する方がほとんどだと思います。土地代が不要なのですから、将来的な設備の更新や補修費用についても、分譲マンションより負担できるはずです。
いまなお分譲マンションを買う方が多いわけですが、疑問です。個人的には地価は収益還元価格まで下落すると予想しており、賃貸重視の住宅選定が賢明だと思います。
私からは、入居者負担額の展望とまちづくりの観点からお話をさせていただきたいと思います。
入居者負担額はたしかに5%ずつ上がっていきますが、ではこれ以上、入居者に手厚くしていいのかという問題は一つあります。
私どももいま借り上げ住宅で近隣紛争の問題を抱えています。そのなかで言われていることは、「借り上げ住宅というのは20年間の家賃助成と同じではないか」ということ。なぜ中堅所得者だけにそういった税の使い方をするのか。まさしく政策的な問題としての指摘がある。ですから、今後、入居者に対して手厚く補助をしていっていいかという問題は一つあろうかと思います。
その一方で、先ほどお話ししたように、自治体なり公社はリスクをかなり背負っています。現行の制度のなかでは退去した場合には、退去時の家賃設定で入居者が入るような設定になっています。そうすると、右肩下がりになった場合については、かなりリスクがある。そのときに、十数年たって、はたして中堅層が入居するだろうか。まして5年後に民間市場ベースになった場合に入るのか。
それを解消する方法としては、一つは初年度の入居者負担額に戻してしまうことが考えられる。ただ、それは現行の国の制度の中ではできません。そうした検討も必要ではないでしょうか。
次にまちづくりとの関係については、私どもも借り上げ住宅をやっていますが、単発です。ですから、はたしてまちづくりに寄与しているかという点では、不十分な面もあります。
先ほど、木賃の事業と特優賃の事業を併合している例をご紹介しました。今後は、そういったまちづくりの視点を加味して特優賃という制度を活用していく必要があるのではないかと考えています。
ある事業者の方は、地区計画によって、町並みの色とか、作り勝手とか、近傍の住宅と合わせたほうがいいのではないかとおっしゃる。そういった点を加えていくと、特優賃制度というのは単に中堅所得者層に対する住宅供給だけではなく、もっと輪が広がっていくのではないかという感じは持っています。
私からは特優賃の課題を補足させていただきたいと思います。大きくは実務面の話と政策の面の話と二通りあると思います。実務面については、都道府県や市の方から聞かせていただいている悩みの話、それから借り上げの業者の方から聞いている話を、私なりに勘酌してお話しいたします。5点あります。
1点目は、先ほど矢野さんがおっしゃった入居者選定の問題。
民間賃貸住宅の場合には、一般的には面接を行って適切に入居してもらえる借主を選んでいる。しかし、特優賃の場合、公的機関が募集なり選定をすることになっているため、公的なゆえにいろいろ制限がある。それが、オーナーや管理業者の悩みであると聞いています。
確かにそういう面もあるでしょうが、これは公平性を重視した結果です。特優賃では多額の補助金を入れるので、公平性を保つために公的機関が入居者の公募、選考を行う必要があります。
それから、家賃補助の申請とか、もろもろの報告・手続きが管理者の負担になっている。これも確かににあるだろうなと思います。こうした手続きはできるだけ簡素化してやっていきたいと思っています。
2番目は、経営リスクをだれが持つのか。これも借り上げなのか受託なのかによって違いますが、先ほどから空家のリスクの話が出ています。借り上げと受託では、リスクをだれが持つのかというのが変わってきます。供給戸数を増やすためには、オーナーのリスクのない借り上げタイプを伸ばすことが強力な手段になりますが、その場合管理者側に負担がかかってくる。この関係はいわばトレードオフですね。そのようにとらえればよい。
そのなかで私のほうで心配しているのは、公社借り上げというタイプです。この場合にはオーナーのリスクがない。一方、公社側のほうは、実は市場をきちんと把握する能力があまりなく、オーナーの言い値の家賃を設定する不安がある。だから公共団体には注意を促しているところです。そのへんは、やはり民間管理業者さんのほうが、市場の動向に敏感に経営判断されているという面があるなど思います。
三つ目の課題は、手続きの迅速化です。建設時点の話に限定しますが、まず補助として公共団体の単年度予算の仕組みのなかに入っていますので、ちょっと着工を待ってくれという話が出てくると対応しにくい。民間の普通の動かし方とは違う部分がどうしてもあります。そのへんは、できるだけ民間事業の動きやすいかたちにならないかと考えています。
また、最近では公庫融資の審査に時間がかかることが問題になっていますので、できるだけ早く審査結果が出るようにという要請はしています。
四つ目の実務的な課題としては、全国で見ると、家賃補助は立地係数により地方のほうがやや低くなりますが、入居者負担額と市場家賃との関係でいうと、地方のほうがもっと幅が狭い。
そのため5%ずつアップしていくと、8年程度で入居者負担額が市場家賃に追いついてしまい、家賃補助が切れる場合が出てきます。それだけ地方のほうが住宅事情が厳しくないという考え方もありますし、一方ではだからなかなか特優賃に寄ってこないんだという話もありますので、課題の一つであろうかと思います。
5点目は、最近のバブル後の話として、先ほど低価格マンションの話が出ましたが、賃貸市場自体もバフル期における相続税対策、それから宅地なみ課税対策として、大量建設が行われ、一部では空家が出て、家賃低下も見られていることはたしかです。しかしながら、これらの住宅は小規模なものであって、ストック向上には必ずしも寄与していないのではないかと考えています。近時点においては、たしかに特優賃供給で厳しい状況下ではありますが、今後とも特優賃はどんどんやっていかなければいけないのではないかという認識でいます。
以上が五つの実務的な課題ですが、次に政策面として国から見たときに、この特優賃については3点の課題があります。
1点目は、地方行政において中堅所得層の住宅対策というのは実はまだあまり確立されていません。こういう中堅層向けの住宅対策は、戦後、公庫融資という国の仕組みでずっと動いてきたということがあって、地方行政は低所得者向けの公営住宅以外の分はいわば空白地帯でした。東京都は別ですが、一部の地方公共団体ではまだそのあたりの考え方も確立していないところがあります。
2点目の課題。公営住宅のほうが特優賃よりも税はたくさん入れています。そこで税の効率的使用の観点から、公営住宅は本来援助を必要とする所帯に活用していきたい。従来、特優賃というものがないために、いわば援助の必要性の薄い所帯も入ったままになっていましたが、手段が一つできたわけですから、それを活用して公営住宅施策の効率化を図りたい。
3点目は、たびたび出てきますが、まちづくりとの関係です。国全体としても、木賃ベルト地帯というのは賃貸住宅立地の適地ではありますが、一方では居住環境、防災などの課題があります。まちづくりとの関係でこの特優賃が必要だと思います。
現在居住されている方は高齢者の方が多い。そういう方々には低所得向けの補助制度なり住宅制度がありますが、それだけでは地域の活力が生まれません。やはり若年、中堅層もその地域に入っていただく。その分野については、特優賃をどんどん活用していく必要があるのではないかと考えています。
これらが私のほうで考えている課題ですが、質問を受けているなかで、一つは居住者負担の話があります。5%アップ云々の話は先ほどから出ていますが、建設費補助と家賃補助とのバランスで、家賃補助のほうに偏っているのではないかというご意見があります。
手段はどちらであれ供給促進の手段であって、どちらを取ろうと政策目的に対して中立的であるという見解です。加えて、先ほど地方圏の話をしたように、東京都の場合、家賃補助の額が増えていますが、地方だとむしろ逆転したりしています。これは住宅事情がうまく反映された結果であろうかとも思います。そういう意味では、都の場合は家賃補助の比率が結果として増えたということになります。
さらに補助の総額が非常に大きいのではないかという話があります。たしかにそういう面があろうと思います。ただし、多いから不公平になるのでは、という批判がありましたが、ストック改善のためには何らかの手段を取らなければなりません。
国としては、全国を見ながら援助体系を作っているなかで、無責任な言い方ですが、都なり区なりが国で用意したなかでどう扱うか。場合によっては都などはさらにプラスして援助を入れているわけですが、そういう判断をする。これは地方分権の流れだと思いますが、そういうことを考えていただければいいと思います。
限度額家賃の話ですが、これははっきり言って国の話ではありません。国は非常に高い限度額家賃を設定しており、市場家賃は絶対に届きません。万が一、補助金を入れてるのにも関わらず収益が上がりすぎていることがあるとすれば、.それは利益制限的な設定にしなければならない。ただし、日本の実態においてはそういうことは現実に起こりえない'。そのなかで実際に補助を出す都なり区の判断として、利益制限をどのようにやるか。これは地方分権としてのそちらのほうの判断の結果だと思っています。
ありがとうございました。
先ほど矢野さんのおっしゃっていたのは、私もある意味では正論だという感じがしますが、実際問題としては都民住宅みたいなものが最初に発想されたときに、民間賃貸住宅というのは要するに地価が反映されないからいいんだという視点があったと思います。矢野さんがおっしゃるのが正論だというのは、本当に土地を買って賃貸住宅を経営して、それが成り立つような市場であればいいと思いますが、それが日本の賃貸住宅市場ではそうなっていない。ですから、正論がそのまま通らない側面があるのではないかという気がしますが、いかがでしょうか。
それはちょっと違うのではないかと思います。当初の東京都の規定では、地代相当分は1%とされていましたね。これは東京都から聞いた話ですが、バブルの時期にある機関に調査させた結果、「1%の地代をとることも難しい」という結論が出たために、地代を1%と決めたそうです。この調査は、急激に地価が上昇したときに行われ、瞬間風速的に1%という数字がでたのではないかと思うのです。
では、土地を買ってビジネスが成り立つかというと、いまでも成り立ちません。ですから、そうなるまでおそらく地価は下がると私どもは考えます。それが収益還元価格なのです。さて、土地所有者が土地を売却してその資金を運用しても、2%〜3%の利回りになるのです。地代は建築主に残る唯一の収益ですから、その最低水準はキープしてあげないと、リスクをとって事業をすると意味がないと思います。
住宅都市整備公団の海老塚です。1970年に華山謙さんたちが『地価と土地政策』という本を出していますが、民間借家の家賃のなかには地代相当額がわずかしか含まれていない。したがって、借家経営をうまく伸ばすほうが地価政策上いい。
私はある程度それは当たっているとは思いますが、私自身の実証データで検証すると、その当時、地価に対する地代相当額の年間の額は、たしか木賃系だと2〜3%、鉄賃系だと4〜5%ぐらいでした。
その後の推移を見ていくと、実はおっしゃるようにバブルのときが最低のところで、1%弱になるような状況がありました。私はたまたま住宅公団で民賃などの賃貸住宅の経営試算をする担当ですので、実態を見ていました。バブルのときは市場の家賃が地価のだいたい1%ぐらいですので、そのあたりを目安に公団では具体的な供給家賃は決めていました。ただ制度上は、実は3.5%で計算しなければいけないものですから、公団としては内部資金を使ってそこまで政策減額をしなければいけない。
実は東京都が都民住宅の制度を作るときに1%という数字を出した報告書を私も入手していますが、私はこれを評価しています。笹井さんからもあったように、国は概ね5%とか6%の地代相当額を限度額家賃設定に使っています。戦前の借家経営の時点では平均利潤率としては5〜6%欲しいというのはもっともなんですが、土地の値上がりする期待利益と収益とのバランスで、バブルの時は最低1%まで下がっています。
東京都が1%という基準を設けたことは大きな意味があります。自治体の方はたぶん家賃設定をするときに実務面で非常に苦労されると思います。政策を進めるためには家主に対して高めの家賃を払ってあげたい。しかし、そうすると財政負担が増えてくるし、不平等になる。しかし、むやみと増やすわけにもいかず、自治体にとってはその基準があることによって安心できると思います。
理想は家賃の中の地代相当額が4〜5%ぐらいまで戻る程度に地価が下がり、いまの2分の1ないしは3分の1になってほしいと思っています。そうすると、諸外国なみに地価が収益還元価格になる。
いまのところ地価はまた高めだと私は思います。ですから、やはり1〜2%ぐらいが妥当かもしれません。そのへんは、国のほうとしては自治体に判断を任せているということですので、自治体の方はご苦労でしょうが、家賃の市場の動きを見ていただきたいと思います。
地代相当分のお話ですが、私どもとしては1%が適切なのか、1.75%がいいのかというのは、なかなか言いにくい面があります。家賃に占める部分がどれぐらいかという基準値があると安心できる側面があります。
議論が尽きないところがありますが、次に入居者負担額の問題に移らせていただきたいと思います。
3人の方から質問をいただいております。
1つは、中高年者の収入が限られている方々について、どうしたらいいか見解が欲しい。
2つめ。区が借り上げる契約家賃は原則2年ごと3%上昇すると仮定しているが、実際に現在のように市場家賃が下がっている場合、上げづらいのが現状である。そのような時代背景に合わせた制度ができないかという質問です。私からも、契約家賃は、たとえば市場家賃が下がれば当然自治体のほうも下げて契約するということがありうるような気がしますので、そのへんも含めてお聞きしたいと思います。
3つめの質問。収入分位を東京型で決めなければ給与所得者の住宅問題へのアプローチとならないのではないか。これは要するに東京の所得水準が全国水準よりも高いからということかと思います。
区民住宅を実際に借り上げて運用していますが、2年目の見直しの時期に、やはり東京都の家賃限度額にほぼ近いかたちで家賃設定した関係で、どうしても上げづらくて結局は上げませんでした。たしかに行政のほうも市場家賃の把握ができていないかもしれませんが、たとえば市場家賃がわかっていてどのように対処すればいいかというような指針みたいなものが、上級官庁なり総合官庁なりにないのか。そういう疑問を持っています。
わかる範囲で考え方を示したいと思います。
契約家賃については、2年ごとに見直しができることになっていますので、必ずしも上げる必要はない。市場家賃の動向によっては下げることもありうる。それはオーナーさんとの協議の上でやっていくことだと思います。
それについて、市場家賃の指針がないかというお話ですが、市場家賃の指針を作るというのは非常にむずかしいかなという気がします。市場家賃といっても、不動産屋さんに出ている家賃と成約家賃とまた違います。
ただ、この制度を活用していくには、いいシステムを今後作っていかなければならないなと思っていますし、内部的にも検討しています。市場家賃の動向は大きな問題だとは思っています。つまり2年ごとの見直しのなかで、自治体としてどういうバックグラウンドを持って交渉にあたるかということですので、家賃の把握システムというのは作らなければならないと考えています。
収入分位のことについては、たしかに東京都と他の府県などでは格差がありますので、ある収入分位の差は付けなければならないのではないかと思っています。とくに地域差というのが、貯蓄動向調査等は全国一律ですので、そういった意味からすると、都心地域とは実態的には離れている面もあるかなと思っています。
まず、市場家賃というか契約家賃の話から申します。先ほどの地代の収益率の話も絡んでくると思いますが、私ども建設省としては、皆さんが思っている以上に、市場というものを信頼していこうというのが基本姿勢です。
なぜかというと、かつて日本の住宅市場は住宅不足でしたから、いわば供給者側が強くて、したがって地代でいうと強い立場で取れるだけ取るのが地代でした。先ほど海老塚さんが引用した華山先生の話も、そういう時代背景での地代理論でしたが、いまの時点は実際に空家が出たりして、供給者のほうが一方的に強いという時代はすでに終わっています。
最近はやりの言葉でいうと成熟社会になって、経済学的にいえば従来よりももう少しマーケットの反映されたプライスというものが出てきているはずです。いわば信仰に近いんですが、そういう考え方があります。そういうなかで、ニーズがあれば質の高い住宅が出てくるはずですが、そこまではまだ至っていません。
そのなかで私どもの悩みは、価格の情報がわが国では非常に乏しいという点。最後の成約家賃というのは闇のなかでわからない。
さてこう言っては失礼ですが、公共団体はいちばん市場にうとい組織です。私どもは特優賃を動かすにあたっては、いちばんの管理主体・借り上げ主体の原則は、民間法人であろう。これがいちばん市場に敏感に動く。民間に動かす力のない時は公社、さらに公共団体でやるというのが建前です。
東京の区部の場合には、これは明らかに都心居住という政策目的を持って、いろいろな持ち出しというか、一種の財源犠牲ですが、これを出しつつ、強力にそういう政策テーマを遂行していこうという意図があります。特優賃にいわば公共団体としてのプラスアルファの意図が付いている。これは特優賃そのものの制度の典型とは必ずしも言い切れないと思っています。それをベースにいろいろ議論をするのは、ちょっとバイアスがかかるのではないかと考えています。
それから収入基準の話ですが、これはいまのところまだ主命題の議論になっていないようですが、いちおう東京都のなかでは制度の上限である80%、4人世帯の年収でいうと1000万円ということで、相当のところがカバーされています。そういうなかで区のほうは60%ということですが、これはいまの供給戸数の実態で見ると、同じ援助を出すならば、対象を絞り込むということでそれは一つの選択ではないかと思います。実際の供給戸数という背景を見ないで、表面的に名目値の上限はこうだからという議論は、非現実的な議論ではないかと思います。
また、本日の特優賃のテーマとはちょっと離れるかもしれませんが、先ほど高齢者の話について議論がありました。特優賃というのはいろいろな住宅政策のメニューの一つであって、一方では高齢者に応じた、つまり所得が右肩上がりではない人たちの施策として公営住宅、さらには直接供給は限界がありますから、借り上げ型というかたちで、これもいろいろな区で積極的に取り組んでいただいています。所得に応じて負担も右肩上がりでないかたちの施策を進めています。いろいろな政策メニューを活用することが大事ではないかと思います。
ありがとうございました。会場からご意見がありましたらどうぞお願いいたします。
先ほど松本暢子さんうからやや批判的なコメントがありましたが、私は今回の特優賃はかなり政策効果があったと見ています。即効性があった。ほかの制度との相乗効果もあってでしょうが、賃貸住宅の規模増は目に見えてあります。
そういうなかでお聞きしたいのは、先ほど公営も特優賃も同じぐらいの戸数を5カ年計画で考えているという話でしたが、私は財政的なバランスに関心があります。いま国費ベースてだしか年間4000億円ぐらいの国費を公営住宅に入れていると思いますが、おそらく特優賃はそのなかの2〜300億円だろうと思います。10年後ぐらいにある程度制度がバランスしたときに、国費のなかの公営住宅の配分と特優賃の配分をどの程度と考えているのか。個人的な見解で結構ですが、それを教えていだきたいと思います。それが一つ目です。
二つ目は自治体の方への要望ですが、かつて地価監視制度があったときに、区にしても市にしても、一生懸命に土地の取引の状況を把握して、世田谷区さんの場合には10人ぐらい職員が詰めて、各地点ごとのプロットをされて地価をとらえていましたが、そこまでは無理としても、基礎情報として非常に重要な部分ですので、家賃の把握をされる努力をしていただけないだろうか。いま住宅統計調査が5年に1度ありますが、家賃の情報は5年に1度ぐらいの生温いものでは当然つかめません。行政の費用と手間をかけてつかんでもいいような気がしますので、このへんのご意見をお聞きしたいと思います。
もう皆さんはご存じかもしれませんが、最初に戻ってお聞きしたい点があります。家賃対策補助が20年間で入居者負担額が5%上がるという仕組みそのものは、どういう考えのもとに作られたのかということを説明していただきたいと思います。
なぜかというと、日本ではじめて家賃補助というのを国が導入した。優良なストックを供給していく上でそういう大規模な補助を入れたということに対しては、私も非常に積極的な政策だと思っていました。
しかし、笹井さんの説明だと、これは中堅所得層に対する家賃補助ではない。あくまで良質なストックの供給促進の手段でしかない。こういうことをかなり明確に言われたのがちょっとショックというところもあって、その基本に戻って20年間、5%という考え方を建設省がお考えになった基本を、お教えいただけたらと思います。
先ほど分譲マンションと賃貸住宅という提起をして、矢野さんからご回答をいただきましたが、たしかにそのとおりだと思います。私も賃貸居住者なんですが、先ほど松本さんから出た意見にもあったように、賃貸居住者は非常に住宅のなかをいじりにくいとか、そういう問題が現実的にあります。
たしかに分譲マンションを買うのはおっしゃるように非常にリスキーではありますが、いまの状況では自分の好きな空間を賃貸住宅で作るというのは非常にむずかしい。そのへんの市場を開拓してくれると、特優賃のよさというのは出てくるのではないかという気がします。
それから、先ほど戸建てのほうに移ったほうがいいとおっしゃいましたが、たしかに資産選択と考えたらたぶんそのほうがいいだろう。しかし戸建て住宅が私の住んでいる国分寺市の駅の近くにもけっこうでていますが、本当にミニ開発が多くて、80平方メートルとか100平方メートルに宅地は細分化されていて、いわゆる「旗竿敷地」で供給されているのが非常に多くなっています。ただし、お手頃価格ではある。
ですから、政策上も特優賃のほうをもう少し居住者のほうにメリットを付けてくれたかたちにすることはできないか。必ずしも家賃を安くしろとばかり言わない、むしろちょっと高くてもニーズに合致するような賃貸住宅をつくってほしい。そのへんが特優賃の一つのポイントではないかと考えています。
特優賃制度は基本的には非常に良い制度だと評価しています。しかし、本日いろいろご指摘が出たように、やはり検討すべき問題があるのではないかと思います。
先ほど「よちよち歩き」とのコメントもありましたが、私どもとしては「よちよち歩き」という認識ではありません。現実の問題として、滞納の問題が発生しております。ある都民住宅で、当初3世帯について家賃を引き落とすことができませんでした。2ヶ月目も同様に2世帯について家賃を引き落とすことができませんでしたが、そのうち1世帯は同一世帯です。行く行く家賃が上昇するわけですから、滞納や空室という問題が目前に迫っているのです。
したがって、誰もいないところに釣り糸を垂れるような制度ではなくて、少なくとも契約家賃に達した部屋は所得制限を解除するとか、何らかの対応策が必要だと思います。さもなければ、借り上げ型の場合、指定法人や公社が空室の負担をすることになりますし、管理受託の場合、建築主が「話が違う」と言って怒鳴り込んでくるということは間違いないだろうと思います。
2点目は、議論があるかもしれませんが、限度家賃計算上の地代については、平方メートル当たりの限度額を決めても結構ですから、何とか見直しをしていただきたいと思っています。
3点目としては、前田さんへのお答えになるかどうかわかりませんが、定期借地権の制度を拡充してほしいと考えています。これについては二つポイントがあると思います。一つは地方公共団体が借地人となって住宅を供給することです。もう一つは保証金の債務控除という税務上の問題です。定期借地権の推進には「預かった保証金が現在価値分しか債務控除できない」という点がネックとなっています。定借は相続税対策にならないばかりか、むしろ定借の利用によって相続税評価額が上昇することもありえます。
まず、地方公共団体が定借を推進することです。地方公共団体が借地人であれば、地代の収受の問題や最終的に建物を壊して更地で戻すという問題もありませんので、保証金は必要なく地代の収受だけでよいのです。こうすれば、相続対策にもなりますので、私どもとしても積極的に土地所有者に定借利用の提案ができると考えています。
加えて、保証金が全額債務控除できるよう税制を改正していただきたい。そうすれば、民間ベースでの定借ビジネスも広がり、前田さんのおっしゃる戸建てであっても現在の半値で手に入るようになります。
建物の老朽化の件ですが、特優賃制度はご承知のように、修繕にあたって、私どもでいえば自治体が関与したり、オーナーがやっていく。公的関与という意味合いから、計画修繕は法定点検だけではなくて任意点検もかなり充実させています。
また、これは民間の事業者の方にもお願いしていますが、間取りがかなり大きな一つの魅力になっているかと思います。同じ中堅層でもファミリー層であれば子供さんがいらっしゃる。そうすると、2LDKよりも3DKタイプのほうが人気があります。それから、新しい設備など居住水準を上げることによって、管理面も併せて良好なストックが維持できるのではないかと思っています。
次に特優賃制度を作ってこれでいいということではないと思いますので、状況の変化によって自治体などの上乗せなども含め、国のほうもできるだけ実態に沿った見直しを検討していただきたいと思います。
杉並区の方から、契約家賃を下げるというのはつらいというお話がありました。たしかに人情としてはそう思う。また修繕費は、いま世の中で動いている修繕費は足りないというのは、公営住宅の経験でたしかに私もそう思います。
ただ、これは必ず負担の増に跳ね返る話です。ストックをどういうレベルで維持するかというと、実は国民の合意形成自体もあまりない。
私の身近な関係の公営住宅でいうと、都道府県はいちおう維持していますが、市町村は本当に造りっぱなしというのが多い。あれほど経営ということを考えなくていいところもない。建設省で修繕費のことをもっと重視しろと言いはじめたのは私なんですが、たしかに修繕費のことは重要だと思います。次に、入居者負担の設定根拠についての質問が出ました。これは地域特賃の時代からありました。不信感をいだかれるかもしれませんが、大都市を想定したモデル計算です。市場家賃、入居階層の負担できる家賃を考え、公的に使う20年間に徐々に家賃を上げ最終的に市場家賃と一致させることを考えたところ概ね5%となった。それを引き続き踏襲しています。
それから海老塚さんから、公営住宅との財源配分の話がありましたが、現時点では推定もできません。実態でいうと特優賃はだんだん戸数を増やしていこうというつもりでいます。しかし将来財源が必要なのかというのは、最近試算したことがありません。
最後の感想ですが、右肩上がりの時代でないので入居者負担5%アップはきついとという話があります。しかし、その一方でなぜか税収については右肩上がりの発想を続けている。歳出に歳入が追いつかなければ、国債とか公債というかたちで、将来に負担を回す格好になる。成熟社会のなかでは、やはり基本的には自分たちの世代は自分たちでカバーしていくという基本的な原理でやっていかないと、わが国は持たない。そういうことから私どもは発想しています。
いろいろ論点が出たまま消化しきれなかった観があります。しかし、少なくともそうした論点はかなり網羅的に出すことができたのではないでし上うか。長時間にわたり、ありがとうございました。
(1996年2月21日建築会館にて)
(注) 本稿は当日のテーブをもとに前田が編集した後、各パネリスト・発言者に校正を依頼し、最終的に前田が調整した。
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