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| 東京における都心居住施策の新展開 〜バブルからポストバブルを経て〜 |
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日本建築学会関東支部住宅問題部会では、住宅政策の現状と今後のあり方を巡って、自治体による住宅政策の動向や高齢者住宅対策、まちづくりとの連携、家賃補助などに関するシンポジウムや講演会を継続的に開催しております。本稿は、去る７月６日に行われたシンポジウム”東京における都心居住施策の新展開〜バブルからポストバブルを経て〜 ”の再現です。
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主旨説明(木内)
建築学会関東支部住宅問題専門研究委員会の今年度主査を務めています、建築研究所の木内です。始めにこのシンポジウムの主旨を説明させていただきます。
関東支部住宅問題専門研究委員会は首都圏の住宅問題に関心をもって活動している、この地域の研究者・実務者の集まりですが、ここ数年「住宅政策と都市政策の連携」をテーマとし、今年度の九州での建築学会大会では、学会建築経済委員会住宅需要構造小委員会の主催のもと、このテーマでの研究協議会の企画運営をしております。そこでは総論と都心と郊外という三つの枠でそれぞれバブル期における連携の評価、あるいはポストバブルでのそのあり方などを討議していくわけですが、開催地が九州ということがありまして、東京の問題を必ずしも十分に取り上げられないという状況があります。そこで、関連シンポジウムということで、東京の都心居住問題ということで、この場で開催することになったわけです。
東京を中心とするバブル以降の都心居住問題の展開を振り返りますと、都市計画側からは中高層階住居専用区などの住宅用途確保型の規制・誘導手法が、住宅政策側からは自治体による住宅付置義務制度や家賃補助施策などの制度が創設され、更には都市マスタープランや住宅マスタープランのように住宅市街地像・居住像をマスタープランに描写する仕組みが用意されるなど、都市計画、住宅政策、さらには建築政策の側から様々な都心居住への対策がとられた訳です。しかし、その後のバブル崩壊からポストバブルへというような経済状況の中で、それらの効果が十分検証されないうちに次のステップに入ってしまったという状況に至っています。従って本シンポジウムでは、都市計画と住宅政策の連携による都心居住への取組がどのような効果をあげたのか、ポストバブルにおけるその新しいあり方はどうあるべきか、という２点を議論の共通テーマとして設定しました。
パネリストと演題は次の通りです。「東京都内自治体の都心居住への最近の取組」について地域総合計画研究所の山口邦雄さん。「都心居住確保策の実績評価と今後の方向」について東京大学都市工学科の小泉秀樹さん。「住宅市街地と居住の実態を踏まえた都心居住策への取組」について、渋谷区住宅推進課長兼土地総合計画課長の小野恒夫さん。それでは、パネリストの方に順にお話しいただきたいと思います。
山口邦雄：東京都内自治体の都心居住への最近の取り組み
最近の都内自治体の取り組みを紹介するという役割で、大きく４点を話します。１点目がバブルからポストバブルへ至る間の居住者の動き、２点目に都市・建築行政からの都心居住への取り組みについて、３点目にこの間東京の各自治体で精力的に行われた家賃助成の問題、最後に都心居住施策の方向ということで私論を少しお話しします。
1.居住者の動きと住宅供給
まず１の居住者の動きですが、97年の『首都圏白書』によると、東京区部で34年ぶりに転入超過になっています。かつては都心区を中心に人口が激減して、人口定住策が声高に叫ばれたのですが、ここ数年の間でかなり状況は変わってきていると思います。
このような状況に関して、渋谷・目黒・北の３区について調査を手がけましたので、比較をしてみます。まず人口・世帯の推移ですが、渋谷区・目黒区では昭和40年前後から人口は減少していましたが、ここ数年で増加に転じています。北区は依然として人口は減少しており、都心区の方が増加に転じるのが早いのが特徴的です。
次に社会増減をみると、各区とも以前は転出人口が転入人口を上回っていましたが、バブル以降は差がなくなってきて、渋谷区と目黒区では平成８年前後で逆転しています。北区でもこの乖離が狭まってきていますが、まだクロスしてはいません。渋谷区では65歳未満の単身世帯の出入りが非常に激しく、結果として流入が多くなっています。目黒区でも現在は単身世帯が圧倒的に転入超過です。昭和60年代は夫婦と子の世帯が転出超過で、１世帯として３・４人が増減するため人口に相当影響がありました。それが平成５年頃になると±０に近づいてきています。これについては出ざるを得なかった人はみんな出て行ったという見方をする人もいますが、いずれにしろ動き方は少ないと言えます。
一方で住宅供給をみると、渋谷区・目黒区では分譲住宅の供給量はバブル期に下がりましたが、平成５年以降は急激に上がっています。他方で賃貸住宅の供給量は下がっています。バブル期には老朽した木賃住宅の相当数が建て替わったと思いますが、最近では貸家の建設は落ち着きを取り戻し、分譲マンションの供給が活発なのが特徴です。
最後に家賃の動向ですが、確かにバブル期に家賃は上がりましたが、現在では急激に上昇する前の段階まで下がってきています。かつては家賃はどこまで上がるかわからず非常に心配でしたし、このままでは住み続けられないと転出された方が多かったと思います。しかし今はそれほどでもなく、逆に更新料は要らないとかまで出ている状況です。
2.都市・建築行政からの都心居住への取組次に２の都市・建築行政からの都心居住への取り組みについてお話しします。住宅確保策として大きく３つの対応が考えられ、第一に「安定したコミュニティを支える、地域の改善を図る対応」があります。手法としては、住宅の割合に応じて容積の割り増しを行う、用途別容積型の地区計画というのがあります。もう一つには街並み誘導型の地区計画があり、狭小な前面道路のため容積が十分に使いきれないところでも、建物を高容積で建てられるようにするものです。これらは地区計画ということで、住民との合意形成が必要になりますし、地域の特性等を調査しながら決定する計画的プロセスがあると思います。
二つ目に「個別に住宅供給を促進する対応」があり、まず市街地住宅総合設計制度が挙げられます。最近では市街地複合住宅総合設計といって、自治体が借り上げる住宅の供給を前提に、住宅床・業務床の容積の割り増しを行う制度も出来ています。それから、分譲または賃貸住宅の建設に助成を行い、民間事業者の良質な住宅供給を促進する都心共同住宅供給事業があります。これらは都市計画法とは直接にリンクしていません。
三つ目として「地域地区による網掛け方式の住宅供給対応」があり、これは都市計画法の世界で動いています。一つが中高層階住居専用地区で、一定階以上は住宅の床とするという制度です。また高層住居誘導地域という制度が最近出てきまして、1.4倍まで容積緩和ができて、日影規制も適用が緩和されるという地域地区があります。
こういった各種の対応がありますが、私は特に中高層階住居専用地区に興味を持ちました。当初の新聞報道でこの地区を７区で約586ha適用し、３万9800戸の住宅が供給されるとの話がありましたが、東京都の住宅マスタープランでは区部中心エリアで10年間に29万戸の住宅供給を図るという計画フレームですので、この４万戸はかなりの割合を占めると考えたからです。もう一つには業務床の総量規制につながるのではという問題意識がありました。つまり何階以上は住宅を確保するとなれば、当然その他に使える床利用が制限されるので、結果として非住居部分の総量規制につながるということです。それから地域地区ですので、一括指定でかなり強力に進めることができるという期待もありました。
そこで対象の７区を調べると、千代田区は路線型の指定で全体として緩和型で使っています。中央区は用途別容積型の地区計画を大々的に展開していますので、勝鬨・月島あたりに限定されていますが、面的に使って容積緩和を行っています。港区では面指定と路線型の指定とをそれぞれ使っており、また用途・容積の緩和のないところもあります。一律に適用するのでなく、地域の実情を勘案して指定している状況が見てとれます。新宿区は圧倒的に路線型が多く７区の中でも極めて特徴的で、また用途・容積の緩和はしていません。台東区では清川・東浅草エリアで71haを一括して掛け、容積緩和をしているのが特徴です。墨田・荒川区もこういう形で容積緩和をしながら指定しています。
以上のようにみると、新宿区の幹線道路沿いの網の目状の指定、台東区の面的な指定、中央区の用途別容積の使い分けをした部分的な面指定が特徴的です。指定に伴う緩和ですが、港と新宿以外では一律に100％の容積アップをしています。先程述べたように、容積をアップしなければ事務所床の総量規制につながると思ったのですが、容積アップがあると事務所床の抑制とか事務所床を住宅床に振り替えることには結果的にはならず、住宅の供給促進について機能する形になると思います。
3.見直しを迫られる家賃助成策こうした都市計画的ないし建築行政的な話とは別に、全くの住宅マターとして家賃助成があります。まず住み替え型の一般ファミリー対象のものを６つの区が行っています。助成期間や助成額は区によって様々です。住み替え型の高齢者向けは東京都でやっていますので、23区全部が対象です。ただし取壊し等の自己の責任によらない立ち退き等が前提になりますので、非常に劣悪な木賃に住んでいても取り壊し等がない場合は助成は受けられません。区によってはそれも含めて家賃助成しているところもあります。
住み替え型では最低居住水準以上のものに移ることを前提に助成をするわけですが、居住継続型といって、今住んでいるところのままでも助成をするところもあります。高齢者についても同様に住み替えなしで家賃助成をするところがあります。特に高齢者の場合は地域のいろいろなネットワークの中で安心して暮らせるということで、必ずしも住み替えだけがいい解決方法ではないという話が出ています。このほか、新婚型といわれる結婚後の一定の期間に助成をするものや、若年単身への家賃助成もありました。
直接の家賃助成ではないのですが、居住水準アップが図れる転居であれば、その転居費用の一部を助成するというのを北区でやっています。追跡調査によれば、そういう一時金があれば若干家賃負担が増えても広いところに住むという方が多いことが確認できています。世田谷区では福祉マンパワー確保型というのがやられています。そのほか高齢者等への住み替えの斡旋や、公的保証人制度を創設しているところもあります。
こうした家賃助成策等を各自治体で展開しているわけですが、これらの制度を作ったのはバブルの前後でして、安心して住み続けてもらうために行っていました。ところが最初にお話ししたように状況は大きく変わってきてまして、声高に転出超過を言う状況ではない、家賃も従前の価格に下がっているということで、定住確保の熱気は各自治体それぞれダウンしているのではないかと思います。むしろこういう経済状況の中で、財政当局から適切に展開するようにということがありますので、費用対効果を検証し本当に必要な層に的確に家賃助成等をするため、住宅マスタープラン改定をやっているのが今の到達段階かと思います。このように家賃助成は大きな見直しの時期にきているといえます。
4.都心居住施策の検討課題最後に都心居住施策の方向ということですが、一つは定期借地権というのが出てきまして、都心部でも使えないかと議論されています。ある区では公的な土地、例えば小学校統廃合によって得られた公有地で、定借を使って何かできないかを議論しています。あるいは、全体の４分の３程は共同住宅居住という状況ですので、マンション対策が検討されています。それから、今住んでいる方に最大限いい環境を準備して子育てを支援するとか、あるいはコレクティブハウジングなどもあります。住宅の箱の供給や家賃助成よりも、むしろ多様な住まい方とか、豊かに暮らすこと、あるいはマンションを適切に維持管理するという方向の議論にシフトしていると思います。
こうしたことから、地域住宅市街地像や居住スタイル像をどのように考えていくのか、都市マスタープランと連携するにはどういう方策をとるか、最終的には地域コミュニティをどう再生するか、といった議論になると思います。
小泉秀樹：都心居住確保策の実績評価と今後の方向
| 表 都心居住確保を目的とした規制制度の展開 | |
|---|---|
| 1985年： | 中央・港で付置義務導入 |
| 1983年： | 都「市住総」運用開始 |
| 1990年： | 用途別容積型地区計画創設 |
| 1992年： | 墨田区で同上制度指定（中央区は1993年） 都市計画法改正（用途詳細化、中高層階住居専用地区） |
| 1995年： | 街並み誘導型地区計画 |
| 1996年： | 用途地域指定替え終了、中高層階住居専用地区指定 |
| 1997年： | 中央区、千代田区で街並み誘導型地区計画指定 高層住居誘導地区導入 |
私は専門柄、都市計画的な手法、特に土地利用規制によって居住確保を目指した手法のこれまでの展開についてお話しします。
バブルの当初、東京の都心では市住総（市街地住宅総合設計制度）や付置義務（住宅付置義務制度）などの適用が始まりました。そうした居住確保を、さらに小さな敷地での開発でも行いたいと言うことで、今度は地区計画の利用されました。しかしそれらの手法は結局敷地単位・地区単位での限定された適用にとどまります。そのため面的な居住機能確保の必要性が高まり、バブルの崩壊前後に用途地域制が改められ、先ほど山口さんが紹介した中高層階住居専用地区などが誕生した訳です。
こうしたバブル期以降の土地利用規制の展開過程を、「計画技術という側面」と「計画技術以外の側面」から整理・解釈し、その上でポストバブル期について考えて行きたいと思います。
1.計画技術的側面から見た展開題計画技術的側面から展開した居住確保手法は、4つあるものと考えられます。即ち居住確保における、1)対象の拡大、2)インセンティブの枠組み拡大、3)目標の充実、4)事前確定的な規制制度と協議です。
1)居住確保における対象の拡大
付置義務の事例の多くは市住総 (市街地住宅総合設計制度) と併用されています。付置義務そのものは都心に限らず新宿、文京など都心周辺区も含めた広い範囲で運用されていますが、現実に適用された物件の分布を見ると、1980-90年代の初頭にオフィス用途が増加したＣＢＤ周辺地区に集中しています。港区を例に付置義務の効果を試算をすると、開発敷地ベースで2600人程の人口が増加していますが、これは同期間に生じた区の人口減少数の７％にしかなりません。このように付置義務は空間的にも量的にも、限界があると言わざるを得ません。
そこで新たに登場したのが、例えば住居系用途地域を細分化し中高層階住居専用地区を導入した新用途地域や種々の地区計画など、面的な住機能確保手法です。新用途地域への指定替えにおいて規制が強化されたエリアでは住宅用途への侵食をある程度防ぐ機能が期待できますが、現実には原則移行が一般的で、それらの地域では人口減少を積極的に食い止める機能は果たせません。では地区計画的手法についてはどうか。試みに中高層階住居専用地区の指定状況を見ると、指定できるところについてだけ区が指定している、つまり論理性や計画的視点が欠如しているのではないかということを感じます。
2)居住確保におけるインセンティブ枠組みの拡大
墨田区緑・亀沢地区にかかる用途別型容積地区計画を題材に、インセンティブの枠組み拡大ということについて考えてみます。建築確認申請の件数ベースで、地区計画の「適用」「不適用」「適用不可能」事例の割合を調査し、「適用」は1割から2割程度で、地区計画が適用されない残り8〜9割は、建築敷地が要件を満たさないという「適用不可能」よりも、地区計画による緩和が適用可能にも関わらず利用をしない「不適用」が多いことが判明しています。つまりインセンティブを通じて住宅供給を促進するには限界がある訳です。その理由は、一つには併用住宅を作る際仕事場や自己居住スペース、その動線を確保しながら、他方で共同住宅スペースやその動線を確保することが、敷地の狭小さから困難なこと、もう一つは住宅経営に対して必要性や魅力を感じる地権者が少ないことが挙げられます。敷地や高度地区など形態上の理由で適用のメリットが少ないために断念したケースが少なく、敢えて容積緩和を選択しないという現状がある以上、実質的な容積率緩和を伴う街並み誘導型地区計画を用いても、やはり限界があると考えられます。
3)居住確保における目標の拡大
当初住宅の量の確保に偏っていた付置義務や市住総は、次第に要綱、準則（市住総の場合）の改定を重ね、例えば付置住宅の用途転用や居住者の属性、アフォーダビリティにまで言及するようになってきました。しかし市住総の適用事例を通じてこうした住宅の質や住環境への配慮について見ると、技術基準さえ満たせば機械的に容積緩和がされた結果１戸が1000�屬僚斬陲鮑遒辰浸�例があったり、一方で適切な住戸規模、北向きの住戸におけるトップライト確保など住宅の質や住環境に配慮した事例があるなど、市住総は制度的一般的に一定の質の住宅供給を担保してはおらず、量の確保に次いであくまで二義的な位置づけであると言えます。
4)事前確定的な規制制度と協議
このような住宅の質まで含めた誘導をするには、二つの方法論が考えられます。例えば事前確定的な規制であるゾーニングで住宅を確保し、あるいは特定の用途を排他的に規制し、確保された住戸の質を担保するために協議を行うという関係です。しかしこれまでの付置義務における協議を見ると、先に一戸が1000�屬僚燦佑判斬陲亮舛篏惨超�に対して配慮がなされた住戸との対照的な事例を挙げたように、行政庁がすべての許可案件について同一の判断基準を適用おらず、個々別々の「基準」に基づく協議、がなされるという不透明さがあります。実は、このような不透明な協議を行ってきた市住総は、許可要領という「事前確定的な技術的基準」と建築審査会や公聴会という「協議」とをセットにして制度化されています。しかし現実には許可要領を満足すれば建築審査会も通過し、仮に公聴会で意見が出ても、許可要領を満足しているということで開発が行われてしまいます。これは制度の設立時の趣旨からすれば間違った運用であると言えます。建築審査会は、例えばこの事例はトップライトを確保しているから良い、この事例はとてもアフォータブルな住宅供給に資するとは思えないからいけないと、個別案件ごとに審査する会になるべきである。こうした「協議」がうまくできれば、市住総に限らず一般的な開発審査の方式としても、ゾーニングの画一的な運用を打破する可能性があると考えます。
2.計画技術的側面以外からみた展開の解釈一方、土地利用規制の展開過程においての計画技術以外の側面も忘れてはならない訳です。
都心居住施策推進に当たって区が様々な制度を国に要請し、あるいは自前で作った過程で、広義のゾーニング手法が住宅政策に踏み込んだことは、旧法以来都市計画と住宅政策の連携が無かった日本では、非常に大きい歴史的意義があったと思います。
しかし、その連携がなされている土地利用規制に依る都心居住施策は、人口確保が必要な区と、所有地の開発権限を留保・拡大したい地権者との間の、政治的な合意の産物という側面があって、単純に住宅を確保したい動機で始まったとは言い得ない訳です。
例えば付置義務や用途別容積型地区計画は、今説明したような政治的な合意の産物であるし、最近の高層住居誘導地区の導入においては、これとは異なるレベルの政治的な合意が存在しています。
3.「ポストバブル」である現在の課題ではポストバブルの時代の今は何をすればいいのか。一つは次の時代が来るまでに基本的な政策目標を再検討することであり、もう一つは、人口減少メカニズム再検討することであると思います。それに依って基本的かつ共通な認識を形成した上で、マスタープランを作る。
例を挙げて説明すると、都心居住推進にはコミュニティの維持や通勤混雑の緩和、職住近接の実現など論拠が幾つかあります。しかしそれらの論拠が各々対象とする地理的範囲や確保すべき人口のオーダーが異なることは、これまで余り明確に語られていません。バブルが始まって以降CBD周辺の狭いエリアで人口減少が激しく起こりました。ただしそこで現実に減少した人口は、数万人の規模であって、区部の人口減少の殆どはCBD周辺に比べて緩やかな人口減少を起こしている、都心の周辺部の密集地域が担っています。当然、CBD周辺でコミュニティ維持を図ることと密集地域での大量の人口減少を喰い止めることとは、別の意味を持つし、対応策も異なる訳です。こうしたことを理論的に整理した上で、ある種の基本的な認識を持ちマスタープランを作ることが、これからの都心居住施策の前提となってくると考えます。こうした共通認識をもって政策運営を行うためには、区が個別に施策を行うのではなく、都を中心に各区が集まって、「東京」という都心全体の方針を作るような仕組みが必要でしょう。
それから非常に個別的な、先ほどの話なんですがゾーニング、用途地域だけで確保しきれない部分があります。それから付置義務だけでもだめなんです。地区計画的なものというのはなるべく広くしていかないと、なかなか居住人口の回復とか住宅供給を積極的に促進することは難しい。それはある種のまちづくり的な活動が育たないかぎりは無理だろうと思います。それをどうやって育てていくのかということが、ほかの住環境整備の課題と同じで、最後の話はそこにいくのかなと思います。
小野恒夫：住宅市街地と居住の実態を踏まえた都心定住への取組
前のお二方の話をうかがいまして、求めている部分・求めようとしている部分の考え方に非常に興味が持てました。私は現在都市計画マスタープランと住宅マスタープランの両方の所管の課長をやっておりまして、また渋谷区に来る前は東京都におりましたので、いろいろなところからまちづくりを見られたのかなと思っています。そういうなかで、お二方の提案と実務的なところを合わせて、個人的な感想も含めてお話ししたいと思います。
1.まちづくりのインセンティブ今世間一般では、基礎自治体で住宅政策をやることが重要だと言われています。その理由は、住宅政策はハードとソフトが混合したもので、それをきめ細やかにやらなければいけないから、身近なところの基礎自治体が一番重要だという議論だと思うんです。なおかつ、7,8年前は東京23区に住宅課なんてどこにもなかったのが、最近はどこでも持つようになっていまして、そういう意味で住宅は基礎自治体でやるよというのがかなり定着したと思いますが、一方でこれは誤解を生むいわれになっております。
基礎自治体で扱う住宅には区営住宅・高齢者住宅などがありますが、それを全部合わせても23区でまだ２万戸程度しかいっていません。一方都内には都営住宅が25万戸程度あるかと記憶しておりますが、公営は圧倒的に都がやっているというのが実情です。これは国が補助金を出して県にやらせるという流れで、低所得者に国が住宅を供給するという政策がずっと続いているわけです。もう一つ、木賃のアパートからはじまり最終的に郊外の一戸建ての住宅に行くという、いわゆる住宅双六を通って持ち家を確保するために頑張る人を、住宅金融公庫が支援してきたという流れもあります。このように低所得者には国・県の公営住宅、持家層には住宅金融公庫とで成り立ってきて、これが住宅政策の根幹として動いてきたわけですから、そういう中で突然この4,5年で基礎自治体の住宅政策が大事なんだと言われても、正直戸惑うところが多いのではないかという気がしております。
ただ、住宅政策を本来的にはどこがやるべきかという話になりますと、当然のことながら適正な役割分担論しかないと思っています。細やかな住宅というのは基礎自治体でしかできない、基礎自治体でやるしかないと思います。ただ、そのための財源とか人手とかがあった上でです。最低限の量を確保するための住宅が必要だという範囲においては、国なり都なりの実情を踏まえた供給策がまだまだ必要なのかなと思います。そこの役割分担とすみ分け論が最近ごちゃごちゃになっていて、特にバブルが崩壊し財源状態が国も都も基礎自治体もめちゃくちゃになっているなかで責任の所在の押しつけ合いをして、本来それぞれがやるべきこともなかなか見えてこない。先程の小泉さんのそもそも論ではないですが、私はまず役割分担論みたいなものを見据えることが大事かと思います。
その上に立って基礎自治体の住宅政策に何が必要かという視点でお話しすると、都市計画やまちづくりの手法が、地元の容積率緩和を後押しにして動いていくというように、用途地域自体の現実のダイナミックな運動論があるとの認識は押さえておきたいと思います。例えば土地区画整理では、開発利益があるから減歩をして少しずつ土地を出そうという話をして、何とかやっていくというのが運動論としてあるわけです。その時に土地を供出してもらうため、残った土地は少なくなるけれども昔より価値があるんだという言い方がされて、まちづくりが進んだという現実があります。この現実論に立てば、容積率緩和がまちを動かしていく上での大きな力になると、まずは認識しておく必要があると思います。その上で、こういう状況も実はちょっと様子が変わってきたという話をします。
2.住む人の満足を測るもの渋谷区の住宅白書では、住宅政策の理念を次のように書いています。「何代も住み続けられるまち渋谷を再生する、一方では副都心の活力が招く住民においても一つのライフステージの間は安心して住め、愛着の持てる渋谷にしていく」。これは渋谷にあこがれて来ようという人達も、いつまで住めるかわからないけれども活力として受け入れていく必要があるという意味です。そのためには、地域の立地や居住者層の特性を尊重したうえで、多様性を持った住まいを許容できることが不可欠だと思います。こういう視点から渋谷区をみると、戸建ての多いところ、マンションの多いところなど、いろいろな街並みが集まっていることがわかります。地域ごとに特性にばらつきが出ているわけで、こういうのを大事にしようという話、反対にどうやったら大事にできるのかという話を都市計画マスタープランに反映させる意味で、住宅の側から先行させてやってみようという考えから、渋谷区では住宅マスタープランの書き換えのほうを早めにやっています。
そこで先程、一般的な傾向で言うと容積率をアップしてほしいとの声が強く、実際にそれに基づいてまちづくりが推進されてきたという話をしたわけですが、実際地元に入っていろいろ分析してみると、住み続けられる・住み続けていきたい・住んでみたいというような気持ちがだいぶ出てきたのかと思います。それが容積率をアップして自分の土地の金銭的な価値を高くしようという気持ちと拮抗している。今までまちづくりというと地元では容積率という話になっていったけれども、土地の容積率が高くなることを周りの方だけでなく持っている方自身も嫌に感じているのではないかと、私の個人的な感覚では思っています。
住宅白書は定住文化というワードで引っ張っているのですが、都市計画マスタープランの全体構想の部分でも、「副都心の強化」ではなく「定住空間の形成」という言葉で住民説明会などで話しています。もちろんまだ他人事で自分の土地が容積率が抑えられるよという話ではないので何とも言えないのですが、何年か前にまちづくり計画を立てたスタッフに聞いても、だいぶ容積率、容積率という話よりは本当の意味で住み続けられることを望む感覚が、反応としてはあるようにみられます。
住民感覚がそういうふうに変わっていき、根づきつつある。これをうまく引っ張っていけるまちづくりの手法が、ポストバブルに見合う住宅政策・都市計画のやり方かと思います。そう考えると、まちづくりも都市計画も経済性の問題でインセンティブを取ったり規制をするというのが根幹にあったわけですが、質の問題に入っていくときにはそこのところが非常に難しいと思います。住宅の質というのは、住んでいる人がどういうふうに豊かさを満喫できるかということですから、人それぞれで様子が違うわけでして、ここの部分は従来の都市計画的な手法、事前確定的な規制では難しいのかなという気がします。
具体に言うならば、区の高齢者住宅 でみんなで話せる集会室があって管理人がいるタイプと、バリアフリーにしてありますがハコだけを用意したアパートとを比べると、管理人や集会室があるほうが必ずしも評判がよいわけではないです。集会室の運用をめぐるトラブルや管理人への依存など、そういうので元気なお年寄りが元気でなくなる。むしろ管理人がいなかったり、集会室がないほうが活性化しちゃったという話があるんです。
住宅の質の問題では、建設省は誘導居住水準という平米の話をするわけですが、それが本当に住まいの満喫感を与えるかどうかは、渋谷の場合と地方とでは違いますし、渋谷の中でも地域によって違うのではないかと思います。最低居住水準も難しいところがありまして、これはいわゆるナショナルミニマムの考えですので、家賃補助制度でもそれ以下に住み替えても補助はしないと要綱上はなっているのですが、広さに代わるいろいろなものがあればいいとも思います。例えば近所に銭湯があれば風呂掃除をしなくていいし行けば人にあえるとか、そういう条件を加味すると、ある程度の範囲ですと最低居住水準も必ずしも面積だけでは測れないというのが、実態としてあるようです。
渋谷区でもバブルのときには居住水準を向上させようと家賃補助をしていた時期がありまして、住み替えるならばある程度広いところに移ってくださいという面積要件も付けたわけです。そうすると、お年寄りもこの機会だからちょっと大きめのところに住もうかなと思いますが、実際引っ越してみると掃除が面倒になるなどして、やっぱり狭いところに住み替えたいという話が出てきます。このように住宅で豊かさを満喫するというのは、本当は役所の基準や、もっとはっきり言えば役所に限らず人さまの基準では、なかなかわからない部分なんだなという気がしています。
3.ともに考えるシステムをそうなると、じゃあ放っておけばいいという話が一方で出てきますが、私はそれは間違いだと思います。ではどうすればいいのかといえば、役所がやるのでもなし、かといって民間がやるのでもなし、その間ぐらいを取り持つ住宅政策があるのかなと思っています。住宅白書の行政の役割の変化の部分でこういう思いを書きましたが、従来の公共住宅の供給にとらわれず、区民・企業に情報を提供しそれらの参加や行動を促したり総合的に調整していく役割が重要になると。そのためにまず将来像を明確にあげること、それ自体が重要だという形であえて出してみて、そもそも論の話を私なりにやってみたつもりです。
最後に、小泉さんのまだ練れてないというところを読んで申し訳ないんですが、均一的なゾーニングの中間を埋めるまちづくり的発想というんですが、そういう発想を将来像の展開ということで細かく出して、それを都市マスのほうで受けとめるような工夫があるかと思います。確かに法的には地区計画の整備方針と地区計画の二段構えで、行政指導的なものをある程度できるのかなと考えています。ただ、その前に将来像を、自分の土地の金銭的利益をダイレクトに考えずに、ラフなかたちで意見が言える場で共有するというか、そういうクッションをつくっていかなければと思います。地区計画では地権者が入ってきますと、経済的なポテンシャルの強い部分がどうしても勝ってくるので、その前に少しは豊かな気持ちで考えられるといいますか、地元の豊かないい部分が後押しになるような方策が考えられないかと思っております。
質疑応答・討論
司会質問者１小泉司会小野
小泉司会質問者２小野司会山口司会小泉小野小泉小野司会質問者３山口質問者３小野
総括
司会山口小泉
小野司会＊当日の模様を録音を基に、木内・田中(傑)・米野により再現しました。
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最終更新： 2000.07.25 |
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