平成14年(第57回)
近畿地区大学建築系学科卒業設計コンク−ル審査報告

審査委員長(互選)
審査員
日 時
審査会場

 

中井 進
天野 直樹・海野 克則・遠藤 剛生・笹原 和喜男・設楽 貞樹(50音順)
平成14年4月9日(水)
大阪科学技術センタ−(6階605号室

審査経緯

 高等専門学校・専攻科からの応募1点を加えて、各大学・学科を代表して応募された28作品について審査を行った。

 応募作品はいずれも大学の卒業設計にふさわしい力作ぞろいで、瑞々しい感性にあふれた好感のもてるものが多かったと思われる。本年の個人的感想としては、テーマはあいかわらず、環境や都市についての少し閉塞的な提案が多いのだが、通常はとうてい不可能と思われるようなシチュエーションをことさら設定しているものが目についたような気がした、これはややマイナスと感じた。表現手法について、CGやCADが一般的になってしまったことを背景としてか、それらをベースにはしているのだが、加えてことさら手のあとを残そうとする努力が目だったように感じた、これはプラスだと思う。

  審査にあたっては、昨年までの審査ポイント、テーマの今日性・妥当性・斬新さ、テーマを受けた後の建築的展開力、これらをわかりやすく伝える表現力、の3点を共通の視点として確認し、かつまたこれにこだわらず緩やかな幅をもって評価することとした。審査は2段階ですすめられた。

〈第1次審査〉
 各審査員がそれぞれ5点を選定、投票した。得票のあった作品18点のうち1票の9点について討議をおこない、そのうち5点を残すこととして、計13点を2次審査の対象とした。

〈第2次審査〉
 2票以上の9点すべてについて、投票委員の選定理由など議論を行い、委員相互の認識を確認した。この討議をうけて、各委員が3点選定・再投票を行った。満票、5票の各1点、3票の2点、2票の1点の計5点に絞り、再度討議をすすめた。3票、2票の3点のうち、審査ポイントに照らし、テーマの今日性、若々しさ、提案の可能性を評価して、1点を選び、3作品を入選と決定した。

〈優秀作品〉

bX  陽の礼拝堂

bP1 New Settlements in the Old Settlement at Kobe

bP6 圧縮された中間領域

(中井)

 

審査概評

 全体の審査講評は委員長にゆだね、専ら私の関心のある作品に集中し概評を行います。

 まず、最初に私が選んだ作品は、「新しい居留地」の提案であった。都市の歴史から学ぶことは、どういう歴史の中から生れ、育ち、どのようにして発展してゆくのかという都市の成長方向を学ぶことである。この作品は、アルゼンチン、台湾、インドネシア等の広場や路地の空間の形式を基に、神戸に住む外国人達が母国の生活から生れた空間や文化を大切にしながら生活したいと思う気持ちを空間に表した作品である。その街が連なって、神戸の魅力を高め、街の個性を育てる作品であり、都市と建築の関係を自然体で解いた作品である。

  2番目は「陽の礼拝堂」である。この作品に説明は不要である。ただ私の感じたことのみに止めるが、1辺39mのキューブが何の関係もない大地の上にある。この2つの「物」に沈み行く太陽の光の軌跡になぞらえ、フォンタナが白いキャンパスに描いたような筋状の空間が2つの物体を切り裂き貫く。切り裂かれた空間によって大地と人工物が一体感を得る。その筋の中を光が走るその光が我々に精神的な高ぶりを呼ぶ、というイメージをこの作品から読み取った。空間の力と本質がここにある。

  3番目に「千早赤阪温泉」を選んだが、破綻がなく村の再生としては一つの答えだが、歴史のコピーからは何も生れず、今日の時代の精神がどこに加えられているか見えず、最終的には選から除いた。結果3番目に甲乙つけがたい2つの作品が浮かんできた。「橋の下の美術館」と「─VOYAGE─」である。どちらの作品も建築空間的な魅力はあるが、美術館はなぜ橋の下なのか、橋の上の空間と関るのか、下の水面との関係は、又この計画によって都市は豊かになるのか。一方、「─VOYAGE─」は、成果品の形態には共感するが、平面の詰めが甘くそれが、内部空間の冗長さにつながり、最終的に「橋の下の美術館」を選んだ。しかし、建築は形態操作とうまさだけでつくるものではなく、とりわけ学生の作品は時代の中から生れた問題をどう解いたかが問われるべきであり、特にこのことを自分の気持ちの中に付してこの案を入選案として押した。

(文字数の関係で作品名を短く表しています)

(遠藤)

  応募作品は昨年同様、各大学から選抜された作品だけあって、力作・秀作ぞろいであり、審査は票が割れて時間を要するものになった。各作品のテーマはそれぞれ今日の建築界が抱えている諸問題の縮図である事はこれも昨年同様であり、都市の再生をテーマにしたもの、子育てと地域社会を扱ったもの、町おこしとコミュニティに言及したもの等々バラエティに富んだものであった。なかでも今年は都市の再生、中心市街地の活性化を題材にした作品が多かったように見受ける。入選作3点のうちの1点にはこのテーマのものが選ばれた。

 入選作はいずれもテーマ性、建築的展開力、表現力共に優れており、順当な結果であると思うが、選に漏れたなかにも見るべき作品が多かった事も申し添えたい。

 審査過程で感じたこと、話題になったことを以下に紹介する。

・ なぜこの場所を選んだのかが理解しにくい作品があった。建築には普遍的な解と、地域性に根ざした解とがあり、その相互のバランスが必要ではないか。

・ 比較的優等生的な結論が多く見られ、実現性としては評価できるが、学生らしい自由な発想をもっともっと発揮していただきたい。

・ CAD,CG偏重の傾向のなかで、昨年に比べ手書きの作品が増え、表現方法のバリエーションの広がりを感じたが、手書きの場合はもう少し迫力あるドローイングを心がけないとCGの表現に負けてしまう。(CG以前の時代の卒業設計は手書きならではの迫力にあふれていたように思うのはノスタルジーか?)

(設楽)

 

陽の礼拝堂
村田 龍馬 君(京都大学)

 ドローイングが見る人に作品が語るべきことを瞬間的にイメージさせてしまう、そのような印象をもった。さわやかな作品である。
 海抜250Mの断崖に立つ礼拝堂を題材として、建築の力―建築の可能性を追求している。建築と外部自然との関係をダイナミックに組合わせ、陽光をパラメーターとした空間演出が内・外をネガポジの世界で再構成する。礼拝堂を訪れる人は「陽光」とともに空間を体験していく。そこでは建築はイメージの外にあり、光による変化だけが残像として残る。
 作者の「死生観」すら感じさせる精神性高い作品となっている。本作品は作品性に偏っているような印象を与えそうであるが、作者が試みたことは、建築は単体で存在するのではなく、人を含めた周辺のことがらとの組合わせのなかから成り立つことの説明である。
 出展28作品は大きく2つのグループに分けられる。さすがに選ばれているだけにどの作品も力作である。1つのグループは現実的な課題を取り上げ、建築の社会での役割を説明する。もう1つは本作品のように作品をとおして建築の可能性を追求するなかで本質を語る。前者は作品性、作家性を排除し、後者はその逆を追求することになる。残念なことに前者が圧倒的に多く、今後もこの傾向は加速すると思われる。
 さまざま考えさせられた作品でもあった。

(海野)

New Settlement in the Old Settlement at Kobe
木村 恭子 君(明石工業高等専門学校専攻科)

 神戸における外国人居住のための「新しい居留地」の提案である。
兵庫開港を契機として発展し、大震災からの復興途上にある神戸という街の中、旧居留地の西にあり、雑居地でもあった栄町通において、空地等と空きフロアを融合的に活用した「外国人居住者にさまざまな活動のための支援を行う新しい居留地」づくりを提案している。
 この街の歴史を踏まえた上での、震災後の神戸をめぐる状況認識は明確であり、解決に向けての展開にも破綻がなく、なによりも、提案された空間が魅力的である。
 既存の都市空間へのインフィルによるまちづくりをめざすにあたって、いくつかの外国における典型的な空間構成をモデルとすることによって、単調な空間を変えるだけでなく多様な空間感覚を取りこみ、都市が持つべき多様化を生み出し、活性化を促す提案となっている。

(笹原)

圧縮された中間領域
川嶋 秀樹 君(近畿大学)

 簡単に言ってしまえば、橋にぶらさがった美術館である。上を車が走っている。おそらくトラックも。振動や構造の事、様々な規制等が一瞬頭をよぎるが、中身を読み解くうちにその特異な発想力、緻密な空間構成手法のまえで「技術は後からついて来る」と思わせられてしまう。
 三つのプロセスを経て与えられる魅惑的な展示空間、その下に広がる水面がこの建物がREVERSE(ぶら下がり)している事を気付かせる。この綿密に企てられた計画の基本コンセプトが「あいまいな」、「未完」の中間領域というところにこの案の両義性とふくらみがあるように思う。二つの都市を分断する川、架けられた橋、そこは都市のエッジか、接点か、はたまた中心か、そこで出会う人々はどのように都市へ帰属しているのか、様々な事を想起させてくれる作品であった。

(天野)

 

応募作品リスト

No

作 品 名
学生氏名
大 学・学 科
図面
枚数

1

KOBE Sound Promenade Project
梅田 和弥
関西大学・建築学科
8

2

〈現象〉〈気配〉〈状況〉 〜主張しない建築〜
小林 真輔
神戸芸術工科大学・環境デザイン学科
1

3

─VOYAGE─  Kobe Suma International Art City Project
元木 俊広
京都大学・建築学科(建築U)
33

4

都市近郊における保養空間について ─神戸市兵庫区菊水山麓保養施設計画─
田村  大
京都工芸繊維大学・造形工学科(建築2)
20

5

「湯巡り八湯遊歩村 千早赤阪温泉」
黒田 太士
摂南大学・建築学科
10

6

ルネッサンス コア 〜大覚寺・大沢池〜
河原  司
滋賀県立大学環境計画学科
12

7

「Kasanaru」
前田 和美
和歌山大学環境システム学科
2

8

垂直劇場
鈴木 淳也
近畿大学建築学科(建築コース)
6

9

陽の礼拝堂
村田 龍馬
京都大学建築学科(建築T)
4

10

終の棲家 ─tsuino−sumika−
岡本 美香
大阪市立大学生活科学部
13

11

New Settlements in the Old Settlement at Kobe
木村 恭子
明石工業高等専門学校建築・都市システム工学専攻
6

12

Itami Refugee Capital
青山 周平
大阪大学地球総合工学科
9

13

HOUSING PARK
廣瀬  恵
京都精華大学デザイン学科
4

14

mighty neighbors 〜銭湯と路地がつくるささやかなコミュニティ〜
合志 太一
大阪工業大学建築学科
6

15

shuffle tube
山中 悠嗣
京都府立大学環境デザイン学科
9

16

圧縮された中間領域
川嶋 秀樹
近畿大学建築学科(環境デザインコース)
7

17

glass(es) house ─スケールアウトした工業都市の再生─
山口 陽登
大阪市立大学建築学科
7
18
Nakanoshima 7−views 〜時と流れのランドスケープ〜
田邊ゆかり
奈良女子大学人間環境学科
8
19
経験する歩行 −Hiroshima HistoricalMuseum+Hiroshima Peace Action Center−
市原慎太郎
京都工芸繊維大学造形工学科(建築1)
11
20
「見いだされた時  Le temps retrauve─柏原・玉手山再生計画─」
横山こころ
神戸大学建設学科(建築コース)
7
21
Laputa ラピュタ
木村 俊雄
大阪産業大学環境デザイン学科
7
22
「やまのうえの児童館」
戸井 智美
大阪芸術大学建築学科
4
23
ICE−T project 〜現代の「開かれた」出島計画〜
三田 貴司
兵庫県立姫路工業大学環境人間学科
7
24
「地域社会における子供の遊び場と母親の居場所の提案
稲垣 幸枝
滋賀県立大学生活文化学科
4
25
駒ヶ林海市
森田 久美
神戸大学建設学科(都市コース)
7
26
軍艦島古墳
小山 雅由
立命館大学環境システム工学科
8
27
TRAVELING AROUND 〜自己の殻をうちやぶるには・・・〜
加茂 雄大
大阪工業大学第2部建築学科
9
28
めいろ
森下 大右
大阪大学環境工学科
6

(受付順)以上28点