支援会議の活動
三都における空き家に関する相談状況
- 三都連携事業について
1995 年、国の住宅・宅地審議会答申を受けて、日本の住宅政策は公共住宅供給を中心とした政策から市場重視の住宅政策へと大きく転換しました。さらに、同年に阪神・淡路大震災が起こり、住宅復興が緊喫の課題となるとともに、住宅政策を根本から見直す議論が活発化しました。特に住宅供給者と住宅消費者の情報の非対称性を緩和するため消費者への情報提供など、賢い消費者を育てる必要性が高まっていました。関西では、大阪、神戸、京都において、異なる地域性に合わせた個別の活動が始まり、それぞれに経験が蓄積されつつある中でそれら三都の活動を連携しようという動きが生じ、2008年に支援事業部会関西実行委員会が発足されました。その後、現在まで三都の住情報センター(大阪市立住まい情報センター、神戸市すまいとまちの安心支援センター、(公財)京都市景観・まちづくりセンター、京安心すまいセンター)の後方支援を行ってきた経緯があります。
三都連携事業の2021年度活動テーマは、大阪が主担当で「潜在的な『空き家』と向き合う」に設定されました。三都で取り組む空き家対策事業について互いにその進捗を報告し合い、 特に空き家に関する相談状況について情報共有を図ることで、三都の異なる都市構造、住宅市場、政策課題に対する理解を深め、各々の政策立案の弱み強みを補完する場となっています。以下に、その活動成果の一部を紹介します。 - 空き家に関する相談体制の比較
⑴大阪
大阪では、倒壊等の危険や衛生上有害、景観を損なっているなど、放置することが不適切な状態にあると認められる特定空家等の対策のため、各区役所に相談窓口を設置しています。また、「大阪市立住まい情報センター(おおさか・あんじゅ・ネット)」では住まいに関すること、「大阪の空き家相談ホットライン(大阪府不動産コンサルティング協会)」では空き家に関すること、「大阪の住まい活性化フォーラム『空き家・住まいの相談窓口』(大阪府)」では不動産・建築物に関する相談を受付けています。
⑵神戸
神戸では、神戸市すまいとまちの安心支援センター”すまいるネット”内に「空き家等活用相談窓口」を開設し、不動産事業者と連携し市内の空き家・空き地に関する相談を受付けています。「空き家等の専門相談員」による相談体制を整え、相談のあった空き家・空き地やその所有者の抱える課題に応じて、活用等に向けて適切なアドバイスも行っています。さらに、この専門相談をサポートするため、市内の不動産事業者からなる「支援事業者」より課題解決のための提案が受けられる仕組みも設けています。その他、近隣の空き家・空き地に関するご相談は、各区役所まちづくり課にて受付けています。
⑶京都
京都では、空き家の活用の方法や進め方、当該に係る補助金等に関する相談先として、市役所内に「空き家相談窓口」を設置することに加えて、空き家所有者や地域の方々が、空き家に関して気軽に相談できる体制を整備するため、地域に身近なまちの不動産屋さんを「京都市地域の空き家相談員」として登録しており、各区役所も含めて空き家に関する様々な相談を受付けています。
また、京都市住宅供給公社が京都市の運営する「京安心すまいセンター」では、空き家に限らずすまいのワンストップ総合窓口として「すまいの相談」を、(公財)京都市景観・まちづくりセンターでは、「京町家なんでも相談」として京都市内の昭和 25 年以前に伝統的な構法によって建築された京町家や古民家などを対象にその改修、活用、相続などの保全・継承に関する相談を受付けています。 - 空き家に関する相談内容の比較(表1)
三都で実施している空き家に関する相談事業は、その目的、対象、主体(担当部局)が異なっていることから、単純に比較分析が困難であることを前提に、以下にその特徴について概説します。
空き家に関する相談は当然ながら、その所有者からのものが中心となり、大きく処分、利活用、管理の分野に分類されます。その具体的な内容を 3 都で比較すると、大阪は「売買」「解体」「管理」が概ね 20%前後でまとまっているのに対し、神戸は「売買」が 30%強、京都は 「利活用」30%弱、「改修」539 件、で突出して多くなっています。神戸の場合は、空き家に加えて空き地も相談の対象としており、相談窓口名に活用という言葉を具体的に入れる等、空き家の問題の中でも特に流通促進に注力していることが伺えます。一方で京都は、京町家を対象に特化した相談窓口を設置していることもあり、自ずと改修などの相談が多くなっており、歴史都市京都らしい傾向となってます。
また、空き家は同じ空き家でも所有者からの視点、隣地からの視点、地域からの視点ではその捉え方が大きく異なります。所有者の場合には経済的側面から資金的に大きな負担を生む利活用が決して最善策とは言い難く、何もしない保留という選択肢も十分に考え得られます。一方で、隣地の場合は空き家のまま放置されると用心が悪く、逆に利活用されると改修工事等の騒音や住宅以外の用途、特に京都で見られるゲストハウス等の宿泊施設に転用された場合には近隣環境の悪化も危惧され、裏腹の問題を抱えています。地域の場合は、空き家のまま放置されていることに益はなく、最悪のシナリオとして管理不全による危険家屋化する可能性もあることから、地域の安全安心のため少しでも早く利活用されることが望まれています。
以上のように、一つの空き家でもその問題に関わる主体によって大きく変容することから、その相談事業のあり方も多様化・複雑化しています。地域コミュニティのつながりが強い京都では、京安心すまいセンターにおける「住まいの相談」の内訳が示す通り、空き家所有者よりも周辺住民の方からの相談が多く寄せられており、隣家工事(解体,新築,用途変更) に対する不安等が中心となっています。この傾向は大阪でも見られ、特に、近隣からの「所有者不明」「所有者が金銭的な問題で対処できない」といった相談については解決が難しく、今後の課題となっています。
生川 慶一郎