「素材と構造‐ 蜘蛛によるマイクロ・ケーブル・ストラクチャー」 |
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第1回ANDフォーラムが、定員をこえる100名あまりの参加者を迎え、5月7日に行なわれた。自然界には、人間の技術をはるかに超える構造概念が隠されている。蜘蛛の糸はそのひとつ。実際に蜘蛛の糸から構造物を造り上げた生化学者の大崎茂芳さん、アラップ事務所出身の金田充弘さんの体験を通して、マイクロ・ケーブル・ストラクチャーの行方が論じられた。異分野で活躍されている大崎先生のお話は、通常学会では得られないテーマと課題を、参加者に残したにちがいない。
日 時:5月7日(水)18:00〜20:30
場 所:建築会館会議室(東京都港区芝5-26-20)
コーディネーター:三宅理一(慶應義塾大学教授)司会:宇野求(東京理科大学)
パネリスト:大崎茂芳(奈良県立医科大学教授)× 金田充弘(東京芸術大学准教授)
■ 詳細記事
■ ニュースレター
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ドーム状の巣を張るクモについて紹介する大崎先生 |
まず大崎茂芳先生(奈良県立医科大学教授)より蜘蛛の糸の研究に関する紹介があった。先生の本来の専門は人間の体にあるコラーゲンで、例えば妊婦のお腹の皮膚は横方向にものすごく伸縮性があるが、これは皮膚のコラーゲンの分子構造の向きと大きな関係があるという興味深い導入より話が始まった。 |
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蜘蛛の進化の歴史は4億年と人類の進化400万年よりはるかに古い。先生は苦労して実際に蜘蛛の糸を採取し検証を行った結果、牽引糸の強度は1.0〜1.3GPaと鋼材以上に強く、かつ非常に柔軟で200℃程度以上の耐熱性やエネルギー吸収性もあることが分かった。このような特性を利用して、防弾チョッキなどへの応用が期待されており、遺伝子を山羊のミルクやジャガイモに組み込んで採取する等の最新の試みが紹介された。 |
蜘蛛の糸には7つの種類があり、蜘蛛はそれを使い分けて巣を構成する。縦糸は強く剛性も高く、横糸は弱いが伸びが大きい。特性の異なる糸を組合せ、適切に張力を加えることで、高速で飛来する虫を受け止める柔軟性が確保される。ぶら下がるための牽引糸は蜘蛛が大きくなるにつれ強度が向上し、弾性限は常に体重の約2倍で2本の糸より構成されており、1本が切れても落ちないようになっている。また、紫外線を受けると一定期間の間は劣化せずむしろ強度が向上すると言う不思議な性質がある。巣の張替え周期は劣化の時期と一致しており、蜘蛛は劣化した糸を食べて回収し、またお尻から新しい糸を生産する究極のリサイクルシステムを実行している。
最後にクモの糸の強さを実証するため、3年かかって牽引糸を採取してハンモックを吊り、そこに自分がぶら下がるという試みが紹介された。 |
続いて金田充弘先生(東京藝術大学)よりカウンタートークがなされた。建築デザインにおける昆虫の模倣と言う点からのコメントが述べられた。直接的に蜘蛛の糸を応用する上ではスケール効果を考慮する必要があるが、糸の組成や糸同士の接合方法、進化・生産のプロセスにも学ぶべきものがありそう。多様な機能に対し最適化された蜘蛛の糸のように、今後の建築の形状発生や最適化は構造だけではなく環境を含めたマルチディシプリナリで行うべき。また、現在の建築は設計時に全てを設定しその通りに施工しているが、木が育つように環境に合わせて成長していくような、出来上がるまで形が確定しないような、直接的なものの造り方の可能性もあるのではないか等のコメントが述べられた。 |
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また、多国間を移動する仮設建物についての紹介があり、その燃料電池エネルギーに使う水素の精製をバイオシステムでできないかなどの発想が示された。ただし、生体生成物が環境に優しいかどうかの検証の必要性も指摘された。
休憩を挟んだ後、蜘蛛の巣の素材構成と構造システムについての論議がなされ、同種素材の人工生成の可能性と生体生成物との違い、糸同士の接合方式、初期張力の入れ方や衝撃荷重下での破壊形式などについて、会場を巻き込んだ活発な議論が展開された。 |
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会場を巻き込んだ活発な議論が展開された。 |
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