キャンパス・リビングラボラトリ小委員会
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大会研究懇談会「大学空間の社会的価値とその共創的継承」

 社会の成熟は大学を取り巻く環境の大きな変化をもたらし、これからのキャンパスのあり方を再考する必要性を投げかけている。
大学の社会的価値を再確認し、その価値を都市側の視点と大学側の視点からいかに継承するかを主題として発表と議論が行われた。




  • 倉田(工学院大学)からは都市デザインの対象としての大学キャンパスについて発表があった。バークレー大学のキャンパス計画事例を中心に、シンボリックなキャンパスの空間構成、キャンパスモールなど骨格軸、 軸に沿って様式美を備えた中枢機能の建物配置、軸の焦点に広場・時計台の配置、エリートとしての大学の存在をシンボリックに表現するといったアメリカの大学キャンパスづくりの考え方を紹介し、 知・人・活動の集積である大学キャンパスは、市街地同様に都市デザインの発想や技法による計画が展開可能な求められる空間であると解説した。 大学キャンパスは地域再生やまちづくりにおける重要な環境資源・空間資源・活動資源を提供していることが地域貢献につながっており、そこに大学キャンパス空間の社会的価値があると論じた。
  • 続いて谷口(名古屋大学)は、名古屋大学、南山大学、愛知県芸大の各キャンパスが文教地区を中心とする名古屋東部の持続的発展にどのように寄与できるかという視点からの発表を行った。 名古屋大学は事業組合方式による土地区画整理を用いて700haの広大な土地をキャンパス化していること、その骨格的オープンスペースであるグリーンベルトはキャンパスマスタープランでは都市と自然をつなぐ場・交流拠点として位置づけられ 景観形成にも配慮されていることなど、都市づくりの一部であったことが紹介された。 南山大学は尾根筋に沿った建物配置が西方に都市を望む眺望景観を生み出していること、愛知県芸大は丘の上に南北軸で配置され、2011年キャンパス計画では、周辺市街地からの視線や景観の分析等も踏まえて、 自然的環境をいかに担保維持しながらキャンパスを継承的に発展させるかが検討されたことを紹介した。
  • 西澤(名古屋大学)は、同様に名古屋東部3つの大学キャンパスを題材に、大学空間の社会的価値とは何か、その共創的継承とはどういうことかを論じた。 名古屋大学キャンパスは門のない大学として開かれた大学を体現していること、南山大学キャンパスは丘陵地の高低差を活用して建物の統一感を巧みに確保していること、 愛知県芸大は尾根を軸線にとった空間秩序、地形を活用した配置が安らぎをもたらしていること等、各キャンパス計画には明快な理念があると分析して見せた。 その上で、具体例を挙げてスクラップ&ビルド行為がキャンパス計画の理念の共創的継承を阻む元凶であると批判し、遠慮(評価に基づき一歩退く遠慮)・礼儀(既存のキャンパスと建物を建てた戦陣への礼儀)・ 愛情(建物を大切にする愛情)という三つの姿勢がキャンパス整備には必要であると主張した。
  • 木方(鹿児島大学)は、首都圏、名古屋圏、関西圏の大学キャンパス立地特性を歴史的に紐解き、大学キャンパスが都市形成に大きな役割を果たしてきていることを論じた。 近代日本の代表的なキャンパス計画の「合理性」として、経営的合理性、対話的合理性(地元と合意形成したか等)、制度的合理性という3つがあることを指摘し、 名古屋大学のキャンパスは3つの合理性のバランスが取れていることが社会的価値をなしていると主張した。
  • 最後に海道(名城大学)は縮退する都市におけるこれからの大学・キャンパスの役割という視点から、ウェイン州立大学およびミシガン大学建築都市計画学部 Ann Arbarキャンパスと米国デトロイト市の関係(大学、行政、NPO等が協働して地域再生の取り組み)、 Liverpool大学およびLiverpool John Moores大学と英国リバプール市の関係(衰退都市と再生をフィールドとした学生の教育・研究プログラムを展開)、 youngstown州立大学とヤングスタウン市の関係(大学が市民の大きな雇用母体)、金沢大学と能登半島七尾市・珠洲市の関係(半島里山里海自然学校の実施)について紹介した。
  • 続く議論では、大学キャンパスの郊外移転と都心回帰のあり方、大学空間の有する社会的価値の共創的継承について議論がなされた。 そもそも郊外進出が法的規制や敷地面積確保などのやむを得ない理由が背景にあったとする指摘の一方、近年の都心回帰の一部には郊外進出時のキャンパス計画理念を蔑ろにする安易さが見られ、 従って残された郊外自治体への悪影響に対する批判も出された。 大学移転には大学側が立地先を慎重に考えるべきと同時に、都市の側も安易な誘致は問題を引き起こすとの指摘から、都市計画的視点の必要性が指摘された。
  • 最後にまとめとして、大学キャンパスは都市にとって一大事業であるため社会的価値を背景にしないとキャンパス計画が策定できないことから、 大学と都市は不可分な関係にあること、従って社会的価値を反映したキャンパス計画の理念は捨て去るべきでないこと、キャンパスは都市の市街地環境の中で捉える必要があり、 その総体としての評価の中から周辺市街地との連携や調整が行われ、そこにまた社会的価値が見出されていくこと、都市を巡る環境が変化している中では計画的理念や手法の実践そのものが共創的継承になる等の指摘が行われた。