キャンパス・リビングラボラトリ小委員会
活動TOPIX


2013 拡大委員会『これからの大学と都市・地域のデザイン』

 これまでの活動を振り返りつつ、大学と都市・地域双方のサステイナビリティを高めるための、今後求められる新たな視点や目標を議論する拡大委員会を、2013年3月23日(土)午後に、建築会館308会議室において開催した。


開会挨拶・主旨説明:倉田直道
         (工学院大学、キャンパス・地域連携小委員会主査)

 前身であるキャンパス計画小委員会の活動を引き継ぎ、この小委員会の発足時には三つのWGを設置した。
 サステイナブルキャンパスWGは、キャンパスの持続可能性が周辺地域を含めてどうあるべきかを考えてきたWGである。連携コミュニティ形成支援WGは、大学と地域の連携実践に関する情報交流を進めていこうということで、 シンポジウムなどを積極的に行ってきた。都市・地域と大学経営WGでは、いくつかの大学が都心を離れ、あるいは回帰してきた流れを追って、自治体との関係やキャンパスの立地を決定した背景の意図等を中心に調査してきた。 四番目のアーバンデザインWGは、議論が都市との関係にシフトする中で、もう一度原点に返って、計画論や都市デザインの視点で議論するために、途中からスタートした。
 この小委員会では、大会の研究集会やOSの企画運営、書籍の出版などを行ってきた。またISCNにも2009から毎年参加して、特に周辺地域との関係の重要性を積極的にアピールしてきた。 ISCNではこれまでの議論を出版する予定であり、国際的にも我々の活動の一部が紹介される。
 こうした活動の中でおこった東日本大震災は、都市や地域と大学の関係を考え直す重大な契機となり、連携コミュニティ形成支援WGが中心となって緊急調査を行い、各大学がどういう対応をしたかを詳細にまとめた。 以上が小委員会の活動と成果の概要である。  古典的キャンパス計画であるヴァージニア大学や、都市美運動が背景となって空間秩序を取り戻してきたバークレーの例を見ると、キャンパス計画の取り組みは、都市に対する取り組みと重なる部分が大きいことが判る。 一方で最近では、研究活動や地域との関係も含めて、キャンパスの持続可能性をどう捉えるかが重要になってきた。また教える場から学ぶ場へといった転換や、学生生活の質の向上も含めて、大学を一つのコミュニティとして捉え、 キャンパスにおいて場作りを行うことにも焦点があたっている。さらに、大学キャンパスは時間が経過するほど、社会的にも空間的にも安定した地域資源になるので、これを地域に還元していくことも重要なテーマである。
 このように、これからのキャンパスや都市や地域との関係を考えていく上で、まだまだ議論すべきテーマがある。各WGの報告をお聞きいただき、ご議論をいただきたい。

委員会の様子

委員会の様子

委員会の様子

活動報告1 都市・地域と大学経営WG:坂井 猛(九州大学)
 このWGでは、都市経営と大学経営が先鋭的に見える例として、まずは大学の都心回帰に焦点をあてた。 バブル崩壊と少子高齢化によって、都心では工場の撤退と小中学校の統廃合で跡地問題が生じ、一方で、大学は経営が苦しくなって、学生を求めて都心に集約する動きがでてきた。 そして工場等制限法廃止、大学設置基準設置認可手続き改正によって大学の都心回帰に火がついた。
 東京都北東部の墨田区、足立区、北区、葛飾区の基本計画等をみると、人材育成、地域の活性化、地域経済・産業の振興、地域づくり・まちづくり等をうたっており、大学に期待が集まってきている。 代表例といえる足立区では、大学のポテンシャルを地域の核として重視し、放送大学、東京芸術大学、東京未来大学、帝京科学大学、東京電気大学の5大学を誘致した。 他にも、東洋大学を誘致した北区の例や、生涯学習を目的とする塾を開設運営し、コンソーシアムを設立して20以上の大学間の連携に力を入れている八王子市の例などを見てきた。
 これらの調査から、都市と大学が相互に期待していたものが判ってきた。
 一方アメリカでは、大学と都市の連携システムが多く組織されており、一例としてオレゴン州の7大学と17のコミュニティカレッジが参加する「オレゴン大学システム」を挙げることができる。 このシステムは、州の経済発展のエンジンとして期待されており、地域住民への貢献、知識そのものの創造や蓄積、教育研究のパブリックサービス提供を使命としている。 州の役割は学術プログラムへの資金提供、将来計画に基づく各大学の調整、各大学の活動の評価検証などである。
大学の経営に関する切り口の中で、都心回帰は多くの地方都市で似たような現象が起きているので、関西、中部、九州でも調査していく予定である。また、アメリカの大学システムの話は、日本に道州制が導入された場合に、参考にできると考えている。

活動報告2 サステイナブルキャンパスWG:小篠隆生(北海道大学)
 このWGでは、地域と連携しながら施設環境を計画、整備するときのあるべき方法論や水準、サステイナブルなキャンパスの計画手法、それらのマネジメント手法、等の検討を目的として、 海外とのネットワークを構築して先進的な情報を得つつ、発信も行いながら検討を進めてきた。
 ASSHEの年次大会や、ISCNの総会にも参加しながら、世界の大学における状況調査をしている。さらにキャンパスの持続可能性だけでなく、立地する周辺の都市との協同も視野に入れた評価手法を検討している。 一つの例として、サイモンフレイザー大学とブリティッシュコロンビア大学を擁するバンクーバーでは、大学と都市を一体化することが共存していく上で重要だとしてUniverCity East Neighborhood Planというもの作り、 周辺地域に学生向けも含めた居住施設の整備等を行っている。
 また中国でも近年は、急成長に対応する計画から、環境を重視する方向へと急速に舵を切っている。
 こうした調査の一方で、最近5年程度で立ち上がってきた、サステイナブルなキャンパスのあり方を評価する世界の代表的な評価システムについても、比較研究を行ってきた。 中でもAASHEが開発したSTARSについて、北海道大学と千葉大学では国際パイロット事業に参加した。STARSにおいてランキングは目的ではなく、大学の取り組みの性格付けを相対化できる指標になっている。
 CO2排出の評価はどのシステムでもやっているが、キャンパスの質的環境の評価はどこも出来ていない。また研究教育やマスタープランなどは、STARSでは他の項目とほぼ均等に評価されるが、他のシステムでは評価されないといった違いが分かってきた。
 さらに、STARSを参照しつつ、少し焦点を絞った独自の指標づくりも、トリノ工科大、ケンブリッジ大、アムステルダム自由大、北大の四大学が協働して行っている。 これはキャンパスの周辺も含めた土地利用の統合化をどう考えるか、建築によって構成された環境の質とその有効性、教育とそのための施設の質、大学の社会貢献という四つのカテゴリーで評価する方向である。
 日本ではサステイナビリティという概念が、非常に狭く捉えられている。エネルギー消費やCO2排出だけではなく、キャンパス空間の質的評価や、大学の活動の評価、地域との連携等を組み込みながら表現して行くことが重要で、 また、良い取り組みを評価するような作り方もある。これらを含めて、引き続き検討していく。

活動報告3 連携コミュニティ形成支援WG:塚本俊明(広島大学)
 2004年ごろからの国大法人化の流れの中で地域貢献が盛んに言われ、また内閣府の都市再生プログラムにも大学と地域の連携が盛り込まれた。 その中でこのWGでは、特に地域の側から見た大学との連携に重点を置いて、大きく三つの流れで活動してきた。
 一つには、大学と地域の連携や協働による都市再生に関する講演会を、下記テーマで8回行った。
 1) UDCK柏の葉アーバンデザインセンターの例、2) アメリカのアーバンデザインセンターについて、3) 広島大における地域連携の組織や課題、4) 横浜市を事例として都市の側から見てどう連携していくか、5) ルーバン・ラ・ヌーブ大学と地域の関わりの事例、 6) 鹿児島大学の木方先生の近著「大学町出現」をめぐる講演、7) 学内保育園施設をめぐる戦略的地域貢献、8) 震災後一年経った東北大学とその周辺地域でどのような形で連携が進んだのか、以上の多面的な講演・勉強会を行ってきた。
 大きく二つ目の活動としては、2009~2011年度の情報交流シンポジウムの企画運営がある。
 2009年度は「戦略的キャンパス計画と都市・地域の連携のゆくえ」と題して行い、2010・2011年度はサステイナビリティをテーマにシンポジウムを行った。 また平行して学会での報告やPDの企画運営も行っている。例えば、農村計画委員会との共催で、農村漁村と大学との連携についての議論も、東北の自治体や大学の方にご参加いただいて実施した。
 三つ目の活動は、東日本大震災によって被害を受けた大学、間接的に影響を受けた大学、支援を行った大学、それぞれの取り組みの緊急調査であり、全国の大学に対してかなり詳しく調査してまとめた。 その結果、中長期計画やマスタープランに多大な影響があったり、新たにBCP構築を開始したり、多くの大学が対策を打ち出してきた状況が明らかになった。 また被害を受けた大学がいかに活動を再開したか、また機能麻痺した大学の周辺で学生たちがどのように生活を再建したか等の事例も調査収集した。 さらに今後のリスクマネジメントとして、災害対策センターや大学と地域の新たな連携の仕組みを構築しようとしている例を、網羅的に把握できた。
 災害があったからといって急に連携をしようといっても無理であり、常時連携の仕組みを作っておくことが大切である。以上の活動によって、災害時も含めて、地域の中で大学という組織とキャンパスという空間がどういった役割を果たすのか、 どういう範囲でどういうコミュニティを作るのかが、一層重要になってくると考えており、さらに深めていきたい。

活動報告4 キャンパスデザインWG:土田 寛(東京電機大学)
 本WGは、小委員会の活動がソフトウェア的な面にシフトする中、再度、大学の空間そのものを分析対象とすることが重要という認識に立って、途中から活動を始めたWGである。
 立ち上げから2年程度での現状報告となるが、これまで論点は三つあった。
 一つは都市再生の目標としての「キャンパス性」であり、その中に密度性や界隈性を考えることができる。大学は建物密度が非常に低いので、縮退する都市のモデルとなりうる。 一方で都心を再生するときに、界隈性をもつ大学街が目玉になるとすれば、そのあり方を考える必要がある。
 二番目は、キャンパスと市街地をつなぐアーバンデザインの視点である。国公立大学は比較的閉じたキャンパスで、一般の集団規定がほとんど及ばない中で形成されている。 一方で周辺市街地は、集団規定の規制をもろに受けるなかで形作られる景観や空間特性がある。これらがどうつながっているのか、都市再生に結びつく議論をしたい。
 三点目としては アーバンデザインの実験場としてのキャンパス、という視点がある。都市再生の手法論にフィードバックできるような、実践面での整理をしていきたい。
 現在は基礎的な分析を始めており、5学部以上の大学130余校を対象に、基礎的な整理を始めている。今後、軸の構成、焦点、エッジの空間性能、心象風景等も含めて空間骨格を捉えていきたい。
 仮分析として横軸に道路・通路率、縦軸に建築面積の総和をとると、大学は一般市街地に比べて圧倒的に建物密度が低いことが判った。引き続き、精度を高めて分析していく予定である。

ラウンドテーブルディスカッション

出口 敦・都市計画委員会委員長(ゲスト)からの総論コメント:
 この小委員会は、活動が非常に活発でアウトプットも多く、高く評価される。
 しかし大学キャンパスの定義は、時代とともに大きく変わってきている。全体として、地方大学、私大など、大学キャンパスは多様であるとの意識が薄く、ごく一部を想定している印象がある。 大学キャンパスをもう一度類型化し直し、その中で各WGの取り組みを見直すことが考えられる。
 また、今の課題を解決するプラン以上に、10年20年先を見据えたプロアクティブなものを目指すべきである。例えば昨今の大きな流れに国際化があり、小委員会としても重要なテーマであろう。

都市・地域と大学経営WGに関する議論:

  • Win-Winの関係の定量化や指標化について、小委員会として議論はあるのか。例えば、大学を緑地環境の管理者として見る側面もあるはずで、そうした指標なども必要ではないか。
  • 大学を誘致するメリットとして、若者が集うことによる活性化に意義を見出している自治体が多い。また学生一人当たり年間約100万円の経済効果も計算できる。建設資金等も地元に投下される。 一方で、大学キャンパスのオープンスペースや緑地の空間的価値も重要である。また、大学が都市作りに貢献する度合いをどう示すかも課題である。
  • 北千住は、大学誘致によって東京で2番目に商業地価が上昇した。そういう評価もありうる。
  • Win-Winの中身を整理することも目標となるだろう。相互に与えるものや期待するもの、どういう関係になると大学立地が成立するのか、これらが明確になると政策的判断に有効である。
  • 地域活性化への寄与は、地方の方が大きいだろう。地方大学の統廃合も想定して調査してみたい。
  • 立命館大学BKCキャンパスは草津市から誘致されたが、市は大学を誘致したメリットを明確化するために、経済効果を毎年分析している。 大学としては学生がどれだけ育ったか等を定量化していく必要を感じる。最近ようやくそうした議論が出来つつある。大阪府茨木市にも新たなキャンパス形成を計画しているが、茨木市は草津での効果の定量化に大変関心がある。 別府キャンパスは国際化という点で注目された。当初、地元は歓迎する空気ではなかった。一生懸命地域に出向いて、最近やっとつながりが密接になった。最近はむしろ行政の関心が弱まり、地元が積極的になってきている。

サステイナブルキャンパスWGに関する議論:

  • 大学キャンパスのあり方の多様化を考えるとき、例えば都心に再開発・高層化してできるものにいかに指標を適用するか、多様なキャンパスの在り方や地域との関係も含めた定量化・指標化の体系ができるとよい。
  • 今、仮に作っている評価システムは、一つの理想キャンパスモデルに向けて一律評価するものではなく、性格付けを相対化できるような柔軟なシステムを考えている。
  • 活動成果は、文部科学省の政策にも反映されてきて、今は多くの国立大学がマスタープランを持っているが、それをどう相対化できるかという軸はないので、今後の成果が期待される。

連携コミュニティ形成支援WGに関する議論:

  • 大学と地域の連携の組織や場、拠点をどうつくっていくのか。UDCKも自治体と大学だけで成り立っていないので全国に展開できるモデルになりにくい。
  • 立命館では、コンソーシアムNPOを作ってこれを介して街に出ていくことや、留学生を企業が海外展開する際の、簡単な通訳に使うなどの工夫が印象に残っている。
  • 実際の連携はあまり進んでおらず、最近は難しさが気になってきた。学生が定常的に関わっていてもいわゆる「連携疲れ」が起こる。大学側も個人的努力に頼っているし、地域の側も学生のお世話に疲れてしまう。 どういう組織や体制があればうまく動くのか、それもまたテーマになりうる。
  • 立命館BKCキャンパスでは、キャンパス事務室という一括横断的体制が、例えば交通問題に関して、地元や行政、警察との連携に機動力を発揮しており、私立ならではの体制である印象を持った。

キャンパスデザインWGに関する議論:

  • 国立大学等の従来型キャンパスも意外に研究が進んでいない。これらはミクロな秩序の組み合わせで成立しているが、その秩序を保ちながら変化に対応する手法を確立しないといけない。 キャンパスや都市のデザインに正面から取り組むことも必要である。
  • 市街地型その他の多様なキャンパスは、今後整理していく。市街地型を都市側から見たとき、オープンスペースの作り方が都市空間の秩序継承に寄与すること、大学の伝統と地域の個性の折り合いが必要、といったイメージをもっている。
  • キャンパス内に飲食店が増える傾向にあるが、中だけで完結しようとせず、それらは外に出すようにしないと、地域ともつながらないし、ミクロな秩序も崩れていく。
  • 東京芸術大学では50年ぶりのマスタープランを作った。オープンなキャンパスの形成を考えたが現在の敷地奥行きでは本分である教育研究を行う居場所がなくなるので、クローズしながら、バランスをとりつつ沿道を開くことを考えた。
  • 学内に飲食点などを持たないとキャンパスライフが成立しない大学や、一方都心では、学生が街をキャンパスの一部として使いこなしているところもある。 小さな秩序の積み重ねは、高層キャンパスでは言いにくい。これらを踏まえて、キャンパスを類型化・再定義することで地域との関係が見えてくるだろう。

まとめ:次期小委員会(大学・地域デザイン小委員会)主査 上野 武(千葉大学)
 縮退する地域の中で大学が頑張ると地域が活気づくことをどう指標化するか、地域から見てその指標がどうみえるかいう課題がある。名称に「デザイン」を含んでいる通り、フィジカルな計画に対しても、持続的なマネジメントを含めて取り組んで行きたい。

司会・副司会:小松 尚(名古屋大学)・鶴崎直樹(九州大学)
記録:吉岡聡司(大阪大学)・小貫勅子(東北大学)