キャンパス・リビングラボラトリ小委員会
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第17回情報交流シンポジウム
『次世代に向けた大学キャンパスと地域の創造的再生』

 2013年8月29日に第17回情報交流シンポジウム『次世代に向けた大学キャンパスと地域の創造的再生』を北海道大学・百年記念会館大講堂で開催した。
 都市・地域と共にある大学キャンパスを、次世代に向けて、今後どのようにデザインしマネジメントしていくべきかは、国公私立等設置主体に限らず重要なテーマであり続けている。
 シンポジウムでは、大学経営の第一人者、大学キャンパスと都市・地域の研究・計画実務者からの話題提供をいただきながら、最新の文部科学省の動きをベースに、 「次世代に向けた大学キャンパスと地域の創造的再生」についてディスカッションを行った。


主旨説明:上野 武(千葉大学・大学・地域デザイン小委員会主査)
 都市計画的視点からキャンパスを考える「キャンパス計画小委員会」は2002年に誕生し、今年4月からは「大学・地域デザイン小委員会」として歩み始めた。 その新たなスタートとして、次世代に向けて社会に開かれたキャンパスをめざした「創造的再生」のあり方について、討論したい。

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

講演1「キャンパス・都市・地域のフレームワークとプレイスメイキング」
    小林英嗣(都市計画家/北海道大学名誉教授/前都市計画委員会委員長)

 日本版サステイナビリティの概念とそれに基づく創造的再生の評価体系が構築されるべきである(例えばLEED-NDはそのヒントとなる)。 その目的・目標・成果・プロセスについて、この数年で学術的に整理検討しなおす必要がある。
 都市や地域にとって大学は現在もブラックボックスである。大学はまず総長近くに地域担当局を持つなど、地域との意識の共有を図る必要がある。
 欧米キャンパスの美しさを紹介しても、キャンパス空間の質の向上への社会的合意や投資につながらない。 大学と地域全体の創造的再生やイノベーションとも結びつけながら、プレイスメイキング力と利活用マネジメント力をキャンパスと都市や地域の間で共有・連携し、緻密な論理を組み立てなければならない。
 ガイドラインの作成も重要である。都市建築というものを考えられるように、キャンパスにもあるべき建築を考えることが出来る。
 文科省作成のガイドライン普及のため大学施設部系の人材を育成するワークショップを全国で開催するが、こうした活動を支援すること以上に、 学術系小委員会の役割は「キャンパスの創造的再生」に関するアカデミックスタンダードを明確に示すことが第一である。

講演2「アーバンデザインの視点からみたキャンパスと地域の連携」
    倉田直道(都市計画家/工学院大学教授/前キャンパス地域連携小委員会主査)

 アメリカのキャンパス計画は、19世紀後半の都市美運動に始まり、1960年代から70年代の学生数の増加等に対応する時代を経て空間の秩序が大きく崩れる中で、 キャンパスを固定した像ではなく変化し続ける対象として捉え、キャンパス全体や周辺の資源の評価し、将来発展を検討しつつ動的なキャンパスマスタープラン(以下、CMP)で誘導していく方法が主流となった。
 キャンパス内だけではなく、周囲の環境や地域の文脈、歴史的資源、地形、生態系を含め、変えてはならないものとして空間の骨格を位置づけることが重要である。
 キャンパス計画の最近の傾向は、都市デザインと同様に「持続可能性」と「場づくり」の二点の重視であり、既存の空間や環境をどのようにリ・デザインしていくかが問われている。
 キャンパスは極めて安定した都市資源である。地域にとって、オープンスペースや緑地の空間資源として重要であるだけではなく、そこでの学生たちの活動もまた非常に貴重である。

講演3「求められるキャンパスと地域の創造的再生」
    古山正雄(京都工芸繊維大学学長/
    国立大学等のキャンパス整備の在り方に関する検討会(以下、「文科省の検討会」)主査)

 京都工芸繊維大学では、2004年の法人化後、第1期のキャンパス計画では、CMPを作成運用して資源配分を平準化する作業を行った。第2期では、教育プログラムが多様化する中、多様な財源の確保と、資金をかけない空間整備をしてきた。
 本学ではCOC(Center of Community)とCOI(Center of Innovation)を連動して戦略化しており、災害時のボランティアセンターを学内に作る計画や、家庭でもできる通信と一体となったスマートグリッドの実験計画なども、COCの一環として行っている。
 文科省の検討会では今年3月に報告書「キャンパスの創造的再生」を取りまとめたが、そこでは政策課題を建築的、空間的、体験的な魅力につなげていくことが重要と考えた。
 今の時代は社会貢献が強調されている。また今までの産学連携は、企業との関係という捉え方が多かったが、今後は学生自身の社会活動の経験を通じた全人教育としての側面が重要となるだろう。
 大学は社会への入り口である、という覚悟を学生に与えることや、卒業生の共通の思い出の風景となることもキャンパスの重要な役割である。

討論(進行:上野 武)

  • 地域との関係やグローバル化に対応したキャンパスの在り方について、文科省も学会に新しい流れの発信を期待している。
  • 国民や各大学のステークホルダーの理解を得ながら大学のミッションを具現化するために、CMPや個別計画のための論理が重要となる。 これからはパブリックスペース、ランドスケープやコモン、サードプレイスも充実させるために、教育研究活動における必要性からもそれらの価値を評価しなければならない。
  • 大学は、地域のステークホルダーが求めることを知る必要がある。イギリスのタウンとガウンには常に緊張関係があった。開かれた大学とは運営も含め考えるべきで、キャンパス計画も大学だけで考えるのはよくない。
  • 大学を生きた実験場にすることはもっと地域との繋がりの中で捉えてよい。
  • 大学が街から学ぶことは多い。あるべきキャンパス建築を追求することや、良いコモンスペースを丹念に調べていくことも必要である。
  • 科学技術・学術審議会でも、能動的に働くためには外部の空間が重要であると言われており、多方面にアンテナを張っておく必要がある。


まとめ 小篠隆生(北海道大学)
 持続可能性が世界的に重視され、社会的状況も大きく変わる中、キャンパス計画は今までの考え方を見つめ直す時期に来た。 諸活動を段階的に進めながら連鎖させていくキャンパス全体の「創造的再生」について、この小委員会は各大学や文科省とともにそのあり方を見出していく。
(文責:古暮和歌子/吉岡聡司)