キャンパス・リビングラボラトリ小委員会
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第18回情報交流シンポジウム 『キャンパスの創造的再生に寄与するデザインとマネジメント』

 2014年9月11日に第18回シンポジウム『キャンパスの創造的再生に寄与するデザインとマネジメント』を関西大学千里山キャンパスで開催した。
 シンポジウムでは空間計画の原点に立ち返りながら、具体的な空間デザインに展開する手法やマネジメントしていく手法について、近畿地方の事例を参照しつつ議論された。

第一部:見学会

シンポジウムに先立って、関西大学千里山キャンパスを見学するツアーが開催された。

協力:
関西大学管財局管財課、関西大学キャンパスデザイン室

告知

見学会の様子


第二部:シンポジウム

開会挨拶・趣旨説明:上野 武(千葉大学・大学・地域デザイン小委員会主査)
 次世代を担う若者を育てる空間としてこれからの大学に求められるものを考えたい。文科省でもグローバル化、イノベーション、センターオブコミュニティ、サステイナブルの大きな方向を打ち出そうとしている。 関西圏の話題提供、クリエイターの集まる場である東京藝大、文科省の動きをご紹介いただき有意義な議論としたい。

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

講演1「地域住民や学生教職員とつくる大阪大学キャンパスの屋内外共用空間」
    吉岡聡司(大阪大学)

 共用空間の計画では誰とどう話し合って創るかが重要な課題となりうる。あるコモンズ(豊中地区)の計画では学生の提案が発端となった。 施錠や清掃等の管理上の課題を十分クリアしきれなかった面はあるが、屋内外の連続性と開放性の高い空間は実現できた。
 豊中の東口は周辺住民にも利用される共用空間なので、周辺環境整備として柴原まちづくり協議会と共同で取り組んだ。 整備後も間伐、除草・清掃、タケノコ堀りの活動等よい協力関係ができた。また中山池の環境整備では検討委員会を地元や行政と大学で組織し、授業やワークショップで検討して屋外共用空間の整備を実現した。
 これらの取り組みでは、関係者との継続的な人間関係や信頼関係が構築され、様々な協働が生まれたことが重要であると考える。

「地域住民や学生教職員とつくる大阪大学キャンパスの屋内外共用空間」
     スライドより

「地域住民や学生教職員とつくる大阪大学キャンパスの屋内外共用空間」講演

講演2「歴史ある関西大学千里山キャンパスのマネジメントとこれからの空間創造」
    市原淳+星田逸郎(関西大学)

 昭和24年頃から村野藤吾に設計を依頼。その後竹中工務店にお願いしていたが平成23年頃管財局と外部の専門家からなるキャンパスデザイン室を発足。
 これだけ建てづまると建築と空地を同格に扱っていく必要がある。コモンズを作るという発想だけでは閉じた空間にしかならないが、道や広場、林等キャンパス全体がコモンズであるという概念を広げて考えていく必要がある。
 建ててはいけない場所と建ててもよい場所・規模すなわち空間構造を機能より上位の概念として検討し計画を進める。 また短期間に変化するアクティビティや機能、その時の事情だけで空間構成を変化させるべきではなく、それらに配慮しながら、エリアとしての空間の構造を把握し長い目でキャンパス空間がどうあるべきかを議論している。
 空間が均質且つ巨大になっていくよりも、立体的・平面的に襞のある小さなスケールを残していくのが教育、思考、研究のインテリジェンスの原点だと思う。

「歴史ある関西大学千里山キャンパスのマネジメントとこれからの空間創造」講演

「歴史ある関西大学千里山キャンパスのマネジメントとこれからの空間創造」講演

「歴史ある関西大学千里山キャンパスのマネジメントとこれからの空間創造」講演

講演3「東京藝術大学上野キャンパスでの取り組み
    -創造していく人間をサポートする環境づくり-」
    古暮和歌子(東京藝術大学)

 上野キャンパスでは芸術の総合的な力を発揮するよう空間を繋ぎ合わせ、人々が五感をフルに働かせ生き生きと活動できること、交流することで連鎖反応が起こること、 落ち着いて過ごすことができること、を可能にする環境づくりを目指している。
 2010年にキャンパス推進室が学長下に組織され、この下にWGの形で学内教員と施設課によるキャンパス室が作られた。学内組織の良いところは設計与件からじっくり検討できることである。
 先生方と繰り返し話し合い、要求する/されるという関係ではなくともに作り上げる関係になってもらい、合議で優先順位を決めて本当に必要な項目を実現していこうとしている。 またメンテナンスもアート(人が作り出すわざ)ととらえ、創造的な行為として取り組んでいる。
 日本的な感性は国際競争力を持つと確信している。感性をはぐくむ質感のあるキャンパスを目指している。

「東京藝術大学上野キャンパスでの取り組み」講演

「東京藝術大学上野キャンパスでの取り組み」講演

講演4 「キャンパスの創造的再生と共用空間のマネジメント」
    都外川一幸(文部科学省)

 平成25年策定の国立大学改革プランでは、大学毎の強み・特色の重点化、グローバル化、イノベーション創出、人材育成機能の強化等の推進が求められている。 各大学の施設整備では、自らの機能強化を活性化させる計画を考えて欲しい。
 世界の有力大学では、異分野交流によりイノベーションを導くオープンラボ形式の研究施設や、学修意欲を促進するラーニングコモンズ等の整備が盛んに進められている。 我が国においても、施設面の国際競争力強化の推進が急務となっている。
 学修活動、研究活動等を活性化させていく観点からは、外部のパブリックスペースを含め様々な交流空間を確保していくことが重要である。
 各大学の強みや特色に応じた多様な施設整備を推進していきたい。

「キャンパスの創造的再生と共用空間のマネジメント」講演

「キャンパスの創造的再生と共用空間のマネジメント」講演

講演者によるパネルディスカッション:進行 吉岡聡司(大阪大学)

  • 空間のスペックや設えではなくその空間で行動を起こす人を作り出すことも重要。文科省のGPがうまく機能した過去の例もあり、ソフト支援も必要。 しかし学生の自主的活動は、クラブ活動の延長で発生したり講義の延長であったり、制御できるものではない。緩い枠組みを守っていくことが必要。
  • 私立大学は入学金と授業料を基盤に経営しているので、国立大学に比べると、学生のためになることが明確であれば予算化されやすい面がある。
  • 設えすぎることなく、学生のための空間づくりをすべき。文科省でも、学生の学修環境を重視している。学内と学外の空間を連続的に調和させコモンズとしてとらえることもできる。 大学や国が支援しなくとも、普段の学生生活に「交流」が定着していることが理想だから、既成概念に囚われることなく各大学がその空間の必要性を柔軟に解釈する必要がある。
  • その空間は空いていることが大切なのだ、ということを目的として表現するのは難しい。一方、オープンスペースだけが増えることも議論の種である。 図書館の多様な利用形態等、空いている空間と直接利用される空間の運用とを合わせて考えることが重要である。


シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子


まとめ 土田 寛(東京電機大学)
 こだわりと愛着が塗り籠められたキャンパス空間を読み解き再構築する事例を巡って、意義深い議論ができた。これらは都市を再生する普遍的プロセスに繋がっていくだろう。
(文責:池上真紀・小貫勅子)