キャンパス・リビングラボラトリ小委員会
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第20回情報交流シンポジウム 『大学立地は都市を変えたか』

 2016年8月23日に第20回シンポジウム『大学立地は都市を変えたか』を九州大学伊都キャンパスで開催した。
 シンポジウムでは都市における大学の立地と地域連携、キャンパス整備、跡地計画等について話題を提供し、都市の重要な機能である大学の立地がもたらしたキャンパスそのものの変化と都市の変化を読み解きつつ、 効果や課題, そしてこれからの展望について議論された。

第一部:見学会

シンポジウムに先立って、伊都キャンパスを見学するツアーが開催された。

案内:
鶴崎直樹(九州大学キャンパス計画室准教授・大学地域デザイン小委員会幹事)

告知

見学会の様子


第二部:シンポジウム

ご挨拶:猿渡 稔(公益社団法人九州大学学術研究都市推進機構事務局長)
 九大移転が決定して以降、地元で九州大学学術研究都市構想ができた。21世紀における世界的な拠点作りを地元産学官で協力してやっていくという構想である。地元産学官とは、九大、九州経済連合会、福岡市、糸島市である。 OPACKは、平成16年にこの構想を推進するために地元産学官が一体となってできた。
 この学研都市が、新しいシーズから新しいビジネスや産業知を生み出し、地域活性化につながり、世界を牽引できればよいと思う。

開会挨拶・趣旨説明:上野 武(千葉大学・大学・地域デザイン小委員会主査)
 平成10年の第1回開催以降、キャンパスマスタープランの調査研究や地域と大学の連携について研究をしてきた。翌年の広島大学で行った日本建築学会PDのテーマが「大学立地は都市を変えるか」だった。 今回は一文字変えて「大学立地は都市を“変えたか”」というテーマにした。この間どう変わってきたのかについて皆様から具体事例の話をお聞きしたい。

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

講演1「文部科学省の施作展開」山崎雅男(文部科学省技術参事官)
 昭和24年に198校が集まり70の新制国立大学が発足した。そこで生まれた、たこ足大学の教育・研究を活性化させるため移転・統合が進んだ。都心の土地を売って郊外の広大な安い土地を買い、 キャンパスを広げたり、学術研究都市として発展させてきた。
 昔、大学と地域の連携については重視されていなかった。平成16年の国立大学法人化以降、社会貢献が重要視されるようになった。 大学は地域と共に発展するべきで、九大もポテンシャルを生かして地域とともに新キャンパスを発展させていってほしい。

「文部科学省の施作展開」講演

「文部科学省の施作展開」講演

講演2「都市と大学—福岡都市圏と九州大学のフレームワーク」
    坂井猛(九州大学キャンパス計画室教授・副室長)

 九大が移転した背景には、キャンパスの分散、老朽・狭隘、航空機騒音、周辺地区の宅地化で再開発が難しかったことがある。
 平成13年に九州大学で新キャンパスマスタープランを策定し、同年、地域の協議会で九州大学学術研究都市構想を策定した。地域と大学で構想の実現に向けて取り組んでいる。
 これまでの大学移転では、キャンパス跡地周辺の店舗や住宅が減る傾向にあった。箱崎でも起こる可能性があることから、早めに対策をとるための研究会を始めた。

「都市と大学—福岡都市圏と九州大学のフレームワーク」講演

「都市と大学—福岡都市圏と九州大学のフレームワーク」講演

講演3「九州大学箱崎キャンパス跡地のまちづくり」
    上滝今佐美(福岡市住宅都市局跡地活用推進部長)

 市として九大学研都市駅周辺のまちづくりを支援している。 キャンパス跡地の再生により都市全体の機能向上を図りたい。
 箱崎は、利便性が非常に高く広大であり、平成25年度に専門家による将来ビジョンを作成した。ゾーニングする上で、市場性を検討しつつ、跡地利用協議会のなかで協議しながらやっていきたい。

「九州大学箱崎キャンパス跡地のまちづくり」講演

「九州大学箱崎キャンパス跡地のまちづくり」講演

講演4 「糸島市と九州大学の連携と計画〜まちのなかに大学がある意味とは〜」
    馬場貢(糸島市企画部長)

 九大との連携は糸島市の成長戦略の一つ。九大の知力と若い力を糸島市のまちづくりに生かすという方針のもと、平成22年5月に九大と糸島市との間で連携協力協定を結び、連携協力推進協議会を設置した。 平成27年度には112の連携事業を行った。
 九大が糸島市に来て、市役所がまちづくりについて九大に相談するようになった。九大が以前より近い存在になった。
 市民からは、九大はまだ敷居が高いと聞く。大学と市民を繋ぐには、九大の近くに双方が入りやすい空間が必要である。自治体側は大学を応援し、大学にはまち・自治体を元気にしてほしい。

「糸島市と九州大学の連携と計画」講演

「糸島市と九州大学の連携と計画」講演

講演5 「大学立地と都市の展望」 小松尚(名古屋大学准教授)
 日本の都市の課題は人口減少と少子高齢化が進む中、どう都市機能を集約するか、その担い手をどう確保するかである。 一方、大学の淘汰や機能分化も進んでいる中、教員もより短期間で成果を求められている。双方の課題を協力して解決すべきだ。
 キャンパス跡地のスポンジ化を防ぐのも大切である。近年、大学が都心に戻る傾向にある中、大学がない地域が積極的に大学を誘致することによってイメージを変えている。
 これから知識面でもグローバリゼーションが進むので、世界とどういうネットワークを作るかが重要。大学がそれをまちづくりに生かせればもっと魅力的になる。
 ラーニングやリビング・ラボラトリーとしての視点でキャンパスを捉え、糸島から新しいワークスタイルやライフスタイルが生み出されるような学術研究都市にしてほしい。

「大学立地と都市の展望」講演

「大学立地と都市の展望」講演

講演者によるパネルディスカッション:コーディネータ 坂井 猛(九州大学)

  • 社会貢献が大学のミッションとして加えられたことで大学のマインドが変わった。大学が開くことで地域の方が足を運びやすくなる状況が生まれている。連携してwin-winになる仕掛けを作ることが大切。
  • 跡地に関しては地域の方が愛着のある緑や象徴的な建物などを生かすとともに、社会的な実証実験など大学跡地であることを踏まえたまちづくりができるのではないか。 またリビング・ラボラトリーのような都市、リアルなまちへの貢献・展開はこれからの大学の役割だと思う。
  • 持続可能なまちを作っていくための答えがない中で、大学も街も一緒に学んで成長していくようになれば良いまちづくりになるのではないか。
  • ・ 昨今の刻々と変わる状況の中で大学はいかに大きく変化しない安定的な地域資源で居られるかが大切。また地域・都市と大学が連携することで新しく何が生み出されるのか、何を生みだすためにやるのか、 どんな魅力が生まれるのかといったことをこれからもっと議論しなければならない。もっと多様なライフスタイルを実現する大学と地域の関係を発信できるようにしたい。

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子


まとめ 上野 武(千葉大学)
 大学と地域が連携しながら地域が活性化するには長い時間がかかるが、良い取り組みを他の地方都市・大学にも情報発信していただいて日本全体がもっと活気のあるまち・社会になって欲しい。

(文責:池内祥見・小貫勅子)