第22回情報交流シンポジウム
「新キャンパスで実践されたデザイン」
~マスタープランと実際、そしてその先へ~
大学キャンパスにおける計画や研究の今日的課題について紹介し、議論してきた情報交流シンポジウムは、今夏、第22回目の開催となった。
建築学会大会が震災復興後はじめて東北大学で開かれるのに合わせ、近年新キャンパスが誕生した東北大学と九州大学を対象に、「キャンパスマスタープラン」と完成したばかりの「新キャンパスの実際」、
更には「その先」の展開も見据えたテーマで開催された。
まず東北大学片平キャンパスと青葉山新キャンパスを見学し、次いで東北大と九州大という新キャンパス2つの計画過程と成果の報告を受けた。
さらに、ランドスケープの視点、まちづくりの視点から話題提供も踏まえて、キャンパスの「その先」の展開として、都市と大学が一体となった持続的発展に向けてどう考えていけば良いか、
「まち」との関わりの視点から議論が行われた。
第一部:見学会
シンポジウムに先立って、キャンパスの「実際」として、東北大学片平キャンパス、青葉山新キャンパスの見学が行われた。
片平キャンパスでは2017年に登録有形文化財に登録された旧仙台医学専門学校六号教室(東北大学魯迅の階段教室)、旧第二高等学校書庫(東北大学文化財収蔵庫)、旧東北帝国大学附属図書館閲覧室(東北大学史料館)などを中心に、
平成29年度都市景観対象特別賞を受賞した近代建築を生かした市街地における開かれたキャンパスづくりについて紹介された。
青葉山新キャンパスでは青葉山の豊かな自然を生かしたキャンパス計画をベースに、これまで整備された研究棟や講義室・図書館・福利厚生施設から成る青葉山コモンズ、
2018年10月から使用開始予定の学生寮であるユニバーシティ・ハウス青葉山などが紹介された。
案内:
杉山 丞(東北大学 キャンパスデザイン室)
小貫勅子(東北大学 キャンパスデザイン室)
東北大学史料館、教育・学生支援部学生支援課
第二部:シンポジウム
趣旨説明:小篠隆生(北海道大学・ワーキンググループ主査)
情報交流シンポは初回からだいたい20年くらい経つ。今回は「新キャンパスで実践されたデザイン」として、東北大が積み重ねてきたキャンパスデザインの結果を見学で見て頂いた。
ただし、力点は副題の方においている。以前、全米の200大学ほどのCMPを引き受けているボストンのササキアソシエイツの調査をし、非常に感銘をうけた。そのササキアソシエイツが担当したのが、東北大と九州大。
この大型のキャンパス2つの過程と結果をまずお話し頂く。都市とキャンパスの近似性が了解でき、都市計画・都市デザイン・建築計画・建築設計において、キャンパスデザインの手法が応用されるはずである。
どう応用されるのかが、興味の一つ。
池邊先生、豊島先生には、外から見て大学がどう見えているのか、都市と大学が一体となってどう発展に向けて考えていけば良いのかお話し頂き、最後に議論したい。
シンポジウムの様子
講演1「東北大学の新キャンパスとまちづくり」杉山丞(東北大学)
青葉山東キャンパス:人通りの少ない中央道路を活性化しようと、低層部をオープンにした建物や魅力的な低層建築などを通り沿いに集めるマスタープランを作成した。明快かつ取り組みやすいプランだったため、
20年の蓄積で、賑わいのあるセンターストリートに変身した。
川内キャンパス:中心部の雑然とした駐輪場周辺を緑豊かな広場に改造するマスタープランを作成した。自転車の移動先確保や合意形成に時間を要したが、08年に川内プラザ、15年に駅前モールの整備が実現した。
片平キャンパス:閉鎖的で車中心の北門周辺を公園のようなフロントへと改造し、近代建築と現代建築が調和する景観を創り出すマスタープランを作成した。改造には時間がかかったが総長3人目で実現。
デザインコードによる施設整備は、2017年都市景観大賞特別賞を受賞した。
青葉山新キャンパス:敷地の6割を緑地とする環境調和型マスタープランを作成した。地下鉄駅から続くキャンパスモールに面した広大な緑地をユニバーシティパークとして開放することができた。
今後観光スポットとなることを期待している。
「東北大学の新キャンパスとまちづくり」スライドより
講演2「九州大学の新キャンパスとまちづくり」坂井猛(九州大学)
学内チームと三菱地所・シーザーペリ・三島設計共同体とササキアソシエイツでマスタープランを01年に策定した。
古墳74基のうち39基を保存し、一種も絶やさないことを目標として緑地を4割残し、早期に森を再生する工夫を重ねつつ、山並みにあわせて建物群のスカイラインを整え、
パブリックスペースWGによって、植栽、サイン、光環境等の要素を監修し全体の調和に努めた。
全国に先駆けて進めた大学改革の理念を実現する空間構成とその管理運営の確立を目標として、地区基本設計で部局ごとにカスタマイズし、象徴的空間と増殖可能な空間を確保している。
さらに、キャンパスを実証実験の場として位置づけ、水素エネルギー、自動運転、AIバスなどの実験を行なっている。天神から15kmの距離に位置することから当初から交通が課題であった。
16年に短中長期の交通計画全体を見直し、新規バス路線、入構ゲート分散、準幹線道路、未来型交通などを計画している。
経済界、自治体、国の機関と大学により学術研究都市構想を01年に策定しており、人口、企業等は確実に増加している。これを補完するため、公民学によるアーバンデザイン会議を開催し、できることを着実に進めてきた。
「九州大学の新キャンパスとまちづくり」スライドより
講演3「キャンパスは都市側からどうみえるか-ランドスケープの視点-」
池邊このみ(千葉大学)
東北大片平キャンパスが受賞した都市景観賞では、景観重点地区として仙台市との連携、維持管理参加につながる「片平たてもの応援団」、市民が入りやすい計画になどを評価した。
オルムステッドのスタンフォード大の計画のように、19世紀からキャンパスはランドスケープデザインの専門家の仕事だった。インディアナ大の計画でも、軸線、歴史建築との関係、大径木の位置と歴史が示されている。
イエール大で樹木が小さいのは、樹木に20―25年の耐用年数を構え、積立しているため。プリンストン大はほとんどの建物が寄附で賄われているが、お金があると言う以上に、大学愛の刷り込みが行われている。
今のプリンストンは地被類・花が増えた。灌木は見通しが悪く、芝ではアイデンティティに欠けるためである。
大学のこれからの成長に対して、町の成長との関係を示したプランもある。今、アメリカの大学のほとんどがキャンパス計画をサスティナブルのもとに書き換えている。
雨水を取り込むレインガーデン、寮の食事のスローフード、新入生による植栽など。キャンパス計画は半永久的に書き直していくもので、そのための積立や、イニシャルコストの検討、その際、地域の不動産価値の向上を見込むことができる。
東北大では、片平らしさ、青葉山らしさを今後どう伝えていくかを学生やボランティアと考えていく事が重要である。
「キャンパスは都市側からどうみえるか-ランドスケープの視点-」スライドより
講演4「大学・キャンパスとまちづくり-まちづくりNPOの視点-」
豊嶋純一(都市デザインワークス)
都市デザインワークスは2002年設立の、市民・行政・事業者・大学をつなぐ事業型NPO法人。東北学院大のCMP構想に携わるほか、都市のオープンスペースの質的向上を市民協働で取り組んでいる。
仙台都心には商業核と学術文化拠点の真ん中に広瀬川が流れ、総合公園やキャンパスと連なった流域一帯を「せんだいセントラルパーク」と見立てられる。ジャズフェス、光のページェント、お花見、
芋煮会といったアクティビティや歴史資源は豊富だが、土地の所有者・管理者が異なり歩行ルート・景域形成に向けた課題がある。
楽しむコトをテーマに、ピクニック、まち歩き、マーケットなどを開催し、市民生活の中枢をセントラルパークに据える活動を行っていく。
平成29年度には市民協働事業提案制度を活用し「市民がパークマネジメントの担い手となる」仮説を検証するため、パークマネージャーと協議会を導入した社会実験を西公園で実施した。
公園を楽しみ・使い・育てることが、都市の魅力向上や課題解決につながる可能性を示唆した。
大学は市民が自ら学ぶ「権利を保障」するのではなく「姿勢を許容」して欲しい。カフェがあるキャンパスにとどまらず、市民・学生が存分に楽しみ尽くせるキャンパスを目指して、パークマネジメントの考え方を導入してはどうか。
「大学・キャンパスとまちづくり-まちづくりNPOの視点-」スライドより
討論:講師およびモデレーター:恒川和久(名古屋大学)
恒川:質問の一つ目は、キャンパスマスタープランの重要な点と課題何か。
二つ目はそれが都市や市民にとって持つ意味は何か。
杉山:マスタープランは時間をかけて説得、理解されるための長期計画と、予算につながるすぐに取り組める短期計画の両方がある事が大きな機能と言える。
坂井:反対の中でどう進めるか。蓄積を踏まえてマスタープランをつくる。マスコミにも取り上げられ、徐々に反対者がいなくなっていった。
池邊:「九大と言えば伊都」というビジュアルイメージが必要。東北大はそれぞれのキャンパスの東北大らしさをどう出せるのか。大学生がそのライフスタイルに憧れるようなイメージ創出が重要である。キャンパスイメージを市民と共有できてこそ都市から発信できる。
豊嶋:学生のライフスタイルが重要。景観を見に行く観光は前の時代の話。もう少し、町中に近いところに学生の生活がにじみ出ると良い。東北大では、古い学生街が無くなって大学が孤立してしまっている事が勿体ない。
池邊:景観は金にならないと言われてきたが、変わってきた。モールを美しく保つ事が学生を集めるツールと考えてほしい。ランドスケープは美しい景観のなかでの楽しい生活を誘発する空間であり、お金を削減すればその価値は生まれない。
豊嶋:都市のスポンジ化という時代のなかで、都市、外部空間を使ったライフスタイルを市民に提案していかないといけない。大学は、そのライフスタイルをリードしていく事ができるはず。
池邊:グローバルな視点での個性的整備が価値を生む。青葉台駅を降りたときに花壇になっていると、そこの住宅地としての価値が高まる。これからの健康な大学生活という視点でアピールできる事も重要。
坂井:物が分かる卒業生を育てる事が責務であり、そのためにも伊都キャンパスを科学するという授業をしたい。研究面では、エネルギー、AI、ビッグデータなど、次の社会の準備するためのキャンパス、公園化したキャンパスに繋がるとよい。
杉山:キャンパス含めた広域での緑地ネットワークをぐるりと歩き、自転車でまわれるようなビジョンを描いてきたが、道半ばである。
池邊:地元と大学は互いに資産になる関係。企業・市民連携、SDGs含め、企業の生の声を出してもらうと良い。
豊嶋:ブランディングを取り入れながら空間資源を活用して稼ぐ事とセットで提案するのが良い。地域課題解決に学生ベンチャーが参加するのも良い。
シンポジウムの様子
まとめ:安森亮雄(宇都宮大)
キャンパス空間のデザインを20年やってきて、今後どう都市の中の場所になっていくのか。その重要な議論がなされた。