研究会「大学と地域の新たな連携 -地域連携からキャンパスリビングラボへ-」
本小委員会は、大学キャンパスを舞台として新たな都市デザインの可能性に着目し、より探求的な試みが社会実装できる実体を創り出すためのキャンパス・リビングラボ・デザインを目指して活動してきた。
本研究会は、東京都墨田区において大学の活動を新たな地域連携や知見の実装に役立てることを目的として創られた千葉大学墨田サテライトキャンパスを会場とし、見学会・発表・討論を行い、
キャンパスと地域の連携の姿と方向性、そして新しいキャンパスリビングラボのさらなる可能性について議論した。
日時:2022年3月26日(土)13:00〜17:00
会場:千葉大学墨田サテライトキャンパス ラーニングスペース、オンライン併用
参加者:合計47名(対面31名、オンライン16名)
見学会:上野武(千葉大学)×郡司剛英(UDCすみだ事務局長)
墨田区内初の国立大学として、旧すみだ中小企業センターをリノベーションして2021年4月に開設された千葉大学墨田サテライトキャンパスの見学会・計画説明が行われた。
キャンパスを活動拠点とした『UDCすみだ(Urban Design Center Sumida)』は、「公・民・学」連携によるまちづくりプラットフォームである。
まちの未来ビジョン策定・実証実験・情報発信を行いながら、交流・人材育成の場、憩いの場としてキャンパスを活用し、「大学のあるまちづくり」による地域の再生を目指している。
主旨説明:小篠隆生(北海道大学)
キャンパスをリビングラボとするためのデザインは、地域連携とキャンパス空間の意味を捉え直し、地域社会とキャンパスユーザーが求めていることを様々な主体の参加・協働によって創造するプロセスが必要であり、
そうした議論を期待することが述べられた。
大阪大学箕面キャンパス移転事業での実践:吉岡聡司(大阪大学)
駅前再開発街区に外国学研究講義棟とPFI学寮を中心に構築されたキャンパスの移転事業について、キャンパスをフィールドとする実証的研究、キャンパス移転に関連するまちづくり等についての行政や周辺地域との議論や協働、LEED-NC/ND認証取得ほかのキャンパスでの空間計画や建築計画における実験的取組み、これら3つの側面からリビングラボとしての意義が解説された。
リレー発表
大きく4つの側面からリレー発表が行われた。
(1) キャンパスにおける生活空間的連携・実験的空間づくりと大学町:5編の発表があった。
・中世ヨーロッパの街角の講義から生まれた大学の起源と宇都宮大学や千葉大学での地域資源を生かした対話と交流の場づくり(安森亮雄/千葉大)
・静岡理工科大学における地方郊外型キャンパスのコモンスペースの平面形状と居心地の関係の検証(脇坂圭一/静岡理工科大)
・名古屋大学おける東海国立大学機構を象徴する建築とランドスケープの創出(恒川和久/名古屋大)
・九州大学おけるインクルーシブキャンパスの構築に向けた各領域の専門家の連携によるバリアフリーデザイン(羽野暁/九州大)
・学生の大学町離れとCOVID-19による学生街衰退の課題(斎尾直子/東京工業大)
(2) 地域のまちづくり・空間計画と大学:4編の発表がなされた。
・日常的地域連携のための非日常=防災時のキャンパスを利活用する可能性(土田寛/東京電機大)
・Urban Layer手法によってキャンパスのソフトとハードの両面から地域との繋がりの強化(岩崎克也/東海大)
・東京農業大学におけるキャンパスを核とする公共空間ネットワーク形成と魅力向上を目指したグリーン・プレイスメイキング(福岡孝則/東京農業大)
・琉球大学医学部・附属病院の移転による地域への影響(小野尋子/琉球大)
(3) 多様な実験的取組みのフィールド:3編の発表があった。
・北海道大学による、キャンパスと地域のつながりを見つめ直すためのデジタル技術を用いた「知の蓄積」分野横断型時空間的ネットワークを顕像する試み(平輝/東京工業大)
・活動要素の多様化に向けた豊中市のシェアサイクル実証実験と大阪大学への導入(池内祥見/大阪大)
・新たな産業の創出を目指した東北大学と仙台市の多核連携によるスーパーシティ構想(小貫勅子/東北大)
(4) 連携のためのプラットフォーム:大学と地域の双方の視点からリビングラボの役割が4編の発表で提示された。
・都市や地域の課題解決に資する科学技術イノベーションの社会実装と人材育成推進のための広島大学タウン&ガウン構想(池上真紀/広島大)
・「大学の知」を地域の力にする、大学誘致によるまちづくりの推進(郡司剛英/前掲)
・まちとキャンパスをつなぐリノベーションの新しいかたちとしての建築・地域の遺伝子の引継ぎ(上野武/前掲)
・産業界・地域との連携強化のための「知の拠点」としての大学キャンパス活用(笠原隆/文部科学省)
討論:司会・安森亮雄(千葉大学)
大学と地域のつながりについて、空間の重ね合わせによるオープンスペース形成や複合的な利用、学生などのプレーヤーの視点、様々な主体をつなぐ共創のためのプラットフォーム、これらに関連する大学の組織改編といった側面から議論された。
まとめ:小篠隆生(前掲)
大学と地域の連携が多様化していく中で、「UDCすみだ」はこれらの活動をマネージする役割を担うことで、新たな連携のあり方を示唆した。
一般の都市計画よりも高い解像度をもつキャンパスは新たな計画の方法論を生み出すポテンシャルをもち、コロナ禍を経たからこそ見えてくるキャンパス特有の低密度のパブリック・コモンスペースの意味がこれからの計画のヒントになりうると思われる。
記録・文責 平輝(東京工業大学)