新たな都市の価値実体化小委員会
活動TOPICS


研究会「キャンパスをヒントに空間計画における『適疎』と『余白』の方法論を考える」

日時 :2024年7月12日(金)14:00~17:00
会場 :建築会館会議室+オンライン
 1.開会挨拶・主旨説明:「都市デザインに今求められることとキャンパス計画」
  土田寛(主催小委員会主査、都市計画委員会委員、東京電機大学)
 2.講演(1) 「縮退時代の『適疎』なまちづくりとキャンパス空間」
  小篠隆生(一社;新渡戸遠友リビングラボ、都市空間形成のための共創拠点 WG 主査)
 3.講演(2) 「都市建築の『余白』のデザインとキャンパス建築」 安森亮雄(主催小委員会・千葉大学)
 4.ディスカッション 「都市デザインにおける『適疎』と『余白』の方法論~新たな都市の価値へのフックを求めて」
  モデレーター: 池内祥見(大阪大学)
 5.まとめ 小貫勅子(東北大学)

研究会の様子

開会挨拶・主旨説明 「都市デザインに今求められることとキャンパス計画」土田寛

適度に疎な空間の意味や余白の空間デザイン・プログラミング、時間軸のフレキシビリティについての実務と研究の両面の実践についての講演をもとにしつつ、「新たな都市の価値」の実体化へつなげるフックを求めて議論したい。大学CP研究で培った空間性やボキャブラリーを整理することで、複合化されたアーバンデザインの視点をもって、プロセスデザインによる地域の創造や街づくりのための計画デザインを考えたい。

講演(1) 「『適疎』や『余白』はまちの風景を創り出す要素
     ~縮退時代の『適疎』なまちづくりとキャンパス空間をめぐっての小論考」 小篠隆生

小学校+地域交流センターの設計ほかで北海道上川郡東川町のまちづくりに長年関わり、同町で研究も続けてきた。研究では町の中心部の密度が多くの大学CPの建ぺい率20%に近いことや、写真構図等分析により遠景~中景~近景と産業や人の活動との連関が町の心理的な魅力と大きく関わることがわかり、これらに基づいた指標「適疎Index」の開発を試みている。場所の役割や意味を再生させていくことが重要で、小委員会の課題に対するヒントとなりうる。

講演(2) 「都市建築の『余白』のデザインとキャンパス建築~脱施設化と余白の方法論に向けて」安森亮雄

八戸市美術館(西澤徹夫 他、2021)のジャイアントルームと学びのプログラムや、春日台センターセンター(teco 金野千恵、2022)の大屋根と土間など、「余白」を伴う「脱施設型」都市建築を紐解き、また、建築設計資料集成における各種建築からの脱却や、千葉大墨田サテライトCPにおける開設時からの場所の成長の例を示した。それらを踏まえ、容器や設いとしての「余白のデザイン」、多様な主体を横断し制度を超えて活動を生み出す「余白のプログラミング」、変化に対応する柔軟性や時間軸としての「余白のプロセス」という3つの議論のポイントを提示し、これらが「新たな都市の価値実体化」につながるフックとなり得ることが示された。

議論要約 モデレーター:池内祥見(大阪大学)

  • 「適疎Index」は他の町にも展開可能。既存の他指標もあるが日本にあうものを作っていきたい。「適疎」について建ぺいと共に風景も説明に用いたが他の見方もある。スペースが空いていることにも価値や魅力があり、適疎や余白によって生まれる力を発見していくことが重要。
  • 「余白」の必要性を発注者、設計者、ユーザーで共有できる価値観が必要。そこで発生する、人や素材なども含めたアクターのネットワークを検証していくと、方法論へ繋がりうる。
  • ワークショップ的手法は今や一般的だが、東川では使い方に強い意見をもつ人々に運営に一定の責任をもってもらった。特殊解的な汎用性の無い「色のついたプログラム」しかそのような建築を成立させられないように思う。
  • 計画や設計がマニュアライズされていくことには弊害がある。日本の確認申請に対し、一品審査的なCAVE(英国建築都市環境委員会)の手法が参考になる。東川で小篠先生がCommunity Architectとして実践してこられたことにも通じる。
  • 建築は、その地域の材料で作られたことで、地域の街並みを形成してきた。建築生産のプロセスを見直し一律ではない方法を、そろそろ考えても良い。作る過程をウォッチする人が必要で、その土地に合った良い建築を作ることは地域の資源とも連環する。
  • 「施設」を一般論的に考えると、基準による対応の集積デザインになる。活動が発生するためのデザインの方法論が必要。計画論を再構築する話につながりうる。
  • 春日台の事例では、利用者を職員が深く理解した上で個別対応をしているので、計画において柔軟な考え方が可能になった。理事長がCommunity Architectの役割を果たしたともいえる。キャンパス計画者の職能にも同様のことがいえ、制度面で都市の計画への援用が可能かもしれない。
  • うまく使われる余白のポイントは、様々な使い方のアイデアを許容できる空間運用のあり方。作りこみ過ぎないこと、踏みとどまり留保することも重要で、それが適疎や余白がもつ可能性。現時点のデザイン方法論として、「1. 境界にあること」、「2. スケールの共存」(都市/居場所)、「3. マテリアルの関与」(素材の連関、関わり代)の3点を挙げておく。
  • 現実計画では性善説や理想主義だけではやっていけない。都市的スケールでは防災も重要で容積でコントロールせざるを得ない面もあるが、良きローカルルール的なものを抽出していけると良いと思う。

まとめ:小貫勅子(東北大学)

  • 新たな生活スタイルや場所の形成が論じられる中で、新たな都市の価値へとつながるものを模索し、当小委員会の初の公開研究会として活発な議論が行われた。
  • 都市から建築、素材までの幅広いスケールを通じて、何かのために留保する余白がある空間や適疎な空間が多様な活動を喚起しあるいは許容することが議論され、それを裏打ちする人のネットワークや素材、産業等の連環、作りこみすぎない設計の考え方などについて議論があった。
  • キャンパス計画研究で培ったことを元に計画の方法論を見つめなおす中で、一律基準で一定品質を確保しつつ数多く作る必要があった時代から反転し、人々の活動や使い方、地域特性等から生じる特殊解的プログラムやローカルルール的なものを抽出すること、人や地域に関わり続けるコミュニティアーキテクト的な職能・立場の重要性が議論された。


全体司会:小西千秋(東京電機大)、副司会・記録(文責):吉岡聡司(フリーランス)