研究会「キャンパスで実証された空間計画の方法論 ―キャンパスリビングラボデザインのゆくえ」
日時 :2023年3月25日(土)13:00~17:30
会場 :日本女子大学百二十年館12001教室(東京都文京区目白台2-8-1)
13:00 ~ 14:30 :日本女子大学百二十年館、図書館等見学会
14:40 ~ 17:30 :研究会
1.主旨説明:「キャンパスリビングラボと都市デザイン」 小篠 隆生(北海道大学、主催小委員会主査)
2.大学と地域の新たな連携〜研究懇談会を振り返って 平 輝(東京工業大学)
3.「リビングラボの実践と空間計画の方法論」に関するリレー発表
4.ディスカッション
5.まとめ
日本女子大学百二十年館、図書館等見学会
主旨説明:小篠隆生/北海道大学、主催小委員会主査
大学は都市の中で生まれた。そしてキャンパスは都市の縮小スケールモデルであると考えて、本委員会ではこれまでのキャンパス空間での知見を活用して都市の課題を解決することを検討してきた。
アフターコロナではこれらに加えて、健康な都市空間はキャンパス空間との共通項や、キャンパスと都市との接続、キャンパスと都市の空間密度、オープンスペース、ウォーカブルな空間などの新しい計画論が求められている。社会の変化から自分で参加して作っていくという価値観や場所をつくる必要がある。加えて、これからの縮小化社会に向けて、場所の役割や意味を再生させるためには無くても良いものをどうやって選ぶのかが重要となってくる。
これらを解決する鍵としては、ドローンの写真を点群データでポリゴン化し建蔽率を割り出した東川町の景観計画や、ルーウァン・ラ・ヌーブでの大学と街を一体的に作ったオープンスペースの事例などを紹介する。本日は、キャンパスリビングラボとして行われる空間デザインの方法論を、共通の価値=場所を見出すために「場所的空間構成を支援する空間概念」について一緒に議論をして行きたい。
主旨説明
大学と地域の新たな連携〜研究懇談会を振り返って:平輝/東京工業大学
2022年の建築学会大会で「大学と地域の新たな連携―地域連携からキャンパスリビングラボへー」研究懇談会が本小委員会によって開催された。下記の4つの視点から、発表と議論が交わされたことを報告した。
1.キャンパスにおける生活空間的連携・実験的空間づくりと大学町
2.地域のまちづくり・空間計画と大学
3.多様な実験的取組みのフィールド
4.連携のためのプラットフォーム
「リビングラボの実践と空間計画の方法論」に関するリレー発表
1.地域やキャンパスの計画や活動を生み出す新たな担い手とは?
土田寛(東京電機大学):東京電機大学での防止面での取り組みを中心に地域とのかかわりについて、近隣保育園の避難訓練でのキャンパスの一次利用や、周辺自治体の避難所設営・運営訓練では、キャンパスを避難所として3自治会との合同訓練を開催など、日常と非日常を繋ぐ場所としてキャンパスの空間の価値について、継続する時間を地域と共有するプロセスやマネジメントことが重要であるとした。
恒川和久(名古屋大学):大学と都市の接点をもつために大学職員はどうかかわれるか。イノベーションコモンズ〈共創拠点〉の形成に向けて、URAの充実と中間支援機構の重要性について、ボローニャ大学や東海国立機構プラットフォームでの成功事例を交えた運営管理のかたちが示された。
小野尋子(琉球大学):琉球大学では、医学部移転にあたりその跡地利用の在り方を、移転後のスキームが決まらないないままに計画が進んでいることを、人口、交通、店舗に視点からの分析を行いこれらデータの抽出から問題提起がされた。
池内祥見(大阪大学):現在、豊中・吹田市などの自治体から要請された社会実験としてのシェアサイクルであるが、今後の時代の変化によって、新しいモビリチィが登場した時に行政・民間・大学が連携しキャンパス空間が実証実験の場所になりうることを示唆した。
笠原隆(文部科学省):大学の役割を社会実装の推進、人材育成、知と人材のバブの3つに整理をした上で、これからのイノベーションコモンズは、人づくり、「人を育てる場」であることが重要であると、広島大学の事例や、文部科学省の具体的な紹介を交えこれらの環境づくりの試みがなされている。
リレー発表1
2.都市とキャンパスの接続
小貫勅子(東北大学):東北大学川内キャンパスを事例とし、キャンパスを誘導できる都市計画手法による課題を抽出し、特に、景観や周辺の建築用途制限など大学だけでは解決できない問題点など、時代にそぐわない制度も残っている点について洗い出しを行った。
吉岡聡司(大阪大学):昨年の大阪大学箕面キャンパス移転に関する報告に続き、その計画プロセスにおいて運営部署の課長クラスを集めた会議を施設部長が指揮することでソフトウェアとの連携を図ったこと、そのことが運用開始から2年を経て、市の図書館等の運営を大学が担うことや、近傍民間ビルへのサテライトキャンパス設置、まちづくりを考えるシンポジウム、夏まつりでの歩行者天国実現等の連携につながったことが報告された。
安森亮雄(千葉大学):千葉大学サテライトキャンパスと刷新したキャンパスマスタープラン2022についての報告と、全国街づくり協議会や環境ファサードの授業など墨田キャンパスでの活動について紹介がされた。
薬袋奈美子(日本女子大学):大学キャンパスを中心として、人が健全に生活できる場であるかの検討についての問題提起をはじめ、学生寮のあり方や、境界領域(フリンジ)の扱いについて都市とキャンパスの接点に関する議論が行われた。
坂井猛(九州大):植物が好んで生息する場所を意味するニッチの概念を人にあてはめ、九州大学伊郡キャンパスと、糸島半島の2や所で展開を図り、実際にフジイギャラリーを利用して内容の共有を図った。
リレー発表2
3. 建築と都市計画の境界線
上野武(千葉大学):千葉大学墨田キャンパスキャンパスコモンの空間を都市計画用途拡充によって実現させた。段階的に整備を行い、最終的にはしっかりとまちと大学とつなぐリノベーションの新しい形として、このしくみは今後も展開できる手法である。
福岡孝則(東京農業大学):オープンスペースからかキャンパスの再編というテーマで、調査結果にもとづいたキ東京農業大学キャンパス内の屋外空間として、1、2年生居場所つくりのための屋上開放と屋外空間の連携により活動の場を作るという試みについて議論をした。
斎尾直子(東京工業大学):キャンパス空間と大学町との関係性は、大学町の開発時期と立地によるという時間軸での分析を基にこれからの大学と地域のあり方を示唆した。さらには、コロナ禍での学園祭の様相をもとにキャンパスとしての本来の活動空間について取り上げた。
岩崎克也(東海大学):55haの東海大学湘南キャンパスを1つの都市と見立て、GPSを利用した学生の行動軌跡を分析し、学年、学部ごとの動きの違いについて紹介をし、この手法がキャンパスだけでなく広域な都市空間でも応用ができるものとした。
リレー発表3
4. 新たな空間設計手法を考える
脇坂圭一(静岡理工科大学):静岡理工科大学学生ホールリノベーションでの同心円状の空間での柱と照明計画に関する調査結果の報告がされ、大学教員と建築かの協働の手法を探った。
太幡英亮(名古屋大学):名古屋大学キャンパスの群の一棟一棟がどうやってつながっているかを、サイトスケープを利用してネットワークの最適化を行い、その研究成果を名古屋市内のネットワーク分析に応用をした。この手法は長期的な都市空間の価値向上の協働の可能性を示唆した。
ディスカッション:司会・小篠隆生/前掲
福岡孝則(東京農業大学):人がオープンスペースから育っていく手法としては、マルシェの運営など行い地域との連携を図っている。建築をつくった後に外部をどうするかではなく、同時に考えることでなど、「開くこと」と「つながること」のデザインが大切だと考える。また、場を育てていくことが大切でそのプロセスを組み込むことが大切である。
磯達雄(OFFICE BUNGA):都市型と郊外型のキャンパスがあるが、問題提起として、クローズした郊外型のキャンパスはこれからどうなるか?
斎尾直子(東京工業大学):大学町がうまく行かなかった場合もある。拡大新設、移転撤退をしてきている大学もある。立地によってはキャンパスが離れて行って失敗している事例もある。郊外に移転をしたが、最終的には都市の戻ってきている大学など、必ずしも地域、自治体と上手に連携が図れる大学でだけではない。
薬袋奈美子(日本女子大学):意志を持った学生がこれからのキャンパスを活かしていくと考えられる。
日本女子大学の新学生寮は人気で満室の状態である。これからはスタイルを持ちながら価値のある空間構成が大切となる。周りの人との関係性をつくりたい学生が大学を必要としている。
吉岡聡司(大阪大学):学生等の活動によるキャンパス空間の滲み出しが「場」を形成して行くと考えている。ハードウエアをつくるだけではなく、使い方やルールを明確に打ち出すような運用のデザインやコンシェルジェ的人材の配置が今後一層重要になるように思われる。
ディスカッション
まとめ
小篠隆生/前掲
本日は皆さんと活発な議論が出来た。議論のキーワードは4つの「接続性」で包括できる。
①計画の接続性:都市計画制度とキャンパスを都市の中への立地
②空間の接続性:都市公園やキャンパスと建築との関係について
③活動の接続性:ニッチに代表される学生の活動や居場所について
④関係の接続性:建築群の繋がりを都市の価値向上に応用する手法
本日の議論を活かし、小委員会にこれら活動テーマをさらにブラッシュアップしながら次期の主査に引き継ぎたい。
土田寛/前掲 次期委員長
次期委員長として、これまでキャンパスから都市を考えてきたが、これまでの成果を発展させて、いよいよ、「都市に対してどう向き合うか」に取り組み、新たな都市空間形成の実現化に向かって行く。また、今期の委員会は4年の期間で行うため、色々な分野の人を入れて横繋ぎのネットワーク型プラットフォームとしたい。