はじめに
本書は、2015年度日本建築学会大会(関東)都市計画部門 パネルディスカッション「地域創生を支える大学キャンパスのリ・デザイン」の資料集として、都市計画委員会 大学・地域デザイン小委員会がとりまとめたものです。
タイトルに「地域創生」という言葉を使っていますが、これは、大都市圏に対比される「地方」の「創生」を扱うだけではなく、ある特定の「地域」の「再生・創生」も含めて問題にしていきたいという意識の表れです。
私たちは、これまで一群の建物で構成された都市的まとまりである大学キャンパスに焦点を当て、都市計画的な視点から、キャンパスマスタープラン、キャンパスと地域の連携、持続可能なキャンパスと地域再生などに関する研究活動を行ってきました。
今回のパネルディスカッション(以下、PD)では、これらの活動をさらに発展させるため、地域に根ざす大学キャンパスと、その再生デザイン(リ・デザイン)が地域創生を支える新たな拠点・手法となり得るのか、その可能性について考えていきたいと思います。
本資料集は、PD 登壇者による5編の主題解説論文と、①地域再生や地方創生における大学・キャンパスの役割、地域と大学との戦略的な協働のあり方②地域再生や地方創生に向けた大学キャンパスの活用
③地域再生や地方創生を支えるための大学キャンパスのリ・デザインの方向性や有効な手法という3つの視点に関連する18編の寄稿論文によって構成されています。
また巻末には、一般社団法人文教施設協会が発行する「季刊・文教施設」で、これまで3年にわたって大学・地域デザイン小委員会メンバーが連載執筆してきた「サステイナブルキャンパスをめざす世界の大学」というシリーズ論考を転載しています。
このシリーズ連載は、本小委員会の前身であるキャンパス地域連携小委員会の最終年度の活動を引き継ぐ形で進めてきました。内容はPD の主旨にも合致するもので、世界の大学が取り組み始めているサステイナブルキャンパス実現へ向けた具体事例や
大学間ネットワークの紹介を通じて、地域と大学の持続可能性に関する諸問題の解決に向けた具体的な計画手法や協働の仕組みを、都市・建築・環境の側面から考えようというものです。
転載を許可していただいた文教施設協会のご厚意に、この場を借りて深く感謝申し上げます。
都市の縮図ともいえる大学キャンパスをリ・デザインしていくことが、持続可能な地域社会実現のために大きな可能性を有していることを、本PD および資料集を通じて発見していただければ幸いです。
2015年9月
大学・地域デザイン小委員会 主査 上野 武
目次
【主題解説】
①Center of Community としての大学キャンパスのありかた-廃校を活用したサテライトキャンパス-
鈴木雅之(千葉大学)
②大学キャンパスと地域連携 建山和由,大藪康成(立命館大学)
③大学が地域のアーバンデザインを牽引する可能性-韓国・驪州(よじゅ)大学の実践- 鄭 太景(驪州大学)
④UDCの活動を通じた公民学連携による地域のデザインとマネジメント 前田英寿(芝浦工業大学)
⑤地域創生における大学キャンパスとアーバンデザイン 倉田直道(アーバン・ハウス都市建築研究所)
【寄稿:地域創生を支える大学キャンパスのリ・デザイン】
①地域再生や地方創生における大学・キャンパスの役割、地域と大学との戦略的な協働のあり方
1)1980年代以降の大学キャンパスの新設と撤退に対する自治体の姿勢と連携課題
斎尾直子、鈴木雅之、小松尚、坂井猛、太田真央
2)大学と地域との遠隔連携における自治体の姿勢と課題 斎尾直子、鈴木雅之、小松尚、坂井猛、太田真央
3)糸島市と九州大学との戦略的な協働によるまちづくり 坂井猛、金昭淵
4)アーバンデザイン会議九大UDCQ の取り組み 坂井猛、森茂
5)アイランドシティ・アーバンデザインセンターUDCIC の取り組み 坂井猛、尾辻信宣
6)日本女子大学の雑司ヶ谷地域との関わり方の歴史と近年の取り組みによる地域との関わり 原わかな、薬袋奈美子
②地域再生や地方創生に向けた大学キャンパスの活用
1)都市の発展と大学キャンパスの展開 -東京理科大学葛飾キャンパスの場合- 宇野求
2)地域の持続可能性を高めるための大学キャンパスの役割 小篠隆生
3)地域住民や学生教職員とともにつくるキャンパスのゲート的オープンスペースの計画
~大阪大学 豊中キャンパスを事例として~ 吉岡聡司
4)既存校舎の一般利用による大学キャンパスの公開性 -宇都宮大学峰キャンパスの事例 安森亮雄、松浦達也
5)大学図書館を活用した地域との連携事例 池内祥見
6)九州大学六本松キャンパス跡地活用の取り組み 上瀧今佐美、坂井猛
7)九州大学箱崎地区における近代建築の総合評価の取り組み 坂井猛、市原猛志
③地域再生や地方創生を支えるための大学キャンパスのリ・デザインの方向性や有効な手法
1)大学キャンパス計画の新しい方向/関心と大学街の地域環境 重村力
2)立命館大学大阪いばらきキャンパスの空間構成と地域連携 及川清昭、武田史朗
3)足立区北千住の東京電機大学 -都市デザインの視点から- 土田寛
4)大学キャンパス更新の社会性 -都市デザインとキャンパス・デザイン- 土田寛、三谷八寿子
5)九州大学におけるフレームワークプランの取り組み 坂井猛、安浦寛人
【付録:大学・地域デザイン小委員会企画「季刊・文教施設」掲載原稿】
シリーズ:サステイナブルキャンパスをめざす世界の大学
その①上野武/小林英嗣(vol.46, 2012 春号, 46-59)
サステイナブルキャンパスの枠組み
その②斎尾直子/上野武(vol.47, 2012 夏号, 69-76)
キャンパス計画とサステイナブルな地域マネジメント
その③小篠隆生/上野武(vol.48, 2012 秋号, 69-75)
地方都市再生に貢献するキャンパス計画
その④小篠隆生/上野武(vol.49, 2013 新春号, 74-80)
地方都市再生に貢献するキャンパス計画-2
その⑤鶴崎直樹/上野武(vol.51, 2013 夏号, 57-64)
住環境整備による大学運営持続性の獲得
その⑥第17 回 情報交流シンポジウム報告 2013.8.29(vol.52, 2013 秋号, 67-74)
次世代に向けた大学キャンパスと地域の創造的再生
その⑦斎尾直子/上野武(vol.54, 2014 春号, 76-81)
キャンパスのリノベーション・地域のリノベーション
その⑧鶴崎直樹/上野武(vol.55, 2014 夏号, 58-63)
グローバル人材育成のための環境づくり
その⑨上野武(vol.57, 2015 新春号, 76-81)
サステイナブルキャンパス・ネットワークの状況