はじめに
近年、大学キャンパスの動きが活発です。世の中の情勢や価値観が激しく変化している中で、大学キャンパスの計画内容は、大学の研究教育、経営・運営を支え、社会の要求に対応したものへの転換が求められています。また、3.11 に発生した東日本大震災は、直後の帰宅難民者の受入れ、原子力発電所事故に起因する節電対応、教育研究活動の持続性の確保など、キャンパスが果たす役割の重要性を再認識させましたが、同時に課題としても浮き彫りになりました。
本書のタイトルである「いまからのキャンパスづくり」は、新設のキャンパスでも、いまあるキャンパスのリニューアルでも、キャンパスづくりはこれからでもできるし、やっていかなければならないという、思いを込めています。
かつて、キャンパス・地域連携小委員会は「キャンパスマネジメントハンドブック」を刊行し、大学キャンパスのあり方を展望しました。この本は、国内外の豊富なキャンパス計画の事例を紹介しつつ、同時に、さまざまな調査により深く掘り下げた計画内容をしめすことで、幅広い読者をえました。しかし、刊行から5年以上が過ぎ、その間に大学と大学キャンパスをとりまく環境にもさまざまな変化が起き、いまに対応した新たなキャンパスづくりに関する本を待望する声が強まってきていました。そこで、キャンパス・地域連携小委員会は、このような声に応えて、近年の国内外の調査研究の成果や、各大学における実践例を交えて、現代のキャンパスづくり、キャンパスマネジメントの実践に役立つ内容を編集し、刊行することとしました。
本書は、キャンパスづくり、キャンパスマネジメントに、はじめて関わる大学の経営層や教職員が抱く疑問や悩みを解決し、キャンパスづくりを進めるために大いに役立つものになります。また、キャンパスづくりを専門とする実務担当者にも大いに活用されるものとなるでしょう。ここには、先端の研究成果や実践例からみた、本当に過ごしやすく、大学経営や運営に役立つ、大学キャンパスづくりのポイントが語られています。
キャンパスづくり、キャンパスマネジメントに関わる大学の経営層、教職員、実務担当者などさまざまな人々に読んでいただき、わが国のキャンパス空間の質が高まっていくことを心から願っています。
→購入(amazon.co.jp)
日本建築学会
ISBN-10: 481894002X
ISBN-13: 978-4818940024
発売日: 2011/12/1
目次
序 変貌する大学のキャンパス計画とマネジメント
第1章 次世代のキャンパスづくりの発想へ
1.キャンパスをとりまく社会環境の変化
2.次世代のキャンパスづくり戦略の視点
第2章 まちのようにキャンパスをつくる
1.アーバンデザインの発想でキャンパスをつくる
2.キャンパスづくりのマスタープラン
(1)大学の戦略を支えるキャンパスマスタープラン
(2)キャンパスマスタープランをマネジメントする
コラム:戦略的キャンパスマスタープラン作成の手引き
第3章 キャンパスの個性を生み出す空間デザイン
1.キャンパスの骨格をつくる
(1)広がりを持ったエリアをどのように計画するか
(2)ゾーニング
(3)動線・交通
(4)パブリックスペース
(5)インフラストラクチャー
(6)キャンパス周辺地区との連続化
(7)省エネルギー
(8)自然・生態環境
2.キャンパスの顔をつくる空間づくり
(1)空間・デザインの質の再生
(2)景観計画・デザイン
(3)拠点空間
(4)学生の集まる場所・広場
(5)歩行者空間・ゲート
(6)キャンパスのもつ資源の活用
(7)歴史的資産の保全と再生
3.キャンパスのベースとなる空間づくり
(1)サイン計画
(2)セキュリティ・防犯
(3)学生と教職員の宿舎
(4)ユニバーサルデザイン・障がい者支援
第4章 長期的視点に立ったキャンパスのマネジメント
1.マスタープラン実現のマネジメント
(1)経営戦略を支えるキャンパスづくり
(2)資産マネジメント
(3)財源マネジメント
(4)ファシリティ・マネジメント
(5)リスクを想定する
(6)コスト意識を高める
2.マスタープランの実現ツール
(1)空間のガイドライン
(2)空間・デザインの実施計画
(3)持続的な運用プログラム
(4)推進マネジメントの体制
第5章 地域社会に貢献するキャンパスをつくる
1.大学経営からみた都市・まちとの関係
2.都市・地域の価値を高めるキャンパス
(1)大学と都市の望ましい連携
(2)大学をまちづくりのエンジンとする自治体
(3)都市再開発と大学キャンパス<
3.大学が支えるまちづくり
(1)エリアマネジメントとキャンパス
(2)地域と大学・キャンパスが連携する
(3)大学施設の地域活用
(4)分散型キャンパスの活用
(5)連携拠点施設
(6)防災拠点
第6章 さらに次のキャンパスづくりの戦略
1.さらに次のキャンパスづくりへ
2.サステイナブル・キャンパス
3.持続可能な社会・空間モデルとしての大学・キャンパス