平成10年(第53回)
短大・高専・専修学校並びに工業高校卒業設計コンク−ル審査報告

審査委員長(互選)
審査員

日 時
審査会場

高田光雄
狩野忠正・設楽貞樹・鈴木 毅
寺地洋之・長坂 大・三谷 徹 (50音順)
平成11年4月5日(月)
大阪科学技術センタ−(6階605号室)

審査経緯

 平成10年度標記コンクールの審査は、平成11年4月5日、午後1時30分から5時30分まで、大阪科学技術センター会議室において7名の審査員により行われた。本コンクールの主旨、前年度実績、平成10年度の応募状況、当支部本コンクール審査に関する内規等を確認した後、互選により高田を審査委員長に選出した。応募数は、「短大・高専・専修学校の部」17作品、「工業高校の部」8作品で、昨年度と比し前者は4作品増、後者は1作品増であった。

 審査にあたっては、対象が「短大・高専・専修学校」及び「工業高校」の卒業設計作品であるということを十分理解した上で、各作品の欠点をあげつらうのではなく長所を極力見いだし、応募者や応募作品のもつ将来の可能性、次の世代に対する指針としての先導性などを評価に加えることとした。また、「短大・高専・専修学校の部」の設備設計作品1点についても、他の作品と同等に評価することとした。

 審査方針の検討のあと、約1時間をかけて各審査員が作品を個別 に審査し、各審査員が「短大・高専・専修学校の部」6作品、「工業高校の部」3作品を上限として1回目の投票(記名式)を行うこととした。投票の結果 、前者については17作品中10作品(7票1、6票1、5票2、4票3、2票2、1票1)、後者については8作品中7作品(4票2、3票3、1票2)に1以上の得票があった。

 以上の結果を踏まえて、全員で討議に入った。最初に得票するに至らなかった作品について一つずつ慎重に確認して審査対象から外すこととし、次に得票のあった全作品について一つずつ各審査員が見解を述べ、一通 り見解開示が終わった段階で意見交換に入った。作品のテーマ性、技術力、完成度、表現力など様々な観点から多様な意見が出され、活発な意見交換が行われた。その結果 、「短大・高専・専修学校の部」については7票(満評)を獲得した作品No.14を入選とするとともに、1票しか得票のなかった作品No.7を選外とし、残りの8作品について討論をふまえて再投票することとした。「工業高校の部」については、1票しか得票のなかった作品No.7、8を選外とし、残りの5作品について討論をふまえて再投票することとした。

 第2次投票の結果、「短大・高専・専修学校の部」については、作品No.5、6、 12の3作品が5票以上を獲得し、他は2票以下であった。これをふまえて討議を重ねたが、5票以上の得票を獲得した3作品の優劣を第2次投票の結果 から決定することは難しいとの結論となり、また、作品No.1、8、10、13、17はこの3点に及ばないと判断さえることから、3作品を対象に第3次投票を行うこととした。一方、「工業高校の部」については、作品No.1が6票、作品No.3、6が各4票を獲得し、他の作品は得票がなかった。これをふまえて討議した結果 、作品No.1、3、6の3作品を入選とすることとした。

 「短大・高専・専修学校の部」の第3次投票では、作品No.5、6、12の3作品 中、各審査員が2作品を限度として投票することとしたが、有意な差がつかず討議を重ねたが2作品に絞りきることができず、さらに第4次投票を行うこととした。しかし、ここでも3作品の評価は拮抗し、決着がつかず、審査は難航した。入選作品を4作品にしたいという意見も出されたが、審査規定の変更は不可能と判断されたことから、あくまで入選を3作品選びきるということを確認した後、論点を再度整理するとともに、1審査員1票で第5次投票を行うこととした。その結果 、作品No.5は2票、作品No.6は3票、作品No.12は2票となり、僅差ではあるが作品No.6を入選とし、他の2作品で第6次投票(決選投票)行うこととした。その結果 、作品No.5は2票、作品No.12は5票となり、後者を入選とすることとした。以上の結果 をふまえ、「短大・高専・専修学校の部」は、作品No.6、12、14の3作品を入選とすることを確認した。ただし、以上の経過が示すように作品No.5、6、12の3作品の差は極めて僅差であった。意欲的で将来性を感じさせる作品ではあるが計画対象地域の歴史や現状に対する認識が少し不足しているために作品の説得力が弱くなっているなどの理由により惜しくも選外となった作品No.5についても、複数の審査員からは高い評価が与えられたことを特に記しておきたい。

審査概評

 今年度の応募作品は、現代の建築をとりまく環境を敏感に反映させたテーマ設定、 建築設計の基礎的技術の習得、計画対象地区のコンテキストの理解、建築作品としての密度の高いデザイン、説得力のあるプレゼンテーションなど、各審査委員が指摘する多様な価値観から見ても意欲的で優れた作品が多く認められた。審査経緯でも一部触れたように、入選作品以外の作品についても評価できる作品は少なくなく、各部門3作品に絞り込むことに苦心した。本来なら応募全作品について講評すべきところであるが、ここでは入選作品のみについて概評する。

短大・高専・専修学校

 作品No.6は、自然と建築の関係をテーマとするフリースクールの提案であり、周 辺を含めた計画であることや、様々な生活シーンを具体的に構想している点などが評価された。建築と自然の関係に対する認識にやや甘さが認められるものの、健全で夢のある作品である。No.12は、神戸の被災地を対象とした震災復興プロジェクトの提案である。1995年から2025年までの30年間の復興のプログラムに沿った空間を構想した意欲的な作品である。計画の内容については様々な疑問が出されたが、あえて困難なテーマに挑戦した積極性と最後の図面 にみる建築と緑の関係を評価したい。No.14は、自然のなかの小学校の計画である。テーマ設定の的確性、建築作品のデザイン力など総合的に優れた作品であり、意欲的で完成度の高い内容となっている。敷地条件との関係や全体の空間構成もよく練られてはいるが、小学校の建築計画に関する近年の研究成果 をもう少し学習して設計に取り組んでいればさらに魅力的な作品になっていたと考えられる。

工業高校

 作品No.1は、大阪天保山に建つ科学・博物館の計画である。極めて意欲的な作品 で、ノアの箱船をモチーフとした力強い造形と空間構成は独創的であり評価できる。 ただし、内部空間のデザインや、建築設計と展示設計の関係に検討が不十分なところがあるのが惜しまれる。作品No.3は、都市の中の公園に隣接する図書館の計画である。この作品では、滝の落ちるサンクンガーデンを中心とした明快な空間構成が評価できる。ただし、図書館の建築計画や建築デザインのオリジナリティの面 では疑問が残る。作品No.6は、共生の郷と題する森の中の老人ホームと幼稚園などの複合施設の計画である。多世代共生と環境共生をテーマとした夢のある意欲的な取り組みとして評価できるが、表紙のパースのもつ魅力と説得力に対して、後に続く図面 相互の不一致やむらなどがやや気にかかる。

 以上の両部門の入選作品は、全体として意欲に満ちたものであるとともに、建築設計の基礎的技術の習得が行われた上での真摯な取り組みとして評価できるものである。各入選作品の応募者の今後の活躍に期待したい。

(高田光雄)