平成14年(第57回)
近畿地区短大・高専・専修学校並びに工業高校卒業設計コンク−ル審査報告

審査委員長(互選)
審査員
日 時
審査会場

 

竹原 義二
戸田 潤也・中江 研・松隈 洋・山本 光良・横田 隆司(50音順)
平成15年4月8日(火)
大阪科学技術センタ−(6階605号室

審査経緯

 平成14年度、近畿地区短大・高専・専修学校、並びに工業高校「卒業設計コンクール」(第57回)の審査は、平成15年4月8日、大阪科学技術センター会議室において、6名の審査員(1名欠席)によって行われた。

 本コンクールの主旨・前年度の実績・14年度コンクールの応募状況・審査に関する内規を確認した後、互選により、竹原を審査委員長に選出した。応募総数は「短大・高専・専修学校の部」22作品、「工業高校の部」7作品で、昨年度に比べ、前者は5作品増、後者は1作品減であった。一昨年と比べると前者は1作品増、後者は同数である。

 審査に当たっては、各部門3作品を必選することをまず確認し、審査方法について議論した。結果、まず個々の審査員が全作品を入念に評価した後、それぞれすぐれていると考える作品を各部門3点以内記名投票することとし、その後の進め方については投票結果を踏まえて議論することとした。

 まず工業高校の部から審査を始めた。ほぼ1時間の審査の後、記名投票を行った結果はbP−1票、bQ−1票、bR−2票、bS−5票、bT−3票、bU−2票、bV−4票であった。以上の結果を踏まえ、まず各委員がそれぞれについてコメントをし、5票を得たbSを最初の入選とした。残る入選2点について、残った作品6点を議論した。その中でも図面の密度についての議論が重ねられた。ビジュアル的に表現されている作品とていねいに書き込まれた手書きの図面等を比べ、議論した結果、bUの作品はセンスのよい表現が、bVの作品は全体が良くまとまっている点が評価され、全員一致で入選となった。しかしbTの作品は最後まで議論されたが入選には至らなかった。

 「短大・高専・専修学校の部」では、bS−2票、bU−2票、bW−2票、bP2−1票、bP4−1票、bP6−1票、bP7−2票、bP8−3票、bQ1−4票であった。

 一票も得ていない作品について議論したが、その中で2次審査まで残る作品はなかった。つづいて一票の作品について議論を重ねた。中でもbP6の作品は、審査員の評価は違ったが、最終審査まで残すことにした。2票以上の審査の中でまずbP8の作品が議論された。最終案に至るまでのバリエーションのあるプランが評価され、全員一致でまず最初に入選作品とした。
 
 続いてbQ1の作品について議論を重ねた。どこかで見たことのあるような作品ではないかという意見が問題としてあげられたが、視点を変えて見てみると作者のオリジナリティーが汲み取られ、空間のまとめ方のよさが逆に評価され入選作品となった。

  最後の1作品についてはbSとbWとbP6の作品がお互いにしのぎを削り、その中でもbWのリノベーションがそつなく完成されている点が他の作品案にはない力強さを印象付け入選となった。しかしbP6の作品はインテリアとしての表現力は充分に見ごたえがあったが、建築としてどう評価するかが問題となり、残念であったが入選には至らなかった。

 

審査概評

 応募作品の図面枚数が回を重ねるごとに多くなってきているようだ。多分それは手書き図面からCADを駆使した図面に変わろうとしている過渡期であるからかも知れない。質の高いプレゼンテーションは佳作ぞろいの作品を排出している。

 そんな中で「短大・高専・専修学校の部」bPの給排水設備設計は他の学校の作品と同軸に評価ができなかった。それは多分設備だけを考えているからで、もう少し設備と建築とを関係付けることから始めた方がよいのではないかという意見が多数をしめた。今後の作品の提出方法に一考を要するだろう。

 また枚数が多いという点ではbP7の「新しい町家」41枚とbP6の「お互いがクライアントになるデザイン」35枚については特筆すべき点がある。枚数ではなく内容についての密度が問題になってくる。「新しい町家」は木造の軸組を図面化されている点は高く評価されたが、軸組に新しさが見出せなかった。それは空間にも新しい提案がなくなってくるということにもつながる。もっと木造における構造と空間の一体化を目指して欲しかった。そして木造の軸組工法はまだまだ無限の可能性を持っているように思われる。「お互いがクライアントになるデザイン」は多分二人で書いたから図面枚数が多くなったと思われる。この図面の表現方法については非常に優れていたがインテリアの枠から飛び出せず、建築としての表現力には乏しかった。bUの「SENBA・CENTER・COM」も27枚と枚数ではひけをとらなかったが、細部に渡っての表現力が乏しかったのは残念であった。特に着想点から見ると、今という時代を見つめている姿勢に正面から取り組んでいる点が高く評価された。そんなCADの図面の中にあり、手で書かれたbSの「相対すること〜保津川下り乗場〜」の図面は手書きの迫力はあったが、造形的な面から見てみると、デザインが少し煮詰まってないように見受けられ、手書きのよさが薄くなったのは残念であった。

 今後CADが図面の中において主流を占めることになるのだろうが、手書きで表現するおもしろさと楽しさを見せてくれる図面に出会えることを期待している。

(竹原)

 

『Renovation Kodan Danchi』
藤田 一博 君(大阪工業技術専門学校)

 奈良市中登美ヶ丘に位置し、築35年をむかえた中登美団地の再生・改造計画である。既存建物の構造壁だけを残して空のヴォイドとし、そこに新たなプランの増築ユニットをはめ込むことによって、それまでの建物のスケール感を踏襲し、何よりも建物のまわりに広がる外部空間を変わらずに継承しようとする意欲的な提案になっている。また、ヴォイドとなった一部の住戸は、1階では通り抜けのピロティ、上部では住人が自由に使用できるフリースペースとされていて、増築部分の凹凸あるデザインとともに、外観に変化とリズムを与えている。さらに、スロープ状のブリッジが住棟間を結び、屋上に庭園を配置するなど、立体的な結びつきも作り出されている。そして、単身者から核家族、2戸をブリッジで結んだ2世帯用までヴァリエーションに富む14タイプのプランや、ガルバニウム鋼鈑の外装とナラフローリング、珪藻土の内装との対比も含め、練り込まれた設計に説得力が感じられる。構造壁の残し方については実現性に難はあるものの、既存の団地を現代のデザインによって再生しようとする作者の姿勢に共感を覚える作品である。

(松隈)

REVERSIBLE SITE IN 50%
松尾 健治 君(明石工業高等専門学校)

 松尾くんの作品は、30年前は田畑に囲まれ光を十分に取り込めたが周囲の開発によって光を奪われてしまった祖父母のための家の計画である。
 タイトルが示すものは、建ペイ率50%という敷地を二分割し、その分割された形状がそれぞれそのまま住宅となるべくスタディがなされ、その中の一対が主として提示されている。敷地の外縁から内側に凹凸をもったドーナツ状のものとその内側とに分け、どちらの住宅も凹凸部を生かして住居内の各機能を入れ込んだワンルームの構成である。
 この作品の優れた点は住宅作品としての評価よりもむしろ同比率の図と地の反転というシンプルな企ての中での多様なケーススタディと、さらなる展開を考え得るアイディアを提示した点にある。一定のかたちの中に二つの住戸を埋め込む際のケーススタディとして興味深いものも多く、これらは集合住宅としての展開も考えられるだろう。ただ、最終形として提示されたものも含め、スタディされたものがほぼワンルームの構成であり、もう一歩そこで生活する姿にまで踏み込む必要を感じる。今後これがアイディアにとどまらず、現実感をもった生活像を描きうるものとしてさらに昇華されていくよう期待します。

(中江)

気持ちのろ過器
松田 亜希 君(中央実務専門学校)

 本作品は神社の境内に設けた、様々な心に訴えかける装置のデザインであるが、装置を超えて環境、更には建築としての空間に昇華しようとしている点を評価した。
 敷地は、大阪府池田市神田4丁目八坂神社境内。神社は気持ちの入れ替えをする場所と位置づけそこから、境内の中に自分が主人公の様々な場所を用意し、そこで自分を知り見つめなおし気持ちをろ過してはっきりさせる場を提案している。この場所で悩みは解け新たな一歩を踏み出す晴れ晴れした気持ちになれることを期待しているが、神社には多くの人が集まるところでもあり、偶然性や人と人とのアクティビティが生まれる場所でもある。人と環境と同時に人と人の関係をどう構築していくかが今後の課題であろう。
 参道の長い直線の道と対比させた、「木の庭、飾り道、想い部屋、澄み池、格子道、坂道、影道」が有機的に配置され、多様な空間要素を組み合わせた構成によって新しい環境・空間を生み出そうとした努力の跡が伺える。建築に機能性以上のものを追求したもので、将来に期待したい作品である。

(山本)

『京 〜現代建築による京都の保存〜』
福田 勇気君(京都市立伏見工業高等学校)

 京都らしい風情と街のにぎわいが共存する木屋町通りにある旧・立誠小学校を敷地とする貸し店舗と文化資料館からなる複合施設の提案である。ここでは、周囲に残る京都の町屋と共存できる現代建築のデザインが試みられている。中でも、横を流れる高瀬川沿いに遊歩道を設けながら、1階部分の大半をオープンスペースとして開放し、ミニ庭園と枯れ山水の庭、ライブ活動も行える野外ステージ、露店が並ぶ広場などを上手に配置している点が特に目を引いた。また、上部にも空中庭園や中庭を設け、小さなスケールの空間を随所につくるなど、ここを訪れる人々の見る―見られる関係があちこちに生まれるような工夫が施されている。全体の空間構成やドローイングのセンスについても、高校生とは思えないほどレベルが高く、審査員のほぼ全員の支持を得た作品である。敷地に対してシンメトリーな建物であること、立面のデザインがやや単調で周囲に対して寡黙に閉じ過ぎている点など異論もあるが、京都の町をより身近な施設によって少しでも開こうとする問題意識に共感と敬意を覚える作品である。

(松隈)

グループホーム
仲山 佳菜子 君(兵庫県立豊岡実業高等学校)

 本作品は、学生寮に周辺の人々のための交流施設を併設した案である。両者を空間的に関係づけることで、建物の全体が地域に開かれた場となるよう計画がなされている。さらにゆったりとした構成によって、この施設が作者の意図する癒しの場としても機能するであろうことが想像できる。
 平面的にはグリッド状の構成を採用しているが、その中に共用スペースを中心として伸び広がる空間をつくりだすための工夫がこらされている。
 外観も表情豊かである。角をへこめて緩やかに流れるコーナーを生み出し、さらに別の要素も加えて個性的な形を与えようとしている。骨格としては明解なものではないが、形へのこだわりは随所にうかがえる。オーソドックスな手法の中に様々に個性的なものがちりばめられ、この案を魅力的なものにしている。
 図面自体は手書きであり、めりはりがあって十分に見やすい。細部の処理も破綻なくしっかりできている。今回の入選を機に思考の幅を広げ、ますます研鑚されんことを期待したい。

(戸田)

Hospital
谷川 弘輔 君(大阪市立都島工業高等学校)

 この作品は,大阪市の中心部,南久宝寺に病院を計画したものである。提出図面は,設計趣旨から配置図,平立断面図,パースと奇をてらわないオーソドックスであり好感が持てた。また,CGによるパースは,教育段階での是非は問われるので手放しで賞賛できないが,この段階での高いレベルは非常に評価された。
 病院設計は大変難しいものであり,プランニングには問題点が数多く見られるが,十分な書き込みなど,時間の限られた中で難課題へ果敢に挑戦し,見応えのある作品として構成しているのは本人の力量の高さを示すものである。ただし,せっかく車椅子専用の駐車場を設けているのに,ロットの幅が狭いし,病院全体へのバリアフリーの視点がない等が残念である。一方,計画の目玉である敷地の半分を庭園にするという,まず実現不可能な提案ではあるが,緑の少ない大阪市内のこと,できれば格好の休憩スポットとなるだろうし,屋上緑化を積極的に採用したのも注目される。
 工業高校の段階では難しいかもわからないが,作品にはコンセプト・デザイン・プレゼンテーションいずれもの充実が欠かせなし,作品名の付け方もセンスを問われる。谷川君の今後の研鑽を期待したい。

(横田)

 

応募作品リスト(短大・高専・専修学校の部)

No

作 品 名
学生氏名
大 学・学 科
図面
枚数

1

『OCT B号館給排水・消火設備』
中村 武史
大阪工業技術専門学校建築設備科
18

2

樫野崎燈台旧官舎と前広場の利用計画案
多田 育生
大阪工業大学短期大学部建築学科
4

3

川とふれあう場所
大橋 純二
専門学校アートカレッジ神戸建築デザイン学科
3

4

相対すること 〜保津川下り乗り場〜
畠山  悟
京都国際建築技術専門学校建築科
6

5

C,C墨染 〜親子で楽しむカルチャーセンター〜
澤田 美甫
他2名
聖母女学院短期大学生活科学科
9

6

SEMBA CENTER.COM
佐藤 暢人
中央実務専門学校建築設計科(夜間部)
27

7

場所の記憶
赤松 達也
神戸電子専門学校情報処理学科
5

8

『Renovation Kodan Danchi』
藤田 一博
大阪工業技術専門学校建築学科
10

9

ほんわか村 〜ユニバーサル デザイン コミュニケーション センター〜
井上 尚美
他3名
大阪青山短期大学生活科学科
15

10

駅ターミナルビル
松井 直仁
修成建設専門学校都市開発工学科
14

11

「BIG WING」
本母 茂樹
姫路建設専門学校建築工学科
3

12

Base for Kids
本山  愛
中央実務専門学校建築工学科
6

13

「water land」
水谷 恭子
平安女学院大学短期大学部生活学科
6

14

「矛盾の建築物」 景観都市京都
高津 宏光
京都建築専門学校建築科二部
8

15

mugen memorials
久米伸一郎
修成建設専門学校建築工学科(夜間部)
7

16

「お互いがクライアントになるデザイン」
南 加奈子
宮本 早苗
大阪市立デザイン教育研究所デザイン学科
35

17

『新しい町屋』
中  大輔
大阪工業技術専門学校建築総合学科
41

18

REVERSIBLE SITE IN 50%
松尾 健治
明石工業高等専門学校建築学科
6

19

東京ディズニーランドに建つレストラン 〜DREAMS〜
杉本 絵麻
梅花短期大学生活科学科
1

20

connected spider
魚谷 将之
修成建設専門学校建築工学科
8

21

気持ちのろ過器
松田 亜希
中央実務専門学校建築設計科
14

22

「外でも本が読めるライブラリー」
安田  愛
京都情報ビジネス住環境専門学校環境デザイン学科
5

(受付順)以上22点

応募作品リスト(工業高校建築科の部)

No

作 品 名

学生氏名

所 属

図面
枚数

1

SATISFIED SPACE ─満ち足りた空間─
谷  華英
滋賀県立八幡工業高等学校建築科
9

2

阿倍野区コミュニティセンター新築計画
新井 陽向
他2名
大阪市立工芸高等学校建築デザイン科
9

3

旅館
橋本千与治
大阪工業大学高等学校建築科
11

4

『京 〜現代建築による京都の保存〜』
福田 勇気
京都市立伏見工業高等学校建築科
10

5

「Banboo Park 竹炭物語」
岸本 恭明
兵庫県立龍野実業高等学校建築科
6

6

グループホーム
仲山佳菜子
兵庫県立豊岡実業高等学校建築科
10

7

Hospital
谷川 弘輔
大阪市立都島工業高等学校建築科
10

(受付順)以上7点